43 対策を求めて
今俺の元へある神物が現れていた。
その神物とは先日この王都を歌と希望で包んだ女神ベルファスト。
彼女は教会に降り立つと俺の元へと訪れていた。
ちなみにここへは親切なファン、もとい信者が案内してくれたため迷わず辿り着いたそうだ。
そして俺はベルから先日の神々のやり取りを聞き頭を掻いた。
しかし、その雰囲気はどのようにして神罰を回避するかを悩んでいるようには見えない。
どうやら自分の手でバストル聖王国の制裁を加えられなさそうだと落胆しているようである。
そしてそんな時、再び俺へと客が訪れた。
俺はその名前を聞くと気にせず通していいと店員に伝える。
するといつもよりも落ち着きのない足音を立ててアルベルトが俺の前に現れた。
「すまない話し中に割り込んで・・・・。」
アルベルトは扉を開けながら声をかけてきたがベルの姿を見て途中で言葉を止めた。
そしてアルベルトはベルの顔を見た直後、即座にその場で跪いて頭を下げた。
「申し訳ありませんベルファスト様。まさかあなた様がこちらに居られるとわ思いませんでしたので。」
しかしベルは、アルベルトの言葉に首を横に振って応じた。
元々が温厚な女神なのでこの程度で怒る事は無い。
「構いません。私もある意味では個人的な要件で来ています。あなたもこちらに来て座ってください。」
この事はこの国も知っておいた方がいい。
そう言う判断でベルは彼の同席を促した。
そしてベルはもう一度同じことを彼にも伝え、それをこの国の国王にも伝える様に告げた。
するとアルベルトもなぜか俺と同じ様な顔をしている。
それを見てベルは言う相手を間違えたかなと心配そうな表情を浮かべる。
するとアルベルトは不安そうなベルへと話しかけた。
「いえ、申し訳ありません。実は先ほどバストル聖王国の者より襲撃を受け、私の婚約者が殺されかけたもので。あなた様のお話は必ず陛下にお伝えしておきます。」
そう言ってベルへと向けて敬礼をする。
すると俺はピクリと眉を動かしアルベルトへと話を振った。
「もしかしてリーリンが襲われたのか?」
「ああ、その通りだ。私がいながら情けない。」
そう言って奥歯を噛みしめ悔しそうに顔を伏せる。
しかし、俺はその気持ちが嫌と言うほど理解できた。
俺も同じことがあれば同じように悔やむだろう。
そして当然、敵を根絶やしにするまで、又は冬花に止められるまではその怒りが消える事はない。
「それで、何故ここに来たんだ。」
俺はおそらく何か目的があって来たのであろうと言う事は分かった。
しかし、それに繋がる情報は持っていないので手っ取り早く聞くことにする。
「まずは百合子と言う少女にお礼を言いたくてな。彼女のおかげで今回は奇跡的に死者は出なかった。それと相手がおかしなことを言っていてな。」
アルベルトはそこでいったん話を切り目を細める。
その様子におそらく、それが今日来た最大の目的であろうと予想を付けた。
「それがな、アイテムのおかげだと言っていたんだ。彼女はしばらくあちらにいたと聞いているから。もしかして何か情報が無いかと思ってな。」
「そうか、言いたい事も知っている事もあるが百合子に直接聞くといい。今から呼ぶから待っていてくれ。」
そして俺は魔法を使って百合子に声を飛ばした。
すると奥の方から小さな足音が聞こえ、部屋へと入ってくる。
「お待たせしました。呼びましたよね?」
百合子は部屋に入ると俺に確認を取ってくる。
しかしアルベルトを見て怯えベルを見て驚きに目を見開いた。
「あれ、こんな所に神様がいます。どちらの神様ですか?」
百合子はこちらとあちら、どちらかという意味で問いかけた。
そしてベルはそれを正確に理解して「こちらのです。」と答えた。
すると彼女は怯えながら部屋を大回りして俺の背中に移動すると、隠れるような位置取りで服を掴んだ。
どうやら彼女にとって俺と冬花の後ろは安全地帯になったようで何かあるとここに来ている。
その様子に俺は苦笑を浮かべ、ベルの事を説明しておくことにした。
そこには今聞いたばかりの情報が多分に含まれており、少しではあるがベルの事を信じるきになった様だ。
そして百合子の立ち位置が微妙に変化してベルよりになると今度はアルベルトが自己紹介を始めた。
「私はこの国の王都警備隊隊長をしているアルベルトだ。それとリーリンの婚約者で近日中には結婚する予定だ。」
すると百合子は先日の奴隷商館での出来事を思い出し少し警戒が薄まる。
しかし、次の言葉で百合子は突然体が震え出し手にしていた服を力の限り握り締めた。
「実は先程バストル聖王国の者にリーリンが襲われた。」
そして百合子は次第に過呼吸の状態になり呼吸が浅く早くなっていく。
それを見て俺はそっと彼女の頭に手を乗せ優しく撫でながら精神安定の神聖魔法をかける。
ベルも少しだけ部屋を包むように魔法を行使し相乗効果により彼女の精神は安定へと向かって行った。
そして、それを見ていたアルベルトは子供にここまで恐れを刷り込んだバストル聖王国に更なる怒りを覚える。
そしてこれ以上の会話が可能なのかを俺へ確認するために目で向けてきた。
アルベルトはもしここで首を横に振るようなら情報よりも彼女を優先し話を打ち切るつもりのようだ。
そしてリーリンを救ってくれたお礼だけを言ってここを出て行くつもりだった。
しかし、俺は首を縦に振って話の続きを促した。
アルベルトはそれを受けて話を続ける。
「その相手だが異常なほどに強くてな。俺もこの国では上位に入るが一人を押さえるのが精一杯だった。そして敵が撤退する時、おかしなことを言っていた。それは腕輪の効力が凄いと言う物だったが何か心当たりはないか?」
すると百合子は突然、目に涙を浮かべて俺の服に顔を埋める。
その様子に予想はしていたがその予想が悪い方向に当たってしまったと思い僅かに顔をしかめた。
どうやら敵がつけていたという腕輪は百合子が作った強化系のアイテムであったようだ
すると横にいた俺は百合子の腋に手を入れ抱き上げると自分の膝の上に座らせた。
百合子は突然の事に目を瞬かせ頭の上にある顔を見上げる。
その時の俺は作り物の様な笑顔を張り付け百合子を見下ろしている。
そして、頬を摘み捏ね繰り回し挙句に横に限界まで引っ張ってやる。
「ひたいでしゅ。にゃにしゅるんでしゅか。」
百合子は突然の事に混乱し俺の手を掴んだり胸をポカポカ殴ったりする。
そして彼女が泣き止んだのを見ると手を離して言った。
「お前の過去は今の俺達には変える事は出来ない。それなら今からを変えればいい。お前は向こうの情報を持ってるだろう。それに対抗できるアイテムを作って見せろ。」
すると百合子は肩を落として視線を逸らす。
「どうしたんだ。出来ないのか?」
俺は何気なく聞いたつもりだったが百合子には過去の刷り込みで出来上がったトラウマがある。
そのため彼女は今の言葉で捨てられると勘違いし急いで口を開いた。
その声は本人も思いもよらないほど大きなものとなり出した本人まで驚いているようだ。
「出来る!出来るけど・・・材料がないの。」
そして俺は突然の百合子の大声にポカンとした表情を向けた。
しかし、彼女がこんな行動をするのは初めて見たため声を上げて笑った。
「ははははは、よし。何がいるか言ってみろ普通の物ならこの国が、希少な物なら俺達で取りに行けばいい。」
すると今度は百合子がポカンと見つめてくる。
そして、しばらく悩んだ挙句、一つの言葉を告げた。
「ドラゴンが欲しい。」
それは彼方の世界ならヌイグルミが欲しいと翻訳されただろう。
しかし、この世界には現実にドラゴンがおり、その強さは生物の中でも最上位である。
だが、アルベルトはドラゴンに心当たりがあった。
そして、それを所持している俺に勢いよく視線を向ける。
アルベルトは城壁の上から俺たちが止めを刺したドラゴンをアイテムボックスに仕舞う様子を確認していたのを見ていたひとりだ。
そして俺は頷くと左手を彼女の肩に乗せ右手の親指を立ててサムズアップを送った。
「問題ない。狩りたてホヤホヤなのがある。」
そして俺は百合子を抱き上げたまま庭へと向かった。
そして百合子を地面に下ろすと開けている所でドラゴンの体と頭を地面へと出し彼女へと見せた。
すると、百合子は今にも再び動き出しそうなその姿に恐怖を覚える。
俺のアイテムボックスは入れた物の時間が停止するため本当に死んでから数分しか経っていない。
しかし、百合子は勇気を振り絞ってドラゴンの死体へと近づいて行く。
そして状態を確認するとすぐにこちらへと戻って来た。
「あの、私の道具だとあのドラゴンの解体が出来ないので、出来れば何処かで解体して魔石と心臓を貰えませんか。それと皮を30センチほど貰いたいです。」
「それなら任せろ・・・と言いたいがここは冬花に任せた方がよさそうだな。」
俺は百合子を呼んだ時のように冬花へと声を飛ばした。
そして少し待っていると店の方から軽い足取りで冬花がやって来た。
その様子は公園で待ち合わせをしていた恋人と出会ったような雰囲気である。
しかし、彼女は手に剣を持っていなければの話だ。
冬花は既に何をして欲しいのかを知っているようでこちらへと来ながら抜身の剣を構えた。
そして到着するなり冬花の腕は目視出来ないほどの速度で振られ剣線がドラゴンの胸へと光る。
そして冬花が剣を鞘へと仕舞うとドラゴンの胸の肉も骨もブロックの様に綺麗に切り裂かれて地面へと落ちた。
そしてその先の左胸に心臓が、右胸には魔石が輝いていた。
冬花は剣をナイフに持ち替え心臓を切り離して右手に持つと左手を魔石に伸ばす。
そしてそれを周りの肉ごと無造作に毟り取ると笑顔を浮かべて俺の元へとやって来た。
「はい、終わったよ。」
冬花は天使の笑顔を浮かべて左右の手にある物を差し出して来る。
当然その手は血にまみれ、普通ならば距離を置きたい見た目であった。
しかしそこで冬花を遠ざける俺ではない。
「ありがとう。助かったよ」
「ふふ、どういたしまして。」
俺は笑顔で心臓と魔石を素手で受け取り互いに見つめ合う。
最低限、心臓が無ければ少しは微笑ましい光景であるが、背景の切り裂かれたドラゴンと心臓が全てを台無しにしている。
これでは天使ではなく悪魔の微笑みであった。
その光景に後ろで見ている3人はとても居ずらそうにして視線を逸らしている。
そして冬花が去って行くと今度は俺が血が滴る魔石と心臓を百合子へと差し出した。
実際に血が滴る程の素晴らしい鮮度だが別に食べる訳ではない。
一般人からみて鮮度が良すぎるのだ。
百合子は若干涙目になりながらもそれを受け取るために手を伸ばそうとする。
実際は指先で触れてアイテムボックスに仕舞えばいいのだが今見せられたあまりの光景に彼女は正常な判断能力を失っていた。
すると横から突然肩を叩かれ百合子はそちらへと目を向ける。
するとそこには麻袋を手に持つアルベルトが百合子へと優しい目を向けていた。
これも俗にいう吊り橋効果なのか。
その時、百合子とアルベルトの心は一つとなり二人は打ち解けることが出来た。
「それでは蒼士さん。この中へ魔石と心臓をお願いします。」
百合子はアルベルトから有難く麻袋を受け取ると、それを広げて指示を出して来る
俺は少し不満そうな表情を浮かべるがその中に心臓と魔石を入れる。
そして百合子はそれをアイテムボックスに仕舞い打ち解けたアルベルトへと次のお願いをした。
「すみません。どこかに自由に使える工房はありませんか。」
するとアルベルトは腕を組んで悩み始めた。
そして、一つの可能性を思いつくと俺たちを連れて歩き出そうとする。
しかし、その時ベルが声をかけて3人を止め彼女は百合子へと近づいて行った。
「あなたに一つお願いがあるの。」
そう言ってベルは百合子と視線を合わせるために地面へと膝を付いた。
「実は強力な隠蔽のアイテムが欲しいの、作ってくれるかしら。」
すると、それを聞いて百合子は不審な目をベルへと向ける。
通常、隠蔽系のアイテムは逃亡者や監視者がつける者である。
百合子は自分の常識に当てはめて何故、神であるベルがそんな物を必要としているのかが理解できなかった。
しかし、横にいる俺は何となくその意図が伝わって来る。
そしてこの時、俺はベルの思いに応え協力する事にした。
「百合子。ベルに協力してやってくれないか。きっと面白い事になるから。」
俺はそう言ってとても爽やかな笑顔を浮かべる。
すると百合子は先ほど頬を弄ばれた時以上の悪寒を感じ、ここは逆らわない方がいいと本能で判断した。
「わ、分かったわ。それならこれをあげる。」
そう言って彼女は左手から隠蔽の腕輪を外してベルへと渡した。
それは百合子に取っての覚悟の表れでもある。
(今の状況であの国に再び捕まるのなら私の運命はこの世界に来た時点できまってたのよ。)
「これは私が逃げる時に使った隠蔽の腕輪。効果は確かだからあとは魔力量で調整できるわ。でも何から隠れるの?」
しかし、百合子の問いにベルは答えることが出来ない。
そのため苦笑いを浮かべると腕輪を付けて魔力を流した。
すると次第に気配が薄れ姿まで薄まって行く。
そんな中、ベルはお礼を百合子へ送ることにした。
彼女は久しく失われていた力を使い百合子へと最大限の加護を与えた。
そしてお礼の言葉を残してその場から離れて行く。
実際、今の百合子とアルベルトにはベルは気配だけでなく姿さえも捕らえる事は出来ない。
しかし、俺には問題なく姿が見え気配も探れる。
俺は無言でベルを見送り目的が果される事を祈った。




