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39 命名

百合子が奴隷から解放され日の夜。

眠っていた俺達の元へ一人の来客が訪れた。

しかし、時間は既に深夜である。

当然こんな時間に来客の予定は無く、ここに住む全員が眠りについていた。

しかし、俺と冬花は何者かが敷地内に入ると同時に目を開きベットから起き出す。

そして剣を片手に一瞬で戦闘態勢を取ると警戒しながら音もなく庭へと飛び出した。

するとそこには一人の覆面男性が両手を上げたまま膝を地面についている。

さらに戦闘の意思がない事を伝える為か武器防具を一切所持していない。

そのため俺たちは周りの気配を探りながら一旦剣を鞘へと収めた。


それを見て男はホッと息を吐き出し気を緩める。

男は彼らに会うにあたり幾つかの情報を得ていた。

一つは敵対する者には一切の容赦をしない事。

敵に対しての彼の沸点はとても低く、もし敵と認識されれば命は無い。


そして、次の一つは彼の横にいる勇者を異常なほど大事にしている事。

通常勇者は護られる側ではなく守る側だが彼はその常識を捨て勇者を護っている。

さらにその実力は勇者を凌駕するらしい。


そして、最後は仲間をとても大切にしていると言う事。

そこに種族や性別、年齢は関係なく手を出した者は問答無用で切り捨てるとか。


彼は上から聞かされた内容を思い出しながら動く事も無く口を開いた。


「私は陛下から百合子と言う少女を護るように命令された者だ。他にも4人いるがそいつらも今から呼ぶので待ってほしい。」


そう言ってゆっくりと手を動かし、懐から笛を取り出すと口に当てた。

そして息を吹き入れると途轍もなく高い音がなり響く。

その音は通常の可聴域を超えているが俺には聞くことが出来る。

どうやら犬笛に似た物の様で相手もそれを聞き取る訓練を受けている者のようだ。

すると音を聞いて4人の人間が壁を飛び越えて俺たちの前に並ぶと呼んだ男もそれに加わった。


しかし、俺は彼らを見て僅かに眉を動かして反応を示す。

そして、その反応に気付かない彼らはこちらへと敬礼をする。


「我々は隠密のため身元は明かせないが、これからしばらくは彼女を警備させてもらう。問題は無いと思いたいが陛下は君たちの許可を必ず取るようにと厳命された。それで許可はいただけるだろうか?」


すると、俺は男の話を無視するように別の方向を向き目を細める。

そして手に2センチ程の石を持つと50メートルほど離れた家の屋根へと投げつけた。

その手は男たちの動体視力では見る事が叶わず、肩から先が消えたように見える。

そして石は鋭い音を立てると夜の闇へと消えていった。


「ぎゃああああーーーー!」


すると突然闇夜を切り裂くような絶叫が鳴り響き、隠密たちははそちらへと視線を向けた。

そして、俺は軽いステップを踏むように叫び声が聞こえる方向へと跳ねて行く。

ちなみに俺の一歩は20メートル跳躍しており、隠密たちはそれを見ながら一歩も動けないでいる。

そして、黒い服に身を包んだ一人の男を発見するとそいつの首を掴み俺の居た地点へと無造作に放り投げる。

すると男は血を撒き散らせながら間にある建物の上を通過し庭の地面へと激突した。


しかし飛んできた男は激突と同時に何とか受け身を取る事に成功した様で転がりながら地面に倒れる。

そして男が前を見た時には俺は既にそこで腕を組んで立っており、冷たい目で見降ろして威圧を行っていた。


しかし護衛の男たちはその男を見て最初は何をしているのか分からなかった。

もしかして一般人をこれから暴行するのではと考える程にあまりにも突然の出来事に一瞬止めようとすら考える。

しかし、さすが国に仕える隠密だけはあり、彼らはその男が着ている服が強い隠蔽の効果があるマジックアイテムだと見抜いた。

そして、自分たちに気付けなかった相手を容易く発見してのける蒼士の能力に戦慄し顔を引き攣らせる。


そんな中、隠密たちが見ている前で俺は軽い回復魔法で男の傷を塞ぐと遠慮の欠片もない手際で殴って気絶させた。

そして男を隠密たちの方へと蹴り飛ばすと彼らを見回して口を開いた。


「そいつの尋問は任せる。ここには子供もいるから見られたら教育上よくないだろ。」


そう言って俺は隠密たちに笑みを浮かべる。

彼らはそれに戦慄し、表情を引き攣らせるだけでなく捕えた男を救い出す様に連れて行った。

しかしそいつは敵のはずなのにおかしな奴らだな。

どうしてそんな怯えた目を俺に向けてるんだ?


「それと、護衛はこちらも歓迎だ。敵を見つけるのは簡単だがずっと俺達が傍に居られる訳でもないから互いに補い合って行こう。」


隠密の男たちは蒼士から思いもよらない程の友好的な言葉をかけられたがその容赦のなさに震えが止まらない。

一歩間違えれば自分達も同じ目にあっていたのだと思えば幾ら友好的に言われても心が受け入れてくれなかった。


そして、最初に俺たちへ接触した男が周りから急かされるような感じで握手を求めてきた。

俺はその手を握り返しなるべく友好的な笑顔を浮かべる(ニヤリ)。

(ヒ~助けて陛下~。)


「お、俺達は基本は影からの護衛に徹する。あ、あんたらは可能な範囲で彼女の護衛をた・・頼む。」


そして、隠密たちは俺から手を離すと急いでその場から姿を消した。

仕事熱心なのは良いがもう少し落ち着いて行動できないのか。

俺は若干の不安を感じながら彼らを見送り城での事を思い出す。


(そう言えばあの時に隣の部屋から出て来たメイドは見事な動きだった。)


あの時の女性もメイドではあるが隠密の1人である。

常に王の傍に仕えその身を護る事を仕事にしており隠密の中ではトップの実力があると言って良いだろう。


そして俺は最後にもう一度気配を探り問題ない事を確認すると冬花と一緒に部屋へと帰って行った。


そして、次の日の朝。

朝食をとると俺は冬花とクレアも含めた3人で王城に来ていた。

どうやらジョセフの店には大きな獣舎があり、そこにクレアのドラゴンを連れてきてもいい事になったのだ。

そして門番に話をするとすぐに城の獣舎へと案内されていった。


「かなり待たせちゃったけど寂しがってないかな。」


そう言ってドラゴンの心配をしながら兵士に付いて歩いて行く。

そして獣舎の前に付くと、そこには5メートル程の白いドラゴンが大量の霜降り肉を口に頬張る姿が目に入った。

その姿に寂しがっていると言う言葉は似合わず、まさに天国のような生活を送っている。


そしてクレアが傍まで行くとドラゴンはクレアに気付き顔を向ける。

当然、その頬には大量の肉が詰められリスの様に膨らんでおり威厳など全くない。

クレアは溜息を付きながらも苦笑いを浮かべ子供を迎える母親の様に手を広げた。

するとドラゴンは肉を放棄して一直線にクレアへと突撃し肉汁まみれの舌で彼女の顔をベタベタにした。


クレアはその行動が分かっていながらもそのあまりの酷さに額へ青筋を浮かべる。


「ちょっと待ちなさい。」


クレアは厳しめに声を荒げ叫び、舐めるのをやめさせる。

しかし、ドラゴンは何を怒られたのか分からず、舐めるのをやめて首を傾げた。

そして、何が悪かったのか考えてある一つの答えに行きついた。

舐めるのがダメなら甘噛みをすればいいじゃない。


そう思ったドラゴンは今度は口を開けてクレアの頭を甘噛みした。

それはした方は嬉しくされる方は恐怖しかない。

クレアは突然噛みつかれたことに慌ててドラゴンに全力で雷魔法をお見舞いした。


「ギャギャギャギャギャ!」


ドラゴンは突然の魔法に驚いて一歩下がりすかさずクレアを見つめた。

その顔には若干の悲しみが見て取れる。

まるで叱られた後の犬の様な顔にクレアも罪悪感が込み上げた。

しかし、これは最初の躾としてしっかり言っておかないといけない。

クレアは心を鬼にしてドラゴンへと告げた。


「ご飯を食べてすぐにあんな事したらダメよ。私が汚れちゃうでしょ。次からはご飯の後に綺麗になる魔法をかけてあげるからそれが済むまで舐めちゃダメ。」


するとドラゴンは途端にションボリして下を向いてしまう。

ドラゴンは竜から進化した事で知能が格段に上がりクレアの言っている事が理解できるようになっていた。


その姿にクレアは再び罪悪感が胸を締め付ける。

すると彼女は仕方なく冬花に教えてもらったピュアの魔法で自分とドラゴンを綺麗にすると再び手を広げた。

するとドラゴンは先ほどの落ち込みが嘘の様にご機嫌になり再びクレアを涎でドロドロにしてしまう。

そして、しばらくするとドラゴンは満足したのか舐めるのをやめて顔を離してクレアをみた。

その姿はすさまじく、今までにない程に涎で濡れ尽くされている。

するとドラゴンも流石にやり過ぎただろうかとそっと後ろへと下がる。

その姿にクレアは先ほどとは違う意味での苦笑を浮かべ再び自分に魔法をかけて綺麗にした。


「どうやら、今度は悪い事をしたのに気付いたみたいね。今みたいに悪いと思った事は人にしちゃダメよ。悪い子にはお仕置が待ってるからね。」


そう言ってクレアはドラゴンに近づいて頭を撫でた。

ペットの躾ならあまりよくないが知恵あるドラゴンにはこれで充分である。


「それでね。今日はあなたを迎えに来たのよ。ここだと毎日は会えないから今私がいる所に移りましょ。」


するとドラゴンは激しく尻尾を振って鼻先を擦り付ける。

そしてクレアは思い出したようにドラゴンの顎を両手でつかむと動きを止めさせて互いに目を合わせた。


「そう言えばカルラに言われたの。あなたに名前を付けてあげてって。それで考えたんだけど・・・。」


そう言ってクレアは言葉を止めた。

どうやら候補が沢山あるらしく小声でいろいろな名前を口にしている。

しかし、その聞こえてくる名前はどれも虐めの様な名前ばかりだった。

その証拠に尻尾を激しく振っていたドラゴンも次第に動きが悪くなり今では地面に萎れる様に置かれている。


「決めたわ。」


そう言ってクレアは自信に満ち溢れた顔を向けた。


「あなたの名前は勇者が伝えたある物語から貰う事にするわ。その名もドラ〇もん。どう、いい名前でしょ。」


するとドラゴンは当然気に入らなかったのか顔を背けて鼻息を吹かせた。

そして、俺たちはと言うと空を見上げて飛んでいる鳥を数え始める。

しかし、これは彼女たちの問題なため口を出したいがグッと我慢してあえて何も言わなかった。

実際、もしこれが猫に対してならまだ選考の余地もあったかもしれない。

しかし相手はドラゴンだ。

この名前はさすがに可哀そうに思える。


そしてクレアはドラゴンが不満に思っているのを感じ取ると何故気に入らないのか本気で頭を抱えて悩み始める。

どうやらあれは先ほどの仕返しではなく本気でいいと思って言った名前のようだ。

俺はこの時、クレアのネーミングセンスが壊滅的な事を知った。


「じゃあドラ吉・・・、ドラ座衛門・・・、ドラ太郎・・・、ドラ平・・・。」


クレアは色々な名前を告げるがドラゴンはとうとう後ろを向いてお尻を向ける。

そして尻尾でピシピシと地面を叩いて無言で不満を伝えた。


しかしクレアは地面に腕を付いて絶望のポーズをとる。

まさか、こんな所で信頼を失いそうになるとは思いもよろなかったからだろう。

ドラゴンは今だお尻を向けたまま拗ねたように尻尾を動かしている。


すると俺は仕方なく一つのアドバイスをすることにした。


「クレア、さっきから男の名前しか出ないがそいつは女だぞ。」


その声にクレアは「えっ」と言葉を洩らしドラゴンへと視線を向けた。

するとドラゴンはこちらに向けて小さく首を縦に振り、その通りと頷いた後、再びそっぽを向いた。

するとクレアは再び立ち上がり真剣に名前を考え始めた。

その姿には鬼気迫る物を感じるが先ほどのネーミングを聞いた後では不安しか湧いてこない。


そしてここにいる全ての者が不安に感じる中、とうとう名前が決まったようで再び視線を合わせた。


「あなたの名前は・・・・。」


クレアの声と共に辺りに緊張が走る。

今では城の兵士なども足を止めそれを見守っている状況だ。

そして、先ほどのクレアが言った名前の候補を聞いた者は「そりゃないぜ」と頭を抱えて嘆いていた。

何せ3人は知らないがこのドラゴンは国を救った英雄なのだ。

彼らはこのドラゴンに多大な感謝をしている。


そしてとうとうクレアが名前を告げる。


「あなたの名前はド〇美・・・。」


そこまで言った時、俺も流石に我慢ができずにクレアの脳天にチョップを喰らわせた。

するとクレアは突然の衝撃に目を回し一瞬だが世界の声を聞いた・・・ような気がした。

ハッキリ言ってそれは幻聴以外の何者でもないが、この時まさにネーミングの神が彼女へと舞い降りたのだ。

するとクレアの頭のネジがこの時だけは正常に作動し一つの名前が浮かび上がる。


「あなたの名前はセラフィム・・・。」


そう言い残してクレアはその場にバタリと倒れた。

するとクレアとセラフィムが互いに光に包まれ一つの繋がりを形成する。

この時クレアに意識があればセラフィムと命名されたドラゴンから念話を受け取った事だろう。

しかし、当のクレアはセラフィムの前で目を回して倒れている。

仕方なくセラフィムはクレアを背中に乗せると俺たちへと歩み寄って来た。

そして、それを見た俺は冬花と一緒にセラフィムを引き連れてジョセフの店へと戻って行く事になる。

その姿に兵士たちは良い名前を付けてもらえた事にホッとしてそれぞれの仕事場へと戻って行った。

そして、クレアが次に目を覚ました時、セラフィムに大きな変化が起きていたのであった。

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