37 身代わりのペンダント
朝になり俺たちは国王と会うために王城へと向かっていた。
その道の途中で俺は百合子へと声をかける。
「百合子、すまないが身代わり系のアイテムを幾つか譲ってくれないか。お金は後で払うから。」
すると百合子は懐から袋を取り出しそれを差し出してくる。
俺はそれを受け取り開けて中を確認すると10個を超えるペンダントが入っていた。
「これはもしかして?身代わりのアイテムか。」
俺は袋から視線を外し百合子へと視線を戻した。
すると彼女は少し恥ずかしそうに俯いて答える。
「はい。それは身代わりのペンダントです。蒼士さんたちには色々助けてもらったのでお礼で差し上げます。それに私には簡単に作る事の出来る物なので気にせず使ってください。」
俺は昨日の話からこれがとても価値がある物だと知っている。
さらにこの数を適正に売ればかなりの財産になるだろうと言う事もだ。
「しかし、これだけあれば今後遊んで暮らす事も出来る。それでもいいのか?」
すると百合子は今度はアイテムボックスから大きな袋を取り出し俺に中を見せてくれる。
その中を覗くと数十個のペンダントが入っており、念のためにそれらを鑑定してみる。
すると目に見えるペンダントは鑑定の結果、全て身代わりのペンダントであると出た。
そしてその事で彼女が言っている事が真実であり、俺たちに渡したものは本当に一部でしかない事を知る。
そして俺は百合子へと受け取った袋を軽く揺らして苦笑を浮かべた。
「それじゃ、これはありがたく貰っておく。でも、こんなに貰うのはさすがに悪いからな。なにか困った時は俺達に相談しろよ。可能な限り力になるからな。」
すると百合子は初めて少しだけ笑顔を浮かべた。
そして、俺たちは彼女がやっと笑ってくれた事に内心でホッとする。
出会ってまだ1日だが笑顔と呼べる物を浮かべたのを見た事が無い。
それ以外はララに負けない程の無表情でそれ以外は泣いたり怯えている。
それに彼女は起きている時は常に気を張り詰めており、余裕が無いように見えた。
この状況は精神的にも肉体的にもあまり良くないため彼女には早くその緊張を解いてほしいと案じていたのだ。
そして王城に到着したすると兵士に案内されて城へと入って行く。
今回は私的な用事とも言えるため再び国王の執務室へと通された。
部屋に入ると今回は知らせを出していたため国王は全ての準備を整えて部屋で待機している。
そして全員がソファーへ座ると国王は早速本題へと入った。
「それで、希少アイテムである身代わり系のアイテムを売りたいそうだが見せてもらってもいいか。」
すると百合子は国王の言葉に従いアイテムボックスから先ほどの大きな袋を取り出した。
そして国王はその袋の中に幾つか目的のアイテムが入っているのだろうと思い何も言わずに彼女の次の動きを待つ。
しかし、その直後百合子は袋をテーブルへと置き、何も言わずに手を離した。
その行動に国王は頭に疑問が浮かんだが見ればわかると事前に呼んでおいた男の鑑定員に袋を調べる様に指示を出した。
そして、袋を開けて鑑定を始めた彼は次第に額に汗が滲み、次々と中身を出しては丁寧に机へと並べて行った。
その行動に国王の疑問はさらに膨らみ机の上が埋め尽くされた時、男は鑑定をいったんやめて顔を上げた。
そしてその結果を国王へと告げるべく口を開く。
「陛下、信じられませんがこちらにある物は全てが身代わりのペンダントです。」
その答えに国王は鑑定員がなぜあんな表情をしてペンダントを大切に並べたのかを知る。
そして驚愕した顔のままジョセフへと視線を移した。
「ジョセフよ。なぜその少女はこんなにも貴重なアイテムを持っておるのだ。通常ではありえん事だぞ。」
するとジョセフは視線を王から外しこちらへと向ける。
その事から国王は今回も俺が関わっているのだと気付きいったん気分を落ち着けるために浅く深呼吸をした。
そして今度はその視線を俺に向けると問いかけてくる。
「このアイテムの出所はそなた達か。しかし、これだけのアイテム。自分たちで使った方がよかろう。」
国王は勇者の事を考えて俺達に話を向けた様だ。
目の前に迫ったバストルとの戦争もあるが、勇者の旅も楽なものではない。
先日の様に魔物の群れを突破し、力ある魔族たちを退けなければならない。
そして、その旅路の果てに辿り着いて初めて魔王との戦いが待ち構えているのだ。
しかし、俺は微笑むと首を横へと振った。
「確かに旅は辛いかもしれないがそれを後ろから支援してくれる者の命も大切だ。もし俺たちの旅の途中にあんたが死んで方針が変わりましたじゃ困る。それに、それだけ貴重なアイテムだと俺達で売り捌くのも難しい。それにあんたならどんな形であれ有効利用してくれるだろ。」
蒼士の言葉に国王は嬉しさ半分悩み半分という微妙な表情を浮かべた。
嬉しさは当然、彼らがこちらを信用しれくれている為である。
その事があの戦いで決意した国王としては胸にしみる物があった。
そして悩みと言うのは彼はこれを使って自分を護り、他国との交渉の材料にしろと言っている事だ。
たしかに魔王との戦いは歴史を知る者ならば温い物ではないと知っている。
そのため、このアイテムが欲しい国や人間は後を絶たないだろう。
しかし、上手くやらなければこれ自体が争いの種になりかねない。
人とはいつの時代になっても欲望に抗えない生き物なのだから。
しかし、国王にその提案を拒否する気は全くない。
そのため国王は覇気を漲らせて頷いた。
「任せろ。面倒な交渉はこちらで引き受ける。」
しかし、国王は次の言葉を少し躊躇してペンダントを見つめる。
そして周りの者に、全員下がるように命令し人払いを行うと再び話を再開した。
「これは聞いていいか分からないがこのペンダントには作成に際し同一人物の影が見える。これを作った者は誰なのだ?」
するとジョセフはやはり気付かれたかと頭を掻き、再び俺へと視線を向ける。
その視線を受けて俺は頷き百合子の事を伝えることにした。
実は前日の内に打ち合わせを行っており、こうなった時は俺から説明する事に決めていた。
百合子自身に説明させてもよかったが彼女はこの世界の者に対して大きな不信感を持っている。
今も国王と視線を合わせられず俯き、言葉も発せられる状態ではない。
「このアイテムの制作者はこの百合子だ。」
すると、俺の言葉に国王は驚愕して百合子を見る。
そして国王はまず彼女の耳に視線を向け、エルフでない事を確認した。
この世界では見た目と年齢が会わない種族の代表がエルフである為だ。
しかし、エルフでない事を確信すると国王の中で一つの可能性が浮かび上がった。
そのヒントになった物は彼女の姿と名前である。
この世界にも多くの勇者が召喚され少ないながらも彼らの様な名前を付ける者たちがいる。
しかし、その姿は大きく異なるため見た目で区別が出来る。
しかし彼女は横にいる蒼士や冬花と種族的な意味でとてもよく似た顔の作りをしていた。
その事から国王はある答えに辿り着き冷や汗を浮かべる。
「もしや・・・。バストルの召喚者か?」
その声に百合子は肩を跳ねさせて反応する。
そして、国王はそれだけで自分の考えが正しい事への確証を得られたと感じたようだ。
すると、俺は国王がすぐに答えに辿り着いたことに笑みを浮かべ口角を吊り上げる。
だが、その笑みはとても冷たく国王には何を考えているかがハッキリと伝わったはずだ。
そして、過去の記録からあの国に召喚された者の扱いを知っているのか国王は諦めたように溜息をついた。
その事もあり昨日は急にここに訪ねて来たのだと国王の中で全ての線がつながった。
「どうやら既に事情は知ってるようだな。」
そう言って俺は笑顔を消して真剣な顔になる。
先ほども良い笑顔とは言えないがこれからは人の生き死にの話だ。
「それでだ。俺たちの行動は昨日伝えた通り変わらない。お客さんは全てこちらで相手する。それにな・・・。」
俺は今まで抑えていた殺気が漏れ出し部屋の気温が下がったような錯覚を周囲へともたらす。
それによって国王やジョセフ、横に座る百合子まで喉を鳴らして唾を飲み込んだ。
「あいつらは俺の逆鱗に触れた。もう一人の召喚者以外は皆殺しにするかも知らないからその時は諦めてくれ。」
それを告げると俺の殺気は収まり国王たちは脱力したように体から力を抜いた。
「それで、百合子と言ったか。これをいくらで売ってくれるのだ。出来れば高く買ってやりたい所だがこれだけの数を買うと国の財政が傾いてしまう。分割ならば一生遊んで暮らせるだけの金額は保証しよう。」
すると百合子は俺と冬花の服を掴んで勇気を振り絞るように答えた。
「あ、あの。しばらくはこちらのジョセフさんの所でお世話になります。だからそこでの生活費だけで充分です。困ったらすぐに作れますから。」
すると国王は目を瞬かせて百合子を見た。
しかし、何も言わずに笑顔で頷くとジョセフに視線を移した。
「ジョセフ、百合子の生活費はこちらで面倒を見る。悪いが一ヶ月ごとに集計してこちらへ教えてくれ。端数は切り上げて構わん。」
「分かりました。しかし、それほど長い期間ではないかもしれません。蒼士の話では故郷に帰る目途は付いたようですし。」
「そうか。自らの家に帰れるならばそれに越したことはない。しかし、もしもの時はそなたの生活は儂が保証しよう。それと・・・。」
すると国王は机に向かい白紙の紙にペンを走らせ、それに王印を押し封筒へ入れると封をする。
そして、それを机に乗せると百合子に顔を向けた。
百合子は国王の視線を受け怯えて再び俺たちの服を掴む。
その姿に国王は悲しそうな表情を浮かべるがすぐに切り替えて話し出した。
「これがあればこの国では身分の証明になる。それと奴隷商のミランダにこれを見せれば無条件で奴隷の解放が可能だ。もしまだしていないなら今日にでも行くといい。」
俺は手紙を受け取り今は自分のアイテムボックスに入れる。
すると百合子は怯えながらも国王に顔を向けて小さな声を出した。
「あ、ありがとうございます。」
その言葉に国王は満面の笑顔で返し頷くと俺たちも立ち上がり部屋を出て行った。
国王はその姿が消えるのを確認するとすぐにベルを鳴らしてメイドを呼んだ。
「お呼びですか陛下。」
「すぐに隠密能力にたけた者を厳選し、あの少女を護らせろ。おそらく勇者たちには気付かれるだろうが必ず一度は直接接触し話を通しておくように。もし間違われて攻撃されれば即座に全滅する事を厳しく伝えておけ。」
すると指示を受けたメイドは音もなくその場から消え去る。
そして、国王は窓から外を眺めて溜息をつくのであった。




