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35 動き出す地球の神

「私の家は代々とある神社で神に仕えています。そして女である私は巫女として神の言葉を聞く役割を持っていました。特に私の能力は高かったらしく神自身を見る目も持っていたため、その神様とはとても仲良く生活していました。でもある時、急に周りが暗くなり気が付いたら見覚えのない建物の中にいて状況を確認する暇もなくそこにいた人達に捕まってしまいました。後は先ほど話した通りです。隙を見て逃げ出し自分で作ったアイテムを売って隠れながら生活していました。ただ、私の作る者にあそこまでの価値があるとは思いませんでしたが。」


そう言って溜息を吐き自分の手を見つめる。


「何時も寝る時間もほとんどない状態で毎日毎日手の皮が擦り剝けるまでアクセサリーを作り、出来た端から持って行かれて遅れると体を鱗の付いた鞭で打たれました。毎日体も心もボロボロで・・・でもある日もう一人の子がこっそり材料をくれたんです。討伐の時に隠して持って帰った物だと言っていました。彼女は私にそれを渡して逃げるように言ってくれて・・・。」


そこ迄話した時、百合子は俯いて泣き始めてしまう。

それを見て冬花は彼女に歩み寄り優しく抱きしめて慰めた。

そして百合子も冬花に抱き着くと声を押さえる事無く大声で泣き始めてしまう。

その姿を見つめながら俺たちはもう一人の犠牲者も救う事を決断する。


そしてしばらくすると百合子は泣きつかれたのか再び眠りについた。

長く苦しい生活で若干大人びていても中身は14歳の子供でしかない。

冬花は眠った百合子を抱きかかえると彼女の部屋に運んでいく。

そしてベットに寝かせると毛布を掛けやり部屋を出て行った。


場所は変わりここは地球の天界。

そこでカグツチは出かける準備を行っていた。


「カグツチまだか~。早く出雲に行かないと酒が無くなっちまうぞ。」


そう大きな声でスサノオは彼女を急かす。

そして準備が出来たため社から出て来たカグツチは急いでスサノオの元へと向かった。


「すまない。修行に集中しすぎて10月が近かったことを忘れていた。これをは詫びだ。受け取ってくれ。」


そう言ってカグツチは慣れた手つきで酒の入った瓶をスサノオへと投げ渡した。


「お前な~、俺がいつも酒だけで許すと思うなよ。・・・まあ、許すけどな。ウヒョ~~酒だ酒!」


そう言いながらもこちらもいつもの調子で酒瓶の蓋を開けてグビグビ飲み始める。

しかし、今回の酒はいつもと違っていた。


「なんじゃい、こりゃーーーー!」


そう言いながらスサノオは口から黄金色のブレスを吐き出した。

そしてブレスはこの社を囲む空間の天井まで届きそこを貫いてもなお突き進んだ。

その姿をカグツチは空を見上げて眺め呆れた視線を向けている。

その心境は「たかが酒で大げさな」であった。

彼女は酒の味が分からない、と言うよりも酒を飲まないのだ。

ならばなぜこんな酒を持っているのかと言うと、それは彼女の属性と交友関係にあった。

彼女は剣神であるが鍛冶神でもある。

そのため沢山の奉納された酒があるのだ。

彼女は捨てるのは勿体ないと、こうして酒の好きな神にお礼で配ったりしている。

そしてそれとは別に酒をくれる友達がいた。

それはソーマと言う酒の神で、互いに一芸を極めんとする事から友達となり毎年大量の酒を送って来てくれるのだ。

その付き合いは長く、数百年にも及びその間の酒が全て蔵に眠っている。

そして今渡したのはその特別な酒であり長い年月、腐敗防止機能のついた蔵に眠っていた物の一つである。

恐らくスサノオほどの神でなければこれ一本で何処かの竜の様にどんな願いも叶えようとするだろう。


スサノオは目を見開いてカグツチへと詰め寄っていく。

その姿に彼女はドン引きして2歩は下がるがスサノオは理性を感じさせない目でカグツチの肩を掴んだ。


「もっとこの酒をくれ。さすればどんな願いも叶えてやろう!」


どうやらスサノオほどの神でもダメだったようだ。

酒好きは酒に勝てない。

これは人も神も変わらないようである。(時にそれをアル中と呼ぶ。)


そんな事をしているとスサノオの後ろから忍び寄る影があった。

その影は彼の後ろに立ち腕を振り上げ肩から指先までをまっすぐに伸ばす。

そしてそれほど早くは見えない速度でその手を振り下ろした。

それは俗にいうチョップであり、その神物はスサノオの頭頂部へとそれをくらわせた。


しかし、その威力はすさまじくスサノオはその場で地面へと頭から吹き飛び体ごと地面へとめり込んでいる。

そしてそれをした神物は朗らかに笑いながらその場に佇んでいた。

その神物にカグツチは驚きながらも即座に跪いた。


「天照様!ど、どうしてこちらへ!?」


カグツチの問いかけに笑顔を絶やす事なく天照はスサノオを見下ろした。

いや、呆れを含んだ目で笑顔を浮かべながら見下していると言った方が正しいかもしれない。


「スサノオが話があると言うので社で待っていたのですが何時まで経っても来ないので迎えに来たのです。どうやらあの異界の女神が関わっているとか。私としてもとても、そうとてもとても興味深いため、こうして急いできたのです。それと・・・」


そう言って天照は後ろへと視線を向けた。

するとそこには白い髭を生やした老神が一人で佇んでいた。

その姿にはどう見ても覇気が感じられず、力なく肩を落とし背中も丸まっている。


「彼は19年前に自分の神社で仕えてくれていた家族の娘が神隠しにあったそうでね。彼はその娘ととても仲が良かったらしくてそれ以来あの調子なんだ。」


天照の言葉に蒼士の言葉が頭をよぎる。

あの時に蒼士は19年前に召喚された少女だと言っていた。

その言葉を思い出して天照とそのお爺さんを交互に見ていると天照は笑顔を消して真剣な顔になった。


「私達は肉体の無い存在だからね。心のありようで簡単に姿まで変わってしまう。君も気を付けるんだよ。我々は堕ちる時には簡単に堕ちてしまうのだから。」


天照はカグツチから視線を外す事なく真直ぐに見詰めながら告げた。

それはまるでカグツチ個人への忠告の様に。


そしてカグツチは忠告の内容は理解できたがなぜ自分に向けられているのかは理解できなかった。

しかし、自分たちの最高神の言葉として受け取り「心に留めておきます」と返した。

天照はカグツチの内心を正確に感じ取り軽い溜息と共に苦笑を浮かべる。

すると、横で倒れていたスサノオが土埃を巻き上げて突然立ち上がった。


「いってー。あれ?天照来てたのか。」


そう言って体の汚れを叩き周りを見回した。

そして、カグツチと目が合うと顔の前で手を合わせて頭を下げた。


「すまん。まさか俺が酒に呑まれるとは思わなかった。いや~神をも落とす酒があるとわな。」


そして謝った後で足元に落ちている酒瓶を睨みつける。

どう見てもただの八つ当たりだがそれを咎める者は誰もいない。

それに試飲もせずに一気に飲み干そうとするのが間違いなのだ。

その姿にカグツチは仕方なく後でもう一本渡す約束をしたのだった。

どうやら全くこりていないようだ・・・。


そして、やっと本題に戻り召喚された少女の話が始まった。


「それで、その少女の名前は何と言うのですか?私は召喚された時期しか聞いていないのです。ただ、調べたところでは、我々が管理している範囲で神隠しにより消えたのは彼女一人です。もしかするともう一人は別の地域からかもしれませんね。我々は日本担当ですからそこは各地に問い合わせましょう。」

「そうですか。しかし、一人でも分かったのなら良かったです。少女の名前は近江 百合子という名前だそうです。おそらく、召喚された当初は12歳ではないかと思います。」


カグツチは自分が知る情報を簡潔に天照へと伝えた。

すると遠くで呆けたように立つ老人に変化が訪れた。


「ゆ・り・こ・・・ゆ・り・こーーー!?」


最初はただ名前を呟くだけだった。

しかし次第に体に神気が漲り始め、それは次第に放電するように辺りへと広がっていく。

そして老人の様に細い体は次第に筋肉が膨れ上がり顔は鬼のような形相に代わっていく。

さらに背中に神器である複数の太鼓を背負いそれを力強くたたき始めた。

そして太鼓のリズムが最高潮に達すると体中に雷を纏いそれを天へと打ち上げる。

その光景はすさまじく余波だけで社が今にも倒壊しそうな軋みをあげた。

そして雷が収まると、そこには太鼓を背負った鬼が立っていた。


「あの、あちらの方は誰ですか?」


カグツチは姿を見ただけで誰かは分かったが、先ほどの老人とは似ても似つかない姿に混乱し、スサノオへと問いかけた。


「ははは、何を言ってるんだい。あれはこの日本でも有名な雷神じゃないか。しかし最近は元気が無かったようだけどそう言う事だったんだな。」


天照の言葉にスサノオは素直に納得できたのか一人頷いて雷神を見ている。

ちなみにカグツチは話すのが苦手で他の神との付き合いが少なく。

出雲に集まっても酒を飲まないため宴会に出席せず庭で剣ばかり振っていた。

そのためいつも宴会で大騒ぎをしている雷神が元気がない事も、彼が萎れた老人の姿になっている事も知らなかったのだ。


そして雷神は鬼の形相でカグツチを睨みつける (見つめる)。

ちなみに本人は睨みつけているつもりは全くない。

鬼の形相になれば誰でも睨んでいるように見えてしまうのだ。


雷神はゆっくりと歩いてカグツチへと近づいて行く。

カグツチはそれを見て警戒し、手が剣へと延びそうになる。

彼の名誉のために言っておくが雷神は警戒されない様にあえてゆっくり歩いている。

しかし、鬼の形相で歩いてくる姿はどう見ても世紀末覇王である。


しかし、その姿に天照もスサノオも警戒していないためカグツチも警戒を解き雷神が来るのを待った。

そして、雷神は近づいて来ながら鬼の姿を人の姿へと変えて行った。

しかしその姿は先ほどまでの弱々しい姿ではなく、スサノオの様に逞しく年齢も50ぐらいのナイスミドルへと変わっている。

そして体からは先ほどまで感じる事の出来なかった膨大な覇気がビリビリと伝わってくる。


カグツチは先ほどの天照の言葉を思い出し、ここまで変わるものなのかと内心で驚愕する。

そして先ほどの言葉をもう一度心に刻みこんだ。

そして、完全に人の姿に変わるとカグツチに向かい話しかける。


「先程は驚かせてすまない。力を開放するのは久しぶりで加減を間違えた様だ。」


そう言って雷神は周りを見回した。

その視線の先には木々が傾き、力を開放した場所には3メートルほどのクレーターと溶けた土が目に入る。


その様子にカグツチは首を横へ振り問題ないと伝えた。


「ここは小さいですが神界の一つです。私が少し力を注げば修復されます。それよりも話を続けましょう。」

「そう言ってもらえると助かる。」


そして雷神はケジメを着けるために一度頭を下げて正式に謝罪し話を進めた。


「それで先程近江百合子と言っていたな。あの子の事を知っているのか?知っているなら教えてほしい。何処に居ようと迎えに行くぞ。」


その言葉にカグツチは顔を歪めどう説明したものか悩む。

実はいまだに状況が完全に把握しきれていないため情報は少なくこれからの事もまだ決まっていないのだ。

するとその様子を見たスサノオはカグツチの代わりにある提案をした。


「実はあちらとの世界の狭間に部屋を用意してある。まずはそこに移動しよう。」

「そんな物があるのか?・・・分かったすぐに向かおう場所が分からないので転移は任せてもいいか?」

「任せろ。それじゃすぐに向かうぞ。」


スサノオはニカッとした笑顔で転移を請け負い二人を連れてその場から消えた。

そしてカグツチは念のため一番上等そうな酒を何本も蔵から出すとそれを持ってスサノオたちを追いかけた。

この判断が後にファインプレーへと変わる事を彼女はまだ知らない。


そして少し遅れて部屋へと入るとそこにはあちらの世界の映像が映し出され、そこには蒼士と共に一人の少女が映し出されていた。

雷神はその姿を見て目に涙を浮かべ拳を握っている。


「やっと見つけた・・・見つけたぞ!この星を雷の速さで探し回っても見つからないと思ったがまさか異世界に無断で召喚されていたとは!!」


雷神の言葉に横で聞いていた天照がピクリと反応する。

どうやら彼がここに来た理由は確証が欲しかったからのようだ。

もともと神に仕える者を他の世界から呼ぶには仕えている神から許可を取るのが普通である。

それを無断で連れて行くのは誘拐以前の何者でもない。

それに元々この世界は全神全霊で召喚をお断りしている。

今回の冬花の様に仕方ない場合が存在する事もあるが、それには幾つかの条件が発生するのだ。


まず、魂は寿命で死んでから回収する。

その後、同じだけの質の魂と交換する。

もしそれが不可能なら仕方なく召喚と言う手を使い、召喚された者を神が責任をもって面倒を見る。

そのため今回の様に殺害後の事後承諾や無断召喚などは論外であった。

恐らく天照は笑顔をあまり絶やさない神だが怒りで腹の中が煮えくり返っている事だろう。

その心情は蒼士が殺されたときに即座にスサノオを送った事からも分る。

彼は言葉より先に手が出るタイプの神なのだ。


そして、そんな事を考えているとカグツチは自分ならどうするかを考えた。


(そうだな。もし死ぬ前に雷神様の様に蒼士に出会っていたら・・・。)


そこまで考えて心の中に何やら黒い物が渦巻くのを感じた。

そして、今まで感じた事のないその感情に戸惑いカグツチは考えるのを止めた。

その様子にスサノオはそっと息を吐き胸を撫で下ろす。

しかし今の瞬間にスサノオと天照は確信した。

カグツチは今まで剣にのみ打ち込むあまり心が成長しきっていない事を。

そして何かの対策を早急に打たなければ遠くないうちにカグツチが堕ちるかもしれないと直感する。


そして少し目を離した隙にもう一人の神はまさに光の速さで動き出した。

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