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34 師との再会

ここは蒼士たちがいた世界の神界。

そこでは今、一人の女神が男神と剣を交えていた。


「ははは、最近更に強くなったな。俺も油断してたら一本取られそうだぜ。」


そう言って豪快に剣を振るう男神はスサノオである。

そしてその相手の女神とは。


「そんな余裕を見せているとそろそろ腕でも切り飛ばしてあげる。」


そう言って剣の速度を上げて行く女神の名前は剣神カグツチ。

数日前、蒼士に剣を教えた女神である。

彼女は力こそスサノオに届かないが、剣の腕だけならば既にこの男神に迫ろうとしている。

そして、蒼士と別れた後は暇そうなスサノオを捕まえてずっと剣の稽古に明け暮れていた。

それは彼女が胸に秘める思いの為。

蒼士と再会した時に再び共に剣の稽古をする為だ。

スサノオはその真直ぐな思いを汲んで報酬付きで稽古に付き合っていた。

その報酬も酒と言うありふれた物であるがそれがこの男神の優しさでもある。

そしてスサノオは今日も彼女の隙を見つけて剣をはじきその喉元へと剣を突きつけた。


そして互いに剣を下ろすと二人は大きく息を吐いて傍にある椅子へと向かって行く。


「やっぱり目的があると上達が早いな。」


スサノオは先払いで貰った報酬の酒を水の様に飲みながら話しかける。

そして、カグツチも手応えから笑みを浮かべそれに答える。


「そうですね。今まではただ剣の腕を磨く事しか考えてませんでしたがこんなに違う物だとは思いませんでした。」


そう言ってぼんやりと腰に刺した剣を見つめ物思いにふける。

その姿にスサノオは溜息をついて再び酒を飲んだ。

彼女には最近小さな変化が訪れている。

昔は剣を振ってばかりいた彼女が何かを思い出すように剣を見つめる事が増えた。

スサノオはそれが蒼士と出会い剣を交えてからだと知っている。

しかし、カグツチが蒼士に会うには彼が死ななければならず、それはすなわち誰も望まない事であった。


しかし、そんなカグツチを見ていると彼女が突然立ち上がり周りを見回し始めた。


「どうしたカグツチ。何か感じたのか?」


スサノオは軽い感じで問いかけたが聞かれた彼女はそれに答える事無く周囲を見回し続ける。

その表情は焦っていると言うよりは必死に見えスサノオは首を傾げた。


「蒼士が呼んでる!」


すると彼女はその言葉と共に突然走り出し地上へと転移する。

その勢いに驚きスサノオは手を伸ばすが間に合わず、空を切る事しか出来なかった


「おい、待てよ!」


そしてその様子にスサノオも彼女を追いかけて転移して行く。

スサノオには何も感じず聞こえないがカグツチの言葉から向かった場所は予想できたため向かう宛はあった。


そこは人間界にあり地上から数百メートル離れた空の上にある。

そこにはあちらの世界とこちらの世界の狭間に作った部屋に行くため、扉と言う概念を利用してゲートが作られていた。

そのためこのゲートは通常の者には見えず触れない。

しかし、その扉の前に現れたカグツチは目に見えない扉を開けて部屋へと飛び込んだ。


彼女は部屋に入ると中を見回し蒼士を探す。

しかし、そこには誰もおらず白い壁があるだけであった。

その途端にカグツチは幻聴なのかと落胆し、その場に座り込んでしまう。

その頃になってスサノオも追いついて部屋を見回した。

そして予想通りそこに蒼士の姿は無くあるのは座り込み小さく背中を丸めるカグツチが1人だけだ。

その姿からは先程まで勇ましく剣を振るい、明るく笑っていたとはとても思えない

だが、スサノオはある事に気が付き慎重に部屋を見回した。

そこには確かに蒼士の姿は無い。

しかし彼の魔力を感じる。

スサノオは扉を閉めて感覚を研ぎ澄まし部屋中を探る。

するとその魔力はしめた扉から漂っている事に気付き背後へと振り向いた。


しかも、それは次第にカグツチを包み込むような動きを見せる。

そしてカグツチもその魔力に気付いたようで俯かせていた顔が勢いよく上がった。


「カグツチ、蒼士がお前を呼んでいるようだ。こんな事をするぐらいだから何かあったのかもしれん。すぐに行ってやれ。」


スサノオはカグツチの背中と気持ちを押してやり扉へと促す。

すると彼女はコクリと頷くと蒼士の魔力に導かれるままに扉を開いた。

そして気が付くとカグツチの目の前には蒼士の姿がありその胸に熱い何かが湧いてくる。

彼女は無意識に一歩を踏み出すと笑顔を浮かべる蒼士に抱きその体へと顔を埋めた。




蒼士と冬花は突然の事に驚き避けるどころか反応すら出来なかった。

そしてカグツチも自分の行動が理解できず、顔に温もりを感じて耳まで真っ赤にしている。

しかしこのままではいけないと思いそこから離れると顔を隠すように背中を向けた。


「久しぶりだな蒼士。無事で何よりだ。」


カグツチは恥ずかしさを隠すようにぶっきらぼうな言葉をかけてくる。

しかし、彼女の内心に気付いた冬花は目を細めてカグツチの背中を見つめた。

カグツチもその視線には気付いていたがまだ顔に熱があるのを自覚しているため振り向くことが出来ない。

そんな中で蒼士はいつも通りにカグツチへと返事を返した。


「そうだな。お前が鍛えてくれたおかげで冬花を護れてるよ。本当に感謝する。」


するとその言葉にカグツチは胸に棘が刺さったような痛みを感じさりげなく胸に手を当てる。

そして、顔からも熱が下がって行くのを感じ振り返って顔を向けた。


「そうか、それは良かった。それで、私を呼んだのはどういった用件だ。」


まずは百合子の事を正確にカグツチへと伝え意見を求める。

するとカグツチは目を細めて真面目な表情を作ると少し考えて答えを返した。


「あの世界は異世界召喚を認めていないんだ。だから無断で召喚されていれば大問題になる。それに・・・」


カグツチは言って良いのか少し悩んだが説明のために仕方なしと話を続けた。

しかし、彼女の心に相手を特別に見ている思いが含まれている事には本人も気付いてはいない。

それが本人にとって大きな禍になるかもしれないと言う事さえも。


「世界の魂の総量は決まっていて神々がそれを管理しているんだ。管理は地域ごとで違い、私達は日本だが南蛮の方は別の神が担当している。だからこの事は戻ったらすぐにスサノオにも相談してみよう。」


するとある疑問を感じたためカグツチへと問いが向けられる。


「じゃあ、俺たちはどういう扱いなんだ。あちらの世界にはもう帰れないと聞いたが計算が合わなくならないのか?」

「それに関しては互いに話し合っているから調整もされている。しかし、無断で持って行かれた場合、互いの世界の均衡が崩れる可能性がある。早めの対処が必要だな。」

「その辺は俺達には対処できそうもない。すまないが頼んでもいいか?」

「分かった。その子は何て名前なんだ?」

「近江百合子だ。可能ならそちらの世界に帰してやりたい。それともう一人いるみたいなんだ。二人とも時期は恐らく19年前ぐらいだ。」

「分かった。任せろ」


そう言ってカグツチは元の世界へと帰って行った。

それを見て冬花は複雑な気持ちになる。

蒼士は自分の夫であり、他の女性にまったく興味が無い。

それは間違えようの無い事実であり自分と彼は相思相愛であるのも確かだ。

そして冬花にも当然独占欲はあり彼を自分だけの者にしておきたい気持ちもある。

しかし、彼は冬花視点から言えば凄く魅力的で素敵な男性でもある。

そのため彼の事を知れば好きになる女性は後を絶たないだろうと考えていた。

そして今のカグツチの事だけではなくクレアの事も冬花を悩ませる要因となっている。


しかし、冬花は最近ある事を思うようになっている。

自分は17年待って再会でき、好きな人と結婚できた。

なら他の人が彼を好きになったらどうするのか?

彼を諦めさせて別の相手を探させる?

しかし、もし自分がそうなった場合、一生結婚を諦めるだろうと確信できる。

そのため、冬花は蒼士の背中に寂しそうな視線を向けた。

そして当の本人はその視線には気付いてもその意味までは分からないためそのまま歩きだした。


そして、カグツチは白い部屋に戻るとその瞳に僅かに涙を浮かべる。

スサノオはそうなるだろうと予想していたため狼狽える事無く静かに彼女が落ち着くのを待った。

蒼士は17年冬花を探し続けていたのだ。

そしてスサノオは人の営みを見てその17年の重みを知っている。

神にとっては大した事のない時間だが人にとっては膨大な時間である。

逆にカグツチは今まで剣に生きていたためそれしか知らない。

すなわち蒼士と冬花の思いの重さを知らないのだ。

しかし、彼は一つの事を思いつき動いてみる事にした。


(もしかしたら・・・。)


その後、スサノオの企みはカグツチから聞いた話により実現が限りなく可能な事になる。

そしてカグツチは蒼士の期待に応えるために、スサノオは暇つぶしと新たな酒を得るために動き出した。




そしてここで再び蒼士たちに戻る。


蒼士たちは目覚めた百合子を含めて全員で食事を取っていた。

すると、百合子がジョセフたちへとある提案を持ちかける。


「私はアクセサリー等のアイテムを作ることが出来ます。それを買い取ってもらえませんか。それでここでの生活費を払います。」


するとミランダとジョセフは小さな子供にしか見えない百合子を見て悩み始めた。

彼女たちの心情は働かざる者食うべからずである。

しかし、それは15歳以上の成人の話であり子供には適用しない。

それに話によれば百合子は14歳。

無理に働かせなくても子供一人くらいは十分食べさせてあげられた。


それを言おうとすると横からティファが声をかける。


「無理に新しいのを作らなくてもお店に置いてあった商品で十分だと思うよ。」


そう言ってティファは回収していた彼女の物を全て取り出して両親へと見せた。

そして二人はそれぞれを手に取り鑑定を始めると次第に表情が変わって行き緊張した顔を百合子へと向けた


「君はこれを露店で売っていたのかい?」


ジョセフは宝物を扱う様に慎重な手つきでアクセサリーを机に置いた。


「これは悪いがうちでは扱えないな。」


するとティファはやっぱりと言う顔になり百合子はガッカリと肩を落とす。

しかし、次の言葉に百合子は驚きに固まる事になった。


「これは国に売るべきだ。この身代わりのアイテム一つだけでも1000万Gで買い取ってくれるはずだ。君が良ければ明日にでも陛下に相談に行こう。」

「それなら悪いが俺達も同行する。彼女はもしかしたら故郷に帰るかもしれないからな。変な勧誘が無いようにこちらで釘を刺しておく。」


百合子は自分のアクセサリーの価値と、俺の故郷と言う言葉に思考が付いて行けずいまだに何も言えないようだ。

そして気づいた時には全ての話がまとまっており、百合子は明日の朝に王城へ行く事となった。


ジョセフは急いで国王へと明日の朝に重要な話がある事を手紙にしたため、王城へと届けさせる。

そして百合子はしばらくして再起動を果たし確認のために移動を始めた。


部屋へと向かい扉の前で何度も深呼吸を行うが気持ちが中々落ち着かない。

仕方なく百合子は焦る気持ちのまま扉をノックした。

すると中から声が聞こえ入室の許可が下りると百合子が部屋に入って来る。

中には俺の他に冬花もおり百合子を笑顔で迎え入れている。

彼女は中に入ると扉を閉めて先ほどの事を聞いて来た。


「あの、蒼士さん。先程の故郷の話ですけど・・・。」


しかし、百合子は間違っていたらと言う恐怖からその声はだんだんと小さくなり最後には消えてしまった。


そんな百合子の様子を見て俺達はクスリと笑い先程の事を話して聞かせた。


「まだ確実ではないけど元の世界に帰れるかもしれない。少しあちらの神様に知り合いが居てね。今確認をしてもらっているんだ。」


すると百合子は首を軽く傾げて不思議そうな顔を向けて来る。

そして予想外な答えが俺達に返って来た。


「あれ、蒼士さんたちも神様の知り合いがいるんですか?」

「はい?」


そして言った後になってハッと何かを思い出したように両手で口を塞いだ。

しかし、百合子の言葉をしっかりと聞いていた俺達は互いに瞳を瞬かせた。


「俺達もと言うと百合子にもなのか?」


俺たちはいまだ知らなかった事実を意外な所で知ってしまう。

しかし、今だからこんな対応が出来るが、向こうに居た時ならば笑って流したであろう事が容易に想像できる。

あちらの世界ではそれほど神秘とは縁のない世界なのだ。


そして、百合子自身も気が緩んでいたとはいえ家の秘密を話してしまった事には後悔がある。

しかし恩人に隠し事をしたくない気持ちもあるため彼女は素直に秘密を明かすことにした。


「仕方ないのでお話します。でも、他の人には秘密でお願いします。」


そう釘を刺してから彼女は自分の家の秘密を話し始めた。

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