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33 国王との密談

俺たちはまず王城に到着すると門番に声をかけた。

流石にアポイントメントも取らずに来ているのでこれくらいは最低限しないといけないだろう。

ダメだと言うなら仕方ないのでここから離れてから忍び込むまでだ。


「国王と話がしたいんだが何時頃になれば面会できる?」


すると門番は待っていましたとばかりに俺達を城内へと通してくれる。

俺たちは先触れも出さずに来ているため会えるなら数時間は待たされても仕方ないと思っていた。

しかし、どうやら国王も俺達を待っていたようだ。


そして今回は謁見の間ではなく、更に城の奥へと通され、案内してくれた兵士は部屋の前に立つ別の兵士へと俺たちの事を伝える。

そして伝達が終わるとこちらに敬礼し、来た道を戻って行った。

すると目の前の兵士は扉をノックし中から返事があると俺たちが来た事を伝え、扉を開ける。

そして、兵士は笑顔で部屋へと招き入れると静かに扉を閉めた。

部屋には正面に大きな一人用の机があり、書類を処理している国王と目が合った。

彼は手元の書類にサインをすると立ち上がり備え付けのソファーを勧めて来る。


「まあ、座ってくれ。お礼の件もあるがいくつか伝える事もある。」


そう言って国王は手元のベルを鳴らすと横の扉からメイドが現れ、俺たちの前にお茶とクッキーの様なお菓子を並べると部屋を出て行く。

国王はそれを確認すると俺達に視線を戻し話しを始めた。


「この度は国を救ってくれたことに感謝する。」


国王はまず最初にお礼を言って深く頭を下げた。

この世界には勇者として呼ばれた異世界人がいるため、彼らの国の事が少なからず伝わっているようだ。

国王はこちらの礼儀に合わせ、最大の感謝の思いを形にしている。

その姿に俺達も思う事は多々あるが素直に受け取る事にした。

そしてこの時、俺の中で王族を皆殺しにする選択肢がいったん消える事になる。

すると国王は頭を上げると次の話に入った。


「それと依頼料だが実はかなり困っている。お前たちの装備を見た限りアイテム関係には困っていないようだ。なので出来れば希望を聞きたい。いらない物を渡しても礼にはならんからな。」


すると俺達は同じような顔をして悩み始める。

武器は特に必要なく、防具も同じだった。

そしてアイテムも俺と冬花からすれば問題なく、さらにクレアも魔法の使い手である。

それに最強種のドラゴンが共にいるため必要な物が思い浮かばない。

その結果しばらく悩んだ末にお金で解決してもらう事にした。

金額はギルドと話し合い無理のない範囲でお願いする。


国王はその返答に笑みを浮かべるが次の話を始める時には真剣な顔に戻っている。

そして一つの書状を取り出しこちらへも見える様にテーブルに置いた。


「これは隣国からの親書でな。儂が幽閉されている間に届いたそうだ。相手はバストル聖王国。知っているか?」


国王の言葉に俺達は同時に頷き鋭い目を親書に向ける。

その様子に既に何かあった事を国王は感じ取ったらしく親書の内容を簡単に纏めて話し始めた。


「これには勇者である冬花殿の引き渡し要請が書かれている。」

「冬花だけか?」


俺は国王にすかさず問いかける。

そして国王は当然首を横に振った。


「出来れば蒼士殿も一緒にと書いているがどうやら君の事はまだあまり知らないらしい。知っていれば絶対に寄越せと言ってくるはずだ。それとエルフの娘はクレアと言ったか。彼女の事は書いていない。あそこは亜人差別が酷いからな。おそらく一緒に行ってもすぐに殺されて別の者をパーティーに入れるだろうな。まあ、そうなればあのホワイトドラゴンが黙っていないだろうがな。」


俺達は謁見の間での出来事を思い出した。

あの時の男は見せしめの意味も大きかったが行動を起こす前ですら彼はこの世から消滅した。

カルラはその辺の事を容赦するようには見えないため、恐らくクレアに何かすればあの国は本当に塵に還る事だろう。

ただ、国王と俺達二人の間には大きな認識の違いがあった。

国王は国同士のつながりや、これからの事を思い憂いている。

しかし、俺と冬花は別に滅ぶなら滅んでいいと本気で思っていた。

場合によっては自分達で滅ぼす可能性すら考え互いに黒い笑顔を交わし合う。


その様子に国王は精神を削られながら話を続ける。


「それでな、これにはさらに続きがある。もし、この要請が受け入れられなければ実力で奪い取ると書かれている。」


そこまで言って国王は頭を抱えて大きな溜息を吐き出した。

彼からしたら一難去ってまた一難ではない。

既に彼にはこの短期間で4つ目の苦難と言える。

今のところ俺達たちのおかげで大きな犠牲もなく穏便に事が済んでいるが今回はそうはいかない。

それに国王は勇者たちに味方し続けると心に誓っている。

それは彼の中だけの誓いではあったが破る気は全く起きなかった。

今の溜息は戦の準備をしないといけない為の憂鬱の溜息である。


「さらにあちらは異世界人を今回の戦闘に投入すると言ってきている。あの国はこの世界で唯一、異世界からの人間を召喚する事が可能なのだ。そして、異世界から召喚された者は何らかの才能を与えられてこちらの世界にやって来る。おそらく、戦闘に特化した者を召喚する事に成功したのだろう。」


それは既に百合子から聞いて知っている。

しかし国王は忌々しそうに俺達へと説明をしてくれた。

恐らくこれまでの歴史でも何度も同じことが起きたのだろう。

何せこのタイミングならば冬花はこちらに来て1月程度。

あちらは2年も前から準備している。

普通に考えればあちらからの要求を呑むしかないのだ。


「しかし、こちらも恩人を売り渡すような事は絶対にせん。お前たちが望まぬなら戦争をしてでも守って見せる。」


そう言って国王は俺達を先ほどとは違う穏やかな顔を向けた。

しかしその瞳に強い意志の力を感じ取る事が出来る。

だが、今回はそんな事にはならないと俺達だけは知っていた。

そして、ほとんどは百合子のためにだが、ほんの少しだけこの国王の為に行動を起こすことにする。


「あんたには悪いが国の兵士は動かす必要はない。そいつらを呼んでくれるだけでいい。」


その言葉に国王は彼らを護る事もさせてもらえないのかと落胆する。

しかし、そんな事はお構いなしに俺は続けた。


「その軍は俺達だけで潰す。ちょうどその国と異世界人に用が出来たんだ。意気込んでるところ悪いがそいつらは俺達の獲物だ。」


すると国王は俺の発言に呆気にとられ、次には唐突に笑い出した。

国王の中では最初、この国のためにあちらに行ってしまうのだろうと思っていた。

しかし、そうではなく完全対立による全面決戦をする意志を示された。

これならもしもに備え兵を待機させ、不利なようなら助けを出せる。

さらに街中で噂で持ちきりの勇者を護るためなら町の人々も協力してくれる。


そして、国王は笑顔でその提案を呑むことにした。

人同士の戦争となれば再び無理をさせる事になるかもしれないが国王は最後のドラゴンとの戦いが目に焼き付いているため二人を信じることにした。


「それじゃあ任せた。」


そして俺達は国王に一声かけて立ち上がり部屋を出て行った。

それを見送り王は親書を書くために机に戻る。


そして簡潔に今までの先代たちの思いも込めて大きく書きなぐった。


『かかって来いや!クソ共が!!』


それだけ書くと国王はそれを届けさせるために外に居る兵士を呼び指示を出す。

そして届ける兵士には城門まで届けたら即座に国に帰るように厳命した。

普通は使者は無事に帰国させるのが決まりであるがあの狂信者の国は何をするか分からない。

そのため一人の兵士の命さえも無駄にさせないため逃げろと命令を出したのだ。


その後スッキリした顔で再びベルを鳴らしメイドを呼んだ。

そしてこの時に飲んだお茶は先ほどよりも格段に美味しく感じたのだった。


俺たちは城を出ると再びジョセフの店へと戻る。

既に勇者パーティーの拠点と化しているが誰もあえて何も言わない。

冬花あたりはそろそろ俺と愛の巣と言う名のマイホームを欲しがっているかもしれないがいまだにゴタゴタが収まらないためまだ先になるだろう。

それに、これが終わったらまたエルフの国にも出向かないといけない。

あそこは戦争こそ回避したが今後の動向が気になる。

そしてそんな事を一緒に計画しながら歩いていると店へと辿り着いた。

中に入ると一階部分にはすでに商品が並び始めており朝まで見かけなかった他の店員も見かける様になっていた。

ララとジョセフはテキパキと指示を飛ばし店の再建に全力を尽くしている。

そんな中、ジョセフは俺たちが帰って来た事に気付いて手を止めて近寄って来た。


「お帰り。陛下には会えたか?」

「ああ、あちらも待っていてくれたみたいですぐに会うことが出来た。」

「そうか。まあ、今日行くと言うのはこちらで伝えておいたから問題ないとは思っていたがな。」

「そうか、助かった。それで、さっきの子供はまだ寝ているか?」

「ああ、よく寝ている。しばらくは家で預かるから遠出する時は言ってくれ。」

「分かった。でもしばらくは大丈夫だろう。ところで隣のバストル聖王国は遠いのか?」


俺はついでとばかりにジョセフへと問いかけた。

大まかにでも日数が分かれば行動の幅が広がるからだ。

実際、準備する事は無いが攻めて来た時に街に居なかったのでは国王に申し訳ない。


「そうだな。馬車なら国境まで1週間といった所か。そこから王都迄もう1週間といった所だ。軍隊なら鍛えられているから片道1週間。個人なら最短3日といった所だ。」


ジョセフは最後に目を細めてこちらが聞きたい事を教えてくれた。

彼は百合子との話を部屋の外で聞いていたため今の質問からこちらの事を察してくれたのだろう。

俺はフッと笑うと流石だなと言って奥へと入って行く。

その様子に今度はバストル聖王国かとジョセフは苦笑いを浮かべた。

だが、実のところジョセフはあの国が嫌いである。

神の自由は無く商売はやりづらい。

さらにエルフなどの人種以外に対する差別が異常に強いのだ。

ジョセフはあの国の閉鎖的な風潮が理解できなかった。


俺たちは再び百合子の部屋を訪れていた。

彼女は今も眠っているがその姿は穏やかな物ではない。

時々寝言で助けを求め、閉じている瞳からは涙を流している。

その姿に俺も冬花も再び怒りが沸き上がる。

しかし、今は感情を押し殺して部屋を後にした。

そして俺達は最初にジョセフと話し合いをした離れへとむかう。

今からある神物を召喚しようと考えたからだ。

そして、離れの前で身長140ほどの目の鋭い凛々しい少女の人型を作り中へと入って行った。

そして俺は神を呼び出すために膨大な魔力を使いスキルを発動する。

しかし、今回の事に関して言えば呼び出せる自信が無かった。

カティスエナやベルはこの世界の神なのでスキルで呼び出せる自信がある。

しかし、彼女はこちらの世界の神ではない。

もしかしたらスキルの適応外かもしれないと内心では思っていた。

そんな思いもあり今回は呼べたらラッキーくらいの感じで行っているのだ。


そして予想通りスキルを発動しても何の反応も無い。

あの二人を呼び出すときは何かを掴んだような感触があった。

しかし、今回は手を伸ばしているのに空気を掴んでいるような感覚しかない。

最後の手段としてベルに仲介を頼む手段もあるがそれは本当に最後の手段だ。

そして諦めかけたその時、まるでこちらの手を掴まれたような確かな手応えを感じた。

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