32 蒼士 少女を拾う
ララを怒らせてしまった償いとして、今日は店の手伝いをする事となった。
そして現在、俺は王城へと足を向け歩いている。
実のところ運搬はアイテムボックスがあるため苦にならない。
恐らく大変なのは仕分けや店で行う品並べだろう。
なんだか昔のバイト時代を思い出し俺は溜息をついた。
ちなみにジョセフから俺が修復が出来ると聞いたララの命令によりあの店の棚などの備品は修復済みだ。
しかもデザインを凝った物にしたいからと一部に関してはかなり苦労させられた。
すると隣からクスクスと笑う声が聞こえてくる。
実は俺の隣を歩いているのは冬花ではなくティファだ。
城で不備なく荷物を受け取るためにララが彼女を同行させてくれた。
確かに俺には事務手続きが出来ないためとても助かる。
ティファも店が再建できるためか先ほどからとても上機嫌で隣を歩いていた。
ちなみに今回の依頼の報酬は店を出る時に渡されている。
ティファが俺に報酬を渡すと契約書に完了の印が自然と浮き上がり一つの契約が完了した事を示した。
ティファはそれを大事に丸めるとアイテムボックスに仕舞い直し一緒に店を出たという訳だ。
出る時に冬花も誘ったのだが他に行く所があるらしく今日は別行動である。
彼女もこの町にはそれなりの知り合いがいるので無事を確認して回っているのかもしれない。
そして、俺たちは時々露店を冷かしながら王城に向かっている。
大きな店舗は徴収の対象になったようだが小さな露店はさすがに見逃されたみたいだ。
活気が戻るまでにはまだしばらくかかりそうだが、そう遠くない内に元通りになるだろう。
ちなみに今回第二王子に加担した兵士たちはその状況に応じて罪が決まるらしい。
例としては俺達が店にいる時に荒らしに来たような連中は良くて鉱山奴隷にされ、悪い場合は死刑になると言う。
特にエルフを奴隷に落とした者や奴隷商を偽っていた男は拷問の上で死刑にされるらしい。
ただ騒動の中で徴収物を記録していた者たちがいた。
彼らは密かに第二王子のグループに潜入していたまともな兵士たちで彼らの記録のおかげで今の様に滞り無く品物の返却が出来ている。
彼らは昇給や褒賞などが与えられ国王自ら彼らを労うそうだ。
そしてティファは再び露店を見つけてこちらに手を振っている。
その姿に笑顔を浮かべ色々な露店を覗いていく。
そこには幾つものネックレスや指輪のアクセサリーが並びティファは一つ一つ確認しているようだ。
その先程までとは大きく違う真剣な表情に、つい気になって小声で問いかけてみた。
「何か気になる物でもあるのか?」
するとティファは真面目な顔を向けると少し離れた所まで連れていかれ小声で答える。
「あのお店のアクセサリーはどれも魔法の品なんです。全てが一級品以上で、中には身代わりのアイテムとかが混ざっててとても貴重なの。なんであんな露店で売ってるのかが不思議です。」
ティファは俺の問い答えると再び露店へと目を向ける。
露店はフードを被った怪しい格好の者がしており、その顔も体格も厚手の服に覆われて判断できないが、身長は110センチ程だと分かる。
今は気温は体感でも25度くらいはある事から、あの服装はとても不自然だ。
きっとなにか後ろ暗いものがあるのだろうと予想されるがティファが言う事が本当なら置いてある品が良すぎる。
「ところでティファは何でそんな事が分かるんだ。俺にはただのアクセサリーにしか見えないぞ。」
俺は予想は出来るが念の為にティファへと確認を行う。
ギルドでも鑑定は無料で行ってくれるそうなので何らかのスキルがあるのだろうと予想出来る。
するとティファは秘密にする事では無い様で簡単に教えてくれた。
「商人ギルドに入ると鑑定スキルが手に入るんです。私はまだまだ新人なのでそれほど詳しくは分かりませんが、私の鑑定にはあれらは魔法の品となっています。出来れば身代わりのアイテムだけでも手に入れたいですね。」
俺はティファの言葉に頷いて答えた。
確かに身代わりのアイテムがあれば一度だけ致死攻撃を回避できる。
なかなか出回る物ではないため手に入れておきたい。
それにティファも家族が危機的状況を乗り越えたばかりで危機感をいまだに感じているのだろう。
俺はティファと共に足を止めてアクセサリーを眺め続けた。
すると次第にアクセサリーから何かを読み解くような感覚を感じる。
そして突然アクセサリーの情報が頭の中に浮かび上がり詳細を教えてくれる。
俺はすぐにステータスを確認するとそこには鑑定の文字が浮かびスキルを獲得した事を表していた。
俺は新たに手に入れた鑑定のスキルを使いその露店のアイテムを確認して行く。
すると確かにいくつか身代わりのアイテムが置いてあるのが分かる。
そして俺はふと道行く人に視線を向けた。
するとアイテムと同じように鑑定が可能である事に気付きその情報を確認する。
分かるのは名前、年齢、種族
その三つだけで流石にスキルなどは確認できないようだ。
しかし、覚えたてのスキルであるため、もしかしたら鍛えれば可能になるかもしれない。
そう思って俺は店員に視線を向け鑑定を始めた。
するとある事に気付き何も言わずに店員に近づいて行く。
そして、先ほどまでと違い商品ではなく店員を見下ろすように睨みつけた。
「おい、お前はここで何をしている?」
その問いかけに店員は答えず反応も返さない。
しかし、俺の無言の圧力に観念したのか立ち上がると腕を掴んで店の裏へと連れて行った。
その様子にティファは狼狽え、仕方なく店の番をする為に店頭で待つ事になった。
裏まで行くと店員はフードを取る事無く俺を怒鳴りつけた。
「私は貴方と初対面だけどこれは何の言いがかりなの?迷惑だから勘弁してください!」
その声は確実に女の物であり俺自身もコイツとは初対面だ。
しかし俺は鑑定によりその人物が何者であるのかを知っている。
鑑定には
近江 百合子
年齢 14歳
種族 人種 (異世界人)
そう記されていた。
その事実を知ったため、俺は無理やりにでも彼女と接触を持ったのだ。
そして俺は鑑定の結果を突きつけると強い感じに問いかけた。
「俺は鑑定でお前の正体を知っている。隠しても為にならんぞ。」
俺はどこぞの刑事みたいな感じを出しながら彼女に告げる。
半分悪ふざけが含まれているがこれ位の冗談は通じるだろうと思っていた。
しかし、彼女にとってそれはただ事ではなかったようで即座に袖をめくりその手に付けている腕輪を確認する。
その仕草だけでも俺は彼女の状況をある程度把握する。
すなわち彼女は何者かから隠れながらこの世界で生きているということだろう。
そして、確認した腕輪は鑑定を阻害する物であると俺には読み取れた。
それにその時に見えた彼女の肌には数えるのもバカらしいほど多くの傷がある。
これは14歳の少女が簡単に負うような傷ではない。
それにその腕はとても痩せており、まともな食事を取っているのか疑わしい程だ。
おそらく食事事情が良くないため年齢の割に身長が小さいのだろうと考えられた。
「おい、お前が何を隠しているか知らんが俺も異世界人だ。困っているなら話を・・・」
しかし言葉の途中で少女は突然バックステップを踏んで距離を取った。
そして腰からナイフを抜くと震える手で刃を向けて来る。
「お前もあいつ等の仲間か!?私を捕まえに来たんだな!でも、私は・・私はもう、あそこへは帰らない!絶対に・・・。」
そして少女は突然ナイフを逆手に持ち自分の腹を躊躇う事無く突き刺した。
その途端に血を吐きながらその場に仰向けに倒れ、その衝撃でフードが外れる。
少女は汚れによりくすんでいるが黒い髪をしており、鼻は変形し耳も片方失っている。腕にも傷は多かったが顔にも多くの傷があり恐らく体中にこのような傷があるのだろう。
その姿に俺は最初に出会った時の冬花を思い出し姿を重ねた。
そして傷だらけの顔に僅かな微笑みを浮かべナイフを腹に刺したまま青い空をその瞳に移し出した。
すると血を吐きながらも穏やかな表情で次第に息が浅くなり始め死へ向かいゆっくりと進み始める。
それを見て言いようの無い怒りが胸に湧いてくる。
そんな俺は少女に近づくと乱暴に腹に刺さっているナイフを引き抜いた。
その痛みに少女は痙攣するように一度体を仰け反らせ、痛みに目を見開くと大量の血を吐き出し意識を手放した。
しかし俺は大量の魔力を使い少女の傷を完膚なきまでに治療する。
それにより変形した鼻も失った耳も体中にある傷もすべての傷が消え去りそこには14歳に相応しい可愛らしい少女の姿が蘇った。
俺は異常なほどに軽い少女を抱き上げるとティファのもとに向かい話しかける。
「すまないがここを片付けてくれないか。急いで店に戻る。」
その言葉にティファは困った表情を浮かべるが俺の腕の中に眠る血まみれの少女を確認すると急いで動き出した。
そしてティファは店ごとアイテムボックスに収納すると準備が出来た事を俺に伝え急いで店に戻って行く。
店に戻ると店内にはララが待っており俺の方へと歩み寄って来た。
「もう受け取りが終わったのですか?」
しかしそうではない為、俺はアイテムボックスから金の入った袋を取り出しカウンターへと置いた。
そこには先程受け取った500万Gがで仕事をしなかった場合の代償の金額が入っている。
「すまないが少し用事が出来た。手伝いが出来ないから金はここに置いておく。それと少し部屋を借りるぞ。」
そう言って返事も聞かずに俺は奥へと入って行った。
そして自分が使っていたベットに少女を寝かせるとそのまま椅子に座り目を覚ますのを待ち続ける。
そして数時間が経過し、日が沈む頃になると少女はやっと意識を取り戻した。
余程、精神的に疲れていたのか体は完全に回復しても目を覚ますのにかなりの時間を必要とした。
その間にジョセフたちが代わりに城で受け渡しを済ませ、クレアや冬花も戻って来ている。
そして少女が目を覚ました時、ベットの横には俺と冬花が椅子に座って心配そうな視線を向けていた。
しかし、目を覚ました少女が最初に取った行動は跳ね起きて部屋の隅に逃げる事だった。
「ごめんなさい。ごめんなさい。もう逃げないから酷い事をしないで。」
少女は涙を流しながら蹲り、壊れた機械の様にそれだけを呟き続けている。
そしてそんな少女に冬花はそっと包み込むように抱きしめ、それに合わせて蒼士も精神を安定させるために魔法をかける。
それでも少女の震えが収まるまで30分以上がかかり、その間冬花は少女の背中を摩り続けた。
その姿を部屋の外でジョセフやミランダは静かに見つめ悲しみに顔を歪めている。
そして落ち着いてきたところで冬花は少女をベットに運び話しかけた。
「あなたのお名前は?」
すると少女は一瞬戸惑ったが少し悩んだ末に視線を俯かせて答えた。
「近江・・・百合子 (コノエ ユリコ)」
「私は秋月 冬花あなたと同じ異世界人なの。」
すると少女は再び恐怖に染まった顔を冬花に向ける。
しかし、冬花の優しい笑顔を見て今度は暴れる事無くその顔を見続けた。
「あなた達は何者なの?あの国で召喚された異世界人じゃないの?」
「私達はこの世界に魔王を倒すために来たんだけどあなたはどうしてこの世界に呼ばれたの?」
冬花の言葉に百合子は何を言えばいいのか悩むように口だけを動かした。
そして言葉が決まったのか冬花を真直ぐに見て話し始めた。
「私達が呼ばれたのは隣の国のバストル聖王国。あの国はカティスエナを絶対神と崇めて他の神を認めてないの。そしてこの世界で唯一、異世界人を召喚する魔法を所持している国らしいわ。私達はそれで呼ばれてこの世界に来たの。」
そこ迄話すと彼女は服の前を少し広げて胸元を見せる。
するとそこには蒼士たちが先日見た物とよく似た痣の様な模様があった。
「あの国は召喚した異世界人を奴隷として国で働かせるの。そして今回私達が呼ばれた理由は冬花、あなたよ。」
百合子の言葉に冬花は驚愕した顔で彼女を見つめる。
まさか自分が原因だとは思いもよらなかったのだ。
これは俺も同じであり、驚きの表情を浮かべる。
「私達は魔王発生の周期に合わせて2年ほど前に呼ばれたの。そしてあの国はあなたを捕らえ、奴隷として従わせて今回の魔王討伐での発言権を得ようとしているのよ。きっとこれからあなたの周辺にはあの国から強い圧力がかかるかも知れない。もしかしたら、この国にも何らかの圧力がすでにかかってるかもしれないわ。それに私が知る限りだと同じ時期にもう一人召喚されてるの。私は補助系に特化しててアイテム作成しかできないけど彼女は戦闘に特化しててとても強いのよ。」
百合子はだんだん恐怖がぶり返して来たのか肩を抱いて震え始める。
そして、冬花はそんな彼女の肩を優しく掴むとベットに寝かせた。
「話してくれてありがとう。でも、あなたには奴隷紋があるでしょ。どうして逃げてこれたの?」
すると百合子は先ほどとは逆の右手の袖を捲りそこにハマる腕輪を見せた。
「これはこの奴隷紋を無効にするアイテムなの。何とか隙を見て作ったんだけどもう一人の子は置き去りにして来てしまったわ。」
そう言って百合子は歯を食いしばって涙を流し始めた。
きっとそのもう一人とも関係は悪くなかったのだろう。
先程の震えは恐怖ではなく、置き去りにしてしまった後悔からということか。
すると冬花はそんな百合子の頭を優しく撫でながら俺へと視線を向ける。
その目には既に強い意思が宿り、言葉よりも雄弁に思いを伝えてくる。
「分かった。それなら俺達で何とかしてやるからお前は少し休んでろ。何かあったら知らせてやるし少しの間ここで世話をしてもらえるように頼んでおくから。」
「・・・ありがとう。」
彼女はそれだけ言うと再び目を閉じて眠りについた。
その早さから精神の疲労がまだまだ激しい事が分かる。
それにあの怯え方からしてもう普通の生活には戻れないかもしれない。
そして、彼女が深く眠ったと同時に俺達の周りに闘気が渦巻き始める。
俺達の心には、コイツを今も苦しめ続けているバストル聖王国への怒りの炎が激しく燃え上がっていた。
「蒼君、私決めた事があるの。」
「そうか、実は俺もだ。」
そして俺達は立ち上がるとそのまま店を出て王城へと歩いて行く。
その思いは既に一つ。
自分達のいた世界に手を出したことを如何に後悔させるかだ。




