31 戦後処理
蒼士と冬花はギリギリ間に合った事に安堵していた。
「間に合ったね蒼君。」
冬花は被害が見られない王都に視線を向け自分たちの助けたい人々が無事な事に胸を撫で下ろした。
「それにしてもあんたの魔法はやっぱり異常ね。普通あのブレスは一人で止められないわ
よ。」
クレアは俺に話しかけながら城壁の上のララを見て嬉しそうに笑う。
ララもクレアに向けて無表情で手を振っている事からまだまだ余裕を感じさせる。
しかし、先ほどのブレスを喰らえばさすがに塵も残さず消滅していただろう事から、事前にこちらの事には察知していたのだろう。
実際、彼女の実力は未知数な所が多い。
俺は少しの警戒といまだに崩れぬ無表情に苦笑を浮かべた。
そして、俺と冬花は地面に下りると剣を抜いてドラゴンへと近づいて行く。
すると、ドラゴンは無意識に足に力を入れ、それにより半歩下がった。
ドラゴンはそれに気付き自分が気圧されている事を認識すると怒りの咆哮を上げる。
「五月蠅いなこいつ。もう少しカルラみたいな綺麗な声で鳴けないのか?」
そんな場違いな悪態をつきながら俺達は止まる事なく接近を続ける。
その姿に城壁の上で見守る人々も、最も近くにいる騎士たちも声を出さずに見守っていた。
そして互いの距離が10メートルほどになった時、ドラゴンは俺達へとその牙を剥いた。
ドラゴンの中では先ほどの騎士たちの姿が思い浮かんでいる。
我が牙に貫けるものなし。
先程の騎士たちの様に鎧ごと食い千切り我が糧とする。
そんな単純な思い上がりを胸にドラゴンは彼らへと襲い掛かった。
しかし次の瞬間、ドラゴンは突然右足に違和感を感じる。
それは次第に熱に代わり、続いて痛みに変わった。
そして噛みつこうとしたドラゴンは突然右にバランスを崩し倒れこんだ。
ドラゴンは初めて感じる激しい痛みに混乱し首を捻って右足を確認する。
するとそこには足が無く首を巡らせれば少し離れた所に自分の足が落ちていた。
そしてドラゴンは直後に怒りを爆発させたように再び咆哮を上げる。
すると魔力が足に集まりそこから骨が形成され、その周りを筋肉や血管が覆って行き、最後に強靭な鱗を備えた外皮が形成された。
さらに倒れた際、運よく右目から矢が抜け落ちたため右目も再生される。
そして万全な体制となりドラゴンは二つの目で目の前の二人を睨みつける。
「蒼君どうする?この前のオーガと一緒みたいだけど。」
「そうだな。でもこいつの状態から考えると後何度か致命傷を与えたら倒せそうなんだよな。さっきも足に魔力を集中してやっと再生させてたみたいだし。」
そう言われて冬花はオーガの時の事を思い出す。
確かにあの時は切った端から瞬時に再生、又は回復していた。
それに比べて今のはどう見ても回復が鈍い。
「そっか~。なら首を落としてみようよ。」
「そうだな。動きも単調だし大した相手じゃなさそうだ。」
その会話を傍で聞いていた騎士たちは驚きに言葉を失っている。
第一にそのダメージを与える事が難しくて苦戦していた彼らからすれば二人の会話は異常であった。
しかし、目の前でブレスを無効化し、自分たちが苦労していた相手の足を簡単に切り落とす。
その目の前でやられていても信じる事が難しい光景に騎士たちは二人を見つめ続けた。
そして、二人は再びドラゴンへと無造作に近づいて行く。
その姿にドラゴンは突撃を止め、その場で待ちの態勢に入った。
その姿は先ほどまでと違い油断も侮りもない。
そして間合いに入る瞬間、ドラゴンは二人を見失った。
ドラゴンは確かに先程までその姿を目で捉えていた。
しかし、僅かな土煙を残し二人はドラゴンの前から消えた。
そして次の瞬間、首に何かが通過する感覚を感じる。
それはとても冷たくそれだけで心臓が凍り付いたかのような錯覚に襲われた。
その直後、何かに顔を強打され左へと吹き飛ばされた。
しかし、そこで違和感を覚え頭が混乱する。
体の回転が止まらない!
体の踏ん張りも利かず、何度も地面の転がり跳ねた。
そしてようやく止まった時。
その目には遠くに自分の物であろう体が映っていた。
そして、体は首を失いながらも頭を再生させようと切断面が蠢きはじめる。
しかしそれは叶わず次第に体は傾いて行き地面へと倒れた。
その様子を最後まで見ていたドラゴンは次第に薄れる意識の中、先ほどまで感じていた痛みも恐怖も憎しみも消え穏やかに死んでいく。
結局最後までなぜ自分がそう思っていたのかを知る事は出来なかった。
そして、俺と冬花はドラゴンが死んだのを確認するとドラゴンの体と頭をアイテムボックスに仕舞い騎士たちの元へと向かう。
そして、彼らへとある提案を持ちかけた。
「このドラゴンは俺達が倒したがこれは皆の勝利だ。だからドラゴンは俺達は手伝っただけで止めはお前たちが差した。そう言う流れで頼む。」
すると騎士は驚きに目を見開きそれを断ろうと口を開いた。
「それは出来ない。それにあそこで陛下が見ている以上俺達には嘘は付けない。」
俺はその様子に少し笑うと城壁に視線を向ける。
するとそこには確かに国王が立っておりこちらを見下ろしていた。
その顔は威厳と覚悟に溢れ、最初見た時よりも自分好みのいい表情になっている。
「王様がこんな所まで来てるとは思わなかった。まあ、俺たちは依頼をこなしただけだからな。ただ、まだあまり目立ちたくないんだ。あちらはこっちで話を付けておくから俺たちの事はあまり口外しないでくれ。」
そう言って俺は冬花と共に城門へと向かって行った。
するとその横に先ほどの巨大なドラゴンが舞い降りエルフの少女と共に歩いて行く。
ドラゴンは途中で人の姿になり、その美しい姿に騎士たちは視線を奪われた。
門が近づくにつれて俺たちの周りにはドラゴンと戦っていた冒険者や騎士たちが集まってくる。
そして一塊となって俺達はそれに紛れて門へと歩いて行った。
誰もが生き残れた事と俺達の強さを称えているがこれは皆がドラゴンの魔力を消耗させてくれていたからだと説明をした。
そして城門へ着くと、それを見計らったように門は開き騎士や冒険者たちを迎え入れた。
すると彼らは人々から歓声を受けながら町へと入って行く。
その陰で俺達は素早く民衆に紛れるとジョセフの店へと向かった。
しかし、その様子に気付いた者が一人、俺達の後を付けるように着いて行く。
俺はそれに気付いていたが気にする事無く店に付くと中まで入って行った。
そして中に入るとすぐにジョセフとティファが迎えてくれたので人目の付かない奥へと進んで行く。
二人の話によると彼らは早い段階で魔力を使い果たし、先に店に戻っていたようだ。
門の前には何万人も集まっていたため、そこに留まれば戦闘の邪魔になると判断したらしい。
そして少しすると先ほど俺たちを付けていた気配が遠慮なく店に入りこちらへと向かってくる。
俺と冬花も初めて感じる気配なため表に出さずに警戒するが、その人物が部屋を覗くとティファが嬉しそうに声をかけた。
「お帰りお母さん。無事でよかったよ。」
その言葉に入って来た女性は笑顔で頷くとティファへと近寄りそっと抱きしめた。
その言葉から分かる様にどうやら彼女の母親のようだ。
しかし、彼女は前線で戦いもう少しで死ぬところだった。
俺も死んだことがあるから分かるが大事な人を残して死ぬのはかなり辛い。
「どうしたのお母さん?何かあったの?」
ティファは突然人前で抱きしめられた事に驚き声を掛けている。
しかし、彼女は言わず、少ししてティファを離してジョセフへと一瞬視線を向けた。
それだけで夫婦として付き合いの長いジョセフは思いを察したようだ。
それに気付いてジョセフは胸に痛みが起きた様に一瞬だけ顔を顰めるが、無事に戻って来てくれた事に安堵してあえて何も言わなかった。
そしてそんな二人は揃って俺達へと視線を向け、付き合いのあるジョセフから声を掛けて来た。
「それで蒼士、国王の依頼は完遂したのか?」
これは単なる確認だろうな。
こうしてクレアもここに戻って来ているので失敗したとは思っていないようだ。
それほどには俺達の事を信頼してくれていると言う事だ。
「ああ、あちらに話が分かるのが居てな、おそらく大丈夫だろう。後はこの国の対応次第だと思うぞ。」
俺はクレアの事は伏せたままで結果だけを伝えた。
もし話してその事が洩れればどうなるかが何処となく想像できたからだ。
それは同時にここで働いているララに関しても同じことが言える。
この世界はジョセフたちのような人間ばかりではないからな。
それにこちらの足を引っ張るような相手がこれ以上増えるのは迷惑だ。
そして話している内にミランダの紹介も終わり、俺達を含め全員が風呂に入るとあてがわれた部屋に入り眠りについた。
しかし、そんな中でミランダは二人だけとなった寝室でジョセフへと話しかけた。
「ジョセフ、あの子達は何者なの?あの強さは異常よ。」
するとジョセフはクツクツと静かに笑い同じベットに並ぶミランダへと視線を向けた。
そして、今まで言わなかった秘密を楽しそうに話し始める
「彼の横にいた少女が今代の勇者だよ。そして彼は勇者である彼女を護るために傍にいるそうだ。」
その突然の真実にミランダは目を細める。
突然言われても信じられる話ではない。
更に彼女はいまだに魔王発生の情報を持っていないので疑っているようだ。
その事を踏まえ彼はミランダへと丁寧に説明をすることにした。
国やギルドマスターが彼女が勇者である事を保証してくれる事。
現在、魔王が発生しこの侵攻が魔族の仕業である事。
彼らがエルフの国に戦争回避の親書を届けてくれた事。
そして、自分とティファは何度も彼らに助けられている事。
それらを話すとミランダは口を開けたまま呆れたような顔になる。
「そんなに大変だったのね。でもそこまでトラブルに巻き込まれてるともう一生分の不幸を使い切ってるんじゃない。」
そう言ってミランダはクスリと笑う。
そしてジョセフも言われてみればそうかもしれないと同じように笑った。
二人は笑っているが蒼士たちがいなければ確実に不幸になっていたこの家族は心の中でそっと感謝の言葉を呟く。
「でもティファの事は話は別よ。あの子には幸せになってほしいの。」
だが、突然訳の分からない事を言い出したミランダに今度はジョセフが呆れた視線を向ける。
その顔にどうやら彼はまだ気づいていないと知ったミランダは得意げに笑みを浮かべた。
その後二人は夜遅くまで久しぶりに話し込み、再び訪れた平穏を噛みしめるのであった。
そして日が昇り、朝になると俺たちは目を覚まし、いつもの部屋へと向かった。
するとテーブルの上には幾つもの料理が並び朝食の支度がすでに終わっている。
その様子に周りを見渡せば昨日寝るまでいなかったララがクレアと仲良く話をしていた。
そして、その横ではティファも話に加わっており、彼女たちはお揃いの白いエプロンを身に付けている。
どうやら先に起きて朝食の準備をしてくれたようだ。
そして次第に全員が集まりテーブルを囲んで食事が始まる。
「そう言えば、私がいない間に厨房に何者かが侵入したようです。」
突然のララの言葉に全員が手を止めて彼女に視線を集める。
実際に店に誰もいない時間もあったため、その可能性は十分にあるだろう。
しかし、なぜかその横でクレアが笑いをこらえているように顔を背けて肩を震わせていた。
「私が確認しただけでも材料が辺りに散乱し鍋には穴が開きまな板が切断されています。さらに竈は激しく焼き焦げ使用は出来ますがかなりひどい有様です。」
ララのその報告に蒼士は魂が抜けたような顔になり冬花は苦笑いを浮かべている。
「そ、そうか。それは大変だな。食べ物に何かされてはいなかったか?」
俺は既に心当たりを通り越して自分の行いである事が分かっているため背中に冷や汗をかきながらワザとらしく確認する。
「こちらは今朝の内に買ってきた食材なので大丈夫ですが他は全て無くなっていました。いくつかの食器に机に椅子。お客様用の高級茶菓子なども足りません。幾つかはお嬢様がお持ちでしたのでそれは問題ありませんでした。」
すると今度は冬花も顔が引きつる。
処刑台の前で使用した物や食べた物に心当たりがあり過ぎたからだ。
俺達はそっと目を合わせるとクレアの後ろに移動して小声で告げた。
「お前知ってるだろ。どうするんだ。」
「姉さんはあんなだけど言えば許してくれるわよ。ここは素直に謝るべきよ。」
その助言を聞いて俺は冬花と頷きあって席に戻った。
そしてみんなの前で真実を告げる。
「実は持ち出したのは俺なんだ。ちょっと借りるつもりだったんだけど返し忘れてて。」
しかし、ララに瞳はいまだに冷たい。
その瞳からは「まだありますよね」と言う無言の威圧が感じられる。
「厨房も俺なんだ朝食を作ろうとして失敗したんだ。」
そしてララは今度はマジマジと俺の顔を見つめ一つ頷いた。
「真実のようですね。」
ララは俺の顔を確認した後にそう告げ、その言葉には何処か確信めいたものが感じられる。
そしてジョセフたち3人もそれを疑っていないようだ。
その様子を疑問に思い教えてくれるかは別にして問いかけてみる。
「もしかして何かスキルでもあるのか?嘘を見破るような。」
するとララは顎に手を当てて少し考え込む仕草をした。
そして閃いたという様に僅かに笑い顔を上げた。
「それは乙女の秘密です。」
その答えに俺は噴き出しつい言ってはいけない事を口にしてしまう。
「乙女ってお前何歳だよ。クレアの姉なんだからかなりの年だろ。」
その言葉に周りから言っちゃった、と言う雰囲気が漂い始める。
そして俺はジョセフに視線を向けるが勢いよく逸らされてしまった。
さらにティファに視線を向けるとなんだか苦笑いを返され、クレアはララから距離を取り始める。
そしてララに視線を戻すと、とても綺麗な笑顔を浮かべていた。
日ごろが無表情なだけにその笑顔はとても印象的で美しい。
しかしその顔でポツリと言葉を零し始める。
「・・歳です・・・。」
「は?」
俺はあまりに小さな声の為に聞き逃してしまった。
しかし、日頃から無駄な事を喋らない彼女ならきっと重要な事を言っているのだろう
「悪い、聞き逃した。もう一回言ってくれ。」
「私は永遠の18歳です!」
そう言われた時、俺は地雷を踏んだことに気が付いた。
ジョセフたちの態度から何処となくそんな感じはしていたのだが、ララの言葉で確信を得る。
そしてララの年齢は想像を絶するであろうことも。
考えてみれば彼女の祖母ですら少女の姿なのだ。
エルフは見た目で判断できない事から人間の想像を遥かに超えた次元にある事を知る。
更に過去の勇者の中にも年齢を気にする者が居たのだろう。
その者の負の遺産をこんな形で見る事になるとは俺自身も予想していなかった。
それに勇者とエルフは友好的だったと聞いている。
このような物が他にも幾つもあるのかもしれない。
そして、一瞬目を離した隙にララの表情は変わっていた。
目がつり上がり、影まで差している。
そして背中からはゴゴゴゴゴと言う擬音が付きそうな気配を漂わせていた。
無表情キャラが笑えば得をした気になるが、こちらはその逆と言えるだろう。
ハッキリ言ってやってしまった感が半端ない。
そして、顔に同調する様にいつもよりも冷たい声で俺に罪状を告げて来る。
「先程迄は厨房や家具などは気にしなくてもいいと言おうと思いましたが気が変わりました。」
「おい、気分で変えるなよ。」
しかし俺の鋭い突っ込みにララは鋭い視線を返してくる。
そこには反論は許さないと言う意思が籠っており現に誰も文句を言わない。
そして俺もその目に押されてしまい口を閉ざす事になった。
「本日、王城より徴収された荷物が届く事になっておりますがこちらから受け取りに行こうと思います。その運搬と設置の手伝いを{タダ、無料、無償}で行ってください。それが嫌なら弁償として500万G払っていただきます。」
そして、ララの言葉に俺は一瞬「払ってもいいかな」とも思ったがなんだか手伝いをしないといけない空気を感じ仕方なく頷きを返す。
別にララが怖い訳では無いと言っておきたいが完全には否定できない。
これも年の功・・・ゲフッ!ゲフッ!
年長者としての落し所と解釈しておこう。
「分かった、手伝うよ。それで勘弁してくれよ。」
その言葉にララは一瞬笑うと再び無表情に戻る。
そして俺は彼女は怒らせてはいけないのだと心のメモ帳に書き足した。




