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30 勇者帰還

この度の侵攻を指揮している魔族の隊長であるカリアンは、森の中で混乱の只中にいた。


「どうなっているんだ。なぜ奇襲するはずが作戦が洩れている。しかもあのような谷があるとは聞いていないぞ。」


カリアンは目の前で報告にきた部下に叫び散らした。

しかし、その部下も明確な答えは持っていないため何も言えず黙ったままカリアンの言葉を聞いている。

その姿に更に腹が立ったのかカリアンは部下の胸倉を掴み睨みつけた。

しかし、次第に自分のしている事が無駄な行いだと気付き乱暴に手を離すと背中を向ける。

そんな時、部下の一人がカリアンへと声をかけた。


「もしや、先行していた者がしくじったのでは?」


そして、その発言にカリアンは再び怒りを顔に浮かべた。


「クソ。役立たずめ。」


カリアンは部下の発言が正しいと確信する。

ここまで発見される事無く侵攻したはずなのに着いてみれば敵は準備万端で待ち構えていた。

しかも忌々しい事にここまで来るのに散々邪魔をされたドラゴンに、ワイバーンを一掃されてしまった。

このままでは碌な被害を与えられず逃げ帰ったとすれば何を言われるか。

それだけではなくもしかしたら命まで危ないかもしれない。

魔族は厳しい上下社会である。

強き者、賢い者が上に立ちその下にいる者は絶対服従であった。

逆らえば殺され、失敗しても殺される。

カリアンは現状に焦りを感じ戦場になっている場所を見渡した。

そしてある事に気付き邪悪な笑みを浮かべる。


カリアンは部下を集め戦場の状況を確認させた。

そしてどうやら自分の考えた作戦が可能だと確信し地龍を呼び戻させた。


「地龍を呼び戻せ。そしてその辺に転がっている魔石を可能な限り食わせろ。」


そしてその指示の通り魔族たちは戦場に落ちている魔石を拾い集め地龍へと大量に与え始める。

連れて来たのは雑魚が多く強い個体と言えばワイバーンであったがそれらはブレスにより消滅してしまった。

この時、カリアンはもっと早くにこの作戦を取っていれば空から簡単に王都を蹂躙できたと後悔する。

しかし、カリアンは大きな勘違いを犯した。

帰還後、助かるために考え付いた作戦が自らの命を縮める事になってしまう。

そして魔物の肉と魔石を喰らい地龍は巨大に、強力になっていく。

しかしある時、傍に寄った魔族の一人が異変に気付いた。

地龍が与えた肉を見ていない。

その目は赤く血走り、理性の欠けた瞳で自分を見ている。

そしてその男が気付いた時には彼は地龍の口の中にいた。


「え・・・。ぎゃあーーー、助けてくれーーー!」


その叫び声と共にその地龍へと全員の視線が向かう。

そしてその姿を見た途端に危険を感じ、その地龍へと攻撃を命令した。


「あいつを殺せ!」


しかし、他の地龍も全く動く気配がない。

逆にその目は自分を写し、血と涎を滴らせた口がこちらへと近づいて来る。

そしてその魔族も気づいた時には地龍の口の中で咀嚼されていた。

彼は食われた直後にかみ砕かれ痛みを感じる間も無くこの世から去って行った。


そしてその様子に周りの魔族たちは命の危険を感じて即座に逃げ始めた。

しかし、地を駆ける事に長けた彼らから逃げられる者はおらず躯も残さず彼らは地龍の胃袋へと消えた。

そして餌が無くなると彼らは集まり狂ったように共食いを始めた。

腕を噛み切り尻尾に噛みつき強靭な顎で相手の肉を引き裂く。

その光景はまさに蟲毒の様である。

強い物が弱い物を食い吸収していく。

そしてしばらくするとそこには一匹のドラゴンが誕生した。

その姿はティラノサウルスの様であり体は黒く、大きさは10メートル程にもなるだろうか。

しかし、その目は先ほどのホワイトドラゴンとは大きく異なり理性の欠片も感じられない。


そして、そのブラックドラゴンは歩き出した。

更なる餌を求め王都の方向へと。

そして森を抜け、その姿を王都の人々へと晒す。


時間は少し遡り王都側では魔物達が引いて行き、一応の休息が取られていた。

しかし、見張りの者が谷の向こうで動く不審な人影を確認したとの報告を受け、再び戦闘の準備をしていた時それは起きた。


それは悲鳴から始まった。

そしてその周辺から発生する地響きと木々が圧し折られる音。

それらが一瞬落ち着くと今までにない程の壮絶な鳴き声と地響きが周囲へと広がる。


そしてそれも収まった時、森から大きな影が現れた。

その様子を見ていた王はその影を見間違いであってほしいと願った。

その体は影よりも暗く、照らす光すら黒に染めている。

そして森からは絶望を纏ったブラックドラゴンがその姿を現した。


その姿に、それを見た全ての者が言葉を失いその場で無言で立ち尽くす。

ブラックドラゴンは足元の魔物の死体を無視して谷へとゆっくり歩いて行く。

そして淵までたどり着くと口を大きく開け叫び声を上げた。


「ゴアアーーーー!」


そのブラックドラゴンはカルラとは比べ物にならないほどの醜い声を上げるがそれによって城壁は揺れ、周囲を恐怖で塗り潰していく。

そして、その声に王たちは耳を塞ぎ顔をしかめた。

しかし、その顔も長くは続かず、今度は絶望の表情を浮かべる。


その理由はブラックドラゴンが魔法を使い谷に石の橋を架け始めたのだ。

そして、ドラゴンはその巨大な魔力で次第に橋を伸ばしていくとゆっくりを渡り始めた。

しかし、もしそれを許せばこの町が滅びるのは確実であろう。

そのため王は大声で周りへと指示を出した。


「あの橋を完成させるな。何があっても阻止するのだ。」


王の命令に魔術士たちが急いで橋の破壊に全力を注ぐ。

しかし、橋はとても固く、火も水も風も土も、どの属性を使用しても破壊する事は出来なかった。

カウントダウンの様にゆっくりと完成して行く橋を見ながら王は決断を下す。


「戦える者は門の前に集合せよ。残りは奴一匹だ接近戦で仕留める!」


その声に騎士たちは一斉に動き出し城壁を飛び降りて行く。

魔導士たちは一旦下がり、代わりに強化や支援の得意な神官たちが城壁に上がった。


そして門を開くと更に多くの騎士たちが城壁を出て行き、それに続く様にギルドから応援に来た者たちも続く。

その中にはミランダの姿もあり、剣を片手に周りに続いて行く。

しかし彼女は勘がいいゆえに分かってしまった。

あれを倒さなければ愛する者が皆殺しにされると。


そして騎士たちが出撃してそれほど時間を置かず橋は完成した。

騎士たちは、その上をゆっくりと進むブラックドラゴンを目にし、再び恐怖に呑まれそうになる。

しかし、その直後に彼らの体を光が包み込んだ。

すると彼らは体に力が漲り心が冷静になっていく。

どうやら後方からの支援が始まったようだ。

騎士たちは前衛として大盾を装備し橋の出口を反包囲するように取り囲む。


するとブラックドラゴンは橋の途中で立ち止まると口を開き魔力を集め始めた。

それを見て騎士は即座に指示を飛ばす。


「全員防御態勢!抜かれれば城壁ごと持って行かれるぞ!」


その声に答え騎士たちは盾を地面に突き刺し完全防御態勢を取る。

そしてそれを見ていた国王も周りへと新たな指示を出した。


「神官たちよ。強化を強めよ。可能な者は彼らの前に壁とシールドを張るのだ。人々を護るため奮迅せよ!」


その声に応え神官たちは騎士たちに新たな強化を施す。

そして人を素早く入れ替え彼らの前にシールドを張り始めた。

更に魔法を扱える者たちが騎士たちの前に石壁を作り防御を固める。


そして丁度準備が出来た次の瞬間。

ブラックドラゴンは口から闇のような黒いブレスを吐き出した。

その途端に進行上の地面は抉れ、石壁は瞬時に溶けて消えて行く。


「クソ、ブレスが強すぎる!!」


魔術師たちはそれでも少しは威力を落とそうと必死に魔力を注ぎ続け石壁の維持に全力を出す。

しかし、限界を超えた者から顔から血を流し倒れて始めた。

そしてとうとうブレスはシールドに到達し衝突する。

すると進行方向に集中したシールドは薄ガラスの様に次々と破壊されていきブレスを止める事が出来ない。

そして1枚割れるごとに後ろで魔力を提供していた者たちと新刊が意識を失い倒れて行った。


その様子に危機感を感じたギルドの魔導士たちは一般の人々を押しのけ自分たちの魔力を神官たちに提供する。


「お前たちではこの消費に耐えられない。俺達と変われ。」


そして神官たちは増大した魔力を全力を込めてシールドを強化する。

しかし、魔力は増大したが今度は神官たちの魔力制御をオーバーしたのか次第に体のいたる所の血管が破裂し血を流す者が出始めた。

しかし、神官達はここが正念場と判断し誰もシールドを解こうとはしない。

そして彼らは逆に回復が得意な神官たちに指示を出した。


「俺達の回復をしてくれ。このままだとシールドの維持に支障が出る!」


すると別の神官たちは急いで彼らの回復を始めた。

そしてここでやっとブレスとシールドが拮抗し残り数枚と言う所でせき止めた。


そして、とても長く感じた時間は終わり次第にブレスが収まり始める。


「あと少しだ耐え抜け!」


国王の言葉に全員が最後の力を振り絞りシールドを維持する。

そしてブレスが終わるとそこには赤熱した大地が広がり疲労を感じさせないブラックドラゴンが立ち尽くしていた。

騎士たちはそれを見て、もし自分が受けていれば塵も残らないだろうと唾を飲み込む。


そして、ブラックドラゴンに視線を向ければ防がれたことが気に入らなかったのか上を向いて絶叫を上げる。


そして騎士たちに視線を戻すと焼けた大地を気にした素振りもなく突撃してきた。

その様子に連続したブレスが無かった事に安堵の息を吐く戦士たち。

しかし、彼らの本当の闘いはこれからである。

気を引き締めると周りへと指示を飛ばした。


「前方は俺達で凌ぐ。他の者は尾に気を付けつつ側面から足を狙え。」


そして正面の騎士たちは命を捨てる覚悟でドラゴンに挑みかかった。


まず先頭にいた騎士が噛みつき攻撃を防ごうと盾を前に構えた。

しかし、ドラゴンの攻撃力が強すぎるため一撃で盾を破壊され腕を食い千切られる。


「あああーーー!俺の腕がーーー!!」


するとそれを見ていた隣の騎士が即座に反応し剣でドラゴンの目を狙い牽制する。

その攻撃にドラゴンは一瞬怯み、後ろの者がすぐに怪我をした騎士を担いで治療に向かわせた。

この世界では高位の神官の力があれば欠損部位だろうと治療することが出来る。

彼も心が折れてなければすぐに戻ってくるだろう。


しかし、周りで攻撃を続ける者は次第に焦りが見え始めていた。


「なんだこの硬さは、剣が通らないぞ!」

「それだけじゃない!傷を付けてもすぐに回復しているぞ!」


すると後ろのAクラス冒険者から助言の言葉が出た。


「恐らく魔石の過剰摂取だ。力が暴走するほどの魔石を摂取すると起こる事がある。」

「対処法は無いのか!?」

「魔力を消費させ続けるしかない。最悪の場合、またあのブレスをしてくるかもしれん。」


冒険者のその言葉に周りの騎士は恐怖に顔を引きつらせる。

先程のブレスをこんな短時間で使用されては確実に戦線が持たない。

しかし、今は少しでも傷を与えその回復で魔力を消費させるしかないと瞬時に判断を下す。

騎士達は覚悟を決め、再びドラゴンへ突撃して行った。


そんな中、ミランダも焦りを感じていた。

彼女は数少ないドラゴンへダメージを与えることが出来る一人。

しかし、彼女は次第にドラゴンの行動に偏りが生まれて来ている事に気付いた。

すなわち、ダメージを与えていない者を無視し、ダメージを与えている者を集中的に攻撃し始めているのだ。

その対象に彼女も入っているため、近づくとこちらに視線を向けてくる。

それにドラゴンは次第にカウンターを狙い始めているようだった。

先程もそれで一人足を失って後ろに下がった者がいる。


幸いなのはこのドラゴンはまだ進化したてなため、自分の巨大化した体と力を把握していない。

そのため反応が鈍く繊細な攻撃が出来ていなかった。

もしこれが体の性能を完全に発揮していれば自分たちは容易く蹂躙されている事だろう。

ミランダは慎重に位置を決め少ないながらも傷を付け続けた。


しかし、そんな綱渡りも何時かは限界が来る。

いつの間にか警戒する者が自分だけとなりドラゴンの標的が自分だけとなった。

そして、ドラゴンはミランダ一人を睨みつけその場でブレスの構えを取る。

ドラゴンは傷を受けた鬱憤をミランダを吹き飛ばす事で晴らす気のようだ。

その様子に騎士たちは盾を構えドラゴンの前に立ちはだかった。


「彼女を護れ!絶対に死なせるな!」


その叫びに答え盾を持つ騎士たちがミランダ一人の前に並ぶ。

そして再びシールドが張られブレスへと備えられていく。

しかし、先ほどと違い石壁は現れずシールドの数も少ない。

どうやらあちらではいまだに立て直しが完了していないようだ。

それを見て騎士たちは更に寄り集まりミランダの盾となる。

彼らはここを死地と見定め何が何でも彼女を護りきるつもりのようだ。


その姿にミランダも死を覚悟し愛する者たちを思い浮かべた。

胸に広がる幸せだった時間が走馬燈の様に次々と思い浮かんでは消えていく。


そして、とうとうドラゴンのブレスがその口から放たれた。

その威力は先ほどと比べても遜色なく、シールドを紙の様に破壊していく。

しかし残り数枚と言う所でドラゴンに向け一つの矢が飛来した。

それは寸分たがわずドラゴンの右目を射抜き、それに驚いたドラゴンはブレスを中断し騎士もミランダも一命をとりとめる事に成功する。


そしてミランダは矢が放たれた場所に目を向け笑みを浮かべる。

そこには青い髪を風になびかせ、金の瞳でドラゴンを見下ろす一人のエルフ、ララが城壁の上に佇んでいた。


「ララ、来てくれたのね!」


騎士たちはその姿に見惚れ目の前のドラゴンの事を忘れたかの様に見つめている。

しかし、怒りに任せたドラゴンの咆哮に、瞬時に意識を標的に戻す。


そしてドラゴンは矢を抜くことが出来ず視界を半分奪われたまま目の前のミランダを睨みつけ、続いて城壁の上のララを睨みつけた。

まるでそれは恨みを忘れないために残った目にその姿を焼き付けているようだ。


そしてドラゴンは突然、城に背を向け歩き出した。

その姿に騎士たちは安堵と警戒が合わさったような顔を向ける。

そして橋の手前まで進むと騎士の何人かがホッと息を吐きだした。

しかし、その油断を感じ取ったかの様にドラゴンは再び城壁に向かい口を開けた。


その口には既に魔力が漲りブレスの準備が完了していた。

今このブレスが放たれれば何の備えもない城壁は崩壊し国王にララ、更にその後ろにいる多くの人々に犠牲が出るのは確実である。

騎士たちは安堵の顔を一瞬で絶望の色に染め、ミランダは咄嗟に城壁へと走り始めた。

あそこにはまだ愛するジョセフとティファがいるかもしれない。

それを思い彼女は全力で地面を蹴った。

そしてドラゴンは高笑いのような声を上げながらブレスを放つ。

その威力は先ほどと同じ、いや、それ以上に見える。

どうやら先ほどまでは彼らを嬲り殺すために手加減をしていたようだ。


その光景を見た国王は自分の無力さに涙し、ララはその場で目を瞑り静かにその時をまつ。


そしてブレスが城壁にぶつかる瞬間。

そこに一枚の強力なシールドが張られた。

シールドは割れる事無くブレスを真正面から受け止め、そこから先には一切の影響なく防ぎ続ける。

それを見たララは目を開きゆっくりと空を見上げた。

それに釣られるように国王や周りの者も視線を空へと向ける。

するとそこには先日飛び立ったばかりの巨大な白いドラゴンが滞空しておりその背中には勇者とエルフの少女。

そして国を救うと約束した少年がこちらを見下ろしていた。

ホワイトドラゴンはそのままゆっくり降下すると勇者と少年を下ろし再び空へと舞い上がる。

そして勇者と少年は並んでブラックドラゴンへと向かい歩いて近寄って行った。

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