27 クレアの帰郷
現在、俺たちはカルラの背に乗り大空を進んでいた。
カルラが言うにはエルフの国まで約1日。
往復2日の計算であるがあちらに親書を渡してトンボ返りとはいかないだろう。
そのため移動にかける時間はなるべく短縮したいところだ。
その解決策として俺はカルラに相談を持ちかけた。
「カルラ、いつも風の結界を張って飛んでいるのか?」
「いや、これはお前たちのための物だ。もし必要ないならその魔力分速く飛べる。」
「ならそれはこっちでどうにかするから全力で飛んでくれ。」
すると横で聞いていたクレアが俺の腕を引っ張った。
どうやら言いたい事があるようだがどうしたのだろうかと首を傾げる。
そして、結局クレアは何も言わないまま俺の腕を離し冬花の横へと移動した。
そして俺はクレアの事を冬花に任せ自分達で結界を張った。
すると少しだが速度が上がったのを感じるのでカルラの言った事は本当のようだ。
更に風の結界の形を調整し、風の抵抗を可能な限り受けない形を幾つか試した。
しかし、そちらの知識が無いため形状は円錐形で落ち着く。
それでも更に少し速度が上がり他には無いかを3人で考えた。
「後方から風の魔法で押してみたらどうかな?」
すると冬花が一つの案を出してくれたのでさっそく試す事になった。
俺はさっそく風の魔法をカルラの後ろから放ち追い風を作る。
もしこれが飛行機なら墜落しただろうがドラゴンは別に飛行機の様に揚力を得て飛んでいる訳ではない。
そのため後ろから風が吹こうが、風が追い抜こうが関係なく飛ぶことが出来る。
そして、最初の時点でも新幹線の様に早い速度で飛んでいたが、今はジェット機のような速度で進んでいる。
カルラは突然速度が上がったので自分でも驚いているようで顔を一度だけこちらへと向けた。
これは後で説明する必要がありそうだ。
そして速度が倍以上になったのは良いが魔力の消費が激しいため後ろから風を吹かせる作業に限っては3人でローレーションを組んで交代で行う事にする。
そして1日かかると言われた距離を俺たちは半日で辿り着いた。
これは魔法の威力が個人ごとにバラツキがあったためだ。
特にクレアの魔法が俺達よりもかなり弱かったために時間のロスが大きくなってしまった。
俺と冬花はその事に気付いていたが頑張っているクレアのためにあえて何も言わずに空の旅を続けたが魔法を得意とする彼女ならば恐らく気付いているだろう。
そして、エルフの国の首都に着くとカルラは遠慮する事無く城門の前に降り立った。
その結果、門の前では多くの兵士がそれぞれの武器を手にカルラを取り囲んでいる。
武器は弓が多いが剣や槍を持った者も何人かは混ざっているようだ。
そして、兵士の警戒した姿にクレアは急いでカルラから飛び降り兵士たちへと叫んだ。
「待ってください。このドラゴンに害はありません。」
兵士たちはドラゴンの背からエルフであるクレアが降りて来た事で驚きに目を見張る。
そしてクレアに視線を向けると手に持つ武器を呆気なく仕舞い敬礼をした。
「クレア様、お帰りなさいませ。まさかドラゴンに乗って帰国されるとは思わず失礼いたしました。」
そして兵士の一人はクレアに敬礼すると丁寧な言葉で話しかけた。
おれと冬花はその様子に開いた口が塞がらない。
どうやら何も聞いていなかったがもしかすると良い所のお嬢様なのかもしれない。
しかし兵士たちは俺たちに気付くと再び警戒を露わにした。
どうやら、ララの言っていた様にちゃんと連絡は届いているようだ。
既に今の状態は警戒と言うよりも殺気と言った方が良いかもしれない。
「クレア様、あそこの人族の者達は何者ですか?現在、国内ではアルタ王国の暴挙のために人族に対して警戒を強めております。お知り合いの方だろうと素性の知れぬ者を町に入れるのはご遠慮ください。」
兵士の言葉にクレアは予想よりも大事になっているのを感じ取り周りを見回す。
すると、どの兵士も緊張と敵意ある目を俺と冬花にに向けていた。
これが依頼でなければ全員をボコボコにするか殺す所だが、今は親書の件もあるので我慢しておく。
もし実力を持って排除しようとするなら容赦せずに対処しよう。
しかしそんな俺の考えを読み取ったのかクレアは急いで俺達の身分を説明してくれる。
「警戒するのは分かるけど彼らはアルタ王国からの使者よ。それと女性の方は勇者だから丁重にもてなしなさい。」
するとなぜか兵士たちから警戒の色が消えた。
俺たちは突然の変化に疑問が湧いたためカルラから降りて先ほどからクレアと話している兵士へと話しかけた。
「あの。どうして私が勇者だと警戒が解けるの?」
すると兵士は笑顔を浮かべて冬花に答える。
そこには先程までの刺々した物はなく、まるで別人の様に朗らかだ。
「あなたが勇者なら私達に偏見や差別意識はありませんよね。なにせ異世界人なのですから。」
兵士は笑顔を崩さないが俺と冬花は逆に警戒感を抱く。
しかし、それに気づいた兵士は慌てながら追加の説明を始める。
「すみません。突然で警戒させてしまったようですね。私達エルフは寿命が長いのはご存知だと思います。そして、この国には何代も前からの勇者たちとの交流があり、彼らから色々な話を聞いているのです。彼らは皆、例外なく異世界から来た者たちで我々と友と呼べるほどに友好な関係を築いておりました。」
するとなぜかエルフであるクレアが驚いた顔をして兵士を見ている。
その様子からクレアは知らなかったようだ。
しかし、彼女は自称若いエルフなのでまだ知らないだけの可能性が高い。
現に兵士たちは全員、身長が170近くはあり大人の体格をしている。
それに勇者である冬花に対して向ける目は友好的だ。
しかし、俺に向ける目からは警戒を拭いきれていない感じがする。
そのため俺はどうしたものかと溜息を吐いた。
「一応聞くが一度に異世界人が二人以上来た前例はあるのか?」
すると兵士は胡散臭そうに俺の事を上から下まで確認してきた。
しかし、これでは前例が無いか、あったとしても僅かしかないと見るべきだろう。
俺が他のエルフから信頼を得るのは今の段階で難しいかもしれないな。
「前例が無いわけではないが・・・もしかしてお前も異世界人だと言うのか?」
俺は内心で溜息を吐くと苦笑を浮かべた。
そして嘘な訳ではないので兵士へと素直に頷いて見せる。
しかし、兵士の顔はどう見ても信用しているようには見えない。
仕方ないので俺は説得を諦め神頼みにすることにした。
「信用できないなら神にでも聞いてくれ。あいつ等なら事情は知ってるはずだから俺が異世界人だと証明してくれる。」
そして兵士たちはそこまで言うならと渋々俺を含めた3人に門を開いた。
すると、後ろで事の成り行きを見ていたカルラが人の姿になりクレアの横に並んだ。
その途端に何人かの兵士がその場に立ち尽くし涙を流した。
「もしやカルラ様!ようやく戻られたのですね。見違えるお姿に最初は分かりませんでしたが、今のお姿は昔のままです。」
「ああ、久しぶりだな。あの時の兵士たちか。お前たちも成長したようで何よりだ。少しの間だがこの子に力を貸す事になった。今回の闘いもよろしく頼むぞ。」
するとカルラの言葉に泣いている兵士たちは涙も拭かずに敬礼をした。
その様子に聞くタイミングを逃した俺たちは先に門を潜り町へと入って行く。
「クレアは何か知ってるか?」
町に入り俺はさっそくクレアへと問いかけた。
当然、先にカルラに聞いたが笑顔を浮かべるばかりで答えてくれない。
その姿は秘密にしておきたいと言うよりも悪戯を企てているという印象を受ける。
「私も知らないわ。知ってたらとっくに話してるわよ。」
そんなやり取りを交わしながら町の中を歩いて行く。
そして俺は冬花の横に移動すると自然な動きで腕を組み。始めてみるエルフの街を見回した。
その作りはアルタ王国とは違い自然に満ちた街並みが広がっている。
アルタ王国は石で出来た建物に住んでいるが、この国では巨大な木に生活空間を作り大木がそのまま一軒の家となっている。
そして俺たちは町の中央と思われる高さ数百メートルの巨木に向かい歩いていた。
しかし、エルフ達の視線は様々で、ある者はクレアを見て笑顔を浮かべ、またある者はカルラを見て涙を浮かべる。
エルフによっては拝むような仕草の者まで居るほどだ。
そして多くのエルフは突然訪れた人種の俺と冬花を見て顔を歪めている。
これはおそらくアルタ王国がエルフを奴隷にした事が伝わり人種に対していい感情を持っていないからだろう。
最初はこの距離で連絡を取り合う事が本当に可能なのだろうかと疑っていたが、この様子に何らかの手段がある事を実感出来る。
そして次第に人が少なくなりクレアはとある大きな家の前に立った。
「ここが私の家よ。まずは父にあなた達の事を紹介するから付いて来て。」
そして、大樹に付いている扉を開けて中に入るとそこには執事のような男が一人居り、頭を深く下げてクレアを出迎えた。
「クレア様。お帰りなさいませ。皆様は既に客間の方でお待ちしております。」
「分かったわ。すぐに向かいます。」
クレアはそう言って俺達を引き連れ客間へと向かう。
そしてしばらく廊下を歩くと一つの扉の前で足を止めた。
クレアは扉の前で何度か深呼吸して気分を落ち着けると俺たちに一度頷いてからノックを行った。
その途端、中から凄まじい足音が聞こえ扉が勢いよく開け放たれる。
そしてそこからは男女のエルフが飛び出しノックの姿勢のまま立ち尽くしていたクレアを抱きしめた。
「クレアよく無事で戻った!」
「クレアちゃん心配したのよ!」
クレアはそれを予想していたのかされるがままの状態になっている。
しかし、次第に息が出来なくなってきたのか二人の腕をタップし始めた。
どうやら上手い具合に首が絞まり声が出せないようだ。
しかし、クレアの努力もむなしく次第に顔色が悪くなり始める。
そして彼女の白い肌が赤から紫になろうかと言う所で室内から別の女性が現れクレアを助け出した。
いや、奪い取ったと言うのが正解だろう。
「コラ!お前たち。私の孫を殺すつもりかい。」
その人物は言葉使いは老人のようだがその見た目は先ほどの男女とそれほど変わらない。
どちらかと言えば身長が小さいため二人よりも幼く見えるくらいだ。
その女性はクレアの顔色が戻ったのを確認すると再び部屋の奥へとクレアを抱えて戻って行く。
すると先ほどの男女も中へと向かい、それに付いて行く形でカルラも部屋へと入って行った。
そんな光景に俺と冬花は部屋の前で茫然とし、どうすればいいのか判断できないためその場で足を止めている。
すると部屋の中から俺達へと声が掛かった。
「あんた達も入っておいで。そこじゃ落ち着いて話も出来ないよ。」
俺たちはその声に従い部屋へと入ると周りを見回した。
どうやらこの部屋には窓が無く、天井に吊るされたガラスのような球体が光を放ち部屋を照らしているようだ。
そして中央には5メートルほどの丸いテーブルがありその周りを一人用のソファーが囲んでいる。
先程の3人は入り口の対面に並び、老人口調の女性を中央にして座っていた。
そして俺達だが、最初クレアを中央に座らせようと冬花と挟んだ位置取りへと動いた。
しかし、二人に何故か強制的に中央に座らされてしまった。
こういう時は勇者である冬花か、この家の人間であるクレアが中央ではないだろうか?
するとその様子にエルフの男は顔をムッとさせたが老人口調の女性は口元をニヤつかせ、もう一人の方は口に手を当てニコニコしながらクレアを見ている。
そしてカルラは互いの中央付近の椅子に座り我関せずという雰囲気で瞳を閉じた。
どうやら今回は運んだだけで会話には参加しないようだ。
すると最初に沈黙を破ったのは老人口調の女性だった。
「それじゃ、自己紹介と行こうかね。私はパメラ。その子の祖母で今はこの国で議長をしてる。それと気付いてると思うけどこいつらはその子の両親だよ。」
すると左右の二人は立ち上がり男は若干不機嫌そうな顔を俺へと向ける。
どうして俺限定なのか分からないが冬花に敵意が無いなら問題ない。
「私はその子の父親で議員をしているマルクスだ。娘と親しいようだが異種族の交際は認め・・・。アババババ・・・・!」
最後にマルクスが何か言おうとすると横で同じように立っている女性が雷の魔法を使い言葉を封じた。
そのためマルクスは最後まで言いたい事が言えず、痙攣しながらソファーに倒れ白目をむいてしまう。
その姿に俺と冬花は心配して声をかけようとするがクレアを含んだ他の面々が何も言わないため仕方なく放置することにした。
すると先ほど雷魔法を使用した女性が絶える事のない笑みを浮かべたまま俺たちへと一礼する。
「私はクレアの母でローゼと言います。それと女は好きな人と生きるのが一番だと思います。」
そしてローゼは最後に訳の分からない事を言ってソファーに座った。
すると彼らの中央ではパメラが頭が痛そうにコメカミをマッサージしている。
クレアも何やら顔を赤くしてローゼを睨んでいるようだ。
しかし、あちらの自己紹介が終わった事に気が付くと肘で俺の腕を突いてこちらも自己紹介をするように促してきた。
そして俺が立ち上がるとそれに続いて冬花も立ち上がり正面へ向く。
「初めまして私は蒼士と言います。入り口の兵士には伝えましたが彼女と同じ世界から来た異世界人です。」
すると二人の女性は一瞬目を細めるがすぐに元の表情になり黙って聞く姿勢を崩さない。
そして、俺に続いて冬花が自己紹介を始める。
「それで私がこの度の勇者になった冬花です。こちらの彼とは子供の時からの知り合いで、今は私の夫です。出来れば信じていただきたいのですがダメですか?」
すると二人の女性は何か悲しそうな顔で冬花たちを見つめる。
そしてパメラは確認するように静かに話しかけた。
「あんた達、勇者は子供を作れないと言うのはクレアから聞いてるかい?」
彼女の言葉に、俺と冬花は気にする事無く頷いてこたえる。
もちろんその顔には悲しみの色は一切見えない。
しかし、この時の両者には明確な温度差が存在した。
それは、俺たちは魔王を倒せば呪いが解ける事をしっている。
だが、それを知らないパメラたちは子供が出来ない事を覚悟したうえで結婚したと思っているはずだ。
そのため冬花はその事に気付いて補足を加える。
「子供なら作れますよ。先日カティスエナ様と直接オハナシして魔王を倒せば呪いを解いてくれると確約をいただきました。」
すると目の前の二人は初めて聞く事実に驚愕する。
今の冬花が言った事はある意味、勇者の常識の破壊だ。
またその想像もしなかった事への衝撃に言葉を失う。
それは今までこの世界に来た多くの勇者たちの悲しみが全て女神の責任であったという事を示している。
しかし目の前の勇者がその悲しみを乗り越える手段を手に入れているという事にパメラたちは次第に興奮が沸き起こった。
「あんたの言ってる事は真実なのかい!?」
パメラは興奮を抑える事無くソファーから立ち上がり冬花に叫んだ。
冬花はその様子に一瞬驚くが俺と笑顔で視線を合わせると確かな動きで頷いて答えた。
「ええ、本当です。こちらの彼は神を呼ぶことが出来ます。それにより条件付きではありますが私は子供を産むことが出来ます。」
するとパメラはソファーに座り体重を預けると天井を見上げ涙を流した。
「そうかい、これでこの先の勇者たちも救われるね。」
パメラは涙を流しながらも、とても嬉しそうに笑みを浮かべている。
この国は多くの勇者と関りを持ってきたと先程の兵士が言っていた。
おそらく彼女は長く生きてきた中で勇者たちの子孫を残せない悲しみを多く見て来たのだろう。
その中には友と言えた相手もいたはずである。
そして、しばらく涙を流して落ち着いたのか涙を拭いて再びこちらへと顔を向けた。
「冬花、あんたの事は別にいいけとね。問題はあなたよ蒼士。エルフの長い歴史の中でも一度に二人の異世界人を神が招いた記録は無いんだよ。なのにあなたはそこに存在する。あんたは何者だい?」
パメラは先ほどまでの雰囲気が嘘の様に俺を警戒する。
それは未知に対する警戒であり、彼女が長い生の中で身に着けた家族を守る手段でもあるんだろう。
俺はその警戒を解くために仕方なく真実を話すことにした。
彼女はこの国の議長だと言うのならば、かなり偉い立場にいる事が伺える。
しかし、俺は彼女の冬花への言動と、何よりクレアの祖母という立場を信じることにした。
「今から話す事はすべて真実だ。クレアを含めてこのメンバーに話すのは初めてだが聞いたら後戻りできないぞ。」
俺のその言葉に冬花以外が頷いて答えたのを確認すると彼らに真実を話し始めた。




