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26 騎竜

俺たちが町でコンサートの準備をしている時。

城の獣舎では二匹の竜が話をしていた。


「お前はこれからも私達に付いて来るつもりか?」


カルラの問いかけにクレアの騎竜は力強く頷いた。

しかし、そんな騎竜へとカルラは今ある現実を突き付ける様に冷たく告げる。


「しかし、移動は私の背中に乗れば事足りる。お前の出番はない。それにお前は私に運ばれてそれで満足か。お前はただのペットではないだろう。」


カルラの辛辣な言葉に騎竜は首をもたげる。

事実としてカルラと出会ってからこの騎竜にクレアが乗った事はほとんどなかった。

それはこの騎竜の存在価値が極めて低い事を表している。

また移動について行ってもカルラに運んでもらっているのならばそれは足手まとい以外の何者でもない。

騎竜は曲がりなりにも竜族であるため知能が高く、その辺の事は自分で判断できた。


しかし、騎竜は目に力を宿しカルラを見つめる。

するとカルラは大きな溜息を吐いて仕方なくこの愚かだが忠義に厚い騎竜に道を示してやることにした。

ただしそれはこの騎竜にとっては命がけになるであろう道を。


「お前が私達に付いてこれる道が1つある。」


その言葉に騎竜は根拠もなく喜び尻尾を大きく振った。


「しかし、失敗すればお前は死ぬ。それでもやるのか。」


すると騎竜は尻尾を振るのをやめ、カルラを見つめて動きを止める。

しかし、それは一瞬の事で次の瞬間には尻尾を高く掲げ頷いた。

カルラは再び溜息をついて懐から一つの赤い石を取り出し騎竜へ見せる。


「これは飛竜の魔石だ。まずこれを食え。」


カルラは魔石を騎竜へ投げると何の疑いもなく魔石を飲み込んだ。

すると騎竜に変化が現れ始めそれは次の瞬間には悲鳴を伴うものに変わった。


「ギャ?ギャアアアーーー!?」


その変化により騎竜は体中からメキバキと音を立てて体が作り変えられていく。

これは竜族も体内に魔石があり、他者の魔石を取り込むことで体を変化、又は進化させる事が出来るからだ。

この騎竜は種類で言えば地竜の走竜になる。

すなわちカルラ達に自分で付いて行こうとすれば最低限、翼竜にならなければならず体の作りその物を変化させる必要があった。

そして、その第一段階としてカルラは飛竜の魔石をこの騎竜に与えたのだ。

しかも、今の騎竜よりも遥かに上位の魔石を。


騎竜はその変化に耐える土台が無く、急激な変化により胃の中の物どころか、本当に血を吐きながらその進化に耐える。

すると体は2周りは大きくなり足は鋭い爪が伸び細かった首は逞しくなった。

特に大きな変化は小さな前足が大きくなり、背中に小さな翼が生えた事だろう。


そしてまだ飛べるほどには変化していない体だがいったん変化が停止し、騎竜はその場に倒れこんだ。

するとカルラは倒れた騎竜に回復魔法をかけ大量の肉を目の前に置いた。


「これを食え。栄養が体になければ進化に体が耐えられない。」


すると騎竜は何とか立ち上がり肉を食べ始める。

そして食べ終わると1時間ほど休憩を入れ再び魔石を取り出した。

しかし今度は先ほどよりも更に上位の魔石。

ここで止める事も出来るが騎竜は躊躇う事無く再び魔石を飲み込んだ。


「ギャアアアーーーーー!」


そして再び獣舎に先程を超える巨大な叫びが響き渡る。

今はこの獣舎の周りに音が洩れないように結界を張っているがそれが無ければ城中から人が集まってくるかもしれないほどの絶叫である。

しかし、今回は体の変化は体が大きくなり翼もそれに合わせて大きく立派になるにとどまっている。

しかし騎竜は体中が壊れそうな痛みに必死に耐え変化が止まるのを待ち続ける。

そして変化が終わると再び目の前に肉が盛られた。

騎竜は先ほどあれだけ食べたにも拘らず再び激しい空腹に襲われている。

そのため目の前の肉に嚙り付き必死の思いで胃に詰め込んだ。

しかし体は大きくなり翼は成長したが自分の中で空を飛べる気が全くしなかった。

まるで翼も爪もすべてがただの飾りのような感じがしてしまう。

そして自分の姿に逆に自信を無くしたように首を下げてかすれる様な声で鳴いた。

しかしそんな姿を気にする事無くカルラは檄を飛ばす。


「どうした。もう限界か?その程度では次の変化で死ぬぞ。もともと地を駆ける者が空に上がるのは難しいのだ。それをこの短時間で可能にするためにお前には最後の試練を受けてもらうぞ。」


そう言ってカルラは自分の指を噛んで血を流すとそれを騎竜へと差し出す。

それを見て騎竜は首を傾げながらカルラの顔に視線を向けた。


「この血を飲めばお前は私の眷属となり空を駆ける力を手に入れることが出来る。しかし資格が無ければお前は最後の変化に耐えられず死ぬだろう。それでもいいならこの血を飲め。」


すると騎竜の中でクレアの事が鮮明に思い浮かぶ。

短い時間ではあったが共に駆けた時間はこの者にとって最高の時間であった。

そして騎竜はこれからも傍に居たいと言う望みを叶えるために目の前にある血を舐めた。


すると先ほどとは違う痛みが体中に駆け巡る。

頭痛が走り、体に流れる血が逆流し、喉が焼けるように熱い。

そして体中から魔力が溢れ出し暴走を始めた。


しかし騎竜には既に声を出すほどの余裕はなく目の前も次第に暗くなっていく。

そして気が付くと騎竜は一匹で何処までも続く草原を走っていた。

周りには誰もおらずただひたすらに走り続ける。

しかし次第に背中に寂しさを感じ始め、その場で立ち止まると首を伸ばして背中を見つめた。


すると途端に周りの景色が変わり騎竜は険しくそびえたつ断崖の頂上に立っていた。

そして足場の地面は3メートルほどしかなくどちらを向いてもここ以外に足を踏み出せば落ちる以外の選択肢は無い。

そんな状況でふと自分の体を見れば先ほどは無かった翼が生えていた。

しかし、翼を羽ばたかせても風は起きるが体が浮く気配がない。

騎竜は途方に暮れてその場に立ち尽くした。


すると周りからガラガラと音が聞こえ始める。

足元を見ると、足場が崩れ次第に小さくなってきていた。

そして全ての足場が崩れ騎竜は真下へと落下を始める。

騎竜は必死で翼を羽ばたかせるが落下スピードすら変わる気配は無い。

そして次第に騎竜は羽ばたく事も諦め、そのまま奈落の底にも見える闇へと落ちて行った。


いったい何処まで落ちただろうか。

騎竜は無限に続く落下の中でふと考えた。

自分は何で翼を求めたのだろうか。

自分の為だったような気もするし。

もっと大切な物の為だった気もする。


そんな事を考えていると不意に顎の下に暖かさを感じた。

何か暖かい物の上に顎が乗っている感じがする。

次に頭を誰かに撫でられているような感覚を感じた。

そしてその暖かい感覚には覚えがある事に気が付いた。


その途端に騎竜は目的を。

そしてクレアの事を思い出した。

そして再び必死に翼を羽ばたかせ始める。

しかし、いまだに手応えがない事に焦りを感じ始めた。

そして不意に上を見れば小さな光が輝いている事に気が付く。

その光は小さいながらも温かく自分を呼んでいるような気がした。

騎竜はそこへ向かう様に更に強く羽ばたき始める。


上へ、上へ。

ただその一つの思いを胸に翼を動かしていると次第に風と共に魔力が翼から巻き起こる。

そして次第に落下は止まり今度は上へと向かい始めた。


上へ、もっと上へ。

そして次第に光に近づくとそこには騎竜が求めた人物が手を広げて待ってくれていた。

騎竜はその光に喜びの声を上げながら飛び込むとそこで意識が現実へと引き戻された。


目を覚ますとクレアが心配そうに自分の頭を抱えてくれている。

そして次の瞬間、瞳に涙を浮かべると騎竜の頭に拳骨が落ちて来た。


「ギャッ!」


その突然の出来事に騎竜は完全に目を覚ましその場に立ち上がる。

すると周りを見回してその変化に首を傾げた。


自分は獣舎にいたはずなのにそこには散乱した木材が散らばり目の前のクレアはとても小さく感じる。

そして先ほどまで無かった感覚として今ならどこにでも飛んで行けそうだった。

すると、傍にカルラがいる事に気付いた騎竜は彼女に視線を向ける


「最後の試練の最中にクレアに見つかってしまった。でも、クレアがいなかったらお前は多分死んでいたよ。彼女には感謝するんだな。」


すると騎竜は大きくなった体でクレアに近寄りその顔を舐め上げた。

どうやら大きくなっても行動は変わらないようだ。

そしてクレアの襟を口で掴むと自分の背中に乗せ翼を動かし始めた。


「わわ、ちょっと待って!」


すると騎竜はクレアの制止の言葉も聞かずに空へと飛び上がっていった。

その結果クレアは必死に騎竜の背中でしがみ付き落ちない様に体を支える。

しかし、実は落ちたとしてもクレアなら魔法で無事に着地できるのでカルラは心配すらしていないが。


そして雲の高さまで上昇して静止すると下では丁度コンサートが始まった所であった。

町の広場周辺は色とりどりの光に包まれ、その美しい光景にクレアは目を奪われる。

そして騎竜の背中を撫でると優しい笑顔を浮かべた。

それを見て騎竜は満足そうに一鳴きすると地上へとゆっくり降下して行く。


しかし地上に降りると騎竜は突然力尽きたようにその場に倒れこんだ。

おそらく今までの疲労と慣れない飛翔に体力と精神が限界を迎えたのだろう。

クレアは騎竜をそっと撫でると獣舎を管理する兵士に声をかけて意識が戻ったら屋根のある場所で休ませてくれるようにお願いした。

すると兵士は笑顔で快く請け負ってくれたのでクレアは安心して城へと戻って行った。


「カルラ。今回は上手くいったけどあまりあの子に無茶をさせないでね。」


クレアは歩きながらカルラへと釘を刺す。

しかし、カルラは気にした様子もなく同じ速度で歩きながら言葉を返した。


「今回の事はある意味必然だ。お前との契約は永遠ではない。私はいつかはお前の前からいなくなるしそうなれば新たな相棒が必要だ。今の時点であいつ以上にお前を任せられる者はいない。まあ、今回はかなり無理をしたからな。今後はこういう事はまずないだろう。」


カルラの返答にクレアはため息で返し以外にも自分の事をかなり先まで考えてくれている事に内心で驚く。

しかし、さっきは本当に危なかった。

もしかしなくても騎竜の命の天秤はクレアが駆け付けた時には死の方向に傾いていた。

最後にどうにか持ち直したがあの子にはもうあんな無茶はしてほしくないと願わずにはいられない。

そしてふと伝説に出てくるドラゴンの乗り手も、最後に同じことを思ったのではないかと思った。


そしてカルラは突然クレアにある事を伝えた。


「クレア。あの走竜だが私の眷属となった事でドラゴンになったから何か名前を考えてやらないといけない。それに、もしかしたらクレアにも新しい職業が付いてるかもしれないから確認してみるといい。」


その言葉にクレアは急いでステータスを確認した。

そして職業の欄を見ると確かに新しい名前が追加されている。

そこには『ドラゴンライダー』という職業が追加されておりあの騎竜がドラゴンに進化した事を表していた。


「ねえ、ドラゴンライダーって世界に何人ぐらいいるの?」


クレアは顔を引くつかせながらカルラへと問いかけた。

先程言ったようにドラゴンが人を背中に乗せる事は少ない。

しかも信頼関係を持って騎手と騎獣の関係になる事がいかに奇跡的な事かはドラゴンの事を少しは知っていれば誰でも分かる。


「私が知る限りではよくて片手で数えられる位だ。私もしばらく人に関わってないから分からないけど。大抵は一つの時代に一人か二人はいるな。」


すなわちクレアを除けば一人いるかいないかと言う事である。

これは何か起きる前に国の長老たちに相談しておこうとクレアは心の中で誓うのだった。

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