25 ベル再臨
俺は周りからの視線を受けながら仕方なく片手を上げて答える。
するとベルは魔法で飛び上がり俺の上まで来ると冬花の反対へと降り立った。
しかし傍から見れば両手に花の状態に、それを見た男達からは嫉妬の視線が降り注ぐ。
俺はその視線を物ともせずにベルへといつも通りに話しかけた。
「すまないがベル、頼みがあるんだが聞いてもらえるか?」
するとベルファストをベルと愛称で呼ぶ俺に対して更に嫉妬の視線のレベルが上がる。
このままでは魔法スキルを習得するよりも魔眼のスキルを習得する者が現れそうだ。
実際に魔眼のスキルはあるため、あながち冗談では済まなかったりする。
「う~ん、事情は知ってるけど私は信者が少ないからあまり力が無いの。まあ、弟子の頼みだから聞いてあげるけど何すればいいの?」
すると俺はベルが気になる事を言ったので先に確認を取ることにした。
俺はこの世界の仕組みに疎いのでベルが何気なく言った言葉に疑問が生まれる。
「ちょっと先に確認させてくれ。信者の数で女神は力が変化するのか?」
その問いにベルはしまったという様に口元を両手で押さえたが既に手遅れなため素直に頷いた。
なんでもこの事は神のみが知る秘密で地上の者で知る者は居ないそうだ。
「悪いけどこれは秘密な事なの。周りに言っちゃダメよ。」
ベルはそう言って自分の鼻先で人差し指を立てて内緒のポーズをとる。
しかし、俺はそんなのお構いなしと言う風に口元に笑みを浮かべ怪しく笑った。
それらのやり取りを見て居た周りの人々がベルに見惚れて自動的に信者になっている事にも気づかず俺達は会話を続ける。
「それで頼みなんだがベルは歌は得意なのか?」
するとベルは俺の予想外な言葉に一瞬悩むが苦笑いを浮かべて頬を掻いた。
「歌は好きだけど自信は無いかな。私はそっち関係の神様じゃないからね。でも歌は好きだからいっぱい知ってるよ。」
すると俺は即座に目の前の信者(仮)に向けて声を上げた。
「皆~、今夜ベルファスト様が歌を披露してくださる。しかし観客が足りないと仰せだ。だから皆で観客を集めてほしい。ありがたいことに中央広場にはお誂え向きのステージがある。日が沈むころ、そこで全員集合だ~。それと行く時に今から配るこの板を必ず持って会場に来い。最前列を用意しよう。」
するとその言葉を受けて全員が猛スピードで俺の元へ走り、その勢いのまま町中へと散って行った。
板は横で冬花が森で回収しておいた木材を剣で素早く切って板に変え、そこに日本の数字を刻んだ物だ。
所謂、優先券と言う奴で人を呼ぶのに頑張り過ぎて前で見れなければ困るだろうという配慮だ。
ただそれを作るのに冬花は本当に目にも留まらぬ速さで剣を振るい100近い板を量産してくれた。
そして3人になると俺はベルを連れて処刑場・・・いや、ステージへと向かいベルを立たせるとアイテムボックスから再び木材を出して特別観客席を作り出した。
そして視界を遮る柵を腰の高さまで切って低くし準備を終える。
そして少しすると噂を聞き付けた音楽隊まで現れ、ベルと共に打ち合わせを始めた。
まあ、神と共演できる機会なんて滅多にないだろうけどそれ以上に誰もが凄く真剣で楽しそうだ。
これなら彼方は任せておけば大丈夫そうだな
「冬花、彼らは何処から湧いて出たんだ。」
準備をしていて対応できなかったため彼らは冬花が相手をしていた。
先程から奏でられる曲はとても素人とは思えない完成度で上手くベルとも合わせている。
あれなら今夜のステージにも十分間に合いそうである。
「彼らはお城で務めてる音楽隊らしいよ。さっきの人たちの中に兵士の人もいてお城に走って伝えたみたい。なんだか王様もこちらの意図に気付いて手伝ってくれるみたいだよ。」
冬花の言葉に俺は微笑を浮かべて城に視線を向ける。
そして最後の客引きの仕上げに自分の声を風に乗せて王都中へと言葉を伝えた。
「現在この王都に魔物の群れが向かっている。それを乗り越えるための力を授けるため、女神であるベルファスト様がこの町に降臨された。生き残りたい者は中央広場に集合せよ!」
すると耳をすませば王都のいたる所から声が上がり足音が聞こえ始める。
それは次第に大きくなり轟音へと変わると俺達の前に巨大な人の波が現れた。
そして日が沈む頃には町中の人が集まったのではないかと言うほど広場は人で溢れ、周りの建物や道の遠くまで人で溢れ返ってしまう。
そんな中で俺は風の魔法で空中を浮かび先ほど券を渡した者探し出し最前列へと移している。
かなり苦労したが途中から捜索スキルを獲得しスムーズに探し出すことが出来るようになった。
そして太陽が完全に沈み夜の闇が訪れると、俺は光魔法でベルを映し出し頭上にも大画面を作りあげた。
その直後、観客たちはその異様な光景に跪き、その場で祈りを捧げ始める。
するとベルに直接変化が現れたようで驚きに顔を染めた。
「蒼士、なんだか一気に信者が増えたみたい。久しぶりに凄く調子がいいよ。」
そしてベルに力が集まりだしたのを確認すると俺は音楽隊に合図を送り伴奏の準備を始めさせる。
すると照明は一時的に暗くなり伴奏が進むにつれて少しずつ明るくしていく。
そしてベルが歌い始めると同時に一気に明るくしその存在感を一気に高める。
最初はノリのいい音楽からなのでレーザーやライトを派手に照射させ、ベルの性格と力の充実が手伝ってノリノリで歌い続ける。
更にさりげなく精神を高ぶらせる魔法を町全体に少しずつ浸透させて観客たちのテンションも上昇させていった。
そしてそれに連動するようにベルの信者もさらに増えて行き自然と力も増していく。
そんな好循環を作り出すとベルも更に乗ってきたようで自分で魔法を使って炎や水や光を生み出して自由自在に操り始めた。
そしてその映像は俺が町のいたる所に光魔法で映し出し、見る事の出来ないほど遠い人たちもその姿を見れるようになっている。
こういう所はレンタル店で働いていたのでライブ映像やアニメで見てある程度は見せ方を知っている。
プロでは無いしリアルタイムなので完全ではないが初めて見ているこの世界の人からすればそれでも十分に楽しめているようだ。
それに歌声もそれに合わせ風の魔法で町中に飛ばし王都全体がコンサート会場へと変わっていた。
そしてベルが歌い始めて1時間ほど経つと観客の間で声が聞こえ始めた。
「おい、ステータス見てみろよ。スキルに魔法が付いてるぞ!」
「なに!ホントだ!?うおーーーマジでスキルがあるぞー。」
するとその声は次第に広がり2時間立つ頃には観客の殆どに魔法スキルが習得された。
そしてそのタイミングで音楽は止まりベルは体から光を放ち始める。
その姿はまさに女神と呼ぶに相応しい姿であり多くの人がそれに涙を浮かべ涙を流している。
そして、その直後から伴奏は哀愁を感じる寂しいものに変わり、それに合わせて静かにベルは信者達に語り掛けた。
「私が出来るのはここまでです。私はそろそろ天界に帰らなければなりません。そのスキルであなた方が一人でも多く助かる事を信じて見守っています。」
そしてベルは最後に俺へと視線を向けた。
「私の弟子である蒼士には一度だけ魔法の威力を数倍にする加護を与えます。それであなたの大事な人を護りなさい。」
ベルはその言葉を最後に再び石像に戻った。
今度は前回と違い無駄なポーズを取らず、ただ目を瞑り両手を広げた姿である。
そこからは先ほどまでノリノリで踊って歌っていた人物とは想像できない。
しかし、これにより王都の戦力は大きく上昇した。
このスキルがあれば魔法が使えるだけでなく魔力量も上がる。
そして最後に俺は手本として巨大な炎を空に向かって打ち上げた。
この世界では魔法はイメージ。
この炎を最初の出発点にすればイメージが浮かびやすいだろうという気休め程度の行動だ。
ちなみに俺はバイト時代に見たアニメや映画がイメージの元になっている。
そして女神が天界へ帰った事で人々の足は自然と家路へと向かい始めた。
後は国とギルドが死にたくなければ必死で考えるだろうと俺は町の外へと向かって行く。
そしてその姿を確認した隊長が俺たちに駆け寄り話しかけてきた。
どうやら何かあった時の為に各所で兵士が様子を見ていたようだ。
「これからどうするのだ。親書の作成はもうじき終わるがすぐに町を発つのか?」
「いや、今から町の外でもう一つ細工をする。その際、地震が起きるかもしれないから気を付けてくれ。」
すると隊長は頷くと近くの兵士達に今の事を伝え町中へと散って行った。
それを見て俺も魔法を発動して町の全員に自分の声を届ける。
「すまないが、今から巨大な魔法を使うから地震が起きるかもしれない。衝撃と事故に備えてくれ。」
そして俺は外に出て城壁から50メートルほど離れると地面に剣を突き立て、城壁に沿って王都の周りを走り始めた。
それにより俺の走った後には見事に線が引かれて行く
そして数分で一蹴すると、その線の内側で魔力を練り始めた。
しかし今回は今までにない大魔術なので何が起きるか分からない。
そのため魔力の操作からイメージまで、今までにない程慎重に行った。
そして準備ができると全魔力を一つの魔法に込め拳を地面に叩きつける。
さらにイメージを強固にするために、地属性魔法で自分が好きな魔法の魔法名を口にした。
「アース・クエイク!」
それと同時に先ほどベルに貰った加護も同時に使用し魔法の威力を跳ね上げる。
そして魔法が発動すると俺が書いた線から外が陥没し始め、次第に規模が大きくなっていった。
それにより、予想通り地震が発生し深い亀裂と共に対岸がみるみる離れて行く。
そして魔法の行使が終了すると同時に俺は視界がブラックアウトし、その場で気を失い倒れこんだ。
その姿に冬花は急いで駆け寄り優しく抱き起すと断崖から少し離れた場所まで移動し足の上へと蒼士の頭を乗せた。
「蒼君お疲れ様。明日になったらみんなきっと驚くね。」
そう言って頭を撫でて今できたばかりの断崖に視線を向ける。
するとそこには幅数十メートル、深さは確認していないが傍で見た感じだと50メートル以上はありそうだ。
これだけの断崖ならしばらくの時間稼ぎになりそうである。
そしてそんなに時間を置かず、蒼士はスキルのおかげで魔力がある程度回復し目を覚ました。
通常魔力を使い果たすと1日は目を覚まさないがそれだけ蒼士の超回復系のスキルが規格外である事を表している。
俺は膝枕の状態から冬花を見つめ口元に笑みを浮かべる。
そしてしばらく膝枕を堪能していると空からカルラが舞い降り、地面に足を付けると同時にその背中からクレアが飛び降りて来た。
だがその顔には焦りを浮かび、急いで俺の元へと走り寄ってくる。
その様子に体を起こすがまだ体にだるさを感じた。
これだけの疲労はあの男神に殺されかけて以来だ。
そのため座ったままでクレアが傍に来るのを待つ事にする
しかし、クレアは近づくにつれだんだん目の端が吊り上がり、俺の前まで来た途端にその胸倉をつかみ上げた。
「蒼士何してるのあんた!あんな無茶な魔法の使い方してると寿命が削れちゃうわよ!冬花の事を思うなら自分をもっと大事にしなさい!」
すると、怒られているはずの俺はクレアの頭に手を置くと優しく撫でてやる。
しかし、クレアはまた子ども扱いされていると思いその手を振り払うために腕を振り上げた。
だが腕を振り払おうとした瞬間、俺と目を合わせた事でクレアの腕は途中で止まりそのまま腕を下していく。
きっといつものフザケタ物ではなく、純粋に感謝の気持ちが感じ取れたからだろう。
「すまないクレア。心配してくれて嬉しいがこれは必要な事だ。その様子だとお前も大事な人をこの町に残して行くんだろ。」
するとクレアは俯いて口を強く閉じた。
その様子にやはりララはここに残るのだろうと想像できる。
「姉さんはこの町に残るって言って聞かないの。他の二人も自分達だけ逃げられないってここに残る事になったわ。」
クレアはせっかく助けた者達を再び危険に晒す事が堪らなく辛いのだろう。
特に今回はここが最前線で確実に激戦地になる。
どんな対策を取ったとしても不安が拭えるはずはない。
なので俺は立ち上がるとクレアに手を差し伸べた。
「それなら早く行って帰ってこようぜ。俺達なら必ずこの町を救えるんだからな。」
その言葉に、俯いていたクレアは顔を上げて見上げて視線を合わせて来る。
そして手を強く掴むと勢いよく立ち上がり元気な声で答えた。
「そ、そんなの当り前よ。さあ、行くわよ蒼士、冬花。」
そして3人はクレアの掛け声でカルラに乗りエルフの国へと出発した。




