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24 竜の怒りと保険

俺とクレアの話がまとまると突然重鎮の一人が声を上げた。


「待て貴様。なぜそこでエルフの娘が出てくるのだ?先ほどエルフでは使者にならんといった所だろう。」


そう言って俺たちに抗議している人物は先ほどクレア達が部屋に入る際、顔をしかめた者の一人だ。

恐らく国の一大事にエルフの助けを借りる事が我慢ならないのだろう。

そして更にその重鎮を援護するように数人の者がこちらへと罵声を浴びせてくる。

その姿に王も隊長も口を閉ざしあえて何も言ってこない事から俺達の好きにしても言い様だ。


「少し黙れ!」


俺は騒いでいる重鎮たちに向けて威圧を放ち、その五月蠅い口を黙らせる。

そして静かになった所でカルラに説明するように視線を向けた。

ここは人種である俺が言うよりも当人たちが伝えるのが効果的だ。

俺が言う事でカルラを人間が従えていると勘違いする奴が現れても困るからな。

するとカルラはクレアと共に前に出て王に対して説明を始めた。


「私がドラゴンである事はもう知っていると思うが先日このクレアに困った時は力を貸すと契約した。もしクレアが望むなら私が責任をもってこの子達をエルフの国まで届けよう。私の翼をもってすれば1日程度で到着する。」


その言葉に重鎮たちは驚愕し二人に視線を向ける。

しかし、その中で邪な考えをしている者が居り、クレアを人質に取ればこのドラゴンを従わせることが出来るのではと考えた。


その者はクレアを品定めするように見つめ想像し始めた。

男の中ではクレアを奴隷として従わせ一度は恐怖したドラゴンを手足の様に使って国を奪い、周辺諸国をも従わせて世界を手に入れる。

そして最強のモノを手に入れた者として亜人を滅ぼし偉大なる王として歴史に名を刻む。

そんな考えが男を自然と俯かせ口元を醜い笑みで歪めさせた。

しかし、そんな彼の考えは命と共に消え失せる。


「お前はこの瞬間に私の怒りをかったぞ!」


その重鎮はカルラの言葉に前を向くと真直ぐに自分を睨みつける目とぶつかった。


「何の事だ。私は何も知らんぞ。」


重鎮は思考を読めるはずはないと言い逃れを始めた。

その姿はさすがに国の中枢で仕事をしているだけあって、普通に見れば善人に見える。

だが、その姿は更にカルラの怒りを煽った。

しかし、カルラはまだ何もせず王へと問いかける。


「そうか。国王よ、お前はホワイトドラゴンの事を理解しているか?」


王は額に汗を浮かべ緊張に唾を飲み込むと静かに頷いた。


「ああ、知っている。ホワイトドラゴンは相手の悪意を読み取る。そのためそなたの様に力ある者の前では人間如きは思考を読まれ隠し事は出来ん。それにあなた方は悪意の無い物には友好的な存在だが悪意を持つ者には容赦をしない。それがホワイトドラゴンだと聞いているが間違いないか?」


カルラはその答えに満足したのか王に対しては笑顔で頷いた。

しかし、先ほどの重鎮に顔を向ける時には目はドラゴンの物となり口からは炎を吹き始める。


「お前の思考は見せてもらった。クレアを奴隷とし我を従わせたいようだな。」


その言葉に王は頭を抱え周りの重鎮は一気にその場を離れた。

その様子にその重鎮は焦り始めると同時に額に汗をかき周りを見回す。

しかし、その時には誰も助けてくれない事を自覚すると背中を見せて全力で逃げ出した。

そして後ろの壁に突き当たると壁を背にしてカルラに向き直り許しを請い始めた。


「違うんだ、ちょっとした出来心で・・・頼む!助けてくれ!!」


しかし、その声を聞く者は誰もおらず、次の瞬間にはカルラは頬を割いて大きく口を開けた。

そして、重鎮はカルラの口が一瞬輝くのをその目に映すと次の瞬間には後ろの壁ごとその姿は消滅してしまう。

それはカルラが放ったブレスによりその場所が跡形もなく消し飛んだためだ。

カルラはその様子を一瞥すると何も無かったように再び王へと向き直った。


「国王よ。傍に置く者はよく選んだ方がいいぞ。もし、今後私の同胞がここに来ればまた何人か消える事になるかもしれん。」


すなわち、今消された重鎮は見せしめで他にも似たような事を考えた者が複数人いるとカルラは告げている。

その言葉に王は大きな溜息をついて重鎮たちを見回す。

これでも自分が王座に就いた頃よりはかなりましになったがそれでもまだまだなのは自覚していた。

出来ればこれを皆が教訓としてくれる事を切に願うしかない。

しかし、今の出来事で彼女に文句を言う者は居なくなっただろうと判断し、王は話を進める事にした。


「カルラ殿。私の部下たちが非礼を働いた事、深く謝罪する。ここは儂に免じて許してくれんか。」


するとカルラは目を細めて少しのあいだ王を見つめ、その意思を確認する。

後ろめたさがある重鎮たちは緊張しながらカルラの審判を待ち続けた。

もしカルラに怒りが収まらなければ自分たちは先ほどの重鎮の様に一瞬で消されてしまう。

その恐怖がその場にいる彼らの体を縛り、恐怖に心が支配された。

そして、答えが出たようでカルラは王に告げる。


「あなたの誠意は分かりました。この度はあなたに免じて今の事は水に流しましょう。しかし、気をつけなさい。次に同じ事があればドラゴンの群れを引き連れてこの国を滅ぼします。」


王は頷くと横で縮こまる重鎮たちにいったん退室する事を命じた。

流石に今の状況で人手を失うのは今後の国の運営に支障が出てしまう

そしてほとんどの重鎮たちは逃げるように退室し数人がその場へと残った。

恐らく彼らはカルラやクレアに後ろめたい感情のない者達だろう。

その証拠に彼らにはカルラも嫌な顔をせず逆に笑顔を向けている。


「良かったわね。ちゃんとした人間もいるみたいで。」


カルラは残った人間を一瞥して王へと告げた。

王はその重鎮たちを見回しその顔を確認すると予想通りの者達が全員残っていた事に自分の目も節穴ではなかったと内心でホッとする。


「それで、依頼は受けてもらえるのか?」

「ええ、私は構わないわ。それにこの子がやる気なら私は力を貸すだけよ。」


すると王はそこで初めて頭を下げて俺たちに依頼を申し込んだ。


「それでは頼む。この国を救ってくれ。」


その言葉と共に残った重鎮たちも頭を下げる。

その様子に隊長やジョセフたちは驚いたような表情を浮かべた。

しかし、ここで俺は追加の情報を王へと知らせたのだった。


「ちょっとすまないがもう一つ重要な情報がある。」


その言葉に王と重鎮は顔を上げてこちらに視線を集める。

今のタイミングで言うくらいなので余程の事だろうと全員が俺の言葉を待っている。


「実はおれが処刑場で倒した魔族なんだが・・・。」


すると突然、王は焦ったように俺へと手を突き出し待ったをかけた。

その顔は驚愕に染まり重鎮たちも何やら焦り出している。


「どうしたんだ。何かまずい事でもあったか?」


俺はこの世界について知らない事が多いため彼らが何を驚いているのかが分からなかった。

その様子を見て重鎮が一人前に出て説明を始めた。


「私達は魔族の事を初めて耳にしたのだ。それに魔族は人間の街へは入れないため誰かが手引きしたとしか考えられん。すまないが詳しく教えてくれないか。」


その重鎮の説明を聞き俺は素直に頷いた。

情報の共有は今の混乱した状況では不可欠だと判断したのもあるが先ほど逃げた重鎮達と違い礼節をもって話している事が大きい。

それに彼らの目からは誠実さを感じ身分や種族を気にしてもいない様だ。


そして俺は魔族が現れた時の事を王や重鎮たちに話して聞かせた。

すると、話している間に重鎮たちは顔色を悪くし、王に至っては涙を流している。

そして話し終わると王は全員に聞こえるように告げた。


「悲しい事だがディエルは公開処刑にするしかない。出来れば助けてやりたいがこの時期にこのような事を起こした者を庇えば他国からの信用を失い協調も取れなくなる。」


そう言って王は一度強く瞼を閉じると涙をこらえて次の問題へと移った。


「それとあと数日で魔物の群れが押し寄せる事に関してはこちらで対処しよう。出来れば勇者の力を借りたい所だが致し方ない。戦争の回避を優先する。」


その判断に俺は意外な顔を国王に向けるが王は力なく笑うと話を続けた。


「もし、この王都が滅びようとも魔王との戦争に敗北したわけではない。我らは我らでやるべき事をやる。警備隊隊長アルベルトよ。王都の民達に魔物の群れが接近している事を伝えてくれぬか。魔族があのタイミングで洩らすと言う事はそれほど時間は無かろう。ここは良いからすぐに向かうのだ!」


その言葉にアルベルトは急ぎ退室して行った。

それを確認すると国王は一瞬だけジョセフを見た後に俺へと視線を戻す。


「それともし可能ならジョセフたちも連れて行ってもらえぬか。この者たちにはこの度の事で苦労を掛けた。これ以上は私も心苦しい。」


その言葉にジョセフとティファは驚きながら国王を見つめる。

そしてしばらくするとジョセフは首を横に振ってその提案を自ら退けた。


「私はこの町に残ろうと思います。」


その言葉に今度は国王や重鎮たちが驚愕する番だ。

そして、ティファは何も言わず俯いて涙を流していた。

少し前の彼女ならばジョセフにしがみ付いて逃げようと縋っただろう。

しかし、成長してしまったティファにはそれが出来ないだろう。

ジョセフはそんなティファの様子を見て寂しそうに笑いその頭を撫でてやる。


その姿に国王も重鎮たちも顔を歪めるが二人の覚悟を読み取ってしまいかける言葉を見つけられずにいた。

そんな中、俺達は迅速に行動を始める

まずは国王に向け声をかけた。


「先程の依頼を受けようと思う。すぐに親書を作成してくれ。それとクレアとカルラをここに置いて行くから出来次第二人に渡してくれ。それと可能なら早い段階で籠城の準備をしてくれ。その後は本当に運しだいだ。」


続いて俺はクレアとカルラの向き指示を伝える。


「クレア、俺は冬花と町の外に居る。親書を受け取り次第来てくれ。」


それだけ伝えると俺は冬花を連れて部屋を出て行った。

そして国王はすぐに親書の準備をさせて謝罪文を書き始める。


俺達は部屋から出ると傍にあった窓を開けそのまま地面へと飛び降りる。

これにより廊下を歩いたり階段を下りる時間を短縮し簡単なショートカットを行った。

そしてまずは冒険者ギルドに向かい走り出す。

そしてギルドに到着し中に入るとそこには既にギルマスが待機しており、俺たちを待ち構えていた。


「つい先ほど城からの早馬で連絡があった。人数は少ないが皆町を守ってくれるそうだ。お前たちはどうするのだ。」


ギルマスは現状の説明を行い縋るような目で俺達を見て来る。

しかし、俺達にはその前に1つの仕事がある。

まずは戦争を回避し無駄な犠牲を出さない様にしないといけない。

恐らくこれが国と国ではなく人種とエルフの戦争に発展すれば取り返しの付かない程の犠牲と損害が出るだろう。

そうなれば魔王と戦う戦力が減り戦いに勝利できなくなるかもしれない。


「俺達は今からエルフの国に親書を届けてくる。それと一つ頼みがある。可能な限り処刑場がある中央広場に人を集めてくれ。人数は多い程いいから急いでくれよ。」


俺の言葉に最初は顔を青くしていたギルマスも俺から何か感じ取った様ですぐに動き始める。

そして事務所に駆け込むと今している仕事をすべて放棄させ町中へと人を集めるために走らせた。


「一応手は打ったがどれほど集まるかは分からないぞ。」

「ああ、それでも構わん俺は今からベルファストと話をしてくる。彼女に魔法の手ほどきを受ければ素人でも魔法のスキルを習得出来る者が出るかもしれない。」


そこまで話して俺は教会へ向かおうとするがギルマスが肩を掴んで待ったを掛けた。


「ちょっと待て女神は既に天界に帰られているからあそこにあるのはただの石像だぞ。どうするつもりだ。」


ギルマスは慌てて説明を求めてくるが俺にはその時間も欲しいため「見てからのお楽しみだ。」とだけ言うと結局何も説明せずに走り去った。

その様子にギルマスは茫然とするが妻の命が掛かっているため自分もすぐに動き始めた。


俺は現在、次の目的地である教会の前にいる。

するとそこには前回にはいなかった多くの人々が居り、教会から溢れ返った人々は外で女神像に祈りを捧げていた。

俺はこの現状を疑問に思い、近くの者にこの状況について聞くことにする。


「どうしてこんなに人が多いんだ?前までここに訪れる人間なんていなかったと思ったんだが。」


俺は傍にいた冒険者風の男に問いかけると彼からはこちらの思惑通りの答えが返って来た。


「お前知らないのか?ここはベルファスト様の教会でここで祈りを捧げていると魔法のスキルの習得率が上がるんだ。しかも、1日の始まりにあの美しい石像を見て縁起を担ぐ奴も多くて今では町の名物になりつつある位だぞ。」


男の話に自分の予想が当たっていた事を実感すると入り口の正面に立ち大声で周りに声を掛ける。


「皆~本物のベルファスト様に会いたくないか~。」


その声に全員が反応し祈るのを止めてこちらに視線を向けてくる。

しかし、その視線はあまり良いとは言えず疑りと馬鹿にするような雰囲気を感じる。

するとそんな中から魔法のスキルよりも縁起を担ぐために来ていた何人かのノリのいい男たちが声を上げた。


「本当に会えるのか!?」

「俺も会いたいぞ!」

「俺はこの方に踏まれたい!」


一人変なのが居るが全体としてはまだノリが悪いため俺はもう一度声を出した。

こういうのは雰囲気作りも大切だろう。


「皆~今この町は魔物の脅威にさらされている。心優しい彼女ならば俺たちの声を聞いて手を差し伸べてくれるはずだ。みんな声をそろえて彼女を呼ぼう。さあ、ベルファスト!」


俺のその言葉に男たちが再び声を出し更に数名がそれに続く。

そして俺の言っていた魔物の脅威を知らず声を出さなかった者たちも周りの知っている者たちから情報を聞き同じように唱和に加わった。

現在、会場もとい、教会周辺は彼女を呼ぶ声が響き渡り空気を激しく震わす程になっている。

そしてそれは更に大きくなりここに居た全ての者が参加すると俺はスキルを発動してベルファストを呼び出しにかかる。

するとカティスエナの時と違い、ベル自身が抵抗しなかったため魔力消費も少なく呆気なく彼女は降臨した。


そして彼女は「皆に呼ばれて私降臨」とポーズまで取って顕現し、その瞬間教会は有名人のコンサート会場の様に巨大な歓声が巻き起こった。


その様子を見てやはりコイツはノリが良いなと心の中で呟き再びベルに視線を向けた。


するとベルは目の上に手をかざして遠くを見回す仕草をしながら誰かを探し始める。

そして俺と目が合うと腕を大きく振りながら名前を叫んだ。


「蒼士~来たよ~。」


するとその親しげな声に再び群衆は俺へと視線を向けた。

演出者はあまり人前には出ない物だが呼ばれた以上は仕方ないだろう。

俺は苦笑を浮かべながらそれに対して軽く手を振って返しここに居る全員の視線を集める事になった。

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