23 謁見
しばらくすると最初に再起動を果たした隊長が俺へと詰め寄り肩を掴んだ。
「なんだあれは。彼女は何者なんだ。」
隊長はドラゴンを見た事はあるがあそこ迄大きな者は初めての事だった。
恐らく年齢も数百ではきかず、1000年以上は生きているだろう。
さらにあそこ迄巨大な成竜が人を乗せる事は通常はない事も知っている。
この世界には竜騎士は存在するがどれも遥かに小さな個体で大人しい飛竜に乗るだけである。
さらにあのドラゴンは人に変身していた。
それらの事が隊長に大きな衝撃を与えていたのだ。
「ああ、あいつは『エルフ』のクレアだ。Sランクの冒険者としてギルドに登録されているから、詳しい事はギルドに問い合わせるといい。」
俺はエルフの部分をワザと強調して隊長に伝えた。
この国は人以外の人種を差別する傾向があるのは昨日からの出来事で十分に理解できた。
そのため、この場での無用な衝突を避けるためにクレアの事を少し話しておいた。
また、ギルドに問い合わせてもカルラの事はあまり分からないだろうと知っている。
ギルドでも彼女がドラゴンである事しか知らないからだけどその辺は本人たちの問題だ。
そして俺はついでにとララの事も伝えることにした。
「実はあいつの姉とエルフが2人、ディエルの兵士に奴隷に落とされているんだがどうにかならないか?」
すると俺の言葉を聞いた途端に隊長は頭痛を感じたのか、その場で頭を抱えて天を仰いだ。
そして、隊長の頭では先ほどのドラゴンが町を滅ぼす姿が浮かび上がった。
それはまさに災害級の凶事。
その行いに誰も抗うことが出来ず大切な者たちも、彼自身も死んで誰も助からない。
(それはまずい。あれほどのドラゴンがここで暴れたら町どころか国が滅ぶ。いや、待てよ恐らくディエルは今回の事で死罪は確定だろう。それとこちらですぐに奴隷解放をすればまだ何とかなるかもしれない。)
そう思った隊長は即座に行動に移した。
まずは兵士の一人に奴隷商を連れてくるように命令する。
ちなみに、奴隷商はこの町では一つしかない。
昔は多くの奴隷商が存在したが今の王がそれを縮小して行き、今では国が管理している一つのみが残っている。
それも昔と違い仕事の斡旋所としての色合いが強い物であった。
決して昔のような無理やり奴隷にするような場所ではない。
そのため隊長は何故このような事が起きてしまったのかを問いただすためにも奴隷商を呼びに行かせた。
そして、もしかすると捕縛する者が増えるかもしれないと心に痛みを感じる。
しばらくすると奴隷商が馬車で現れ彼らの前までやって来た。
そして、その男はやはり俺たちが見た男であるが何やら挙動が怪しい。
何かを隠しているのがすぐに分かる程、その視線は定まっていない。
すると共に来た兵士が隊長に小声で耳打ちして何かを話している。
その途端に隊長の顔が厳しくなり奴隷商を睨みつけた。
奴隷商は途端に縮こまりその場で尻餅をついて逃げるように離れて行く。
「お前は誰だ?俺の知る奴隷商は昔ながらの俺の友人だ。断じてお前のような者ではない。」
その事実に俺はやっぱりなと偽奴隷商に視線を向ける。
どうやらこの奴隷商は国が認めた人物ではないようだ。
奴隷商も隊長の言葉に返す言葉もないようで、その場から動けず視線を逸らすのみだ。
隊長は憤怒の形相を浮かべているがこのままでは話が進みそうにない。
そのためこの事は後でじっくり拷問でもすればいいと判断したようだ。
「まあいい、お前の事は城でゆっくり聞こう。」
そう言って傍にいた兵士に奴隷商を捕縛させ城へと連行させる。
隊長は更に別の兵士数名に指示を出し、再度確認のために奴隷商館へと向かわせた。
すると空の遠くから近づいて来る気配を感じ俺はそちらの方向を見上げた。
隊長もそれに気付いて苦虫を噛んだような顔で空を見上げる。
すると遠くに白い物体が見え始め、急速に近づいて来るとそれがドラゴンであると確認できた。
隊長は奴隷商の準備が間に合わなかった事で焦り、俺に縋るように視線を向ける。
俺はそんな顔の隊長に近づき「貸し一つ」と言って笑った。
隊長も仕方なくそれに頷くとホッと一息つくと大きく息を吐き出した。
カルラが地面に下りるとその背からクレアを含めティファとララ。
そして2人のエルフが降りて来た。
そして、手に抱えた騎竜を地面に下ろすとカルラは人の姿になりクレアの横に並ぶ。
そこに蒼士と冬花が近寄り先ほどのやり取りを説明した。
奴隷商が偽物にすり替わっていた事やララ達3人の奴隷解放の事を話すとクレアは横にいたララに喜んで飛びついて。
2人のエルフも安心したのか互いに抱き合い涙を流している。
すると話が上手く伝わった事を確認した事で隊長もクレア達の元へと歩みよった。
そして隊長はクレア達の傍まで行くと、突然大きく頭をさげた。
「すまなかった。我々が不甲斐ないばかりに君たちには苦しい思いをさせた。」
すると4人を代表してララが前に出る。
その顔はいつもと同じ無表情で見ようによっては責めている様にも見える。
しかし、彼女が口を開くとそこからは理性的で表情と同じく平坦だが冷静と分かる言葉が発せられた。
「謝罪は受け取りました。しかし、今後の事を判断するのはエルフの国の議員たちです。それだけは理解してください。おそらくこの事は国も既に知っているでしょうからなるべく早くに使者を送る事をお勧めします。」
ララの言葉に隊長は頷いて答えた。
そして謝罪が終わった丁度その時、再び馬車が訪れる。
その様子に俺はデジャブを感じるがその後ろに乗る人物は全く違った。
馬車からは表情の柔らかい20代後半程の女性が降りて来たからだ。
すると隊長か彼女に駆け寄り声をかけた。
「リーリン無事だったか!」
「ええ、それで、あの屑は何処。今から火炙りにしたいんだけど。」
すると彼女の手からは大きな火柱が上がり上空を炎で染める。
その威力は先程の兵士とは比べ物にならず、恐らくは10倍以上の威力が有るだろう。
どうやら本物の奴隷商はかなりお怒りのようだ。
しかし、そんな様子にも全く動じることなく隊長は笑い声をあげた。
「ははは、相変わらずだな。あいつは城の牢に送っておいた。王にはあの男が火炙りになるように進言しておこう。」
すると隊長は笑顔でサラリとえげつない事を彼女に約束し、その姿に周りの兵士も温かい目を向ける。
どうやらこの二人は友人よりも上の関係のようだ。
しかし、火炙りになるまで生きているかが問題だろうな。
俺なら絶対に尋問と称して自身の手で処刑してしまうだろう。
そしてそんなやり取りが終わるとリーリンは隊長を後ろに従え俺たちの元へとやって来た。
「ごめんなさいね。まさか私の弟子があんな事をするとは思わなくて。前から少し影がある子だったんだけど、私も引退が近くて焦ってたのね。」
「引退?仕事を辞めるんですか?」
その言葉に冬花は首を傾げて問いかける。
彼女はまだ若いため何か理由があるのかと気になったのだろう。
するとリーリンは後ろの隊長を一瞬視線を向けると頬を赤くし笑顔で頬を赤く染める。
それだけで何があるかは想像がついたため、全員が隊長にニヤニヤした顔を向けた。
「そ、そうだよ!彼女とは近いうちに結婚するんだ。そうなると彼女は家に入る事になるからな。それに俺の稼ぎなら十分食わせられる。」
隊長も顔を赤くすると恥ずかしそうに俺たちへ答えた。
そして、場が落ち着いた所でリーリンは真剣な顔になるララ達に近づいて行く。
「奴隷紋を見せてくれるかしら。」
その言葉にララ達は軽く胸元を開き奴隷紋を見せる。
リーリンはその奴隷紋を確認すると指で優しく触れて魔力を流し始めた。
すると奴隷紋は黒い煙を僅かに上げ跡形もなく消え失せていく。
「これで大丈夫よ。ごめんなさいね。私の弟子が迷惑をかけて。あいつは私が責任を持って消し炭にしておくから。」
リーリンはそう言うと、お日様の様な笑顔を浮かべた。
その言葉にクレアとララは納得したように頷き、他の二人のエルフは肩を抱き合い震えだした。
隊長が何も言わない所を見るとこれが平常運転なのかもしれない。
そして丁度その時、王城の方から一人の兵士が馬に乗り現れた。
「隊長。先程ここに現れたドラゴンは何かと陛下が仰せです。説明のため城にお戻りください。」
その言葉に隊長は口に手を当てて考え始めるがすぐに答えが出たのか、その兵士へと指示を出した。
「分かったすぐに城に戻ると陛下に伝えてくれ。それとここに貴族用の馬車を3台よこしてくれ。」
すると兵士は敬礼をすると再び城へと馬を走らせて行った。
そして隊長は再びこちらへと向くと申し訳なさそうに申し出る。
「勝手に決めて悪いが今から城で陛下に説明しなければならない。すまないが一緒に来てくれ。陛下は良いのだが周りの重鎮たちに今回の事の重要性を理解させるために君たちがいてくれた方が話が早い。」
それに対して俺は拒絶する様にあからさまに面倒くさそうな表情を浮かべた。
冬花の事を考えればここは俺がハッキリと断るべきだろう。
しかし冬花が袖を引っ張り笑顔を向けてくるので俺は即座に考えを改めた。
「冬花が良いなら俺も他意はないよ。」
「うん。大丈夫だから一緒に行こ。」
「ああ、そうだな。隊長!二人確定だ。」
もちろん、その変化を見ていた殆どの奴等が俺に呆れた視線を向けて来る。
しかし、それらを全て無視すると城の行く事を伝え他のメンバーへと視線を向ける。
そしてジョセフたちも一度は陛下へと挨拶するために謁見を認めティファを連れて行く事も了承させた。
さすが商人だけあって交渉はお手の物のようだ。
クレアと二人のエルフは渋ったがララが説得する事で謁見を認めた。
それに今はまだ、町に残党が残っている可能性もあるので俺達と一緒に行動していた方が安全だ。
自暴自棄になった奴が心中覚悟で襲って来るかも知れないからな。
そしてしばらく待つと城の方から先ほど手配した馬車がやって来る。
その馬車にそれぞれで乗り込み、全員が乗ったのを確認すると城へと出発して行った。
そして城では先ほど突然現れたドラゴンのため、全員が緊張の中にいた。
そんな中、王は玉座に落ち着いた姿で腰を下ろし、威厳と力強い存在感を臣下に示していた。
しかし、そこに威圧感はなく強い包容力とカリスマ性が感じられる。
だが、それを可能にしているのも先程やって来た兵士が隊長の様子を知らせた事が大きい。
そうでなければ流石の国王もここまで冷静では居られなかっただろう。
そして、しばらくすると扉が開き新たな兵士が王の前へと報告に現れ膝を付いて跪いた。
「陛下、王都警備隊隊長が城に到着しました。他にも10名ほどいるようですがいかがなさいますか?」
「私が呼んだのは警備隊隊長のみだが当人は何と?」
「は!必要な者達なのでその者達の謁見も希望しております。それと・・・。」
しかし、王の前だというのに兵士の報告は止まり言い淀んでしまう。
その姿に王も何かあると感じ報告を促した。
「構わん言ってみろ。」
「王都警備隊隊長は国の危機だと申しております!」
その声に周りで聞いていた者は目を見開いた。
しかし、先ほどのドラゴンが力を振るえばそれも可能だろうと誰も声を発しない。
これが通常の時ならばそこに居る兵士は罵声と嘲笑をこれでもかと浴びる事になっただろう。
王は顎を摩りその真意を探る。
しかし、情報が足りない事に思い至った為に信用する王都警備隊隊長の進言を受け入れることにした。
「構わん全員を連れてこい。」
「畏まりました!」
するとその言葉を受けた兵士は敬礼すると急いで外へと走って行った。
そしてしばらくすると再び扉が開き隊長を含め11人の人物が部屋へと入ってくる。
その中には王のよく知る人物であるジョセフも含まれていた。
しかし、王はジョセフの姿に驚愕し顔に出さずに内心だけで声を上げる。
体に傷は無いが服のいたる所は破れ、あの力のある瞳には疲れの色が見える。
そして王は商人が1人見せしめとして処刑されようとしていた事は知っていた。
しかし、それが友人であるジョセフであった事を今この時知ったのだ。
重鎮たちもジョセフの姿に何かを言おうとしているが国の犠牲者の立場であるジョセフに強く出れず口を閉じている。
そんな中、逆にその横を共に歩く少女の姿に目が集まった。
現在のこの部屋の雰囲気はとても悪い物である。
王子の反乱に突然のドラゴンの出現。
その緊張感からくる空気は常人ならばその場で嘔吐するか逃げ出すほどの物となっていた。
しかし少女は幼いながらも凛々しく歩くその姿に全員の視線を集める。
そして、その横に並ぶ二人の男女を見て彼女の事を知る者たちは再び驚愕する。
そこには情報にあった勇者がいたからだ。
勇者の横にいる男もギルドマスターから話が来ており、先日Sランクに昇格するための工作を指示した事で皆憶えていた。
そしてその後ろに続く4人のエルフに重鎮の何人かは眉を傾ける。
それはこの国に残る差別の証。
その様子に王は彼らに視線を向け控えろと鋭い目で指示を出す。
それに気が付いた者たちは仕方なく表情を引き締め不満を隠した。
そしてその後ろには見慣れぬ白い女性が続いていた。
その美しい姿に重鎮たちは値踏みするような視線を向ける。
しかし、それに気が付いたカルラは目をドラゴンの物に変え、威圧を含めて見つめ返した。
すると途端に重鎮の何人かは息が出来なくなったように喉を押さえその場に膝を着いた。
その様子に周りは騒然となるがここに入って来た者の多くはヤレヤレと言う表情でカルラを見る。
1人隊長だけは頭を抱えているが気にする者は誰もいない。
しかしその時のカルラの目を王はしっかりと見ていた。
そしてこれが隊長の言っていた国の危機と関係あるのだろうとあたりを付ける。
そして最後にこの王都で唯一の奴隷商の主人が入って来た。
この者は国が認可を出す際、毎年この謁見の間に来るため全員が憶えていたようだ。
そして、全員王の前に立ち隊長、リーリン、ジョセフ、ティファはその場に膝を付いたが残りの7人は何もせずに立ったまま対応した。
その様子を王は真直ぐ視線を向けて考える。
(白い美女はおそらくドラゴンだろう。彼女が我々人間に頭を下げる事は無いな。それにエルフにはこの国では迷惑をかけてばかりだ。私が進めた改革でかなりましになったが、それでも差別が無くなった訳ではない。この問題が消えるのは次の王かその次くらいだろう。それとあの二人。彼らは・・・。知らないだけか?先程からジョセフが説明しているようだが渋々膝を付いているな。)
そして、やっと落ち着いてきたところで王は隊長へと声をかける。
「今は非常時だ。全員楽な姿勢で構わん。」
その言葉を聞いて殆どの物は立ち上がった。
しかしジョセフは疲労からかその場てふらついて再び膝をついてしまう。
その様子に王は横の兵士に目配せをし、椅子を出す様に指示を出した。
ジョセフはその椅子に申し訳なさそうに座り王にも視線を向け礼を述べる。
そして王は続いて隊長に話しかけた。
「忙しいのに呼び出してすまないな。早速だが報告を聞こう。」
その言葉に隊長は報告を始める。
処刑されそうであった者がジョセフであったことや先ほどのドラゴンがそこにいる白い美女である事。
無実なエルフたちが奴隷にされていた事。
そして、急いでエルフの国に使者を送らなければ戦争になりかねないと言うことだ。
それらを聞いて王は重鎮の一人に即座に使者を向かわせるように指示を出した。
しかし、ここからエルフの国は遠い。
エルフは独自の情報伝達手段を使うため、既にこの情報は知っているだろう。
王は頭を抱え事の大きさを実感する。
そんな時、蒼士は疑問に感じた事を口にした。
「此奴らに頼まないのか?」
蒼士は無遠慮に親指を立て、クレア達を示した。
その言葉に重鎮の一人が説明するために口を開く。
「こういう時の謝罪は誠意を示すために人族が向かわなければならん。エルフが伝えても逆に印象が悪くなるだけだ。しかも今回はエルフを奴隷に落としている。無理やり嘘の情報を送ったと思われては取り返しがつかなくなってしまう。」
「そうか、それは人族なら誰でもいいのか?」
「そうだな。出来れば重要人物である事が好ましい。その者が使者となり王の謝罪文を届ければ一応の形にはなる。」
「ならその依頼を俺たちに出さないか?」
その発言に王を含めた重鎮は蒼士に視線を集める。
「確かに勇者が行けば体裁も問題ない。しかし、誰が行っても時間はそれほど変わらないぞ。」
すると蒼士はクレアとカルラに視線を向ける。
どうやら何か考えがあるようだ。
「クレア、お前はどうする?」
クレアは突然、話を振られて悩み始めた。
(確かにこの子達を一度国に返してあげたい。それに戦争なんて起こしたくはない。)
そして数秒悩むとクレアは蒼士に歩み寄りその顔を見上げた。
「条件があるわ。私もパーティーに入れて。そうすればこの依頼を受けてあげる。」
すると蒼士はクレアに向かって大きく溜息をついた。
「何よ、嫌なの?」
クレアは不安が胸を締め付けるがそれを隠すようにぶっきらぼうに言い放った。
今まで自分からパーティに入ろうとした事は無く、それが人種ならなおさらだ。
しかし、この二人は今まで見た人種とは大きく違う気がする。
それに既にクレアは蒼士と冬花を仲間として信頼している。
そして、そんな中で蒼士は意外な言葉をクレアに伝えた。
「いや、もうお前は俺達のメンバーだと思ってたからついな。そう言えば誘ってなかったのを今思い出した。」
その答えにクレアは胸の高鳴りを感じて笑顔になりかける。
しかし、ここで笑顔を見せるのは悔しいと思ったクレアはそっぽを向いて口を尖らせた。
「ふ、ふん。それならいいのよ。これからよろしくね。」
そしてクレアは握手のために右手を差し出すと、それに応える様に蒼士は笑顔を作りその手を取った。
「料理人として期待している。」
するとクレアは途端に目を吊り上げて握手をしていた蒼士の手に「ガウ」と言いながら噛みついた。
そして「痛!」と言う言葉と共に蒼士は手を離し噛みつかれた所をワザとらしく摩る。
その様子を冬花は笑いながら見つめ、周りは呆れた視線を向けていた。




