表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/148

22 黒幕

俺と冬花は処刑台の上でディエルと睨み合っている。

こちらからすればここは既にジョセフの処刑台ではなくディエルの処刑台である。

俺は剣を手にディエルへと近づこうと一歩を踏み出した。

するとディエルは視線を処刑台の横へと外し、そこに隠れている者へと向ける。


「おい、話が違うじゃないか!何が現れたばかりの勇者は弱いから好きに出来るだ!」


ディエルは俺達を無視すると、そこに居る者に怒りをぶつけるように怒鳴りつけた。

そして、俺達もその視線を追って視線を向けるとそこには赤いローブにフードをすっぽり被った人物がこちらに視線を向けていた。


「チッ、余計な事を!」


しかし、その人物は誰にも聞こえないような小声で悪態をつくと物陰から出て処刑台へと近づいて来る。

そしてフードを被ったまま怪しく口元に笑みを浮かべた瞬間にそいつから魔力の流れを感じ取った。

それにより何らかの魔術かスキルを使用した事に気付き警戒を強める。

如何に強いと言ってもそれは純粋な戦闘面に限られるからだ。

特に俺が修行で手に入れることが出来たのは戦闘に関するスキルばかりで料理が出来ないのもそれが理由かもしれない。

そのため絡め手にはかなりの不安が残っているので警戒は怠れないのが本音だ。

そして、フードは被ったまま顔を隠しマントの前を開けて踊り子の様な煽情的な服装に包まれた肢体を露わにする。


「こんにちは。私の名前はローズって言うの。お兄さんってとても強いのね。そんな勇者の所よりも私の所に来ない?そんな小娘より良い思いをさせてあげるわよ。」


ローズと名乗った女はそう言って俺を誘惑し手を伸ばして来る。

そして差し伸べた手から何やら甘い香りを放ち、その香りが俺を包み込んだ。

だが俺はその香水のような甘い匂いに顔をしかめ手で払い除ける様な動作を行う。

ハッキリ言って香水のキツイ臭いは好きではない。

五感が強化された今となっては悪臭ですらある。

そのため冬花もほとんど香水をつけないほど気を付けてくれている。

まあ、今の俺にとっては冬花こそがこの世の如何なる存在よりも最高の芳香を放っていると感じているがな。


そして俺はローズの誘いに目を細めて睨みつけた。

コイツの言葉をそのまま受け取るなら冬花を裏切れと言う物だからだ。

そして俺にとってその言葉はどんな状況でも許容できるはずがない。

もし、そんな事が起きた時、俺は躊躇なく死を選ぶと断言できる。

前回、冬花がギルドで自らの首を切り落とした時と同様にな。

そしてしばらく黙っていたが匂いが晴れる気配がないため、仕方なくローズに返答することにした。


「何を馬鹿な事を言ってるんだ。そんな誘いに乗るのはこの世界が滅んでも絶対に在り得ない事だ。そう言うのは外を当たってくれ。」


俺のハッキリとした物言いにローズは一瞬呆れるが更に力を強めていく。

それと同時に匂いもキツクなり俺は鼻を摘まんで悪臭に耐えた。

もしかするとこの世界に来て最も苦しめられているかもしれない。

まさか臭いにこれだけの効果があるとは今後は気を付ける必要が有りそうだ


しかし俺も冬花もローズが何をやろうとしているかはその口ぶりから既に気付いている。

おそらく、魅了のような力を向け虜にしようと考えているのだろう。

しかし、俺にとっては冬花以外は皆人類と一括りにしてしまうほど女性と見なしていない。

そのため俺はあっさり魅了耐性のスキルを獲得してしまっていた。

しかも冬花が傍にいる時の彼の成長は著しく使われた直後には耐性を身に付けていた。

だが、ローズは俺が魅了で苦しんでいる様子を見て、能力が効いているものと勘違いして再び同じように話しかけた。


「そんな中古品の女なんて捨てて私の所に来なさいな。あなたに本当の快楽を教えてあげるわ。」


その時、俺の体がピクリと反応する。

鼻を摘まんだ手を放し剣を鞘に納めると幽鬼の様に歩き始める。


ローズはその姿を見て笑みを深め、口は三日月の様に裂けてそこから人よりも長い犬歯が覗く。

そしてローズの手を蒼士も同じように手を伸ばし優しく包み込むように握る。

しかし次の瞬間、蒼士は握った手に力を入れ容赦の欠片も無く握り潰した。

ローズはその突然の行動に感覚が付いて行かずに潰れた手を見つめる。

そして次の瞬間、頭が自分の手の状態を認識すると激痛が彼女を襲った。


「ギャアアーー私の手がーーー!お、お前!私の魅了が効いてないのか!?」


ローズは叫びながらも俺の掴んでいる手を振り解けず、反対の手で殴り付けながら睨みつけてきた。

そしてその時の動きでフードが捲れ、その下から彼女の素顔が露わになる。

ローズの姿は肌は白を通り越して青色をしており、目は人ならば白い部分が黒く瞳孔は赤い。

そして、額には特徴的な角がある。


するとその姿を見た者が突然叫び始めた。


「おい、あれってもしかして?」

「そうよ、言い伝え通りだわ。」

「じゃあ・・・あれってもしかして!?」

「「「魔族!?」」」

「魔族だーーー!」


するとローズの正体に気付いた民衆がパニックを起こし我先にと逃げ始めた。

最初は最前列の僅かな者が人を掻き分けて逃げ出したが次第にそれは津波のような流れへと変わり始める。

そして、秩序なく逃げ出した彼らはパニックになり、このまま何もしなければ死者が出るのは確実だろう。


冬花は民衆の様子に一瞬、目を向けるがすぐに俺へと視線を戻す。

そして、そこにある冬花の悲しみを含んだ視線に気付くと神聖魔法を使い民衆の精神を落ち着かせ、風魔法で声を飛ばした。


「全員落ち着け。こいつは俺達勇者パーティーが相手をする。魔王を倒せる勇者がいるんだ。魔族程度に負けるはずがない。」


すると民衆はすぐに落ち着きを取り戻し3方向に落ち着いて逃げ始めた。

対処が早かったため目だった怪我人もいないようだ。

もしあのまま放置すれば死人が出たのは間違いないだろう。

そうなれば冬花の知り合いもそれに巻き込まれたかもしれない。

そう考えれば俺の今の行動に間違いは無かったと思える。

そして、俺は再びローズに視線を戻した。

先程からずっとつぶした手を握り、そこからは少なくない血が流れている。

血の色も自分達とは違い青色の血が流れているようで手を青く染めている。

また、痛みにも耐性があるのか先ほどから激しい攻撃を繰り返していた。

しかし俺の防御力を抜ける程の強い打撃も魔法の気配も無いため先ほどから無視して受け続けている。


そして俺はもう片方の手も掴み取り攻撃を止めた。

しかし、そちらの腕からもミシミシと言う音が聞こえてくるとローズは顔を歪める。

そして攻撃が止まると冷たい目をローズへ向けた。

俺としては絶対に聞いておかなければならない事が先ほどの発言から生まれていたのだ。


「お前は何故、冬花が中古品だと思う?その理由を教えろ。」

「何でそんな事をあんたに話さないといけない・・・きゃああーー。」


ローズは拒否の意思を言葉にしようとしたが、その言葉の途中でもう片方の腕を握りつぶした。

さすがのローズもこれには堪えたのか目を涙に濡らして歯を食いしばる。

しかし、俺は両手を血に染めながらも冷酷な視線をローズに注ぎ続けた。


「選択肢はイエスかノーじゃない。お前にあるのは話すと言う選択だけだ。次に拒否した場合は更に別の部分を潰す。」


するとローズもさすがに観念したのか痛みを堪えながらも話し始めた。


「その子はこの町に来て直ぐに勇者と名乗ったのよ。私はすぐに魅了で操った人間にそいつを襲うように指示を出したわ。勇者になりたての人間は弱いからそいつは当然、汚された中古品よ・・・ギャーーー!」


その答えに俺は今までの謎がいくつか解けそのお礼に相手の片方の二の腕を握りつぶす。

それにしても、この国にはすでに魔族が潜伏しており、常に冬花を狙っていたようだ。

ゲームで言えば始まりの街から中ボスたと言えば分かり易いだろう。

そんなクソゲー状態で冬花は長い間苦しんできたと言う事か。


そして、もう一つ確認しなければいけない事がある。

それはいまだに逃げずにいる自称国王のディエルについてだ。

コイツはどう見ても操られていない。

そのためディエルの事もローズへと確認する。


「そうか。それであいつもお前が操ってるのか?おそらく、権力以外は使えない馬鹿だぞ。」


すると俺の言葉にローズは顔を歪める。


「あいつは予想以上に役に立たなかったわ。でもそのおかげでこの都市から冒険者は減りギルドも混乱させられたわ。ざま~みろ!これでお前たちは終わりよ!!ギャハハハハ。」


そして、ローズは口角を上げ狂ったように笑いだした。

すると聞いてもいないのに種明かしでもするように自分達の作戦を話し始める。


「あと数日でこの町に私の仲間が誘導した魔物の群れが現れる。そうすればこの国はもう終わりよ。あなたがどんなに強くても数の力には敵わないわ。諦めて魔物の餌になりなさい。」


そして再び高笑いを始め話しかけても返事をしなくなった。

そのため俺は最後に優しく笑いかけると掴んでいた手と腕を離す。


「そうか。それは良い事を聞いたよ。」


ローズはその意味が理解できず、笑いを止め真意を探ろうとこちらの瞳を覗き込んでくる。

しかし、その瞳に宿る怒りという狂気を感じ取った時は既に手遅れになっており俺はローズの首を抜剣術で切り飛ばし命を奪った。

すると首は宙を舞いディエルの前に転がりそれを見た奴は一歩下がる。

これにより俺と冬花は大きな元凶を知ることが出来た。

そして最後に残ったのは目の前のゴミを始末する事のみ。

しかしそう考えた所で遠くから馬の蹄の音が聞こえくる事に気が付いた。

その音は次第に近づき死刑台を取り囲んでいく。

そして彼らは兵士の鎧を着ているがその中には見知った顔が3人おり俺は一旦鉾を収めた。


その者とは1人は街の入り口で門番をしていた男。

1人はギルドで出会った兵士。

1人は同じくギルドに現れた隊長と呼ばれた男だ。


彼らは馬から降りると剣を抜いてこちらに近づいて来る。

すると彼らの姿にディエルは息を吹き返した様に勢いを取り戻し当然の様に命令を行った。


「おお、援軍か。すぐにそいつらを捕らえよ。イヤ、男の方は始末しろ!王に仇なす反逆者だ!」


しかし兵士たちは俺達を無視して剣を抜いたままディエルへと近づいて行った。

そして隊長と言われていた男は手に持つ紙を広げディエルへと読み上げる。


「反逆者ディエル・ウル・アルタ。お前を国王の命により捕縛する。」


その突然の言葉にディエルは反射的に腰の剣を抜こうと動く。

しかしそれを見た隊長は一瞬で距離を詰めると拳を振り上げディエルの顎を打ち上げた。

そして更にふらつくディエルの顔を横から殴り付けて意識を刈り取って見せる。


隊長は一仕事終えたと額を拭い、とてもいい笑顔で空を見上げる。

そして周りを確認するとすぐに一緒に来ていた兵士に指示を出した。


「半数はすぐにこの反逆者を城に連れていけ。それとあそこの無実の男を解放しろ。彼は王からの覚えもいい人物だ。丁重に扱え。」


兵士たちは指示を受けるとすぐに動き始めた。

そしてディエルはジョセフを乗せて来た馬車に乱暴に放り込まれ城へと連行されて行く。

また2人の兵士はジョセフの元へ走り彼の枷を外して何やら小瓶を渡した。

それを飲むとジョセフの体にあった傷は瞬く間に治りこちらへと歩いて来る。

恐らく使ったことはないがポーションと言う回復薬だろう。

何でもまともに作れる者が少なく在庫も殆ど無い物だが王家なら持っていてもおかしくない。

そんな物を使うと言う事は王自身が今回の事に責任を感じているかジョセフがそれだけ親しい間だと言う事だ。

さすが会うだけでアポが必要な大商人と言ったところか。


「蒼士、さっそく助けられてしまったな。」


そう言って苦笑いを浮かべるがその顔には大きな疲労が見える。

恐らく回復薬では精神の疲労までは回復しないのだろう。

それに数日牢に入れられていたからか体中汚れが酷く、衛生管理もされていなかったのか酷い匂いをさせている。


すると冬花はそっと魔法を使いジョセフの汚れを綺麗にした。

ジョセフは体から匂いが消えた事に一瞬驚いているようだったがすぐに笑顔を作って俺たちにお礼を言ってきた。


「助かる。これですぐに娘に会える。ところで娘が何処にいるか知らないか?」


そこで段取りを思い出し俺は視線を広場から少し離れた路地裏に向けた。

この辺り一帯は魔族の出現で人の気配が殆どなくなっているのでクレアの気配を見つけるのは容易になっている。


俺の視線に気づいたクレアは走ってこちらに向かって来る。

色々と想定外の出来事があったのでどうするのか確認に来たようだ。


「蒼士、もう大丈夫なの?」

「ああ、すまないがクレアたちを連れてきてくれないか?」

「分かったわ。でも歩くと遠いわよ。」


すると俺はニヤリと笑い次の言葉をクレアへと告げた。


「ここから飛んで行け。きっと今後の役に立つ。」


しかし、その表情に不安を感じたのかクレアは近くにいた隊長に念のため確認を取ることにした。

もし何か問題があればエルフとしての自分の立場では弱いと心配しての事だろうけどクレアは根が真面目なので仕方ないだろう。


「あの、ここから飛んで行ってもいいですか?」


隊長はクレアの説明不足ともとれる言葉を聞いて魔法で空を飛んで行くのだろうと思ったのだろう。

この世界では一部の者が魔法で空を飛ぶ事が出来るそうだからな。

それ故の勘違いだろうが隊長は俺達の会話から空から行けばすぐに連れて来られる距離に居るのだろうと軽い感じで考えた。


「いいぞ。すぐ戻って来られるのだろう。」

「ええ。そんなに遠くはないからすぐに戻ってきます。」


俺は両者の会話が微妙にズレている事に気付いていたがあえて何も言わないでおいた。

冬花も当然その事には気付いていたが今にも笑い出しそうなのを堪えて二人のやり取りを見守っていた。


するとクレアは許可が出たのを確認するとカルラの元へと向かう。

そしてカルラに「お願い」と言うとその姿をドラゴンへと戻す。

それによって隊長を含めた兵士たちがその白く美しい姿に棒立ちとなりただ見詰める事しかできなくなった。

そしてドラゴンに飛び乗ったクレアはカルラに指示を出し、そのまま大空へと飛び上がり彼方へと消えていく。


そして、クレア達がいなくなると俺と冬花は二人そろってクスクスと笑い合いながら周りを見回すのであった。

どうやらドッキリは大成功したみたいだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ