21 処刑
時間は遡り、ジョセフは突然やって来た兵士に渡された命令書を読んでいる。
そこには店の物を全て徴収、いや、没収するという事が書き記されていた。
ジョセフは新手の詐欺かと疑いそこに押されている王印を見るが、偽物でない事を示す特殊なインクで押されている事が店にある魔道具で確認できた。
そのためジョセフは従業員に逆らう事を禁じ全員を避難させる。
そして、商品が全て無くなり兵士がいなくなるとジョセフは事情を知るために娘を残し王城へと向かって行った。
その際、ララには来るなと言ったが責任感が強い彼女はどうしてもと無理やり付いて来てしまった。
そして、ジョセフは城の前まで行くとすでに多くの者が来ており人で溢れている。
その光景にどうやら被害が自分だけではない事をジョセフは感じ取った。
しかし彼らは揃って顔色が悪くし、力なく城の前から少し距離を置いて立っているだけだ。
おそらく、最初に陳情の声を上げる決心がつかないのだろう。
そう思いジョセフは率先して門前の兵に話しかけた。
「この度、当店の商品が全て国に徴収されましたがあれはどのような理由でしょうか?」
すると兵士は面倒くさそうに頭を掻きながら立ち上がり二人へと近づいて来た。
ジョセフはいつもと違うその不真面目な兵士の姿に疑問を感じるが、その場で返答を待った。
しかし、今日に限っていえばその判断は大きな間違いであった。
兵士は何の忠告もなく拳を握りジョセフへと振り下ろして顔面を殴り付ける。
ジョセフはその突然の蛮行に反応できず、拳を正面から無防備に受けてしまいその場で土埃を上げて倒れる。
その姿にララは急いでジョセフへと駆け寄り傷の具合を確認した。
運のいい事に血は出ているが大したことはなさそうだ。
歯は折れておらず骨も折れてはいない。
これなら軽い回復魔法でも十分に治す事が出来るだろう
しかし兵士はそんな二人へと向け大声を上げて罪状を告げた。
「貴様は王の命令に不服を言った反逆者だ!近日中にはその大罪に見合った刑が執行されるだろう。」
そして、ジョセフは周りにいた他の兵士たちに連行され城内へと連れていかれた。
しかし兵士たちはそれで終わりにはしなかった。
城からは更に複数の兵士が現れララを取り囲むとジョセフを盾に縛り上げ殴る蹴るの暴行を加えた。
その行為には一切の躊躇がなく、服は破れ体中に痛々しい痣や傷が出来る。
ただ幸いなのは兵士たちの気紛れで剣を抜く者がいなかった事だろう。
もしそこまでエスカレートしていればララの命はここで摘み取られていたかもしれない。
そうならなかったのは単純に兵士たちが小遣い稼ぎにララを使おうと考えたからだ。
奴隷として売り払えば多少なりとも酒代の足しになる。
ただそれだけの理由でララは生き残る事が出来た。
そして暴行に飽きると兵士の一人が大きな麻袋を持って現れた。
それは通常、死体を運ぶ際に使われるものだが兵士は気にする事無くララをそれに詰めこんでいく。
それを知る兵士たちはニヤつきながらその行為を眺め、終わると同時に一人の兵士がララを担ぎ上げた。
「それじゃ行って来る。」
そして暴行により気を失ったララがそれに抗う術はない。
恐らく今から奴隷商のもとへ行きララを売りつけるのだろう。
その一部始終を見ていた周りの者は先ほどよりも更に顔色を悪くした。
そして、そんな彼らに兵士は追い打ちを掛ける様に声を大きくして問いかける。
「お前たちも反逆者か?それなら今の男と一緒に牢へ案内するが。」
兵士は冷淡に笑いそこに集まっている商人たちに見下すような視線を向ける。
すると、その効果は絶大で門の前に来ていた人間は一人残らず逃げ出し、城門の前には誰もいなくなった。
それを見て兵士たちは大声で笑いを上げ、詰め所へと戻って行く。
そしてこの話は商人から町中に広がりこの後には城に近付く者は誰も居なくなった。
その後、捕まったジョセフは牢の中でも幾度となく暴行を受けた。
そして兵士の一人が漏らしている会話が耳に入ってくる。
「さっき門の前で遊んでやったエルフの女。たった10万にしかならなかったぜ。」
「なんだよそれ。そんなんじゃ酒飲んだら終わっちまうぜ。女ともろくに遊べねえ。」
「まあ、所詮はエルフだしな見た目は良いが汚らわしい亜人なんか抱く気も起きねーぜ。」
「それもそうか。」
「「ははははは」」
ジョセフは兵士たちの会話を痛みにかすれる意識の中で聞き奥歯を噛み締めた。
そしてララの事を心配する一方で店に一人残して来た娘の事を思う。
もし無事なら一人でも母親の元まで行けるだろうか?
この世界はあの歳の少女が一人旅をするには厳しすぎる。
恐らく旅の途中で魔物に襲われ食われるか、盗賊に捕まり死ぬより苦しい目に遭うか。
ジョセフの頭の中ではララとティファが死んでいく姿が何度も繰り返し思い浮かんだ。
そしてふと先日再会した蒼士の顔が思い浮かぶ。
もしかしたら彼ならララは無理でもティファぐらいは助けてくれるかもしれない。
ジョセフは僅かな希望を心の中で託すと限界を迎えて意識を手放した。
そして次に意識が戻ったのは次の日の朝である。
そこで兵士から信じられない宣告を受けていた。
「反逆者ジョセフ。貴様を本日の昼、中央広場の死刑台で処刑する。」
その宣言にジョセフは目を限界まで見開いたがそれ以外の反応は出来なかった。
兵士が言った言葉が頭の中で何度もリピートされていたがその意味を理解できなかったのだ。
そして、兵士が去って行き、しばらくしてやっとその意味を理解し始めると力なくその場に蹲り神に祈った。
「娘だけは助かりますように。」
しかし、その思いに答える者は誰もおらず返って来るのは遠くにいる兵士の馬鹿笑いだけだ。
それでも薄暗い牢の中でジョセフは一人神に祈り続けた。
そして昼が近づくと兵士たちに連れられ牢付きの馬車に乗せられるとジョセフは処刑台へと連れていかれた。
処刑台の上に立つとその前には多くの人々が集まっており目を凝らせば知っている顔が何人も確認できる。
しかし彼らの顔は例外なく歪んでおり、商売敵ではなく友としてここに来てくれている事が分かった。
そして視線だけを動かし周囲を見ていると2人の人物を発見した。
彼らは自分の正面、15メートル先にある頑丈な柵の外に居る。
しかし、その二人とは蒼士と冬花の事だが、なぜかこの事態に笑顔で手を振っている。
そのためジョセフにはそこだけが別の空間に見えてしまい、こんな状況にも関わらず気付けば口角を上げて笑みを浮かべていた。。
その光景にジョセフの脳裏に蒼士と再会した日の会話がフラッシュバックする。。
『王家がちょっかい出して来たらすぐに俺に連絡しろ。力になる。』
あの時は冗談だと思っていたが、この瞬間諦めていたジョセフの胸に希望の火が灯る。
そして蒼士を見ていると口だけを動かして何かを言っている様だった。
ジョセフは商人としても長年の経験から、その口の動きから言葉を読み取る。
(助けてやろうか?)
蒼士は既に助ける事を確定していたがワザとジョセフへと問いかけた。
これはちょっとした冗談だったがジョセフは蒼士の言葉をしっかり読み取り首を縦に振った。
ちなみに横に振っても助ける事には変わりない。
蒼士はジョセフの行動にニヤリと笑い頷きを返した。
すると先ほどの大男が現れ「これより処刑を執り行う。」と宣言した。
俺達の前に現れた男はいまだ動かずその場に立ち続けている。
すると再び皆に向かって声を上げた。
「処刑の前に皆に言っておくことがある。それはこの第二王子ディエル・ウル・アルタがこの国の新たな国王となったことだ。」
その宣言に広場にいた者は全員が黙り動く事すらしなくなった事で全ての音が一斉に消えた。
しかし、次第にざわめきが始まり広場は混乱に包まれ始める。
周りからは前王はどうしたのか?
第一王子はどうしたのか?
なぜこんな時に宣言をするのか?
そんな色々な疑問の声が上がり、人々が話し出し広場は一瞬で騒音に包まれた。
たが兵士の中に魔導士がいたようで、空に大きな炎を打ち出して周囲を威嚇する。
俺から見ればただ大きなだけで威力も碌にない魔法ではあるが知らない人々には十分な効果があったようだ。
それを見て人々は驚きと恐怖から再びその口を塞ぎ沈黙と静寂が支配する空間を作り出した。
そして、それに気分を良くしたのかディエルは笑みを浮かべ魔法を放った兵士へと頷きを送ると再び話し始める。
「皆の疑問はもっともだ。だがここで皆にある事実を伝える。」
そこでいったん言葉を切り勿体ぶる様に周りを見回し時間をかける。
そして周りが注目している事を確認すると続きを話し始めた。
「ひと月ほど前だ。神より魔王出現の神託が下された。だがわが父はそれを秘匿し皆に伝える事をしなかった。そのため私は動き、心ある兵たちと共に前国王を捕らえた!」
すると広場に再びざわめきが起き始める。
しかしディエルが話し始めるとその声は静かになっていった。
「そして皆の知る所だが第一王子は体が弱い。そのため魔王との戦いには不向きなため必要に駆られ私が王の座に就くことにした。」
ディエルの言っている事は乱暴ではあるが多少の筋は通っている様に思う。
だがこれは何処から見てもクーデターであり彼は完全な簒奪者だ。
しかし、国民はこれを否定することが出来ないだろう。
もし否定すれば奴の後ろで縛られているジョセフの様に処刑される未来が見えているからだ。
ディエルは処刑をチラつかせる事で国民を黙らせその力と勢いで国民を納得させようとしている。
「そして王都中から徴収した武器やアイテムは魔王との戦いに使わせてもらう。それとこれは世界の危機である。そのため老若男女問わず必要な時は民兵として徴兵する!」
しかしディエルは最後に巨大な爆弾を全国民の頭上から投下した。
恐らくは多くの者は大人しくしていれば大丈夫。
魔王も国や兵士がどうにかしてくれると考えていた者が大半だろう。
しかし、その考えが甘かった事で絶望と恐怖に震える顔をディエルへと向けている。
だが逆らえば確実な死が待っている事から、反対する声は一人として出そうとはしない。
そしてディエルは周りを見回しある人物に目を止めた。
それは最前列にいる俺達・・・というか冬花だろう。
冬花が勇者である事は王族なら既に知っているだろうから当然と言っても良い。
また、その者が女でありとても美しい事ももちろん知っている。
するとディエルは芝居かかった言葉と大げさな動きで冬花へと声をかけた。
「おう、そこにいるのは神に選ばれた勇者ではないか。」
その言葉に広場にいる全員が冬花へと視線を向ける。
しかし、国側から向けられる視線と民衆から向けられる視線は大きな違いがある。
民衆からは縋るような、助けを求めるような視線を向けられ、国側からはニヤ付いた、女を値踏みするような厭らしい視線を向けられた。
すると冬花はワザと俺の後ろに隠れるとその存在をアピールする。
その途端にディエルは目を吊り上げ、兵士へを指示を出した。
「おい!あの二人を俺の前に連れてこい!」
すると兵士が柵の端からこちらに現れ民衆を無理やり掻き分けて俺達の前までやって来た。
「陛下がお呼びだ!すぐにこちらへ来い!」
その命令に俺と冬花は笑顔で頷き、その場でジャンプをすると柵を簡単に飛び越える。
その姿に兵士たちは警戒し槍を俺達へと向けてきた。
鍛え上げられた兵士ならこれ位は容易いはずだが彼らの実力はそれほど高くないようだ。
魔王との戦争になっても民兵を盾に生き延びるつもりのなのかもしれない。
しかし、兵士たちは数の有利から俺たちを侮り、実力の違いが絶望的なほど開いている事に気付けない。
そして、それはディエルも同じのようだ。
「お前は何者だ!?なぜ俺の勇者と共に居る!?」
「俺の・・・か。」
ディエルは怒りに任せ叫ぶように問いかけて来た。
それはまるで冬花は自分の物だと宣告するようにも聞こえる。
どうせパーティーメンバーなら理由をこじつけて別れさせ、恋人なら殺してしまえば良いとでも考えているんだろう。
しかし、俺はそんなことお構いなしと涼しい顔で冬花の腰に横から手を回して抱き寄せた。
ここでキスまでしなかったのは我ながら自制が効いていると自分を褒めたいくらいだ。
「お初にお目にかかる。俺は冬花の夫の蒼士だ。」
そう言って俺はこの世界に指輪交換があるかも知らず左の薬指を見せる。
そしてそれに合わせて冬花もシュピっと音がしそうな勢いと笑顔で同じ指を見せた。
実際この世界では結婚指輪は存在しないが冬花の表情と、同じ物を身に着けている事から嘘を言っていない事を感じ取りディエルは表情を消した。
「残念だよ勇者。純潔ならば第1王妃にしてやってもよかったがな。」
しかし、その時点から冬花の顔からも表情が消える。
そして押さえていた怒りが限界に達したようで次第に殺気が漏れ始めた。
だが周りの者はそれにまだ気づかない。
もし、即座に気付けるほどの者がここにいればこの後の展開も少しは変わったかもしれない。
しかし、冬花は怒りに任せてディエルへと告げた。
「あなた如きが私の夫?付け上がるのもたいがいにしなさい。私の愛する人はどの世界でもただ一人。この人だけよ!」
そう言って冬花も蒼士へと腕を回して抱き着いた。
しかし、ディエルは王族としてここまでの拒絶を受けた事が無いのか怒りに顔を赤らめる。
恐らくは王子である事を利用し欲しい女は全て自分の物にして来たんだろう。
好きな時に抱き、飽きたら捨てる。
そんな男の自尊心が冬花の言葉に耐えられるはずがない。
なにせ、冬花は職業は神に選ばれた勇者だが身分だけを見れば平民と変わらないからな。
「そうか、ならばお前は奴隷として我が国のために死ぬまで働いてもらう。そして男の前で毎夜犯し倒してやろう。その時お前がどんな声で鳴くのか楽しみだ。」
するとその言葉に冬花の怒りがとうとう振り切れる。
しかし同じく俺も怒りが振り切れ気が付けば剣を抜いていた。
その途端二人の前に立つ兵士たちは自らの死ぬ姿を幻視した。
ある者は首を切られ、ある者は胴を切られる。
またある者は魔法に焼かれ、又は切り刻まれる。
その姿に兵士は誰も動くことが出来なくなり、代わりに体から冷や汗やそのほかの液体を垂れ流した。
しかし、動かなくとも死神は既に手の鎌を振り下ろす準備をしている。
冬花は俺が魔法の準備をしている事を瞬時に感じ取り一歩後ろに下がる。
そして俺が指を一本立て、兵士たちに向けるとそこから赤い光が伸び集まった兵士たちを横薙ぎにした。
起きた現象はただそれだけだった。
そのため兵士たちは何が起きたのか分からず、その場で周りを見回す。
しかし何も起きていないと見た兵士たちは今の事をコケ脅しと考え俺と嘲りの籠った視線を向けた。
どうやら強そうに見えるのは雰囲気だけで実力は大した事が無いと思ったらしい。
「なんだ今の光は。魔法もろくに使えないのか?なら俺たちが手本を見せてやるよ。」
そう言って兵士は魔法を放つために腕を向けてくる。
しかし、その兵士はその時初めて自分の腕の肘から先が無くなっている事に気付いた。
「あれ、俺の腕は?」
そして混乱する思考の中で、足元に転がる自分の腕を目にして初めて異常に気付く。
だが、腕が切り落とされているのに傷口からは一切の血は出ていない。
しかし、意識すれば周りからは人が焼ける時に出る何とも言えない異臭が鼻に付いた。
「腕、俺の腕が。あ、ああ、ぎゃああああーーー。」
その叫びと共に周りの者も自分の異常に気付き始める。
そして悲鳴は次第に兵士たちに広がっていく。
しかし次第に切られたのが自分の腕だけではない事に気が付く者が現れた。
突然、目の前の仲間の体がズレ始めたのだ。
それは次々と周りに広がり、兵士たちの顔は次第に絶望へと染まる。
そして最後の兵士が倒れるとそこには血の流れていないが凄惨な光景が広がった。
俺と冬花はそんな兵士たちを軽く飛び越え処刑台の上えて飛び乗る。
後ろではまだ死んでいない兵士たちの悲鳴やうめき声が聞こえるが、今の俺には既に関係ない。
そして冬花も同じの様で後ろを気にする事無く俺へと種明かしを要求してくる。
「蒼君。あれは何をしたの?赤い光が走ったのは分かったけど。」
「ああ、あれは火と光の複合魔法でレーザーを再現してみたんだ。生き物に使ったのは初めてだけど凄い威力だな。」
「そうだったんだね。でも他で使う前に試し打ちが出来てよかったよ。」
「そうだな。使い所を考えないといけない魔法だな。」
別に他人に聞かれても真似が出来ないのは分かっている。
これを使うには常人を遥かに超える魔力と魔法制御の為のイメージが必要だ。
おそらく今の段階でこれが使えるとすれば冬花しか居ないだろう。
クレアでも魔力がギリギリと言った感じだがイメージするのが不可能だ。
それ以前にアイツは未だに複合魔法のスキルを持っていないからそれから覚えないとな。
そして俺達はディエルの前に立ち顔を向けるが、その視線は既にゴミを見るよりも冷たい。
しかし、第2王子のディエルは現状に理解が追いつけず、怒りの視線を俺に向けていた。




