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20 処刑の朝

朝となり俺たち4人は目を覚ました。

そして店の厨房を使い簡単な朝食を作り始める。

この時に活躍したのは意外にもクレアである。

彼女は料理が得意らしく、そこに残っていたパンや野菜、ベーコンを使い簡単なサンドイッチを作ってくれた。

ちなみに冬花も一人が長く、料理上手だったので同じ事が出来る。

ただ、カルラは見た目が人間でも中身はドラゴンだ。

恐らくは作らせれば切る事もせずに丸々の食材が出て来るだろう。


そして俺はそれを手に取り色々な方向から凝視しながら観察を行う。

それによって幻影でない事を確認し、ニオイを嗅いで危険な刺激臭が出ていないかを確認する

ここは剣と魔法のファンタジー世界なので、ファンタジーな食事が出て来てもおかしくはない。

しかし、俺の感覚とスキルを総動員してもこれは普通のサンドイッチと言う事しか分からなかった。


「凄いな、まさか本当にサンドイッチが出てきた。ハ・・・。もしやこれはサンドイッチに見える別の何かか?」


俺の力を持ってしても分からない程に完ぺきに偽装された何かなのかもしれない。

しかし、俺の言葉にクレアは顔を赤らめながら目を吊り上げ、手に持っていたサンドイッチを奪い取った。


「まさかも何も、これは正真正銘のサンドイッチよ。文句があるなら食べるな!」


そして奪い取ったサンドイッチへ無造作に齧り付き口の中で咀嚼して飲み込んだ。

さらに準備してあった水で喉を潤すと得意げな視線をこちらへと向ける。

実は今日の朝食は俺も手伝おうとしたのだが体感的にも30年以上。

あちらの世界でも殆ど料理の経験のない俺は包丁は使えても料理が出来なかった。

そのため現在厨房には失敗した朝食が散乱している。

もし何も知らない者が厨房を覗けば如何にすればこのような破壊的な状態になるのか首を傾げた事だろう。

その状態とは、まな板は切り裂かれ、竈は焼け焦げ鍋は変形して底が抜けている。

辺りには食材であったものが散乱し、感性がズレた芸術家の中にはもしかするとこの状態をアート作品と勘違いする者がいるかもしれない。

俺はその光景を思い出しながら大きな溜息を吐いて仕方なく残っているサンドイッチに手を伸ばす。

そして、今度は何もする事なく普通に嚙り付いた。


「・・・・・・美味いな。」


俺の悔しそうな一言にクレアは得意そうに笑顔を浮かべる。

そして俺が食べ始めると冬花も続いてサンドイッチに口を付け始めた。


その様子に満足したのかクレアも食事を再開し、それに続いてカルラも食べ始める。

4人はサンドイッチを完食するとクレアが新たに淹れてくれたお茶を片手にとる。

新たにというのは俺が最初に淹れようとして急須を破裂させたからだ。

どうしてそんな事が起きるのか俺自身が知りたい。


「俺と冬花は今から処刑台に向かう。お前は処刑台が見える場所で待機していてくれ。そして、俺たちがジョセフを救出したらカルラに乗ってジョセフの回収を頼む。」


昨日の内に計画は説明してあったので2人からの反論や意見はない。

そして二人は頷くと椅子から立ち上がった。

クレアは店から出る際にエルフとバレてしまわない様、フードを深く被り確認するとカルラと共に出発して行く。

それを俺と冬花は手を振って無言で見送り、しばらくすると俺達も最前列を取るために立ち上がった。


そして店内を見回せばあれだけ豊富にあった商品は何も残っておらず、商品は小物に至るまで国の兵士が徴収という名の略奪を行い持って行っている。

居住スペースに置いてあった思い出の品はティファが全て回収しているが、店内は兵士に荒らされ再びここで商売をするには大変な準備をしなければならないだろう。


そんな荒れ果てた店を背中にしながら俺達は処刑場となっている中央広場へと向かった。

向かう際に周りの声に聴き耳を立てればこの処刑に否定的な意見を多く拾うことが出来る。

しかし周りの兵士を気にしているのか、その声はどれも小さく、少数の者が集まって話しているのが殆どだ。

ある程度集団が大きくなると兵士が近寄り乱暴に散らしているのも原因だろう。


そしてその声の中には今の状況が理解できない者が大半を占めているようだ。

どうやら彼らの知る国王はこのような事をする人物ではないらしい。

国を思い、民を思う。

そう言った事が出来てそれを実践していたようだ。

そのためこのような蛮行を行う人物ではないという声を多く聞いた。

恐らくはそのおかげでエルフの様な人種でなくてもこの国に滞在している者が居るのだろう。

もしかすると人の寿命は短いので次の世代になれば差別も薄れるかもしれない。


そしてさらに歩いていると興味深い話も聞こえて来た。

どうやらこの国には3人の王子がいるらしい。


第一王子は23歳で聡明だが体が弱く病気になりがちである。


第二王子は20歳で軍事に秀でており体が強く頭はそこそこいいが戦好きでよく他国とも問題を起こしているようだ。


第三王子はまだ幼さが残る14歳で頭脳は第一王子に劣り、軍事は第二王子に劣る。

しかし今の王と同じく国と民を思い時折町に出ては民の声を聞き、それを王へと伝えてくれているそうだ。

そのため幼いながらも民からの信頼と人気は高い。


そして周りの話を聞きながら歩いていると目の前に中央広場が見えてきた。

しかし、まだ時間は早いが既に人々が集まり始めている。

俺たちは周りを見回して広場の状況を確認した。

今までは相手に警戒されない為にここには訪れず、来たのが初めてだからだ。


そして広場は円形の形をしており、前後左右、4方向に大きな道がある。

その内の一つは王城へと続いているようでここからは城が良く見える。

そして城への道と処刑台に立ち入りが出来ない様に木の柵が作られ区分けがされている。


俺たちはデートスポットを歩いているように気楽な雰囲気で柵に近づきその前で足を止めた。

そこからは処刑台を見渡すことが出来、処刑台からも15メートル程ととても近い距離になっている。

俺達は可能な限り気配を押さえその時を待つ。


しかし、それでは流石に暇なので待ち時間を潰すための準備を始めた。

俺は店で拝借して来た椅子を取り出して二人で腰を下ろす。

出来ればベンチタイプが良かったのだがあそこには一人用しか置いてなかったので仕方ない。

そして冬花は喉が渇いたと言い出し今度はテーブルと準備しておいたお茶を取り出した。

更についでにと同じように店から拝借した茶菓子を取り出したことでそこはあっという間にオープン・カフェテラスへと変わった。


しかし、ここまですれば兵士が気付いて近づいて来るかもしれない。

そのため俺は光魔法で幻影を作り出して見た目をカモフラージュする事を思いついた。

そして風魔法で防音の結界を張り声が外に漏れるのを防ぐ。

この時、昨日この事に思い至っていれば移動がもっと楽に済んだと若干悔しい思いが頭によぎる。

しかし、既に過去の事なのでお茶とお菓子でその悔しい思いを飲み干すと気分を変えるために冬花へと話しかけた。


「そう言えば冬花はまだアイテムボックスを持ってなかったな。」

「そうだね。それに今まではそんなに必要に感じる事は無かったんだよね。この世界に来て体は丈夫になったし生きること自体に興味が無くなってたからだけど。」


冬花はその時の事を思い出したのか寂しそうな表情を浮かべる。

しかし、そんな顔も俺と視線を交わすと簡単に消え去り、再び柔らかい笑顔を浮かべてくれる。

きっと幻影で隠れていなければこの美しい大輪の花の様な笑顔に人だかりが出来ているだろう。

そして、冬花はその笑顔のままに俺の手を握り言葉を続けた。


「でも今は蒼君を含めて沢山の大事なモノがあるから欲しい気持ちはあるよ。それにこれからも大事な物が沢山出来そうだしね。」


そう言って冬花は頬を赤く染めながら見つめてくる。

きっと俺と再会する事で再び身嗜みなどを気にし始めた事も原因の一つだろう。

幾つか例を挙げるなら、服や下着などの私物の持ち運びも必要になる。

流石に全てを許したと言っても一人の女性として譲れない一線は存在する。

また、これから旅をして行けば、必ずイレギュラーとして別行動が予想される。

その際の対処法としてアイテムボックスは必要不可欠な存在と言えた。


「そうか、それなら俺がアイテムボックスを覚えた時の事を説明するから試してみてくれ。これはティファで試して成功してるから、きっと冬花も覚えられる。」


そして蒼士は冬花にアイテムボックスの覚える方法を説明した。

しかし、その方法が余りにも簡単で冬花も呆気にとられる程だ。

こういった顔は滅多に見られないので新鮮で可愛らしく思える。

そして、冬花は試しにと腰の剣を取り外して手に持った。


「じゃあ、この剣でまずは試してみるね。」


冬花はステータス画面を確認しながら剣を手にして念じてみる。

すると呆気なくステータス画面にアイテムボックスのスキル名が追加された。

それを見て冬花は内心でホッと安堵の息を吐きその事を教えてくれる。


そして一度アイテムボックスに剣を入れると今度は指輪を試すために薬指へと手を伸ばす。

外す時に一瞬ためらったが、意を決して指輪を外しアイテムボックスへと入れた。

するとアイテムボックスのスキル名の横に無限の文字が追加される。

そして冬花は先ほどの説明から自分にとってもこの指輪が心から大切に思える物だと立証され、嬉しさのあまり抱き着いてきた。


「やったよ蒼君!私もアイテムボックスが無限になったよ。」


その姿に俺も嬉しさで心が満たされ冬花を抱きしめ返した。

周りから見えず聞こえないとしても、今のこの状況では往来でする事ではないだろう。

しかし、ラブラブオーラを纏った俺達にとってはそこが何処だろうと関係ない。

それどころか最近は二人っきりになれていなかったので夜の営みが疎かになっている。

いっそこの結界を解いて兵士を皆殺しにし、ジョセフを力づくで助け出してから宿に直行したいくらいだ。


俺達はそんな事を考えながらひとしきり喜びを分かち合うと冬花は再び剣と指輪を取り出して装備した。

そして、俺から自分の荷物を受け取ると自分のアイテムボックスに移し替える。

それに下着などはやっぱり思う所があったのか受け取る時に恥ずかしそうにしていた。


そして、それほど時間を置かずに周りの人が増え始めたので家具をしまい結界を解除する。

近くにいた人々は突然現れた俺達に驚いて視線を向けるがすぐに処刑台に意識を戻し始めた。

どうやら周りの声を聞く範囲ではこの様な事は過去にそれほど例がないようだ。

前回は各国で犯罪を犯した盗賊団の頭領がこのように処刑されたと話している。

だが今回処刑される者がそのような事をするとは考えられない。

やはり王都でも有数の大商会の店主ともなれば知名度も大きいようだ。


しかし、そうなるとジャンルは違ってもあの奴隷商がティファの顔を知らなかったのが気になる。

相手も同じ商売人ならその娘の顔ぐらいは知っていてもおかしくない。

まあ、冬花のメイク技術で何処かの貴族令嬢の様にしていたので気付かなかったのかもしれないが。


そして広場がいっぱいになり次第に処刑場にも兵士が集まり始めた。

兵士は処刑場の柵の中を囲むように配置され、たとえ策を抜けてきた者が居たとしてもすぐに対処できるような位置取りをしている。

また、装備は槍を手に持っている事から、柵を越えようとする者は問答無用で攻撃される可能性がある。

こう場面が整って来ると時代劇の処刑場を直に見ているようだ。


そして広場が多くの人々で溢れ、兵士が位置に付き終わると王城の方向から2台の馬車が現れた。

見れば一つの馬車の荷台には檻が乗せられており、その中には首と手を木の枷で繋がれたジョセフが入れられている。

その見た目は先日会った時とは違い疲れ果て、破れた服の間や顔などには幾つもの殴られた跡が見て取れる。

その姿に街の人々からどよめきが広がり、口を手で押さえたり視線を逸らした。

そして俺と冬花はその姿を最前列で確認し目を細める

しかし今にも溢れ出しそうな殺気を何とか抑え込み一緒に現れたもう一台の豪華な馬車を睨みつけた。


そしてその馬車が止まるとそこからは逞しい体つきの身長2メートルを超える大男が姿を現した。

服装が豪華な事から冬花はその人物が貴族だろうと予想したが俺はその男に覚えがある。

それは冬花の記憶の一つで奴は冬花を自分の女にするために城に招き、勇者だと知ると冬花を奴隷にしようとした事がある。

その時の冬花はまだ弱く追い詰められた末に城の高所から飛び降りて自殺した。


その光景を思い出し俺は二つの意味での殺気を押さえる事に苦労し、顔を先ほどとは比べ物にならないほど歪ませる。

その雰囲気から冬花は一つの事に気付いたようだ。

俺がこんなに怒りを抱くのは自分の事だけだと知っているのでこれまでの話から予想が着いたのだろう。

それに今の雰囲気はギルドで5人の男を殺した時にとても良く似ている。

なので冬花は自分の事で怒りを感じてくれるのは嬉しく感じるが、悲しみや怒りの感情に支配されてほしくないと心配そうな顔を向けて来る。

そのためそっと俺の手を握り締め、その柔らかさと暖かさで怒りを消し去ってくれる。


そして、それに気付いた俺も何度か深呼吸を繰り返しその手を握り返した。

その時、一瞬漏れた殺気に周りの人々や兵士が恐怖に体を震わせているが移動が困難なため顔色を悪くしたままその場に立ち尽くしている。

さらに気の弱い者は既にその場に倒れて気を失っている者もいたが、それを気にかける余裕は誰にも無かった。


そして男は処刑台の上に立つと会場中に響く声で宣言した。


「これより処刑を執り行う。」

「うおーーー!」


それによって兵士は槍を掲げて声を上げ、周りの人々からは悲鳴やどよめきが上がり始める。

男はそれを処刑台の受けから満足そうに見下ろすと視線を動かして兵士へと指示を出した。

どうやらようやく処刑が開始されるようだ。

これが劇や映画ならこういった演出は嫌いではないが現実では不快感しか湧いてこない。


俺は周囲から上がる声に紛れて言葉を零した。


「さて、この処刑をぶち壊そうか。」

「うん!」


そして、俺達はこの茶番をぶち壊すために動き出すのだった。

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