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2 冬花の情報とギルド加入

ジョセフは俺の返答を聞くとナイフを手にフォレストウルフに近づきその胸を切り開いていく。

そして心臓を取り出すとナイフを突き立て何かを抉りだした。

ティファに目を向けると同じように作業を始めこちらもかなり手際が良い。


何そしているんだ・・・?


俺は周りを警戒しながらその作業を見続ける。

そしてしばらくするとジョセフは抉りだしたものを水で洗いこちらに持って来た。


「この魔石は街のギルドでしか買取ができませんのでお返しします。この先の街では魔石の売買がギルド限定ですので気を付けてください。個人同士で取引している事がバレると衛兵に捕まってしまいますので。」


俺は魔石を受け取ると入れ物も無いので適当にポケットに入れておく。


「分かった。情報に感謝する。町に向かいながらでいいからその町の事を聞いてもいいか?俺はそういった事に疎くてな。」

「それなら構いませんよ。それと少し待ってください。フォレストウルフを収納しますので。」


そう言ってジョセフはフォレストウルフのもとに向かい手で触れた。

すると一瞬でその姿が消え、そこには血の跡だけが残されている。

俺はその光景に驚くとジョセフへと無意識に問いかけた。


「消えた!どこに行ったんだ?」

「ああ、私は収納スキルがあるのでそこに納めました。このまま馬車に積むと邪魔ですし傷んでしまうので。」


しかしその答えに俺はただ頷く事しかできなかった。

そして本当に異世界に来た事を実感し、冬花の事が更に心配になって来る。


この世界に降り立ってまだ数時間しか経過していない。

しかし、その短い間に俺の常識の多くが早くも崩れ出している事に自然と心が焦る。


「こんな世界に一人で17年か・・・。」


俺は冬花の事を思い小声で呟き空を見上げた。


その後は馬車に乗り、新たな魔物が現れない内に町へと向かい出発する。

血の臭いに釣られて他の魔物が集まってくる可能性があるからだ。


ちなみにフォレストウルフは毛皮が傷んでいないので合わせて20000Gで買取してもらえた。

単位がよくわからないがこの先の街ではリンゴが一個50G、肉が1キロ1000Gとの事なので日本の1000円が2000G位だろうと考えている。

あと宿は一泊食事付きで3000~5000で泊まれると教えてくれた。


そして重要な情報も聞くことが出来た。

どうやら今向かっている町には勇者の職業を持つ者がいるらしい。

だがとても評判が悪く誰とも仲良くせず、常に一人で行動しているそうだ。


「その人の名前は知っていますか?」


俺は表情をなるべく変えず、平静を装って問いかける。

しかしこの商人には通じなかったようで苦笑と質問が返された。


「お知り合いですか?」

「分かるのか?」

「ええ。これでも客商売ですからね。勇者の話をした時。あなたの目つきと雰囲気が別人のように変わりましたよ。」


俺はため息をついて下を向き、それを見たジョセフは何か訳有りだと気付いたようだ。


「確証はないが俺が長い間ずっと探している人かもしれない。俺は命に代えてもその人を護ると誓っていたんだ。しかしある日、俺の前からいなくなってしまってな・・・。」


その言葉と雰囲気にジョセフは呑まれてしまい唾を飲み込んだ。

しかし、この世界ではよくある話だ。

病気による突然の死。

盗賊や魔物の襲撃。

親が口減らしのために子供を奴隷商へと売る。

生死は別にしても蒼士から相手を探し続けている者独特の雰囲気がある。

そしてジョセフは彼が子供の頃に分かれた相手を探しているのだろうと思った。


「わかりました。先ほど渡した布はお持ちですね。」


そう言われた俺は先程の布をポケットから取り出して見せる。


「それは私が所属する商会の印です。困った時は店に来てください。微力ながら力をお貸しします。」


その申し出に俯いていた俺は顔を上げてジョセフの目を見た。

すると、そこには優し気ながら力強い何かを感じる事が出来る。

しかし、さっき会ったばかりの相手にそこまでの迷惑はかけられないだろう。


「いいのか?俺は悪人かもしれないぞ。」

「ははは、人を見る目はあるつもりです。」


しかし、俺の遠回しの言葉にジョセフは大笑いをして答えた。

そして突然、真面目な顔になり互いに視線を交わす。


「大事な者を護るのは命がけだぞ。」


そう言って彼は後ろに視線を送り商人ではなく親の顔へと変わる。

それに気付くと俺も「ああ、分かってる。」と小さな声で答えた。


そして、ジョセフの言った通り、それほど時間もかからず前方に街が見えてきた。

そこは巨大な街で中央には城のような物があり、町の外周は城壁に囲まれている。

門の前には槍を持ち金属鎧を着た兵士が町に入る者の確認をしているようだ。

俺達はそのまま進み、門の前に居る兵士たちの前で停止する。


「次の者、身分証を確認する。」


兵士はそう言ってこちらに近付き声を掛けて来る。


やばい、身分証がいるのか。

そんなの持っていないぞ。


すると内心で焦る俺の横でジョセフが兵士へと笑顔で話しかけた。


「私と娘の身分証です。ただ彼は冒険者ギルドの身分証を失くしてしまったらしいのでギルドで再発行が必要です。」


すると何も言っていないのにジョセフが適当に話を作り兵士を説得し始めた。

それに勝手に話が進んでいるがここは彼に任せるしかない。

知識のない俺が話してもトラブルしか起きそうにないからな。


そう考えていると兵士はこちらに視線を向けて来ると確認を取ってくる。


「この人の言ってることは本当か?」

「はい。その通りです。」


そして兵士はしばらく俺の顔を確認していると後ろから来た兵士がタグを渡してくる。

俺はそれを受け取り確認すると再び兵士へと視線を戻した。


「これは仮の身分証だ。今日中にギルドで新しい身分証を再発行してもらいここに持ってこい。それとこのタグには場所を知らせる魔法が掛かっているから来なかったら担当の兵士がお前を捕らえに行くから注意しろよ。」


そして兵士は入り口から50メートル程離れた建物を指さした。


「ギルドはあそこだ。近いから簡単だろ。」


そう言って兵士は厳しい表情を緩めて初めて笑顔を見せる。

もしかすると高圧的なのは仕事だからで根はいい奴なのかもしれない。


「分かった。すぐに行ってくるよ。親切にありがとう。」


そして3人は街へと入り俺は彼らと別れ、一人ギルドに向かう。

中に入ると正面に受付があり横には酒場があるようだ。

俺は受付に向かい話しかけることにした。

受付は5つあるが今開いているのは2つだけだ。

一つは綺麗な受付嬢が笑顔で相手が来るのを待っている。

きっと人が多い時ならあそこには長い列が出来るだろう。

そしてもう一方は40代の中年女性で色気は無いがその鋭い眼光でこちらを観察する様に見ている。

しかし、俺は迷う事無く先程からこちらを見ている中年女性に声を掛けた。


「ギルドに加入したいのだが可能だろうか?」


俺は話しかけるとともに彼女の胸に付いているネームプレートを確認する。


ジェシカさんね。


「はい、ここは冒険者ギルドです。ある程度の実力は必要ですがそれさえあれば誰でも加入できます。」

「分かったそれならお願いする。」


俺がそう答えると彼女はカウンターの舌から水晶を取り出した。


「これに手を置いてください。」


俺は彼女の言葉に従い水晶に手を乗せる。

すると水晶は淡い光を放ちそれを見ながら俺に言葉を掛けて来る。


「お名前をお願いします。」

「蒼士です。」

「ソウシ様ですね。分かりました。」


彼女は慣れた手つきで用紙に必要事項を記入していく。


「それでは説明します。」

「この水晶であなたのお名前と一部のステータスを確認いたしました。こちらに間違いはありませんか?」


俺は彼女の差し出した用紙を確認する。

初めて見る字だが問題なく読める。

試しに何か書こうと指を動かすと剣の時と同じように自然と書きたい文字をなぞってくれた。


あいつら、かなり説明を端折りやがったな。

まあいい、俺もあの時は時間が欲しかったから文句を言うのはお門違いか。


そして思考が脱線している事に気づいた俺は急いで用紙を確認する。

そこには名前と簡単な事が記入されていた。


名前 ソウシ

魔力 あり

職業 剣士

スキル

剣術


それだけが記載されていた。


「多分、問題ありません。でも俺に魔力があるのは初めて知りました。」


すると彼女は俺の言葉に訝しそうな視線を向ける。


「あなたはステータスを確認した事がないのですか?」


すると女性は小さな声で「ステータス」と唱える。

そして彼女の前に半透明の板のようなものが現れそれを片手で指差した。


「これがステータス画面です。やってみてください。唱えながら出ろと念じれば出ます。逆に消えろと念じれば消えます。」


俺は彼女に促され「ステータス」と唱えるとこちらにも同じものが現れた。

彼女を見るとホッと安心したように息を吐きその様子を確認している。

どうやら見た目は厳しいがこの人は親切で、出来る受付嬢のようだ。

俺は自分のステータスに視線を向けと先ほど紙に書いてあった事と殆ど同じことが書いてあった。


だが紙には書いてないが俺のスキル欄には言語理解と天才がある。

どうやら全てのスキルが表示されるわけではないようだ。


だがおかしい。

あの女が付けたのは才能だったはず。

その時に確認はしていないが間違えたのだろうか?


しかし俺は一旦ステータスを消すと彼女に向き直った。

先程から何かを待っている様なのでまだ何か言いたい事があるのだろう。


「それでは、当ギルドの説明をします。」


そして思っていた通り、彼女はギルドの説明を始めた。

簡単に言うと。

ギルドにはランクがSからEまでありSが最高となる。

自分のランクよりも一つ上の仕事まで受けられる。

悪いことをしたらギルトから最優先の討伐対象にされる。

ギルド内の宿を格安で借りられる。

この町を拠点にする時は物件をギルド価格で斡旋してくれる。

素材や魔石を買い取ってもらえる。

解体を無料で依頼できる。


そして説明が終わると一枚のカードを渡された。

そこにはランクEと名前。

登録した町であろう名前が書いてある。

カードにはアルタ王国 王都ギルト と書かれていた。


そして、最後に勇者に付いて教えてくれた。

勇者は黒髪の18歳くらいの女性らしいく、1ヶ月ほど前に現れギルドに登録し、この町で活動していると教えてくれた。

だが凄い男嫌いでこの間など絡んできた男の冒険者の手を瞬時に切り落としたらしい。

そして、常に氷のような冷たい目をしており、必要以上の事は誰とも話さないそうだ。

だが強いのでギルドとしては達成困難な仕事を斡旋しているらしい。

常に深夜に現れるそうで、今日も来る事になっているので気を付けるように言われた。


俺はその情報をくれたジェシカに笑顔でお礼を言うと背中を向ける。


「色々情報をありがとう。今夜また来るよ。」


しかし俺のその言葉に彼女は目を細め声が冷たくなる。


「あなたは人の話を聞かない人ですか?」

「その人は俺の探している人かもしれない。だから俺に会わないという選択肢は無いんだ。」


しかし彼女の表情は変わらない。

そんな彼女に俺は小さく溜息が零れる。

これは一筋縄では行かない雰囲気だな。


「もしかして復讐ですか。彼女ならどこで恨みをかってもおかしくありませんから。」

「いや、故郷の幼馴染かもしれない。俺の生きる理由の全てなんだ。」


そこまで聞いて彼女は驚きに細めていた目を見開くが俺は気にせず出口に向かおうとした。

すると突然、彼女に呼び止められ再びそちらに顔を向ける。


「待ってください。それならギルドの宿を使用してください!このギルドの隣です。」

「分かった。使わせてもらうよ。」


俺はそう言ってギルドを出てまずは先ほど渡されたタグの返却を行い宿へと向かった。


宿に入るとすぐに食堂がありいくつものテーブルが並んでいる。

俺は横の階段傍にある受付に向かうと、そこにいた女の子に声をかけられた。


「いらっしゃい。ここは冒険者ギルド会員専用の宿ですが冒険者の方ですか?」


俺はさっき作ったばかりのギルドカードを取り出すとそれを確認してもらう。


「まだ綺麗なカードだから加入してすぐの方ですか?」

「そうだね。俺は今加入したばかりだから説明をお願いできるかな?」


「はい。まずここは冒険者ギルド会員専用の宿です。食事は夜と朝の二回。お風呂は大浴場がありますが有料で500Gいただきます。宿は一泊が3000Gになります。」


と言う事は風呂も入ると合わせて3500Gか。先ほど聞いた価格から考えると優良価格だな。値段の検証は追々する事にしよう。


「それで頼む。風呂もお願いしたいから3500Gだね。」


俺はジョセフから貰った袋からお金を出すとカウンターへと並べる。

それを素早く数えて袋に入れると後ろの壁に掛っている鍵を1つ取りこちらに差し出して来る。


「ありがとうございます。それではこちらがお部屋のカギになります。二階の手前の部屋ですね。食事は日が沈み始めた頃から取れますのでお好きにどうぞ。それとこちらの札を出していただければいつでも大浴場はお使いできます。」


俺は鍵と札を受け取って部屋へと向かう。

そして、部屋に入ると俺はベットに横になった。

ベットは木張りでかなり固いが俺には気にならない。

日本中をバイクで旅をしていたため地面等に寝る事も多かった。

食事も簡素な物が多く冬花が消えてからは食事を楽しんだ記憶がない。


そして俺はそのまま夜に備えて少し眠る事にした。

すると思っていたよりも疲れていたのか睡魔はすぐに訪れ俺の意識は闇に沈んでいく。

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