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19 処刑前夜

俺たちは今後の行動を決めるため、店の一室に集まっていた。


「まず、俺の意見を言う反対する者はその都度言ってもらいたい。」


そう言って俺は周りを見回し反対者がいない事を確認すると話しを始めた。


「まず今から言う者は今夜にでもこの町から退避してもらう。」


そして俺はララを含むエルフ3人に目を向けた。

その視線を受けララ以外の二人のエルフはホッと肩の力を抜き、ララは僅かに顔をしかめる。


「その二人は当然だが、ララの今の立場は奴隷だからな。連れて行ってイレギュラーに巻き込まれるとジョセフの救出が困難になる。そこを踏まえて今回は避難させることにしている。それにティファも同じく避難して貰う。」


するとティファは驚いた直後に口を開きかけたが言葉を発する前に悔しそうに口を閉ざす。

ティファも明日の救出時には戦闘が避けられない事に気付いたのだろう。

それに、彼女には戦闘経験が無いので無理に連れて行っても足手まといになる。

それならば町を出て安全な所で俺達を待つのが現実的だ。


「分かりました。私は3人と一緒に街の外でまっています。だから父さんの事をよろしくお願いします。」


ティファは顔は今も悔しそうで手は服を強く握り締めている。

目も今にも泣きだしそうだが強く堪えて涙を抑えた。

その様子に冬花やクレア、ララ達3人も辛そうな顔になる。

しかし、明日はお祭りに連れて行くわけではないので俺はティファの思いを汲んで妥協はしない。


「それで悪いがクレアとカルラは今夜中に闇に紛れてこいつらを外に逃がしてやってくれ。場所はそちらに任せる。」


するとカルラはクレアに視線を向ける。

どうやらクレアに判断を任せた様だ。


「分かったわ。それで、その後はここに戻ってくればいいの?」

「ああ。明日、ジョセフを助けたらティファの元まで送って行ってくれ。その後は騒動が終わるまでその場で一緒に待機していてもらう。」

「蒼士と冬花は一緒に来ないの?」


それはここの皆が思っている事だった。

目的を果たせばこの町に用はないはずなのでそのまま一緒に脱出すると思っていた。

しかし、俺は首を横に振って否定を示した。


「俺は城に用がある。ホントは冬花も避難させたいんだが・・・。」


そこまで言って冬花へ視線を向けてみる。

しかし、そこには笑顔を浮かべた冬花が居り、俺の思いを否定する。


「蒼君。私は付いて行くよ。」


そのうえ、冬花の顔には反論は認めませんと強い思いが籠っていた。

俺はこんな時の冬花は何を言っても引いてくれない事を知っているため早急に説得を諦めた。

その様子にクレアは少し唇を尖らせているが俺はあえて無視して話を続ける。


「それじゃあ、ティファ達が避難するのは深夜になってからだ。全員野営の準備をしておいてくれ。アイテムで足らない物は何だ?」


すると、ティファは顎に手を当てて足りない物を考え始める。


「テントが無いです。あとは武器でしょうか?」


そして足りない物を言うと武器はクレアが予備の弓矢を出してくれた。

エルフは弓が得意な特性を持っているので3人は喜んでそれを受け取り状態を確認する。

そして冬花がそれぞれに予備のナイフを渡すが、武器と違って防具の予備は無い。

出来れば調達したいが今の状況では不可能だろうと全員諦めた。

最悪、その辺の兵士から奪うと言う手もあるが彼女らも今の心情ではそんな物を使いたくないだろう。

そして、必要な物をティファはアイテムボックスに詰め込んでいき準備を整えていく。


食料に移動に使う荷馬車。

そして思い出の品。


しかしこの時ティファは気付いていないが思い入れが増した物を入れる事により、本人が気付かないうちにアイテムボックスの容量が大きくなっていた。

そしてその容量は何十倍にも膨れ上がり今ではジョセフに届こうかと言うほどだ。

ティファも思っていたよりも物が入る事から少し気になってはいたが今は深く考える余裕がないため準備を優先させた。


「ティファ・・・。」


そして、準備をしていると後ろからクレアが声をかけてくる。

しかしその手には見覚えのない袋が握られておりティファは首を傾げた。


「忘れたの?これは依頼の成功報酬よ。」


そう言ってクレアはお金の詰まった袋をティファへと差し出す。

しかしティファは苦笑いを浮かべて首を横に振り受け取りを拒んだ。


「このお金は受け取れないわ。私は貴方から預かったお金を無断で使って追加で奴隷を2人も購入してしまったわ。これは商人としてはとてもいけない事なの。」


すると今度はクレアが微笑んで首を横に振る。


「あなたは約束通り姉さんを助けてくれた。それに同胞まで救ってくれたわ。それにあなたとの契約は姉さんを救う事とあなたが命を賭けた事の二つ。余ったお金をどうするかは決めていなかった。だからこれはあなたの物よ。」


そう言って再びお金を差し出した。

そして、ティファもここは彼女の行為に甘えることにしてお金を受け取ることにする。

このあと蒼士への支払いもあり、今はお金が無いため実際はティファに選択肢は無かった。


その後ティファはアイテムボックスから契約書を取り出すと紙が自然と光り始める。

そして契約が無事終了した事を示すように完了の文字が浮かび上がった。


ティファは一つの契約を終えた事で心に嬉しさが込み上げてくる。

今が非常時でなければもっと子供らしく素直に表へ出して喜ぶ事が出来ただろう。

しかし、その喜びは父親の救出後だとその思いに一時的に蓋をした。

そして、明日に父親が無事に助けられなければ、この蓋は一生開くことはないだろうと寂しさと悲しさをその胸に感じ胸を押さえる。

それはまるで胸に穴が開いてしまったような虚無感をティファへと与え恐怖に満たされていく。


するとそれを見ていたクレアが力強強くティファの肩を掴んだ。

そして満面の笑みを向けると自信に満ちた表情で声を掛ける。


「大丈夫よティファ。あいつは強いんだから。て言うか、強すぎるくらいなの。だからあいつに任せておけば大丈夫よ。」


すると、こっそりと背後から忍び寄り話を聞いていた俺も話に加わる事にする。

それにしてもそこまでプッシュされるとは思わなかったな。

てっきり貶されながら笑い話として元気付けるものかと思ってたよ。

まあ、ここはクレアに合わせて俺も少しは励ましてみるか。


「そうだな、そんな暗い顔しなくても明日にはジョセフに会える。それに俺の強さはそいつの言った通りだ。なにせおれの強さに驚いてそいつチビ」

「ってない!私は断じてチビッていないからね。」


クレアは俺の言葉を予想し、更に大きな声で被せるように否定する。

その必死な様子にティファはクスクスと淑やかに笑い笑顔を向けて来た。

そしてティファは昨日からの悲しみや焦りが少しでも軽くなったのか、先程までとは違い体の緊張が抜けているようだ。

それを見て俺は少し笑顔を見せるとその場を離れて行った。

後は精神年齢の近いクレアに任せれば良いだろう。

しかしクレアはいまだに俺の背中を睨みつけながら両手を上げる威嚇のポーズを取っている。

それにあの様子だと見えない場所から気配を消して様子を窺っているララがいた事には気づいていないだろう。

そしてララもクレアが子供らしい感情を見せている事とティファが笑ったことに笑顔を浮かべている。

その姿に感情をあまり表に出さないくせに過保護なんだなと俺も自然と笑みが浮かんでくる。

俺も依然と違い冬花が傍に居る事でこうして心から笑えるようになった。

あのまま元の世界を彷徨っていれば永遠に失われていた感覚だろう。


そして、そんな一幕が過ぎ去り今は深夜となっている。

今から避難する4人はカルラの正体を知らない物ばかりだ。

そして皆がここからどのように移動するのかを疑問に感じている時にカルラはドラゴンの姿へと戻った。

ティファは初めて見る本物のドラゴンに言葉を失い、カルラの顔を見上げて固まっている。

しかしエルフの3人は咄嗟に戦闘態勢を取り腰のナイフを引き抜いた。

すると焦ったようにクレアは手を広げ、カルラと4人の間に割って入る。


「みんな待って!このドラゴンはカルラだから安心よ。私と契約してしばらく力を貸してくれる事になったの。」


今は夜であるので大きな声は出していないがエルフは耳が良いらしいので十分に伝わったようだ。

すると3人の変化は劇的だった。

俺達もカルラの背中でクレアから話は聞いていたが、彼女たちもその伝説を知っていたようで驚愕した顔をクレアに向ける。

そして、3人は武器を収めるとその場に跪いて謝罪を述べた。


「カルラ様。我らの無礼をお許しください。今後も妹を頼みます。」


するとカルラは謝罪を受け取ったとララ達に向けて頷いた。


「分かった。任されよう。」


元々彼女らが持っている程度の武器ではカルラに傷も作れなかっただろう。

それを分かっている為か、カルラ自身にも最初から警戒心も緊張も感じられ無かった。

そして3人は立ち上がるとララはティファの傍まで近寄りその肩にそっと手を乗せる。


すると短い悲鳴のような声を上げてララを見上げた。

そして「ははは」と誤魔化すように笑うと苦笑いを浮かべる。

すると、僅かに足をモジモジしているのを見た冬花は優しく近づいて彼女にクレアと同じ魔法をかける。


その途端に不快感が無くなった事を感じたティファは顔を赤くして小声で「ありがとうございます。」と言って頭を下げた。

その姿にクレアは既視感と親近感が湧いて温かい目をティファへと向ける。

きっと仲間が出来た事が嬉しいのだろう。

ティファもさっきの俺とクレアのやり取りを思い出したのか、それに気付いて更に顔を赤くしながらララの背中へと隠れてしまう。


しかしこのままでは出発が何時になるか分からないため仕方なく俺が指示を出す事にした。

カルラは出会った時から気が長いのは分かっていたし、ララもティファやクレアには遠慮がちだ。

ハッキリ言って俺か冬花が急かさないと本当に日が上ってしまう。


「そろそろ出発した方がいいぞ。野営の準備も必要だからな。」


そしてようやく俺と冬花を除いた者達が迅速に動き始める。

カルラは乗りやすいように地面に伏せ、そこにまずクレアが背中に乗った。

そしてクレアとララに手伝ってもらいながらティファが乗ると残った3人のエルフはジャンプして素早く背中に飛び乗った。


そして背中に捕まるとカルラはバレない様にゆっくりと闇夜に消えていく。

音も風もほとんど無かった事のでカルラが自分で消したか、エルフたちが補助したのだろう。

そしてそれを見送った俺達は再び部屋へと戻って行った。

今は深夜と言ってもまだ11時くらいだが明日に備えて眠る事にしていた。

明日は昼から死刑が行われるので早朝から並び先頭で待機するつもりだ。



そして二人が眠りについたころ、クレアたちは近くの森に到着していた。

それと同時に全員がすぐにカルラから降りて野営の準備を始める。

森で野営となるがエルフが3人も居るためで、草原よりも森の中の方が種族特性を生かせると判断したからだ。

エルフは夜目も利いて耳も良く、森に住み慣れた種族である。

恐らくは彼らに奇襲を掛けるのは並のSランク冒険者でも不可能だろう。


するとカルラは全員が降りるのを確認すると再び飛び立ち、周囲を旋回し始めた。

そして、しばらく旋回すると周りに被害が出ないレベルの魔法を使いこの周囲一帯へと自分の魔力をばら撒き始める。

すると、周辺の魔物の気配が遠ざかって行き、数分もすると辺りから気配が消え広範囲な安全地帯と変化した。

どうやらドラゴンの魔力を感じた生き物が、この一帯から逃げ出してしまったようだ。


そして、カルラもそれを感じ取り再び地上へと降りて来る。


「これでしばらくは安全だ。」


その言葉に気配を感じ取っていたララが率先してお礼を述べる。

いくら3人のエルフが居るとしても危険な場所であるのは間違いない。

特に子供のティファが居るので危険が遠ざかった事に安堵を感じていた。

これで気にする必要が有るのは人間だけとなるが、獣程には隠密性が高くない。

近寄れば確実に相手よりも自分達の方が先に気付く事が出来る自信があった。


「ありがとうございます。カルラ殿のおかげで数日は安全に過ごせそうです。」


カルラはそれに頷いて答え野営地を見渡した。

するとそこにはすでにテントは建てられ火も焚かれ野営の準備は完了している。

今日は既に食事は終えているので後は野営用のテントに入り眠るだけだ。


そしてここでクレアは思い出したように竜笛を取り出した。

今朝は門を通らずに入ったため騎竜はまだ返却していない。

もしかしたら呼べば来るかもと期待してクレアは竜笛を吹いた。


すると何処からか何かが近づいてくる気配と足音が聞こえる。

そして、近くまで来ると足音はゆっくりになり近くの木の陰で止まった。

クレアは苦笑して気配に近づき、そっとそこを覗き込んでみる。


すると思った通りギルドで借りた騎竜がそこにはいた。

騎竜はクレアの顔を見ると嬉しそうに鳴きながら近寄り、再びクレアの顔を涎まみれになるまで舐め上げる。

そしてクレアは騎竜を連れてララの元へと戻って行く。

ララはそんな涎まみれの顔を見て微かに笑うが、それをどうにか噛み殺しながらクレアへと声をかける。


「その子はあなたの騎竜?やけに懐かれてるみたいだけど。」


クレアは苦笑を浮かべて首を横に振った。

そして騎竜を撫でながら簡単な説明を行っておく。


「この子はギルドで借りたのだけど返す暇が無かったの。今返しても国が没収するだろうから可哀相でしょ。だから後でギルドに行ってお金を払って買い取るわ。」


するとクレアの言った事が分かってるのか騎竜は嬉しそうに鳴いてクレアに頭を擦り付ける。

その姿はまるで小さな子犬の様で尻尾も激しく振られている。


「ちゃんと面倒見るのよ。」


ララはクレアにそう言いながらもチラリとカルラを見る。

すると、カルラはクレアに気付かれない様に小さく頷きララに心配ないと示した。


それにクレアとしても今の時点でずっと一緒に居られるとは思っていない。

騎竜もエルフと同じく寿命が長く長命の為、数年程度は誤差の内だ。

彼女は元々エルフの国でSランク冒険者になりそこを拠点に活動している。

実家もそこに有るのでもしもの時は預ければ良いと考えていた。


そしてクレアは騎竜をララに預け再び王都に向けて飛び立った。

それを見上げ4人は最良の未来が来ることをそれぞれの神に祈りを捧げる。

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