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17 ティファとの契約

俺達は王都の裏道をギルドに向けて走っていた。

表の道には多くの兵士が巡回しておりそれを避けるためだ。

しかし気配がすれば迂回をしているためなかなか目的地に辿り着けない。

そして10分の道程が1時間になり、ようやくギルドの前まで到着した。

流石にギルドには若干人の出入りがあるようなので俺たちは普通にギルドへと入って行った。

どうやら、今のところは個人の持っている装備までは手が回っていないようだ。

だが、それも時間の問題だろう事は分かっている。


そして中に入るとギルドは閑散としており受付には誰もいない。

職員は奥で仕事をしているようでそちらからは人の気配を多く感じる。

そのため俺たちは受付に行くと奥で仕事をしている者に声をかけた。


「おーい、誰か出てきてくれないか。」


すると奥から声を聞いてジェシカが姿を現した。

しかし、そこにはいつもの笑顔はなく、周囲を警戒しながら俺達の許へとやって来る。


「お帰りなさい。すみませんがちょっと奥までお願いします。」


そして俺たちはギルマスの部屋まで通され、正面の椅子には顔色を悪くしているギルマスが座っている。

彼は俺たちの顔を見ると力なく手を上げて元気の欠片も感じられない挨拶をしてくる。


「お帰り。君たちが出発した直後に国から通達があってね。」


そう言って彼は机の上に置かれた紙を俺たちに見せる。

きっと俺達の雰囲気から何が目的なのかを読み取ったのだろう

そしてその紙にはギルドで保管中のアイテムの徴収、素材の提出、人員の低額雇用が命令書と言う形式で書かれていた。

どうやら、他の冒険者が装備を持っているのはここに書いてある低額雇用のおかげのようだ。

しかし、言い武器や防具は次第に例外とされるので気を付けないといけない。


「あんたはこれに了承したのか?」


するとギルマスは首を横に振って否定した。

しかし、この様子ではそれに意味は無かったみたいだな。


「そんな物に同意するはずはない。しかし、この手紙を届けた使者が出て行くと同時に大勢の兵士が押しかけて全てを持って行ってしまった。その時に居合わせた冒険者は何人か抵抗したが兵士が逆らう者は奴隷にすると言った途端に抵抗を止めたよ。国が犯罪奴隷とした者は今後一生、奴隷から解放される事は無いから仕方がないがんね。」


そして悔しそうに拳を握り俺へと顔を向ける。


「君が言っていたのはこの事か?」

「いや、これはその一部だ。ここ以外にも商店などにも既にこの手の命令書が配られ同じような事が行われているだろう。」

「何をしているんだこの国は!?こんな事をしても魔王は倒せないのに!」


するとギルマスは次第に怒りに顔を染めて机に拳を振り下ろして殴りつける。

それによっぽど腹に据えかねているのか声に出して怒りを露わにした

しかし俺としてはこういう熱い一面もあるんだなと内心で笑みが零れる。


そして、そんなギルマスにジェシカは背後に歩み寄ると包み込むように抱きしめた。

すると怒りに染まった顔がだんだんと落ち着き、いつものように落ち着いた顔になる。

どうやら彼にとってジェシカは必要不可欠な存在のようで精神安定剤も兼ねているようだ。

俺はその様子にギルマスの評価を大きく上方修正する。


「しかし、俺たちはここに詳しい話を聞きに来たが碌な情報はなさそうだな。」


冒険者ギルドでこれならば他に行ってもまだ混乱も収まっていないだろう。

俺はギルドの現状を知って軽く溜息をついた。


「すまないな。今は国から戒厳令が発令されてあまり動ける状況ではないのだ。それでも時々やって来る冒険者の相手をする必要はある。彼らも急な国の対応に戸惑っているからね。」

「ところで、俺たちの依頼達成はどういう扱いになる?」


するとギルマスはクレアに今回の試験の事を確認し始めた。

まあ、色々と予定とは違う事が起きたが既にクレアからは推薦の確約は貰っている。

問題があるとすれば国の推薦の方だろう。


「彼らは十分な実力を兼ね備えていると判断する。私は彼らをSランクへと推薦しよう。」


するとギルドマスターは懐から黒いカードを取り出してこちらへと投げてきた。

それを俺と冬花は危なげなくキャッチし、そこに書かれている文字を確認した。

するとそこにはそれぞれの名前とSランクの文字が金色で書かれている。

どうやら昇級は無事に完了のようだ


「最初から準備していたのか?」


俺は軽く笑うとそれをアイテムボックスに収納して保管する。

これで無くしたり盗まれたりする心配はない。

そしてギルマスはそんな俺達に笑みを向けるがすぐに表情を引き締める。


「既に国からの推薦は貰っていたからね。それにどういう思惑があるのかは知らないが私はもともと推薦するつもりでいた。後は彼女の推薦があれば昇格可能だったのだよ。そういえば、ドラゴンはどうなったんだ?」


すると俺達たちは揃って苦笑しながらカルラを見た。

ギルマスはそれが何を示すのか一瞬分からなかったがカルラの目を見た途端に理解し冷や汗をかき始める。

その瞳は綺麗に輝いているが、人間の物ではなく瞳孔が蛇の様に縦に裂けている。

そこから初めて見る相手として予想が出来たのだろう。


「もしや・・・その方がドラゴンなのか!?」


するとカルラは俺達の前に出るとその瞳に2人を捉える

それを受け、ジェシカとギルマスは怯えて体が震え出し額から汗が流れ落ちる。

これでも気配や魔力を抑えているから大丈夫なんだろうが、そうでなければ恐怖に意識を失っているだろう。

そして、カルラはそんな2人に軽く一礼して短く声を掛ける。


「私はホワイトドラゴンのカルマ。しばらく彼らと旅をすることにしたからよろしく頼む。」


それだけ言ってカルマは元の位置へと戻った。

するとギルマスはジェシカに言って急いでギルドカードを作るように指示を出す。

そしてジェシカもその意図に気付き急いで部屋を飛び出て行った。


「すまないな。これで街の出入りが楽になった。」


今のままだとカルマには毎回、城壁を飛び越えて侵入させる必要が有る。

なのでいつかは何らかの身分証を作らなければいけないと考えていたのでこの配慮はとても有り難く感じる。


「気にしなくても良いですよ。彼女のカードを作るのにこのゴタゴタはかえって都合がいいですからね。それにこの借りはすぐに返してくれるのでしょ?」


そして俺に向けてニヤリと口を歪め、こちらも同じような顔で笑って返す。

きっと何も知らないで今の光景を見れば悪役は俺達の方と勘違いするだろう。

それにギルマスには既に勇者である冬花も狙われていると伝えてあるので当然の思考といえる。

そして、真実を知っていれば冬花が死ぬ可能性を作り出している王家を俺が許すはずはないと気付く。

ただし何もしなければ俺も王家をわざわざ敵に回す様な事はせずに放置しただろう。

しかし事を起こした以上はたとえ王家だとしても俺の慈悲が向く事はない。

ギルマスをあまり困らせたくも無いので皆殺しだけは勘弁しておいてやろう。


「ただしどんな形になるかは相手次第だな。それにまだいくつか確認したい事もある。そちらを先に片付けてからだな。」


するとギルドマスターは今までの経験から蒼士の僅かな変化に気が付いた。

ここで最初に会った時の彼なら冬花以外を置き去りにしてでも王家を滅ぼしに行っただろう。

だが、それ以外にも少しは気にかける者が出来たのかと心の中で安堵の息を吐く。

自分はジェシカのおかげで首の皮一枚で生かされた事を自覚しながら、蒼士には今後どんな形であれ気に掛ける相手を増やしていってほしいものだと願う。


「そうか。なるべく早急な解決を期待したいが、私にはこの事態に対処できるだけの力が無い。君の活躍に期待しているよ。」


そして再び扉が開きジェシカがギルドカードを手に部屋へと入ってくる。

カルラにそれを手渡すと蒼士たち4人はギルドから出て行った。

それを見てジェシカは心配そうな視線を彼らが出て行った扉へと向ける。


「アナタ・・・彼らは大丈夫でしょうか?」


彼女の中には仲良くしている冬花と、小さなエルフの少女クレアの事が浮かぶ。

クレアとの付き合いもそれなりに長いがジェシカからすると2人とも友であり娘の様な存在だ。

本当は危ない事はせずに平和な場所で幸せに暮らして欲しいと思っている。

しかしそれを知りながらもギルマスは小さな笑みを零した。


「恐らく問題はないだろうね。我々が心配するのは王族が全員腐敗していないかどうかだよ。その場合、下手をすると皆殺しにされて国が亡ぶ。」


そして今の二人は台風の中心にいるような思いだった。

嵐が吹き荒れ少しの間だけ落ち着いている。

そして台風の目から出ると再び激しい嵐に翻弄される。

そのため二人は今のこの時を大事にし、翼を休める鳥たちの様に寄り添い、成り行きを見つめる事にした。

もしかすると蒼士なら目の前に迫る次の豪雨を切り裂き、光をもたらしてくれるかもしれない。



そして、俺たちは再び裏路地を走り次の目的地であるジョセフの店に向かう。

しかし、今回はクレアの焦りを押さえられそうにないので出会った兵士はすべて気絶させる手段を取ることにした。

そして店の前に立つと入り口は荒らされ中から泣き声が聞こえて来た。

クレアは止まる事なく店に入り店の奥へと向かって行く。

俺も冬花と頷き合って中へと入るとその光景に顔を歪める。

そこは先日来た時とは大きく異なり棚は壊され商品が置いてあった台は倒れて端へ散乱している。

そしてそこには一つの商品も残っておらず、店員も見当たらない。

それにこの光景からは回収して行ったと言うよりも奪って行ったという印象を受ける。

どうやら店を回っている者達はかなり荒い連中のようだ。


そう言えば中世での戦争は勝った側が相手から奪う事を許可していたそうだ。

もしかするとここに来た奴らもそう言った経験を持つ奴らなのかもしれない。

戦闘に関係なくても後で売り払えば金に変えられるからな。


そして先に入ったクレアは「ララ姉さん!」と名前を叫びながら店の中を探している。

しかし俺達は泣き声のする方向へ向かい蹲って泣きつ続ける少女を発見した。

そして、その泣き声の主はジョセフと一緒に助けた少女のティファだ。

俺はティファの前で膝を付き、その肩へと手を乗せる。

するとビクッと跳ねるような反応を示し、怖がりながらゆっくりと顔を上げる。

最初は誰なのか理解できない顔をしていたが、次第に思い出したのか突然俺に飛びついて胸の中で泣き始めた。

俺はティファを払いのける事はせずにそっと抱きしめて泣き止むのを待つ。

そして次第に落ち着いてきたのか泣き声が止み始めた頃を見計らってから声をかけた。

その頃にはクレアも店内にララがいない事を確認し終え、俺の後ろで待機している。

しかしその顔には焦りが見られ、今にもティファに掴みかかりそうな雰囲気を放っていた。


「ティファ。そろそろ落ち着いたなら俺の質問に答えてくれ。ジョセフとララはどうした?特にジョセフはこの状況でお前を置いて何処かに行くような奴じゃない。あいつに何かあったのか?」


するとティファは再び泣きそうな顔になるが俺はティファの両肩を強めに掴み意識を逸らす事で泣くのを止めた。

少し乱暴だったためティファも顔をしかめたが今は時間が無い。

時間をかければ取り返しのつかない事が起きる可能性もあるからだ。


「ティファ。泣いていてもジョセフは助からないぞ。助けたいならどんな小さなことでもいいから行動しろ。」


するとティファはその場に再び俯いてしまった。

そして、ここで起きた事を話し始める。


「もう私には何も残ってないの。昨日のお昼に突然兵士が押しかけて来て国の命令書を父に叩きつけると店の商品を全て持って行ってしまったわ。でも父は命令に不服があるとララと一緒にお城に行ったきり戻って来ないの。店の従業員も今は家族が心配だからと家に帰ってここに残っているのは私だけです。」


するとその話にいち早く反応したのはクレアだった。

クレアはティファに駆け寄りその肩を掴む。

そして外に聞こえそうな程大きな声でティファへと問いかけた。


「じゃあ姉さんは城に捕まっているってことなの!?」

「ええ、従業員の話だと他にも同じように反抗した人は兵士が連行して行ったと話していたわ。」


するとクレアは先ほどギルドで聞いた話が頭の中でフラッシュバックし店から飛び出していく。

そしてカルラもその後を追いかけ付いて行く様に店から出て行った。


俺はあの二人なら何かあっても逃げる事も相手を倒す事も容易だろうと判断し再びティファに視線を戻す。


「ティファ。お前は大事な人を助けたいか?俺なら命を賭けてでも助けたいぞ。」


その言葉にティファはピクりと反応を返す。

そして床に爪を立てながら絞り出すように声を出した。


「私だって助けたい。もっとこれからもお話して、一緒に過ごして。母さんが仕事から帰って来たらまた3人で楽しく暮らしたい!でも私にはあなたのような力が無いの!!」


ティファの声は次第に大きくなり最後には叫ぶような大きさになっていた。

俺はそんなティファの心の叫びを聞いて顔に笑みを浮かべる。

どうやら心は諦めずに折れてもいない様だ。

それは、ティファが俺と同じく大切な者を本気で助けたいと思っているため。

そして俺と同じ思いを持っているからだ。

しかし、俺はここでさらにティファに試練を与える。


「なら、おれたちが助けてやってもいいぞ。」


その途端にティファは勢いよく顔を上げ泣き腫らした目を向けて来る。

しかしその視線には先ほどとは違う力強さと希望が宿っていた。


「しかし、俺たちは冒険者だ。タダでは動かない。だからお前が俺達を雇え。」


するとティファの表情が変わり何かを考え始める。

そして店の方へと走り紙とペンを手にすると再び戻ってきた。


「私は商人の娘よ口約束は信じない。今から契約を交わしましょう。」


すると俺は口元を持ち上げてニヤリと笑う。

やっぱりコイツには思っていた通り見込みがある。


「さすがジョセフの娘だな。それじゃ契約をしよう。こちらからの希望額は500万Gだ。あとこの王都にいる間は俺に協力してもらう。」


するとティファは今の条件を紙に書き考え始める。

そしてその後に達成条件を父とララの救出と書いた。


(条件は悪くないわ。協力するのは彼のパーティーではなく彼個人。それに王都に限られている。これはワザとかもしれないけどありがたいわ。でも金額が大きいわね。今の私は無一文なのだからこの金額は厳しいかもしれない。でも、父さんの命には代えられないのよ。)


「蒼士さん・・・。」

「ちょっと待て。」


考えをまとめて話しかけようと声をかけると突然止められてしまった。

私は条件を変更するのかと思い警戒を強める。


「俺とお前は対等に契約をしている。呼び捨てで構わん。」

「分かりました蒼士。私はこの条件で構いません。それでは契約完了でいいですか?」

「ああ、構わない。」


俺が最後に答えるとティファは紙を胸に抱いて祈りを捧げるように両手を組んだ。

すると紙が光始めそこにティファと俺の名前が刻まれる。


「神がこの契約を承認しました。」


契約が終わるとティファはホッとして肩の力を抜いた。

きっと彼女にとってこれだけの大きな契約は初めてだろう。

しかも今回は父親の命も掛かっている。

普通なら幼い少女が行うには重た過ぎる内容だ。


「これが商人が信仰している神の力か?直接見るのは初めてだな。」

「ええ、商人ギルドに所属するとその時から商売の神バルスミーデ様の信徒になりコントラクトのスキルを授かります。私も少し前に父に連れられて加入しておいたので良かったです。」


そして契約が終わり少しすると外から何者かが店に入ってくるのを感じた。

どうやらこれはお客さんが来店したようだ。

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