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147 光指す世界

現世に戻った俺と冬花は自分の体に戻り魂を定着させた。

すると同時に心臓は動き出し、意識を取り戻してゆっくりと目を開ける。

そして目を開けた二人の前には涙を浮かべたカグツチの顔が飛び込んで来た。

俺は起き上がるとその目に浮かぶ涙を拭い、その頭を優しく撫でる。

するとカグツチは蘇った俺の胸に飛び込み嬉しそうに笑顔を浮かべた。


「すまなかったなカグツチ。心配を掛けた。」

「いいのだ。それよりも急に魂が離れて心配したぞ。大丈夫だったか?それに二人から神の気配を感じるが何があったのだ?まるでお前たち自身が神になったようだ。」


そう言ってカグツチは俺の顔を見上げ鑑定ではなく直接問いかけた。

俺と冬花もどう言ったらいいのか悩んだが、今も少し離れた所でスサノオとカティスエナが戦っているのを見て思考を切り替えた。


「すまないカグツチ。詳しい説明は後だ。ただ言える事はお前の両親が俺達に加護をくれた。それとお前が感じた通り俺達は神になったらしい。そして、これからアイツを倒すためにお前の力を貸してくれ。」


するとカグツチは突然の事に喜んだり驚いたりと表情を変えながらも最後に頷きが返って来た。


「分かった。先程の手応えから私のこの身では奴に歯が立たない。私の全てをお前に託す。」


カグツチは俺に全てを託すことを伝えると一振りの剣を取り出した。


「これは3種の神器の一つ草薙の剣だ。今から私はこれに宿りお前の刃となる。後は頼んだぞ。」


カグツチはそう言った直後、俺の制止も聞かずに依り代から離れ代わりに草薙の剣に宿る。

すると草薙の剣は刃の部分に炎を纏い俺の手の中に収まった。

しかし、手に納まると剣からカグツチの声が聞こえ剣を顔の高さまで持ち上げた。


(大丈夫だ蒼士。戦いが済めばまた元の体に戻れる。)


俺は一瞬の迷いを見せたがカグツチを信じて頷きを返した。

そして、ステータスのスキルを確認し、そこに増えた新たなスキルを使用する。


「神気解放。」


すると体から神気が溢れ出しその身を神の物へと変化させた。

そしてその力は人間だった時とは比べ物にならない程膨れ上がっている。

どうやらスサノオの加護とイザナギの加護が相乗効果で高め合っているようだ。

そして、カグツチが宿る草薙の剣と合わせればカティスエナに迫る勢いになる。

だがそれでもまだあの神には及ばない。

あの神を倒すにはもう一つ何かが必要だ。

そんな時、冬花の下に光が降り注ぎアテナからの神託が届けられた。


「冬花、新たな力を得たようですね。その力は私と同じく戦の力を宿し、とても相性がいいようです。冬花、私の与えた能力は戦うだけではありません。今この時。攻められているからこそ発揮される力があるのを思い出しなさい。条件は全て揃っているはずです。」


すると冬花は急いでステータスを確認すると以前までグレーとなり使用が不可能だったスキルが使用可能になっている事を知った。

実際にはバストル聖王国との戦いの時にも使用は可能だったがその時は気付く事が出来なかったのだ。

しかし、アテナの神託によりそれに気付いた冬花は祈る様に手を組み必要なスキルを軒並み使用して行く。


「神気解放、防衛拠点をこの島に指定。加護の対象を蒼君に限定、防衛の加護発動」


すると冬花がスキルを発動しその足元にサークルが生まれた。

これはアテナがアルタ王国で行った加護と同じものである。

しかし、この加護を使うには相手が攻めて来ると言う限定条件があり攻めて行った時には使用できない。

しかも、使用中はその場を動くことが出来なくなってしまう諸刃の剣でもある。

更に冬花はその加護を俺一人に絞る事でその能力をカティスエナを凌ぐほどまで上昇させた。


俺は能力の上昇を感じ冬花に礼を告げると走り出した。


その速度は今までの全力が歩いていたのではと思えるような錯覚を受ける。

そして、俺の接近に気付いたスサノオは大きくカティスエナの剣を弾き上げ後ろへと下がった。

するとその横に俺は停止しスサノオへと話しかける。


「待たせてすまなかったな。」

「気にするな。ちゃんと最後の一口は残しておいてやったからよ。」


そう言って俺に余裕を見せるスサノオの体にめだった傷は見られず服が数カ所切れているだけであった。

しかし、俺は今までの訓練でスサノオの服にすら剣を届かせたことは無い。

その事からカティスエナの実力の高さが伺えると言う物である。


「これからは俺が引き継ぐ。すまないが冬花とカグツチの依り代を頼む。」


そう言って俺は剣を手に歩き出した。

するとカティスエナは再び嘲笑を浮かべ声に出して笑い始めた。


「どうしたの?せっかく生き返ったのにまた殺されたいの。まあ、逃げたとしても見つけ出して殺すのだけどね。今度こそ冬花に絶望を味あわせてあげるわ。」


そう言って襲い掛かるカティスエナに対して俺は笑みの形に口を歪めた。

そして、神となった俺は心の在り方でその姿を変える事がどう言う物なのかをその身をもって体感する事になる。


「逃げる?見つけ出して殺す?何を言っているんだ。冬花の命を脅かす存在を俺が見逃すはずはないだろ。」


カティスエナに叫び掛けた瞬間から変化は始まった。

体の筋肉が盛り上がり身長が2メートルを超える。

さらに額からは鬼の様な角が突き出しその目を血の様な赤に染めた。


そして神気を爆発させると手に持つ剣でカティスエナの剣を受け止めた。

その瞬間、後方に居た月読が笑みを浮かべて言葉を零した。


「100パーセントです。」


そしてこの時、とうとう冬花が死の運命から逃れる確率が100パーセントに達する。

俺は怒りを力に変え、身に宿る加護を十全に発揮してカティスエナの力を更に大きく上回った。


彼女は今、この世界で最も怒らせてはいけない者の怒りをかったのだ。

蒼士は今、種族、国境、宗教を越えた多くの地上に生きる者達からの信仰を一身に受けて力に変えている。

逆にカティスエナは天照が放った神気によりマイナスの波動が急激に弱まり弱体化を始めていた。

カティスエナはそれに気付き余裕が消えると、再び憎悪に燃える瞳を目の前の蒼士に向けた。

しかし、蒼士はそんな事には気付かず、上昇して行く力に後押しされこの戦いで初めてカティスエナに競り勝つ事に成功する。


だが俺の攻撃はそこで終わることは無かった。

弾き飛ばしたカティスエナよりも遥かに速い速度で詰め寄ると剣を横薙ぎに振るう。

そしてその際にはカグツチは火力を最大に上げ、更に神気で剣を強化した。

その横薙ぎの攻撃をカティスエナは剣を振って防ごうとするが今回の狙いは彼女自身ではない。

今回の狙いは神すらも即死されうる力を持ったその手にある魔剣だ。

そして俺とカグツチの全力の攻撃は見事に魔剣を切り裂く事に成功した。


「な、まさか貴様らーーー。」

「今頃気付いても遅いんだよ。お前には場数が、経験が絶対的に足りていない。だからこんな簡単なミスを犯す。自分の武器のスペック位しっかり把握しておくべきだったな。」


先程カティスエナが自ら言っていたようにこの魔剣は拾い物であり、神界で作られた特別製ではない。

そのため強力な武器ではあったが不壊属性は付与されておらず、想定を上回る攻撃を受ければ折れてしまうのだ。

今まではカティスエナの力で壊れない様に強化していたが、それを上回る今の一撃で限界を超えて折れてしまったのだ。

すると俺の言葉にカティスエナは苛立ちを隠す事なく柄だけになった剣を投げ捨てた。

そして替えの剣を出そうと動くが俺がそれを許す筈がない。

そのため剣を取り出すために異空間に入れられた手を何の躊躇もなく振り下ろした剣で切断した。


「ぎゃあああーーーー!痛い!熱い!・・・何よこれ!再生が発動しない。どういう事!」


そして叫ぶカティスエナに対して今度は剣を振り上げ反対の手を切り取るために斬撃を放った。


「ちょ、待って・・・。ぎゃあああ!よ、よくも・・・よくも私の腕を!」


しかし、そんな呪詛の様に言葉をこぼすカティスエナだが俺は既にこの神と話す事はない。

頭にあるのは冬花の敵を殺し、死の運命から救い出すと言う一点のみだ。

その為、この絶好の機会を逃す事なく、カティスエナを切り刻み灰に変えていく。

そして最後の一撃を頭に突き刺した時、初めてカティスエナの涙を見た。

そのため俺とカグツチは最後の焼却をいったん止める。

ここまで消耗すればどんな事をしようとも神同士の強大な力のぶつかり合いにおいて挽回はあり得ないからだ。

そして既に消滅寸前まで力を失ったカティスエナは俺に向けて語り掛けた。


「私は・・・死ぬのね。」

「ああ。報いを受ける時が来た。」

「ふふ、もうあなた達の顔を見なくて済むと思うとせいせいするわよ。」


俺はそんなカティスエナの言葉に苦笑を浮かべ表情を僅かに緩める。


「なんだ、もしかして復活出来ないと思っているのか?」

「当然でしょ。こんな事をした私を誰が許すと言うの。人の世が移ろい私のした事を忘れても神がそれを覚えているのよ。例え記憶を失っているとしてもきっと誰も手を差し伸べてはくれないわ。」


カティスエナは涙を流しながらにぎこちない笑顔を浮かべた。


(そう言えばこいつが笑っている所は最初に会った時以来見てないな。)


「そうか。なら期待せずに待っててみろ。きっとあの世界のお人よしの神々がお前に手を伸ばしてくれる。10年20年は無理でも100年200年先ならきっと機会がある。その時には今度は笑い合えることを期待する。」


すると閉じかけていたカティスエナは驚愕に目を見開いた。

そして溜息をつくと苦笑を浮かべて最後の言葉を告げる。


「あんた馬鹿ね。その時は今回の仕返しに来てあげるわよ。」

「そうか、ならその時は女神のままで来いよ。そうすれば殺さなくて済む。」

「分かったわ、約束よ。ああ・・・。なんだか眠くなって・・来たわ。なんだか・・・久し・ぶりに・・・良い・夢が・・・見れそう・・ね。」


そしてカティスエナは全ての力を失い自然消滅した。

これにより冬花は多くの者の助けを借り、無事に死の運命を回避する事に成功した事になる。


そして俺もスキルを解除すると無事に元の姿に戻ることが出来た。

カグツチも剣から離れ元の依り代に戻ると無事に目を開き俺と冬花に笑顔を見せる。

そして戦闘が終わった事で後方にいたベルも加わり、女性3人は喜びを分かち合うように

俺へと抱き着いた。


「蒼君やったね。これで未来に進めるよ。」

「蒼士、さっきは詳しく聞けなかったが父様と母様が力を貸してくれたなら改めて挨拶に行かなければ。知っての通り神としての位はかなり高いからな。」

「蒼士、主神はシャルキレムに任せて来たから私もこれからこっちで暮らせるのよ。実は天照たちがこっちで仕事を斡旋してくれることになってるの。パメラもクレアも落ち着いたら来るらしいから今の内に準備しないと。」


すると俺は同時に喋る3人の言葉を聖徳太子の様に聞き分け、それぞれに返事を返した。


「冬花と大学もいいが約束通り結婚式も上げないとな。大学生は結婚しちゃいけないって法律はないしな。」

「カグツチの言う通りだな。それにお前を貰うんだから両親に対しての挨拶もしておかないとな。」

「ベルはやっぱり主神辞めたのか。まあ、収まる所に収まってよかった。でもパメラとクレアが来るのは初耳だな。それにベルはこっちに来て大丈夫なのか?」


すると冬花とカグツチもそう言えばとベルへと顔を向ける。

しかし、ベルは笑顔で「大丈夫」と告げた。


「私は彼方の世界では追放されたことになってるの。それを天照がスカウトしたって形を取ったのよ。私の後継は補佐の子達が担ってくれるわ。私はこの世界に新たに導入された魔法の概念を司る神になるの。」


そしてベルは蒼士と冬花を見てクスリと笑う。

二人はどうしたのかと首を傾げるがベルはそんな二人にすぐに答えを返した。


「いえ、ごめんなさい。あなた達が神になったから何の神になったのか考えてたの。」


すると俺と冬花も天照から話は聞いたがどんな神になるのかは自分達次第だと言われていた事を思い出した。

しかし、どうやらベルの顔を見る限りある程度予想がついているようだ。

俺たちがその事を聞くとベルは素直に答えを返した。


「冬花はきっと魔法を含んだ戦神になると思うわ。半分は私と被るけど私達なら仲良く出来るから問題は無いと思うわ。でも蒼士は・・・フフフ。きっとカティスエナと一緒の才能の神が一番有力ね。あの子も復活した時に蒼士の事を覚えてたらきっと驚くでしょうね。」


そしてベルが笑っている理由を知った冬花とカグツチも笑い、俺だけはやはり微妙な顔で苦笑いを浮かべる。

やはり殺した相手、又は敵だった相手と同じと言うのは俺でも思う所がある。

しかし、今更変更など出来るはずもない。

その結果、俺はこの運命を素直に受け入れる事に決めた。


そして、戦いは終わった。

これからは神々が集まってそれぞれの領域で祝勝会である。

そして、この世界の新たな歴史の始まりを祝う記念日として日本の神界である高天原で盛大に飲み会が開催された。

そこには今回の功労者の一人である百合子も特別に呼ばれ、彼女は生身で訪れた第一号として名を刻む。

その際、百合子を知らない神がいちゃもんを付ける一幕が発生したが、百合子が取り出した酒の匂いに釣られたスサノオにコテンパンにされると言う出来事があったとかなかったとか。


ちなみにソーマは自分の領域に帰ろうとした時、酒好きの神々に拉致され日本の宴会に強制参加させられている。

もともとが彼らにとって始まりの神の一人であるイザナミの傷を治療した功績があるため、タダで返しては沽券にかかわると言う事で最初から逃がす気はなかったようだ。

ただ、ソーマとしては自身の究極の目的を達成しているので今の彼には十分な時間がある。

その為逃げることは無く、気前よく持参した完成品の酒を大量にふるまった。

そして、この事がスサノオから酒好き連盟に漏れると世界中の神々が集まって来たのは言うまでもない。

高天原は歴史上、類を見ない程のカオスな状況となり、宴は連日連夜続いた。

そして、神とは違う時間を今も生きる俺たちはすでに自分達のいるべき場所へと帰っている。

彼らはやっと訪れた安心して眠れる夜を全員で満喫していた。

そして、喉元過ぎれば何とやら。

世界がその変化を受け入れ始めた時。

再び事件が起きた。

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