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137 反撃開始 ①

椿ツバキ、どうした。お母さんに何かあったのか!?」


すると電話の向こうからは幼い少女の泣き声と共に女性の声が届いた。


「木道さん。奥様の様態が急変しました急いでこちらに来てください。」


その声と共に木道は立ち上がると外に向けて走り出した。

しかし、その背中を俺は掴むと片手でその体を持ち上げストップをかける。


「くそ、離してくれ。俺はいかないといけないんだ。」

「焦るな。走って行っても間に合うはずないだろう。それよりもどの病院か言え。俺が送ってやる。」


すると木道は目を見開いて驚いたがすぐに病院の名前を口にした。

冬花は携帯を取り出すと地図アプリを起動し現在地からの方角と距離を教えてくれる。


「これなら空港からが近いな。それじゃあ行くぞ。」


そう言ってまず空港に飛び次に上を向いて上空に転移する。

そして足元にシールドを張って立つと木道に目的地を確認させた。

木道は焦りながらも病院を指差し、それを見て今度はそこに転移して向かう。

そして玄関に立った俺と木道は急いで病室へと向かって行った。

すると部屋の外には大きな泣き声を上げる少女が居り、父親である一の顔を見るなりその足に飛び付くと病室へと引っ張り始めた。


「早く。早く来て。お母さん死んじゃう。」


そして病室の中からは既に心臓マッサージを行う音が聞こえていた。

俺は中に飛び込むと病室の中を見回し周辺を確認する。

するとそれに気付いた看護士が俺に駆け寄って来た。


「部外者は入らないでください。」


そう言って詰め寄って来た看護師を俺は素早く躱す。

そして危篤状態の聖を鑑定するとその状態に体から怒気が吹き荒れた。

その瞬間、周囲は凍り付いた様に静かになり誰もが手を止めてこちらへと視線を向ける。

すると俺は鑑定結果に出ていた『毒』を神聖魔法で消し去り、さらに回復魔法で治療を行った。

しかしその直後、鑑定で消えていた毒が再び点灯してしまう。

俺は扉を閉めて空かない様に溶接すると聖に歩み寄り点滴などを全て引き抜いた。


「な、君。何をするんだ。正気か?」


そう言って詰め寄る医師に向け蒼士は冷たい目で睨み返す。

そしてその首を掴むと再び聖を回復させながら医師に問いかける。


「この薬を準備したのは貴様か?」

「そ、それがどうした。私は手順に従い適切な治療をしているだけだ。」

「毒を打つのが治療になるとは初めて聞いたな。ええ、どうなんだ。」


すると、俺の言葉に医師は焦った様に暴れ出した。


「知らん。俺は何も知らん。君こそなんだね。私は医者だぞ。その私の言っている事が信用できないのか?」

「ああ信用できないな!」


蒼士はそこまで聞くとそのまま首を絞めて医師の意識を奪い周りに視線を向ける。


(他の奴の調査は百花に任せた方がいいな。)


そして丁度その時、俺の元に一本の電話が掛かって来た。

その名前を見て苦笑を浮かべて電話へと出る。


「どうだった?」

「ええ阿久戸が送金した病院と木道の奥さんが入院していた病院が繋がったわ。空港近くの病院で・・・。」

「ああ、すまない。そっちは丁度来てるんだ。ただ奥さんが殺されそうだったから先に助けたんだがすまないがその保護を頼む。犯人の一人は捕まえたからそいつから情報を得られるはずだ。」

「そう。それならこれから飛鳥を行かせるわ。」

「ああ助かる。」


そう言って俺は室内にいる者達にも暗い笑みを送る。

この件については一切の手心を加えるつもりが無かった。

その俺の顔を見て全員が顔色を青くさせているが無罪の者には手を出すつもりはない。

しかしそれを言う程、俺は他人には優しくはなかった。

その後は扉を修復して開けるとそこからは夫の一と娘の椿が駆けこんで来る。


「聖は・・・。聖は大丈夫なのか?」


その叫びに看護師たちは答えることが出来ず、恐る恐る俺へと顔を向ける。


「大丈夫だ。もう心配ないから安心しろ。それともうじき迎えが来るから移動するぞ。そこで分かってる事を伝える。」


そして暫くすると飛鳥が現れ聖を連れて移動して行った。

その際、先ほど捕まえた医師は俺の手により連れ出され車に詰め込まれるという一幕があったが声を掛ける勇気がある者は現れることは最後まで無かった。


旅館に着くと既に戻っていた冬花たちに声を掛け捕まえた医師を百花に引き渡す。


「こいつが木道の奥さんに毒を盛った可能性が高い。好きに尋問・・・。いや、質問してくれ。それとその際はこれを使うといい。」


そう言って俺は気付け薬Jを取り出して渡した。


「これは気付け薬Jという物らしい。詳しい仕様は飛鳥経由でノエルに聞いてくれ。必要な物は百合子が提供してくれるはずだ。だが言っておくがそれまでは絶対に開けるなよ。おそらく俺にもダメージを与え得る薬品だからな。」


すると百花は表情を引き締めて瓶を受け取りそれを飛鳥へと渡す。

飛鳥は受け取るとそれを密閉ケースの様な物にいれて保管すると鍵を掛けた。


(流石ノエルと同じ組織にいただけはある。)


扱いが厳重なので胸を撫で下ろす思いだ。

俺でもこれはアイテムボックス以外には仕舞いたくはないからな。


そして、その日の夜には地下の一室からは、この世の物とは思えない凄まじい叫び声が上がる。

しかし、防音に優れた部屋の外にはその声が届くことは最後まで無かった。

なぜ、旅館にその様な部屋があるのかは不明ではあるが、お金持ちとはもしもに備える事が出来る者たちでなのだ。

きっと静かな部屋で過ごしたい時などに使うのであろう。


そんなこんなでその日の夜には全ての聞き取りが終わり、次の日に地下の会議室の様な所で説明が行われた。

ただこの会議室だが俺が少し調べた範囲ではかなりの強度があり核シェルターの様な印象を受ける。

その事を百花に聞いてみると「よく分かったわね」と返される始末。

どうやらここに来るときに百花がここなら安全と言っていたのはこれも理由の一つのようだ。

もう深く考えるのを止めたくなるような旅館である。

そして、会議室の前に立つ飛鳥は全員の前で説明を始めた。


「それでは、今回の事の説明を始めます。」


そう言って鬼道一家を見て飛鳥は頷いて見せる。

聖はここに到着した直後、無事に意識を取り戻し、親子での再会を果たしていた。

体も無事に回復し、百合子から渡された持続ポーションのおかげで見た目も元に戻っている。


「まず、自供によりひき逃げ犯は捕らえた医師である事が判明しました。」


すると一と聖は目が点になって口を半開きにしたまま飛鳥を見つめた。


「どうやら後始末を全て阿久戸様が請負、実行はあの医師が行ったようです。その後運ばれてきた奥様を薬で意識不明の様に見せかけ、先日千鶴様が回復したのを知って処分を決定したようです。」


そこまで聞いた一は次第に怒りの形相となり歯を食いしばって拳を震わせた。

その心中には最初から最後まで阿久戸の掌で踊らされた怒りが渦巻いている。

しかし、それも千鶴の顔を見ると次第に下火になり罪悪感に苛まれるように視線を下げた。


「それにこんな事は一人の医師だけでは不可能です。その事を問い詰めた結果他にも何人か名前が上がりました。これらに関してはこちらで対処しますがいいですか?」


すると一と聖は飛鳥と目を合わせ頷いて答えた。

もともと一も人を救うために術を使っていたのだ。

そのため人を苦しめたりする事には大きな抵抗がある。

なので代わりに制裁を加えてくれるなら逆に有難いくらいであった。

しかし、一の中には阿久戸だけは別だと叫ぶ自分がいる。

すると、その思いを感じ取った俺はある提案を持ちかけた。


「一さんもこのままだと腹の虫が治まらないだろ。どうだ、今度は阿久戸を呪ってみないか?」


すると一は真剣な顔で悩み始める。

しかし、すぐに溜息をついて首を横に振った。


「したいのは山々だが今は鬼がいない。あそこに保管していたモノ達はすべてお前に浄化されてしまった。しばらくは仕事も無理だ。 」


すると俺は口に手を当てて少し考えた後に再び質問を投げかけた。


「そもそもアンタが使ってる鬼ってどんなモノなんだ?」

「そうだな。強い想念を集めた物が鬼になる。大半は恨みや憎しみだがな。だから普通に鬼を使役すると相手に不幸が起きてしまうんだ。それは私達のよな専門家なら回避できるが普通の人々では不可能に近い。だから私がその不幸を変わりに受け、聖がそれを浄化する。それで鬼を安全に使役して依頼者を助けて来たんだ。」


そして、今の説明で一の居た小屋がなぜあの様な状態になったのかを蒼士は理解した。

どうやら鬼を使うには瘴気の浄化が必須のようだ。

千鶴に対しては問題なくてもそれ以外の相手にはそうはいかない。

しかも浄化を担当していた聖は病院で意識不明の状態である。

そして瘴気に満ちた部屋で次第に封印も緩み鬼たちが解放された結果、あの様な状態になったのだろう。


すると、そこで颯が何かを思い出したのか過去に魔力だけを抜いた魔石の残骸を取り出した。


「想念って事ならこれは使えますか?」


そして、それを一の前に置くと彼はそれを手に取りじっくりと観察した。


「これは・・・。も、もしかして殺生石!?」


殺生石とはその昔、陰陽師によって退治された九尾のキツネが変化した物と言われている。

九尾のキツネが変化した殺生石は恨みの念を周囲に放ち毒の霧を発生させた。

その後、とある僧により砕かれた石は日本中に飛散したと言われている。

しかし、この石は言わば颯の食べ残し。

そんな大層な物の訳がない。


「い、いや。凄い想念を感じるが力を感じない。まるで極限まで出汁を取られたイリコみたいだ。」


そして、一はやけに家庭的な評価を下して首を傾げた。

そんな彼に石を渡した颯がその正体を教えてる。


「それは魔石って言うんだ。ちょっと理由があって力は全て吸い出してあるけどそれを最初に見た人は残留思念が残ってるって言ってた。俺には違いがよく分からないけど使えるなら使ってくれ。まだたくさんあるから。」


そう言って颯は幾つもの石を机の上に並べた。

それを見て一は首を横に振りこれで十分だと伝える。


「待ってくれ。こんな物が沢山あっても困る。この中に残ってる想念は恨みや憎しみみたいだ。沢山あっても保管しきれない。」


そして石を一つだけ受け取った一はハンカチを取り出した。

それに何やらペンで書き込むとそれで石を包んでしまい込む。

その様子をみて俺が何をしていたのかを問いかけると一は素直に説明を始めた。


「こんなに強力な想念。怨念と言ってもいいようなモノが内包した物だとそれだけで普通の人には良くない影響が出てしまうからね。こうやって陣を書いた布に包んでおくのさ。そう言えば君たちは大丈夫なのかい?」


すると俺を含めた帰還組は顔を見合わせて問題ない事を告げる。

しかし、それなら颯が持つ魔石の残骸はその辺に唯の石として廃棄できる物ではないようだ。

俺たちは問題ないがもし子供が拾おうものなら何が起きるか分からない。

その為、不必要になった石は俺が廃棄する事に決めた。


「颯、気付かなかったがそれはかなり危険なようだから俺が浄化して廃棄する。会議の後にでも一緒に来てくれ。」

「おう、俺もまさかそんな危険なものだとは分からなかったからな。こういう一般的な意見って大切だな~。」


俺達は互いに危険性を理解ししみじみと頷きあった。

すると再び一から必要な物があると声が掛かる。


「実はあともう一つ。術を行うための触媒がいるんだ。でもこいつを使っての術だとかなり強力な物が必要になる。小屋にあった物は先日壊れてしまったから新しい物を手に入れないと。」


すると今度は百合子が立ち上がり一の前に30センチ程ある合成魔石を置いた。

それを見た時、最初は何だこれはと言った顔をしたが、すぐにそれの価値へと気付く。

「え・・・?な、ちょっと、ええ!?」


そして混乱する一に百合子はいつもの様に何でもない顔で話しかける。

最近はこれでも感情を出す様になってきているけどまだまだ相手が限定的だ。

これからの学校生活でもう少しマシになれば良いんだけどな。


「きっとこれなら十分だと思うけど。不足ならこっちでもいいよ。」


そう言って百合子が取り出したのはサイズは半分くらいだがドラゴンの魔石である。

それは合成された魔石とは比べられない程の魔力を秘めており一は一目見ただけで額から汗が流れた。


「い、いや。悪いがそっちは私の手に負える物ではないよ。それにどちらも私の力では無理だろうな。すまないがもっと弱い触媒は無いかな。」


すると百合子は少し悩んで結果、ワイバーンの魔石を取り出した。

そしてそれを一に渡すと彼は少し困ったような顔で頷きをかえす。


「これでギリギリかな。まあ何とかなるだろう。貴重な物を譲ってもらって悪いね。」


すると百合子は首を横に振って否定を示す。

一は何が否定されたのかが分からず首を捻った。


「まだたくさんあるから大丈夫。気にせず使って。」


そう言って席に戻る百合子の後ろで一は手元にある魔石を眺める。

そしてこれほどの触媒を大量に所持しているのを知り引き攣った顔を向けた。


しかし、結果的に準備は整い俺の思惑を阻む障害は何も無くなった。

すると、飛鳥が最後に一つ大事な事を木道一家に伝える。


「それと聖様の死の運命ですが。月読様が教えてくださいました。」


だがここで初めて聞く言葉に困惑し、一は焦ったように飛鳥に問いかける。

やはり、今までの事もあるが先程まで愛する者に迫っていた死と言うフレーズには敏感になっているようだ。


「ちょっと待ってくれ。死の運命ってなんだ。誰が死ぬんだ!?」


すると慌てる一に対して落ち着いた仕草で一礼した飛鳥は木道一家に説明をした。

それを聞き一は気力を失ったように椅子にもたれ掛かる。

その姿を見ても飛鳥は気にする事無く説明を続けた。


「それで先程の話の続きですが、聖様はどうやら千鶴様の運命に巻き込まれた類の様です。その為、千鶴様が助かれば聖様も無事に死の運命から逃れる事が出来ると仰いました。なので一様。」


そう言って飛鳥は力の籠った眼差しを一に向ける。


「あなたがこれから行う事が、そのまま奥方を助ける事に繋がります。気合を入れて挑んでください。」


すると先ほどまで力が無かった瞳に力が漲り拳を固めて立ち上がった。

そんなにやる気を出して目的以上の仕事をしないかが心配だ。


「俺に任せろ。とっておきをアイツにくらわせてやる。」


そして一はそのままこちらに視線を向けた。

さっきまで塩r手たくせに今は熱血教師なみに暑苦しく見える。


「すまないが山小屋まで俺と聖を送ってくれないか!」

「ああ、それぐらいなら簡単な事だ。」


俺は一に了承を示して立ち上がった。


「そう言うと思って小屋もしっかり建て替えておいたからな。」


そう言って俺は二人を連れて一を発見した山小屋まで転移して行くのだった。

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