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134 第2次お風呂会議

現在、冬花たちは千鶴を連行して大浴場に到着していた。

そして強制的に服を脱がされた千鶴はそのまま大浴場へと押し込まれる。

するとほんの数秒後には同じくタオルを体に巻いた冬花たちが現れ完全に退路を断たれたそのため千鶴は大人しく掛け湯をして浴槽にゆっくりと入って行く。


「ふ~」


そして大きく息を吐くと千鶴は左右にいる美少女3人を観察した。


(冬花って子、綺麗な黒髪に優しそうな瞳。胸もあるし体も引き締まってて綺麗よね。戦ってるって割には体に傷痕はないし。蒼士とは幼馴染って話だけどあの雰囲気だとやっぱり付き合ってるんだろうな。)


そして次にカグツチに視線を移した。


(この子はなんだか現代と言うよりも昔の人みたい。言っちゃなんだけど少しお婆ちゃんぽい。でもなんだか大和撫子って言うか触れがたい雰囲気なのよね。二人とも私の持ってない物をたくさん持ってる。)


そして最後に明美へと視線を向ける。


(明美は前回見た時は清楚系のお嬢様だったのに昨日、久しぶりに再会するとまったく別人みたいに変わってたのよね。彼氏?も出来て凄く幸せそう。でも私よりも先に男を見つけるなんて・・・。私だって元気になって綺麗になったんだから男の一人や二人・・・。???。なんだか胸がチクチクする?何でだろ。)


そして千鶴が自分の気持ちに悩み首を傾げていると横に居る冬花が声を掛ける。


「そう言えば千鶴さんは家柄も良くて美人だから恋人か婚約者くらいはいるんですか?」


すると千鶴は冬花の突然の問いかけに胸に棘が刺さる様な痛みを感じた。


「そうね。居たには居たけど先日まで余命数日と言う命だったから婚約者も諦めて婚約は解消したわ。今はどうしてるのか知らないけどきっと他の娘を見つけて婚約してるんじゃない。」


すると千鶴の言った言葉に冬花はクスリと笑いを返した。

その行動の意図が分からず千鶴は「どうしたの?」と問い返す。


「先程は言って無いけど蒼君はこの世界から居なくなった私を17年ずっと探してくれてたから少し嬉しくて。普通の男性はその程度で諦めてしまうんですね。」

「な、何よそれ。アイツ馬鹿なの!?」


すると冬花は再び笑い笑顔で千鶴を見つめた。


「そうですね。きっと蒼君は馬鹿なのかもしれません。でも、あの人は大事な人の為なら絶対に諦めないですよ。あなたの婚約者と違って。最低限、どちらかが死ぬまでは傍にいてくれます。」


千鶴はその時、冬花が本当に何を言いたいのかに気付いた。

そして自分の肩を摩り横に誰もいない事を自覚した時、心に寒風が吹いたように体を震わせた。

そんな千鶴に明美とカグツチが追い込みをかける様に口を開いた。


「千鶴さんには悪いけど私には颯君がいるから。彼は絶対に私の手を放さないわよ。私も離す気はないけど。」


そう言って明美は幸せそうに微笑むと天井を見上げて背伸びをする。

そしてその顔は既に恋する少女ではなく愛を知る女の顔であった。


「悪いが私も蒼士がいるからな。アイツは私を常に優しく包んでくれる。蒼士は普通の相手にはああだが大事に思う者には甘々だからな。私も振り向いてくれるまで苦労したぞ。」


すると明美に羨ましそうな視線を向けていた千鶴はカグツチの話を聞いて首を傾げた。

そして冬花に顔を向けると何やら控えめな感じに問いかける。


「ねえ、もしかして私の勘違いだったのかな。冬花と蒼士が付き合ってると思ったんだけど。実はカグツチが蒼士の彼女なの?」


すると冬花とカグツチは苦笑を浮かべ同時に首を横に振った。

それにより千鶴はさらに混乱し頭上に大量の「?」を浮かべる。


「違うよ千鶴さん。蒼君の恋人は私とカグツチの両方だよ。しかも異世界にはもう一人いるし候補もまだ一人いるかな。」


すると千鶴は驚愕に目を見開いて左右の二人を交互に見つめる。

しかし、その顔や雰囲気には明美と同様。

いや、それ以上の幸せそうな感情が見て取れる。

そのため千鶴は混乱し思ってもいない言葉が口っから飛び出した。


「どうして、なんでそんな顔が出来るの。結局最後はあいつが一人を選ぶんでしょ。そうなったらどんなに好きでも、どんなに強く思っても意味ないじゃない。」


すると冬花とカグツチは千鶴の言葉に笑顔で答える。


「千鶴さんが何を気にしてるかは分かるけどそんなのは人が勝手に決めたちっぽけな決まり事でしょ。そんなのどうして私達が守らないといけないの?」

「それに好きなら好きと素直にならないと後悔するのは本人だぞ。それともお前はそれを受け入れるのか?もし私ならそう強要されたら戦うか死を選ぶぞ。」


そう言った二人に千鶴は本気の感情を読み取った。

それは子供の頃から多くの人間と接してきた彼女だから分かる事だ。

その勘が二人の言葉が真実だと告げていた。

しかしこの時、不意に千鶴の胸に元婚約者と蒼士の顔が浮かび上がる。


元婚約者は最初は見舞いに訪れてくれた。

しかし、1月もした頃には顔を見せなくなり婚約も解消されてしまった。

その時、千鶴は病気になったのが悪いと自分に言い聞かせていたが、心の底ではたとえ死んだとしてもその時まで傍にいて欲しと思っていた。

それで枕を涙で濡らした事も1度や2度ではない。

その結果が先日蒼士と初めて会った時の千鶴であった。

あの時の彼女はそれまでの事が原因で生への執着が無くなり人も信じられなくなっていたのだ。

そしてそんな時に現れたのが蒼士であった。

蒼士は今まで千鶴があった事のないタイプの男である。

家柄や女である事を気にかけず、まるでただの友達の様に接し、言葉も行動も一切遠慮がない。

しかも錆びついていた自分の心を再び動かしてくれたのである。

たとえそれが最初は怒りだったとしても、切っ掛けを与えてくれた蒼士に今では多くの感情を抱く様になった。


そして千鶴は元婚約者の顔には今では嫌悪感を抱くのに蒼士には胸の高まりを感じ頬を染めた。

すると不意に前から予想外な声が4人へと語り掛けて来た。


「しかし、蒼士はあなたには興味が無いのではないのですか?」


そして4人は突然現れた気配に驚き正面へと視線をむけた。

するとそこには天照と月読が並んで湯船につかり冬花たちを見つめている。

しかし、冬花はすぐに天照の顔つきと声がいつもと違う事に気が付いた。


「天照様、何時から居たのかはあえて聞きませんがいつもと雰囲気が違いますね。もしかして今のあなたは・・・。」

「ええそうですよ。私はいつもは他の主神級の神から侮られない様に男の姿でいますがこう見えて女神なのですよ。それで話を戻しますが、今の千鶴さんでは蒼士は永遠に振り向かないでしょうね。」


天照の言葉に千鶴は薄々気付いていた事を突かれ肩を落とす。

すると天照はその顔を見て口元を上げると優しさに溢れる顔で話を続けた。


「そこで千鶴さんに提案ですが、もう蒼士からは話を聞いているでしょう。どうですか?今までの自分を捨て新たな道を歩みませんか。そうすれば彼も貴女を見直すかもしれませんよ。」


そう言って天照は千鶴を誘惑する。

そして彼女にとって今の言葉は抗いがたい魅力を備えその心を縛り上げた。

しかし、そこに横で聞いていた冬花が割って入り千鶴の肩に手を掛ける。


「千鶴さん。流されちゃダメよ。他に手段がないならともかく、蒼君はこんな方法であなたが変わる事なんて望んでないわ。思い出して、病院での事を。蒼君は必死に生きるあなたの事を見て手を貸してくれたのよ。いまそれを捨ててしまうともうあなたの事を見てくれなくなるわ。」


すると冬花の言葉は次第に千鶴の心を縛る鎖を解けその瞳に再び強い意志が蘇る。

そして強い意志を取り戻した心で拳を握り天照を睨み返した。


「天照様。申し出はありがたいですが今は自分なりに頑張ってみようと思います。それと審神者の件は他に候補がいないならお受けしますが、私は私のままで今後も歩いて行きたいです。」


すると天照は千鶴を見て苦笑を浮かべる。

そして立ち上がると月読と共に千鶴へと歩み寄った。

千鶴はその二人の神の美しいとしか表現できない裸体を視界に納めると同じ女性でありながら無意識に頬が赤らみ視線を逸らす。


「それなら貴女の強がりが何処まで続くか見させてもらいます。」


そう言って天照はそのまま通り過ぎて湯船から出て行った。

そして先ほどから黙っていた月読が最後にある真実を千鶴へと告げる。


「そうそう、言い忘れる所でした。死の運命は周りの者も巻き込むのですよ。例えばそれはあなたの横にいる冬花も同じ。そして、蒼士も例外ではありません。全員無事に生き残れるといいですね。」


するとそれを聞いた千鶴だけが勢いよく後ろの月読へと顔を向ける。

しかし、その時には月読の姿はなくただ浴室内を漂う湯気が揺れているだけであった。

そして今度は確認の為に横にいる3人の少女に視線を移し確認の為に問いかけた。


「今の話は本当なの?」


その問いに答えたのは月読の眷属にして同じ様に未来を見る事の出来る明美である。

彼女は眷属になった後も月読から多くの事を学び、そして見て来たのだ。

そのため明美は確信を持った顔で千鶴に頷きを返した。


「千鶴さん。今の話は本当です。でも冬花と違い確定はしていないので回避は難しくありません。」

「でも、危険なのは変わらないでしょ。もし私のせいでみんなが死んだら・・・。」


そう言って両肩を抱いて震える千鶴に冬花はそっと語り掛ける。


「千鶴さん。私達の事は気にしないで。もともとその危険性を知りながらこうしてここにいるんだから。逆に言えば蒼君もそれ位にはあなたに生きて欲しいと感じてるって事よ。そう考えると元気が湧いてこない?」


冬花の言葉で千鶴は蒼士の顔を思い出し震えが和らぐのを感じた。

すると、これから起きる事で彼が危険に晒される姿が頭をよぎる。

しかし、そこで千鶴はその光景を想像する事でなぜか困惑が頭の中で渦を巻いた。


(あれ~、蒼士に危険が襲い掛かってもピンチになる姿が想像できないんだけど。それ所かピンチになるのは相手?しかも全部笑いながら解決してる。)


その後、妄想に近い想像が終わると千鶴は口に手を当てクスクスと笑い声をこぼす。

そして顔を上げた千鶴は先ほどと違い吹っ切れたような顔になり立ち上がった。


「よ~し。面倒な事は全部蒼士に丸投げして今は生きる事に全力で足掻いてやるわ。冬花もあそこまで言ったんだから助けてくれるんでしょ。」

「そうだね。あなたが蒼君から見捨てられない限りは。」


すると千鶴はそんな冬花の言葉に頷いて笑顔を浮かべた。


「それじゃ、アイツが私を見捨てられない位に惚れさせてやろうじゃない。乙女の実力を思い知らせてやるわよ。」


そしてお風呂会議を終えた4人は先ほどよりも見るからに仲良くなりお風呂から上がり服を着て出て行った。

しかし、部屋に移動していると旅館のスタッフが掛けて来て千鶴を呼び止める。


「千鶴様。百花様がお呼びです。すぐにお部屋にお越しください。」

「お姉ちゃんが?どうしたんだろう。」


そう言いながら首を傾げる千鶴ではあるが百花の呼び出しと言う事で素直に応じて部屋に向かった。

そして部屋に入るとそこには渋面を顔に張り付けた百花がソファーに座っている。

その様子に何かがあった事を感じ取った千鶴は部屋に入るなり百花に問いかけた。


「どうしたのお姉ちゃん。何かあった?」

「ええ、実はあなたの元婚約者だけど先程急にこの旅館に現れてね。あなたと再度婚約したいと言って来たの。ハッキリ言ってあなたを一度捨てた男だから断りたいのだけど、あなたの意見を確認したくてね。それで来てもらったのよ。」


すると千鶴は一切悩む素振りも見せず清々しいまでの拒絶を見せた。


「私も嫌です。それに今はあんな男よりも気になる相手がいるの。」


すると百花は笑顔で頷き「分かったわ。」と答えた。


「それなら私からお断りの返事をして帰ってもらうからそれでいいわね。わざわざ呼び出してごめんなさいね。もう自由にしててもいいわよ。」


百花との話も終わり部屋を出た時、千鶴は左の通路からこちらに歩いて来る蒼士を見つけた。

すると千鶴の心にポカポカとした感情が浮かび名前を呼んで駆け寄ろうと一歩を踏み出した。


「そ・・・。」

「千鶴ここにいたのか。探したよ。」


しかし、その瞬間。

反対の通路から名前を呼ばれ、そこで足を止めた千鶴は声のした方向へと振り返った。


「歩さん・・・。」


そしてそこには千鶴が思った通りの人物。

元婚約者の赤城アカギ アユムが千鶴に駆け寄っていた。

しかし、歩は足を止める事無くそのまま千鶴をその胸に抱きしめる。


その突然の行動に千鶴は対処は出来ずそのまま振る解く事もせずに固まってしまう。

すると歩はそれを受け入れられたものと勘違いし、そのまま少し離れると何も言わずキスを迫った。

そこまでされると流石に不意を突かれた千鶴も黙ってはいない。

彼女は歩に対しすぐに拒絶をするようにその手で胸を押した。


「嫌、やめて歩さん。私達はもうそんな関係じゃないでしょ。」


しかし、女性として平均以下である千鶴の力では歩を押し返す事は出来ず歩の顔が彼女に迫る。

するとその瞬間、千鶴の頭に声が響いた。


(何が嫌だ。既成事実さえ作ってしまえば後でどうとでもなるんだよ。それにしてもこいつも見ない間に綺麗になったがその横のこいつらもいいな。こいつらなら愛人にしてもいい。)


そして不意な事に手の力が抜けた千鶴に一気に歩の顔が迫る。

しかし、あと少しと言う所で歩の前から千鶴の姿が掻き消えた。


「な!何だ今のは!?」


そして周りを見回せば震える手で蒼士の服を掴み背中に隠れる千鶴の姿が目に入った。

それを見て歩は表情を歪め蒼士を睨みつける。


「おい、貧乏人。そいつは俺の婚約者だ。なに勝手に触ってやがる。」


すると千鶴には再び同じ声で違う言葉が聞こえて来た。


(おい、ゴミ野郎。そいつは俺の物だ。俺以外の男が俺の物に触れるな。)


そして、それ声が聞こえた時、千鶴の体の震えは大きくなり更に強く蒼士の服を握り締めた。

すると蒼士はその様子に苛立ちを感じ歩を見ると目を細めた。


「(何を言いだすかと思えばこいつは俺の護衛対象だぞこんな状態で守らない馬鹿が何処にいる。)」


そして蒼士と歩の言葉を聞いて千鶴は違和感に気付いた。

蒼士の声は二人が同時に喋っているように完全にハモって聞こえる。

しかし、歩の声は所々ブレて聞こえ言葉も違って聞こえた。


すると異常に気付いたカグツチが咄嗟に千鶴を鑑定する。

そしてその鑑定結果を千鶴にだけに聞こえる様に伝えた。


「千鶴。気付くのが遅れてすまない。先程は言わなかったがお前には既に天照様から加護を授かっている。それで目覚めた能力は読心術だ。今のお前には通常の声と共に心の声も聞こえるはずだ。」


千鶴はカグツチの話を聞きながら先ほどの声が何だったのかも理解する。

そして歩に意識を集中させればそこからは欲に塗れた心の声が聞こえて来た。


(この女と結婚すれば一生安泰だ。)

(千鶴の奴、いい女になりやがって。あの綺麗な顔を涙も枯れるくらいに犯し尽くしてやる。)

(周りの女共もこいつに負けない程の上玉だな。しかしなんだこの男は。俺の女共に近寄りやがって。殺すぞ。)


すると千鶴はその欲望塗れな思念に当てられ、足から力が抜けてその場で倒れそうになる。

しかし、それをいち早く感じ取った蒼士は千鶴の腰に手を回しその体を優しく支えた。


そして馴れない能力から不意に蒼士の思考も千鶴の中へと流れ込んで来た。

千鶴は耳を塞ぎその声を聞くまいと目までも必死に閉じる。

しかし、その行動を嘲笑うように蒼士の心の声が千鶴に届いた。


(しっかりしろ。お前に元気が無いと揶揄っても面白くないだろ。)

(嫌な事はもっとしっかり拒絶しろ。それでもダメなら俺が守ってやるから。)

(さっき見た笑顔は今までで一番良かったな。あれなら10人中10人は振り向きそうだ。)


蒼士の心の声を聞いた千鶴は「えっ」と驚いた顔を蒼士へと向ける。

そして口を開いて何かを言おうとしながら顔を次第に赤くさせていくとその口に緑の飴玉をそっと入れた。


「・・・!甘い。これってマスカット?」

「ああ、俺の好きな味だ。特別にやるからそれでも舐めて落ち着け。」


千鶴は飴玉を口の中で転がすと肩の力を抜いて大きく深呼吸をした。

すると肺と鼻はマスカットの甘い匂いで満たされ次第に気分を落ち着かせる。


そして強い意志を漲らせた瞳で歩を睨むと自分の思いを伝えた。


「歩さん。私は貴方と婚約する気も結婚する気もないわ。それに私にはもう本気で好きな人がいるの。だから諦めて帰ってください。」


歩は千鶴の言葉を最初は大人しく聞いていた。

しかし、話が進むにつれその顔は怒りにそまり、千鶴が頬を赤らめて蒼士に視線を向けた瞬間に爆発した。


「貴様かーーーー!俺の千鶴をこんなにしたのはーーー!」


そして、自ら千鶴を捨て、孤独を味合わせた男は、逆恨みにしか見えない言葉を叫びながら蒼士に殴り掛かった。

その動きは素早く普通の人間ならば躱す事は難しいだろう。

おそらくボクシングか何かの格闘技をしている事が伺える様な無駄のない動きである。


しかし、その早さは蒼士から見て絶対的にスピードが足りない。

そのためその動きが完全に見えておりその目標が誰かも完全に読み取れた。


現在、蒼士の右側には千鶴が立ち、歩は蒼士に右拳で殴りかかろうとしている。

しかし、それはフェイントで本命は左の拳。

しかも足先の向きや体の僅かな傾きから拳を向ける相手は千鶴であるようだ。

おそらくこの一撃で千鶴へのトラウマを植え付け脅迫して言う事を聞かせようとしているのだろう。

しかし、そんな事は蒼士が許すはずはない。

瞬時に千鶴の前に立つと迫りくる拳を右手で受け止め、拳を握りつぶした後に左の裏拳で歩の顎を砕いて失神させた。

そして気絶した歩をその場で投げ捨てると千鶴に振り返った。


「大丈夫だったか千鶴。」

「うん、ありがとう。」


そう言って千鶴は再び足の力が抜けたのか膝がガクリと折れ曲がる。

蒼士は再び支えようと手を伸ばすが今度は千鶴は自分で踏ん張ると迫っていた蒼士の顔に一気に迫ってその口に唇を重ねた。


しかし、重ねた唇は一瞬で離れ千鶴は悪戯が成功した子供の様に笑って数歩下がった。


「私のファーストキスなんだからね。これからもちゃんと守ってよ。」


そして期限不明の宣言をすると背中を向けて歩き出した。

冬花たちはその背中を追って蒼士の前から同じように去って行く。

その背中に蒼士は苦笑いを浮かべて頭を掻くと何とも言えない顔で彼女たちを見送た。

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