表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/148

13 オーガ討伐

クレアの回復魔法の甲斐があってか、騎竜は無事に回復し走り回れるまでになった。

実は騎竜も走っている内に対抗意識が芽生え、限界以上に力を出してしまっていたようだ。

そして、今では倒れた自分を回復してくれたクレアにとても懐き、犬の様にクレアを嘗め回すものだから顔が涎まみれになっている。


だがクレアが押しのけると、シュンと落ち込んでしまうので怒るに怒れない有様だ。


そして、クレアは回復した騎竜に再びまたがると俺たちの後を付いてきた。

今は俺が先頭で中央が冬花。

一番後ろにクレアという隊列を敷いている。

しかしこれは試験なのでクレアは非常事態でない限り戦闘には参加しない事になっている。


そして森を進んでいると前方から気配が一つ近づいてくるのを感じた。

その直後、俺は振り向かずに冬花へと声を掛ける。


「冬花は気配を感じられるよな?」

「うん、大丈夫。この先から何か来てるよね。でも1匹だからオーガじゃないかも。」


その様子を見てクレアは試験官としての採点を始め、自身が知っている情報とすり合わせて相手の能力を評価する。


(性格に若干問題がありますが、確かにこの2人は既にBやCランクでは収まらない実力を持っていますね。すでにSでもおかしくない身体能力に索敵能力を備えています。姉さんの言っていた通りです。)


クレアは一番後方を歩きながら前方から接近してくる存在を待ち構える。

もしもの時はSランク冒険者としてだけでなく、試験官としても2人を守らなければならないからだ。


そして次第に森の影からその存在が見え始めると、それは3メートルを超えるイノシシの魔物だった。

俺と冬花は剣を抜くと一気に間合いを詰めて魔物へと振り下ろした。


その攻撃によって俺は首を大きく切り裂き、冬花は額を一突きにする。

そして互いに素早く離れると遅れたように血が噴き出し魔物は絶命した


(剣の腕も一級品か。私だと近づかれた時点であの世行きだわ。)


そして俺はイノシシに近づくとアイテムボックスにしまい再び歩き出した。

するとクレアはここである事に気付いたようだ。


「君たちは目的地があるみたいに迷いなく進んでるけど大丈夫なの?」


俺達は森に入ってから1つの方向へと突き進んでいる。

しかし、ここは街道に近いとは言っても整備されていない自然の森の中だ。

風の魔法で進行方向の邪魔な草や木の枝を切り、払い除けながら進んでいると言っても目印なんて一つもない。

それに森に分け入ってそれなりに進み、周りも木の影に覆われて暗くなっているので不安を感じ始めた様だ。

なので、俺達が何を目標として森を進んでいるかをクレアに伝える。


「ああ、俺たちも確信があって進んでるわけじゃないんだが周りの奴らはこっちから放射状に逃げてるみたいなんだ。それにこの先に少し大きい気配があるからそこを確認に向かってる。」

「そう、なら任せるよ。」

(頭も回るようだし索敵範囲は私より広いってことかな。でもちょっと気になるんだよね。さっきからこの子が震えてるし凄く警戒してる。ハズレを引かなきゃいいけど。)


そして先ほどのイノシシから出会う魔物も居なくなり、次第に気配をハッキリ感じれれるようになる。

俺達は気配を消して慎重に歩みを進める。

それにクレアも今は騎竜から降りて同じように歩き周囲を警戒している。

ちなみに騎竜は本能が拒絶するのかある所を境にこちらへと近づかなくなった。

なので今は仕方なく離して自由にさせている。

原因の討伐が済めば落ち着きを取り戻すのでギルドで一緒に渡された竜笛を使えば戻って来るらしい。

種族が竜だと言うのに情けない奴だ。


そして俺達はとうとうその存在を視界に納め木の影からそっと顔を出して様子を窺う。

するとその魔物は森の中でぽっかり開いた広場の中央で何かをしていた。

しかし、広場と言うには少し間違いかもしれない。

辺りには薙ぎ倒された木が転がり、壮絶な死闘が繰り広げられたのだろうと想像できる。

きっと今はここにだけ草木が無い空間が出来ているが最初は周りと同じく普通の森だったに違いない。

それに周りを囲む木にはオーガの物と思われる臓物や肉片がブラ下がり、足元にはその血が水溜まりを作っている。

まさに地獄絵図と言っても良い様な状態で普通の人間なら逃げ出しているだろう。


そしてその中央にいる存在は死んだオーガの心臓を口に運び一心不乱咀嚼しては飲み込んでいる。

しかし、それが進むにつれて気配も比例して大きくなり力を増しているようだ。

するとそれを見たクレアは俺達にそっと声をかけてくる。


「あれは共食いをしてるみたいね。知能が低い魔物が良くするんだけどああやって相手の魔石や肉体を取り込んで進化する事があるの。この気配の大きさからして奴は低位のドラゴン位の力があると思うわ。私でも倒せない事はないけどアナタたちはどうする?」

「その場合試験はどうなるんだ?」

「残念だけど不合格ね。でも、異常事態だからギルドに帰れすぐに次の依頼を斡旋してくれるわ。だから命を賭けて戦う冒険者としては引くのも勇気よ。」


その言葉に俺と冬花は互いに視線で確認を取ると迷いなく笑顔で頷いた。

それにこれからドラゴンの調査にも行こうと言うのにこのくらいで逃げ出す訳にもいかないだろう。


「あいつは俺たちが殺る。戻る時間も勿体ないし、あれくらいなら問題ない。それにしても・・・。」


そして蒼士はクレアをじろじろ見る。


「なんよ?そんなに見て失礼じゃない!」


そう言って何故か無い胸を隠す動作をすると俺を睨みつけて来た。

コイツはいったい何を勘違いしてるんだ?


「それに私はエルフで貞操は固いのよ。だからそういう発想は諦めなさい。」


しかし次の言葉を聞いて俺はポカンとした顔になると掌を左右に振りクレアの妄想を否定する。


「いや。それは無いから安心しろ。さっきのセリフがやけに大人っぽくて見直していたところだ。」

「な、何ですと~~~!」


するとクレアはあまりにも場違いな評価につい大声で突っ込みを入れてしまう。

そして、それに気付き口に手を当てて先ほどのオーガを確認すると真っ赤に光らせた目と視線が交差した。


「見つかったじゃない馬鹿蒼士。」


そして速攻で文句を吐き出すと立ち上がり何時でも魔法を使えるように精神を集中させる。

俺と冬花はそれとは対照的に何処か面白そうな顔をしながら剣を抜いて構えを取る。

するとオーガも立ち上がり近くにある棒を拾いこちらへと向きを変える。

それに奴の持つ棒は形からして仲間の大腿骨だろう。

そしてその姿は通常の緑の肌ではなく、血にまみれている様に赤く筋肉も発達している。

最初は血を浴びたからだろうと思っていたがどうやら進化する事で体の色が変わったようだ。


「ガアアアアーーー」


そしてオーガは森中に轟かせるような巨大な咆哮を上げこちらへと突撃してくる。

しかし、俺と冬花はそんな単調な攻撃を受け止めるほど甘くはない。

なのでオーガの攻撃を余裕をもって躱し、そろってオーガの左右の腕を切り落とした。


だがその直後に斬られた腕の断面から肉が盛り上がり新しい腕が生えてくる。


「おい、クレアどうなってる。こいつは不死身か!」

「おそらく仲間だったオーガから大量の魔石を急に取り込んだから暴走してるんだと思う。回復不可能なダメージを与えるか削りきるしかないわ。」


そしてしばらく攻撃を続けているとオーガが突然不自然な行動をとり始めた。

俺を無視する行動が目立つようになり冬花とクレアを執拗に狙うようになっていく。


「クレア、これは何だ。どうなってる!?」


俺は敵の行動の変化を感じ取るとベテラン冒険者であるらしいクレアに状況の説明を求めた。

それに冬花はこの程度の敵になら余裕で対応できるが、身体能力が低いクレアを護りながら戦うのはかなり面倒だった。

それに動きが制限されると不意を突かれもしもと言う可能性もある。


「オーガは他種族の女性を襲って子供を産ませるの!だから私や冬花を狙ってるんだと思うわ!」


するとクレアの説明を聞いた直後に俺の中で糸が切れた音が聞こえた。

クレアはともかく冬花を狙った時点で万死に値する。

俺はコメカミに血管を浮かせ口元を歪ませると剣を握る手に力を込めた。


「冬花、クレア。面倒くさい作業は終わりにする。」


俺は怒りに任せ本気を出してオーガを滅ぼす事にした。

今までは実戦に体と精神を慣らすために手加減していたがそれもこの時点で終了だ。

まず身体強化を限界まで上げチャージと渾身の一撃を発動する。

すると激しい魔力の波動が空だから溢れ出し、周りへと物理的な干渉力を持って広がって行く。


そうなると、さすがのオーガも無視できなくなったのか冬花に向かっていた足を止めてこちらへと向きを変え得物を振り上げて襲い掛かってくる。

俺はその場に留まりオーガが剣の間合いに入ると相手の攻撃に合わせて同時に剣を振り下ろした。


その一撃によってオーガの獲物は粉砕され、腕と共にミンチになって千切れ跳ぶ。

そして頭から股にかけて剣線が走るとオーガを両断した後に形さえも残さず消し去った。

但しその剣線はそれでは止まらずオーガの後ろの森を幅2メートル距離50メートルに渡って薙ぎ払い一本の深い谷を作り出した。


そして、それを後ろで見ていたクレアは目を見開くと同時に開いた口が塞がらない。

それに俺の想像を超える力に足まで震え出している。


だがそれをやらかした俺は晴れやかな顔で額を軽く拭うと「やってやったぜ」と爽やかなセリフを付け足した。

また、冬花もいつものように笑顔で近寄りその腕に抱き着いて笑みを零す。


そして次第に落ち着いてきたクレアは股間の辺りにほんの少し。

まさにほんの少しだけ暖かい物が染み出している。


するとそれを感じた直後にクレアは我に返った様で股に力を入れ誰にも気づかれない様に密かに耐え忍ぶ。

しかしそれに気付いている俺は「フッ」と笑って何も言わないまま再び冬花に視線を戻した。


それに対してクレアは顔を真っ赤にして地団太を踏もうとするが、そんな事をすれば大変な事になってしまう。

今でこそ誤魔化せるレベルの染みだろうがこれ以上進行すればまさに乙女の危機と言って良いだろう。

そしてクレアは仕方なくその場は我慢する事にしたようで俺を睨み付けるに止めた。


その後、本当に色々な事が落ち着いた俺達は突然生まれた谷の前に集まって話し合っていた。


「この谷どうするの馬鹿蒼士。放置できないわよ。」

「ああ、それなら俺が埋めるから大丈夫だ。」


するとその常識外れの返答にクレアはこちらを鋭い目で睨んで来る。

どうやら先程の事をまだ根に持っているようだ。

ちゃんとトイレタイムなどを挟んでやったのにどうしてだろうな・・・クックック。

そして、出会った時とは大きく違い男っぽい喋り方を止めたクレアは疑問の声を上げた。


「は、何言ってんの・・・。出来るのホントに?」


だが先ほどの闘いを見ていた者として自分の常識に自信が無くなってしまったのか、次第に言葉は小さくなっていく。


「ああ、もちろんだ。これくらい出来ないと笑われるからな。(神に)」


そう言って俺が足でチョンチョンと地面を叩くと谷の中から土が盛り上がり元通りとはいかないまでも谷は塞がった。

それをみてクレアは驚きを通り越してため息を零している。


「あんた本当に規格外ね。これだけ見てもあんたをSランクに推薦出来るわ。」

「推薦?Sランクは推薦が必要なのか?」

「聞いてないの?Sランクになるには国と、その国のギルドマスターと、Sランク冒険者の推薦がいるのよ。試験はドラゴンを討伐する事で力を示すのが目的なの。」


それを聞いて俺は絶句し冬花に視線を向ける。

するとこちらも知らなかった様で同じ様に驚いた顔で向けている。

そんな俺達を見てクレアは鼻で笑うと無い胸を張って自信満々に告げてくる。


「ふふ、初めて私が一本取った気がするわね。そうよ。これはSランクへの昇格試験でもあるの。普通は事前に言わないんだけどあなたをAランク以下にしておくと色々と危なそうだから先に言っておくわね。」

「くそー。漏らしてたくせに生意気な~。」


しかしその笑顔に俺は歯をすり合わせながら先程のクレアが仕出かした痴態を洩らした。

するとクレアの笑顔に罅が入り、子供の様な涙目になると俺の胸をポカポカと殴り始める。


「も、漏らしてない!漏らしてないんだからね!!」


しかし、後衛をメインとしているクレアの拳はとても軽く、今の俺では小動もしない。

そしてクレアは顔を真っ赤にして否定しているが、それこそが俺の見た物が真実だと物語っている。

なので俺はワザとらしく鼻を摘まむと視線を逸らしながら止めを刺す。


「俺は何も言ってませんよ~。」

「言った絶対言った!エルフは耳がいいんだからね。絶対言ってた!」


そんなクレアはもう今にも泣きそうな雰囲気だ。

するとそこで冬花が間に入り俺達を宥め始める。


「蒼君も女の子をそんなに虐めちゃダメだよ!」


そう言って俺の頭に軽く拳骨を落とすとクレアの前にしゃがんだ。

そして今度はクレアの頭を撫でながら慰め優しく声を掛ける。


「ごめんね蒼君が意地悪して。」


そう言いながら冬花はクレアにそっと魔法をかける。

それによって服の汚れ(漏らした跡を含む)は消え去り綺麗な姿となる。

そして、更に冬花は微笑みを浮かべて言葉を続けた。


「ピュアっていうオリジナルでね、服や体の汚れを綺麗にしてくれる魔法なの。今度教えてあげるから今はこれで許してね。」


そして、そのフォローと優しさにクレアはとうとう冬花に抱き着いて泣き始めてしまう。

すると冬花は「あらあら」と言ってクレアが泣き止むまでその頭を撫で続けた。

しかし、とても良い光景ではあるんだけどこの時点でクレアは気付くべきだったかもしれない。

冬花があの魔法を使ったと言う事はクレアが漏らした事を無言で肯定し、それに気付いていたという事に。

更に言い方を変えれば「今度漏らした時に自分で綺麗出来る様に教えてあげるね」って事なのである意味では俺以上に酷いかもしれない。

しかし流石に今の流れではそれは言い出せず、俺は物は言い様だなと心の中で呟くに止めた。


そしてその日は遅くなったため森から出ると街道の近くで野営する事になった。

それにクレアが竜笛を吹くと放していた騎竜もすぐに現れ合流も出来た。


しかし、騎竜は途中から申し訳なさそうに「キュルルー」と鳴きながら近づいてくる。

クレアはそんな騎竜に近寄ると顎を撫でて元気づけてやりながら慰めの言葉を掛けてやる。


「良いのよ。怖い時に逃げるのが生き残るコツなんだから。」


そしてしばらくすると再び元気を取り戻して元気な姿に戻るとクレアの顔を舐めてベトベトにしてしまう。

そうして夜になると俺達は火を囲んでのんびりして過ごし、俺と冬花は肩を並べながら焚火を眺め、クレアは騎竜が寄り添うように眠っている。

すると冬花は穏やかに目を細めると俺にだけ聞こえる様な小さな声で呟きを零した。


「こんな穏やかな日が続けばいいのにね。」

「そうだな。魔王なんかほっといて子供を作ってのんびり暮らすか?」


しかしそんな俺達の会話に寝ていると思っていたクレアが突然起き上がった。

そして警戒しているのか腰から杖を抜き取り俺達へと向けてくる。

どうやら俺達に気を使って狸寝入りをしていたようだ。


「どうしてあなたたちが魔王のこと知ってるの!?それは国の秘密事項で私ですら昨日まで知らなかったのに!」


しかし、杖を向けられても俺にこれと言った反応はなく、冬花の方は笑顔を浮かべる始末だ。

その姿にクレアも毒気を抜かれて構えた杖を下ろし再び腰を下ろして騎竜に背中を預ける。


「理由を教えてくれるわよね?」


そして俺は仕方ないかと苦笑しながら理由を話す事にしたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ