表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

128/148

128 死の運命 ②

アリス達はその後も警察からの妨害を平和的?に排除して行く。

その為、建物には目立った被害もなく道路が多少破損した程度である。

さらに今のところは死亡者は誰も出ていない。

ただ、異常なまでの苦しみを訴えてもがき苦しむ者達がいたとだけ明記しておこう。


そして、とうとうアリス達は目的地に到着する。

するとその前には軍隊が待機しており機関銃で武装した兵隊たちが待ち構えていた。

しかし、その姿を前にしてもアリス達の歩みは止まることは無い。

逆にそのアリス達の異常な行動に兵士たちの方が動揺するほどだった。

彼らを率いる隊長はマイクを手に取ると警告をアリス達に飛ばす。


「警告する。それ以上接近すれば攻撃対象と見なす。これは脅しではない。繰り返す・・・。」


しかし、その言葉を何度繰り返そうともアリス達は目すら向けない。

その姿はまるで週末に散歩を楽しむ親子の様である。


そして、隊長も警告を諦め隊員へと命令を出した。


「総員構え。・・・・・撃てーーー!」

『ダダダダダダダダダダ!』


隊長の支持のもと、隊員たちはアリス達へと一斉に銃弾を発射する。

しかし、その全てがアリス達の周囲にある半透明な壁に阻まれてしまいその威力を発揮することは無かった。

そして別の方角からは大口径のスナイパーライフルがシールドに衝突し周囲に火花を飛ばした。

しかしそれでもアリス達の歩みは止まらない。

その結果隊長は攻撃を中止させると対人用の武器ではなく対戦車ライフル、対戦車砲を準備させた。

すると流石のアリス達も足を止めその二つの近代兵器に視線を集める。


「やっと止まったか。さすがにこの攻撃には耐えられまい。お前たちには恨みはないが上からの命令だ。気の毒だが死んでもらう。」


そう言って隊長は手を振り下ろし発射を命じた。


「撃てーー・・・・。」

『ドゥン!ドゥン・・・!』


そして轟音と煙を上げた砲撃がアリス達へと迫った。

するとアリス達は今度は1枚のシールドではなく複数枚のシールドを張って砲弾を受け止める。

しかもそのシールドは強度を落とし、破壊されるのを前提にして作られている。

その為アリス達の元に届くまでに複数のシールドを打ち破るが、彼女たちの元に届くまでに勢いが低下し地面へとポトリと落ちた。

それを見て隊長を含む周囲の兵士たちの顔に恐怖の色が浮かび上がる。

そして攻撃の手を止めた軍隊の間を何食わぬ顔で通り過ぎて行った。

兵士たちは全員が例外なく化け物を見る目をアリス達へと向ける。

そしてアリス達が去った後に腰を抜かしたように地面へと座り込んだ。


「な、何だと言うのだあれは。あれが本当に人間なのか!?」


そう言って隊長は地面に拳を落とす。

そしてアリス達が消えていった議事堂への入り口を見て歯を食いしばった。


議事堂では主要な者達がアリス達の進行を映像で見ながら恐怖に震えていた。


「おい、奴らは本当に人間なのか。局長、どういう事だ。こんな事は報告に無かったぞ。」


するとその声に賛同する様に周りの者は口々に局長を罵る。

そして局長はその罵声を静かに浴びる以外に出来る事が無かった。

実はこの度の事は局長が言い出した事であった。

彼はノエルたちが消えたのを理由に彼らに冤罪を着せ、この機会に始末しようと考えたのだ。

その理由はとても単純で未来で必ず起きるであろう局長の椅子の奪い合いである。

ノエルもロックも局長の職に興味は微塵もないが二人は組織の中で高い人望を獲得していたのだ。

それは特にこの国にいる特殊工作員。

通称ナンバーズ内において不動とも言えた。

01から10までいるナンバーズの中には二人に命を助けられたものが少なくない。

そして性格の良さと任務に対する正確性が周囲には高く評価されていた。


そのため自分の今後を大きく脅かす可能性があるために二人を排除してしまおうと動いたのだ。

しかし、それは今に至るまで全てが失敗に終わっている。

しかもほとんど被害も出さず死者も出さない徹底ぶりであった。

そして、ノエルたちは別にここを目指している訳ではない。

局長の軽率な発言により局長を目指して進んでいるのだ。

おそらく今のままではもうじきノエルたちはこの場に現れる。

そうなれば、この状況では確実に局長は蜥蜴の尻尾の様に切り捨てられ、彼らに差し出されるだろう。

そう思った局長はある提案を周囲に投げかける。


「皆様、聞いてください。このままでは裏切り者がここに来るのも時間の問題です。念の為にシェルターへと避難してはどうでしょうか。」


するとノエルたちが何故ここを目指しているのかを知らない議員たちから賛同の声が上がる。


「確かにその通りだ。」

「私達にはあんな化け物と戦う力などないぞ。」


そして議員たちから避難の声が高まる影で局長はニヤリと口角を吊り上げた。


(馬鹿どもめ、これで自然な形で安全な場所に避難が出来る。)


そして避難の声が最高潮になった時、議長は手元のハンマーを打ち鳴らした。


「分かった安全を考慮し全員避難しよう。動ける者は急いでシェルターに向かうのだ。」


そして議員たちは我先にと避難を開始した。

その先頭には誘導と言う名目で局長が立っている。

そして多くの者が避難した後には数名の議員と議長だけが残っていた。

彼らは中央に集まると互いに顔を見合わせ苦笑を浮かべる。


「お前たちはいかないのか?」


議長はそう言って周りに視線を巡らせた。

すると議員の1人が鼻で笑い、声を上げる。


「フン。何言ってるんだ。そんな必要が無いのは状況が物語っている。最近の奴らは机の上だけでしか物事を見ないからああなるのだ。」


そして不機嫌そうに言葉をこぼす男の横で別の議員がそれを諫める。


「まあそういうな。それだけこの国も平和になったと言う事だ。それよりもこれを聞いてくれ。」


そう言ってその議員はポケットからレコーダーを取り出した。

そしてそこにはノエルと局長のやり取りが記録されておりそれを聞いた者達は途端に表情が変わる。


「この電話は我々が局長から最終報告を聞く前に行われている。すなわち局長は独断でノエルたちの家に罠を仕掛け、決まってもいない事を捏造し、そのうえ彼女たちの家を爆破したと言う事だ。これは付近で救出した隊員からも供述を得ている。」


すると更に別の議員が前に出ると手に持つファイルと机に置いた。


「それとこれは局長の持つ口座の金の動きを調べたものだ。これによればあの男には不審な金が定期的に入金されている。あの男。自分が調べても調べられるとは思ってなかったんだろうな。かなり雑な管理がされていたよ。」


すると議長はそれらを見て笑うと入り口の扉に視線を向ける。

その先には音もなく部屋に入って来た3人と1匹が議員たちを見下ろしていた。


「ノエル良く帰って来たな。それでどうするのだ?」

「久しぶりね議長。それに皆も。どうやらあなた達は信用できるようね。」


ノエルは彼らの顔を見回し全員が昔からの馴染みだと知ると頬を緩める。


「それにしてもお前らあれはどうなってるんだ?人間技じゃないだろ。」

「まあ、それはこの子から説明してもらうわ。」


そう言ってノエルはユノを前に出した。

議員たちはまさかノエルを差し置いて犬が出て来るとは思わずユノを見て苦笑を浮かべる。


「ノエル、冗談はよしてくれ犬がしゃべるわけないだろ。」

「失礼な奴らだ我は犬ではない。我は冥界の王ハーデス様の眷属にして冥界の門番である。」

「ば、馬鹿な犬が喋ったぞ。」

「ロック。お前、腹話術まで出来たのか。」


そして議員たちが混乱する中、ユノは更なる動きを見せた。

ユノは一つしか見せていなかった首を3つに戻し、更に体を巨大化させていく。

その姿に議員たちは恐怖に目を見開き、ある者は腰を抜かし、ある者はその場で固まって動けなくなった。

しかし、議長は震える声でなんとかノエルへと話しかける。


「ノエルよ。儂らはこれからどうなるのだ?」

「どうもならないわよ。言ったでしょ説明するって。この子はこんななりだけど可愛い所もあるのよ。ほらユノ。みんな怖がってるからいつものあれに戻りなさい。」


ユノはノエルの指示を聞くと以前の様に、気配を極限まで抑え込んだ子犬の姿へと変わる。

すると先ほどまで感じていたプレッシャーが消え議員たちの恐慌が落ち付いて行く。


「何とも可愛らしい姿になったの~。その姿でも普通に喋れるのか?」


すると子犬からは先ほどと変わらない少しガラついた男の声が放たれる。


「ギャップが酷いのう。まあ先ほどの姿を見た後じゃからそれほど気にはならんが。それでは皆も落ち着いて来た事じゃし説明とやらを聞こうか。」


そして議員たちはユノからこれからの事を聞き驚きと興奮に体を震わせた。


「それは誠なのか。」

「ええ、こちらとあちらで既にかなり話が進んでるわ。知らないのはこちらの人間くらいじゃない。それでどうするの?私はどちらでもいいわよ。」


すると議長は少し悩んだ後に周りを見回した。すると誰もが力強く頷き少年の様に輝いた瞳を議長に向けた。

どうやら彼らはノエルが持ち込んだ話に胸を躍らせ昔の情熱を取り戻したようだ。


「所で確認なんだが。この話に乗らなかったらどうなるのだ?」

「まあ、私達は日本に行く事にするわ。あそこには異世界で共に戦った仲間がいるから。それとあなた達がどう決めても世界は変わるわよ。いま、この話を知るのはこの国と日本だけ。あなた達ならこの意味が分かるわよね。」


すると議長は深い頷きを返すと了承を示した。


「しかし、儂らだけではどうにもならん。それにお主の所の局長をまずは捕らえんとな。しかし奴はいまシェルターの中じゃ。こちらからは手が出せんぞ。」


すると子犬形態のユノは起き上がると可愛い見た目と野太い声で議長に告げた。


「そんな物、我に掛かれば造作もない。」


そう言ってユノはゲートを開くために扉を作りだした。

すると突然現れた扉に周りの者たちは目が釘付けになる。

そして扉が開くとそこにはシェルター内の景色が広がっていた。


「な、何だこの扉は?」

「何処から現れたのだ。それにあれは議事堂じゃないか。どうなっているんだ。」


扉の向こうからは混乱した声とざわめきが聞こえて来る。

すると議長たちは扉の前に立つとその先へと声を掛けた。


「落ち着くのだ。説明は後にするがノエル達との話し合いは終了した。外はもう安全じゃからまずは外に出るのだ。」


すると勇気のある数人の議員が扉を潜り先ほどまでいた議事堂へと戻る。

そしてそれを見た他の議員たちも同じように門を潜って外へと移動した。

しかし、一番最後になっても局長だけは一番奥から動かず、怯えた顔で移動を拒否した。


「お、俺は騙されんぞ。どうせ他の者もぐるになって俺を陥れようと企んでいるのだろう。」


すると今まで大人しかったユノに変化が訪れる。

声と口調が変わり、体の毛を逆立てる。


「そう言えば、貴様が今回の首謀者だったな。俺も貴様には用がある。せっかくだ。少し二人で話そうではないか。」


そしてユノの首が一つに戻ると闇を思わせる黒い体毛は雪の様に白い物へと変化して行く。

更にその体は一歩進むにつれて大きさを増していき扉を潜る頃には5メートル以上の巨体へと変わっていた。

そして扉が閉まり始めるとその先から名乗りを上げるのが聞こえて来る。


「我は神狼フェンリル。貴様に死を運ぶ者だ!」


そして巨大化してフェンリルはアリスが止めるよりも早く局長にとびかかりその爪を振り下ろした。


「ギャアーーーーー・・・・。」


悲鳴は扉が閉まるとともに聞こえなくなり、代わりに議事堂をも揺るがす振動が響き渡る。

そして次に扉が開いた時、前足を赤く染めた1メートルほどの白狼が姿を現した。


「ふ~スッキリしたぜ。おい、お前ら。あのパン屋は今日から俺の縄張りだ。下手に手え出す奴は命が無いと思え。」


するとアリスはフェンリルの言葉に呆れ苦笑を浮かべて話しかけた。


「あんた、それだけの為にこんなことしたの?」

「何がそんな事か?あそこのパンはノエルの味を凌ぐものだ。出来るなら死後も魂を回収しバルハラでパンを作らせたいほどだぞ。」

「アンタの場合バルハラじゃなくてバル腹でしょ。ユノもあんたと人格?はまったく違うのに似た者同士なのね。ユノの中に何であんたが封印されたのか分かる気がするわ。」


フェンリルはアリスの言葉に「フン」と鼻を鳴らして視線を逸らすとユノの中へと戻って行った。

すると先ほどとは逆に白い体毛は黒く染まりユノの精神といれ変わる。


「アリス、申し訳ない。どうやらフェンリルの封印は完璧ではないようだ。後程ハーデス様に相談し対処しておく。」


しかし、アリスはユノの言葉に首を横に振って答えた。


「いいわよ急がなくて。今の所被害はないし。いつかあちらから現れるでしょ。」


その言葉にフェンリルの恐ろしさを知るユノはヤレヤレと言う顔をアリスに向けると渋々頷いた。


「分かった。ならばそのようにしておこう。これも何か考えがあっての事かもしれないからな。」


そしてユノの血の付いた足をアリスは綺麗に洗うとこの場はノエルたちに任せて部屋を出て行った。

ちなみに今は周囲の人々はフェンリルの威圧に当てられ喋る事が出来ない程茫然としている。

会議が始まるのもしばらく先になるだろう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ