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127 死の運命 ①

時間は少し遡り、アリス達は約2年ぶりに家に帰って来ていた。

そして、その状況を見て彼女たちは驚きに目を見開く。

アリス達はいない間に庭は荒れ家は埃まみれ、住む事も困難ではないかと予想していた。

それに鍵を閉めて出かけなかったので空き巣の被害で下手をしたら何も残っていないのではないかと心配していたのだ。

しかし、家に帰ってみれば庭は草が刈られ家も無事である。

そしてしっかり鍵もかかっていた。


しかし、家の鍵が掛かっていると言う事は家に入る手段がない。

あの時は突然の事でカギを手に取る余裕すらなかったのだ。

当然防犯の為、外に置きカギをする習慣も無かったアリス達には悩んだ末に別の方法でカギを開ける事にした。

すなわちピッキングである。

扉の鍵はピッキング防止の物を使用しているがそこは異世界帰りの3人。

魔法を駆使し呆気ない程に施錠を解除し室内へと入った。

そして電気、ガスなどが問題ない事を確認すると自室へと慎重に戻って行く。

それは家の中の状態を見て一目で分かるがどう見ても人の手が入っている事に気付いたからだ。


ノエルとロックはトラップなどを警戒しながら慎重に各部屋を確認する。

するとやはりトラップが仕掛けられているのを確認するとそれを慎重に解除して回った。

そしてトラップを解除したノエルたちはそのまま一階のテーブルに座り顔を向き合わせる。

テーブルの上には先ほど解除したトラップが置いてあるがどれも殺傷能力が高い感知式のC4爆薬が使われている。

もし、ノエルたちの国家組織が仕掛けたのなら防犯にしては質が悪すぎる。

しかし、使っている機材は自分達が過去に使った事があり組織を思わせる物であった。

またはノエルとロックなら解除可能としてこれを仕掛けたのか?


現状は判断にとても困る状況となっていた。

すると突然、家に備え付けている電話が鳴り響く。

ノエルは電話の周囲を入念に確認し受話器を上げた。

すると電話の先から聞き覚えのある声が響いて来る。


「帰ったか06、07。」

「局長ね。あなたがあのトラップを仕掛けさせたの?」

「ああ。どうやらあれではやはり始末できなかった様だな。」


すると局長の不穏な言葉にノエルは目を細めロックにハンドサインを送る。

そしてロックは部屋のカーテンを全て閉めると周囲の気配を探った。

すると周囲から視線を感じ、どれにも殺気が籠っている。

先程迄は無かった事を考慮するとどうやら帰宅後、家を調べている間に配置についたようだ。


ロックは舌打ちをするとテーブルに戻りノエルの電話が終わるのを待つ。


「局長、何か勘違いしているようだけど私達はこの国を裏切ってはいないわよ。」

「フン、何を言っている。無断で2年近く姿をくらませ、我々の捜索にも引っかからないと言う事は何処かの国に情報を売って保護されていたのだろ。儂は騙されんぞ。そして、貴様らの処分は既に決定事項だ。もし、文句があるなら直接来ると良い。まあ、無理だろうがな。」


そこで局長は電話を切った。

そしてその瞬間ノエルの首筋に悪寒が走る。


「全員防護態勢。」


その途端にノエルとロックは影に潜りアリスは周囲全てにシールドを張る。

すると次の瞬間。

アリスの家は床下に設置されていた爆弾により木っ端微塵に消し飛んだ。

その様子を遠くから狙撃銃で狙う者達は確認し緊張を解く。


「やったか?」

「馬鹿野郎。そんなフラグ立てんな。それよりもしっかり確認しろ。娘はともかく06と07は過去最高の工作員だぞ。まだ生きてるかもしれん。」


すると銃を構えてスコープを覗く男は溜息をついた。


「お前は日本の漫画やアニメの見すぎなんだよ。何だよフラグって。あの爆発で生きてる奴なんて・・・。」


そして男の言葉が途中で止まり代わりに汗が噴き出した。


「生存者発見。む、娘が出て来た。し、しかも・・・。無傷だ・・・。てえ、おい。聞いてるなら返事をしろ。」


そう言って顔を上げた男の先には標的であるロックが既に拳を振り上げていた。


「へ?」


そして男は呆気なくロックに殴られ意識を失う。

ロックとノエルは影移動を使い彼らを狙うスナイパーの元へと向かい殺す事なく拘束していた。

彼らは上からの命令を聞いて動く手足、悪く言えば人形である。

それは同じ組織に居たノエルとロックにはよく分かっていた。

その為、無力化はするが命までは奪う事をしなかったのだ。


そして二人はアリスを囮に周囲の敵を一掃すると再びアリスの元へと戻る。

するとアリスは歯を食いしばって涙を浮かべていた。


「私の家、お気に入りの服が。」


するとノエルは溜息をついてアリスの頭にポンと手を乗せた。


「家はまた建てればいいのよ。服だってこの2年で着れなくなる位あなたは成長してるでしょ。」


確かにアリスはこの2年で大きく成長している。

何処がと言えばその胸であるがノエルはあえて曖昧に言ってアリスを慰めた。


「あ、そうか。そうだよね。」


そしてアリスは逞しくなった精神でケロリと立ち直り涙を拭いた。


「だから責任はこんな事を命令した本人に取ってもらいましょ。さっきの電話で招待を受けたの。今から向かいましょか。」


そしてアリスの脳裏に二人に訪れる死の運命の事がよぎる。

そのため不安を感じたアリスは顔を二人へと向けた。

するとノエルもロックも笑顔で返してアリスを抱きしめる。


「大丈夫よアリスちゃん。これを乗り切れば無事な生活が戻って来るわ。」

「それにもしもの時は国を出れば大丈夫だ。俺達には行く当てもあるだろ。」


するとアリスの脳裏に今度は日本にいる百合子達の事が思い浮かぶ。

そして最後にハーデスの顔が浮かびアリスは頭を左右に振った。


「そうね。ならまずは何処に行くの?」

「私達の職場よ。国の秘密機関だけど議事堂の地下に本部があるの。そこに向かいましょ。」


そしてアリス達は歩き始めようとした時、大事な事を思い出した。


「そう言えばユノはどうしたの。家に帰るまでは一緒だったよね。」


そう言ってアリスは周りを見回した。

すると壁代わりに植林している木に頭から突っ込んでお尻を出しているユノを見つける。

アリスはそれを見てユノに駆け寄ると木から引き抜いて地面に下ろした。


「ユノ起きて、出かけるわよ。」


どうやらアリスにとって国の中枢に攻め込む事は散歩やドライブ感覚らしい。

そしてユノを揺さぶっていると瞼が揺れて意識を取り戻した。


「は・・・、何があったのだ。突然家が爆発して・・・。ア、アリス。無事か。」


ユノは目が覚めると飛び起きアリス達を確認する。

そして一息つくとその体から怒気があるれ出した。


「ゆ、許さん・・・許さんぞーーー!」


そう言って巨大な咆哮を放つユノだがアリスが差し出したもので怒りは霧散する。


「そんなに怒らないの。はいドラゴン肉ジャーキー。」

「オオ~、我が至高のオヤツ~。」


そしてユノは機嫌を取り戻し激しく尻尾を振りながらジャーキーに嚙り付く。

しかし、ユノの怒りは完全に消えたわけではなかった。

ユノはドラゴン関係の物を一切持っていないのだ。

それは生肉から乾燥肉にいたるまで全てアリス達3人が所有している。

そのためこの3人が死ねば失われてしまう所だったのだ。

そしてこれに関してはユノの中に封印されているフェンリルも同じ意見である。

実は密かにフェンリルもノエルの料理の味をユノの中で感じる事により懐柔されていたのだ。

どうやら封印を一度説いた時にハーデスは完全には封印しなかった様だ。

その為フェンリルは体の自由はないが意識だけを保ったまま封印されている。


そして3人と1匹は悠然と道を歩いて目的地へと向かった。

ここは立地的に職場からはそれ程離れてはいない。

歩けば1時間ほどで到着するだろう。

すると前方からサイレンの音が聞こえ放水車と警察がアリス達の前に現れた。


「そこの君たち止まりなさい。止まらなければ強制排除します。」


どうやら彼らは局長が手を回して出動させた者達のようだ。

たった3人と1匹にどのような理由を付けて向かわせたのかは興味はあるが、アリス達はその言葉を無視して歩みを進めた。


「しかたない。放水開始。」


そして暴徒鎮圧にも使われる放水がアリス達に向かい放たれる。

しかし、その水がアリス達を濡らす事は無かった。


アリスは放水の威力を遥かに上回る水の魔法を使い逆に放水車と警官を押し流して道を開いた。

その突然の事に警官たちは混乱し流されながら悲鳴を上げる。


「な、なんだ。何が起きている。」

「クソーー。どうなってやがるんだ。これでもくらえ。」


そして混乱の中で指示もなくアリス達へと催涙弾を発射した者が現れた。

すると同じ装備を持つ者たちは恐怖から我先にと催涙弾を打ち込む。

しかし、空中で壁に当たる様に弾かれるとそのまま警官たちの足元でガスを噴射し、周りの者を巻き込んで被害を拡大させた。

そしてその時にはアリス達3人だけでなくユノまで百合子特性のフルフェイスマスクを装着し彼らの横を通り過ぎた。

その際、ノエルはアイテムボックスから気付け薬Jを取り出し数滴垂らす事を忘れない。

しかし、その効果は絶大でマスクを着けていない警官たちは苦しみ方を急変させ地獄の苦しみを味わった。


「ギャーーーーだでがだずげデグレ。」

「喉がーー目がーーー。」

「何だこれは。ま、まさか毒か!?」


そしてマスクを着用していた少数の者達はその対応に追われ身動きが出来なくなる。

アリス達はしばらく歩いてマスクを外すと何も無かったかのように歩調を変える事無く目的地へと向かう。

そしてよく行くパン屋を見つけるとその中に入り挨拶をした。


「こんにちはおばちゃん。」

「あらアリスちゃんじゃない。しばらく見ない間に立派になって。帰って来たのかい?」

「うん。ママの焼くパンも美味しいけどおばちゃんのパンの味が忘れられなくて。」


そして互いに笑顔で雑談を交わしているとノエルが幾つかのパンを取ってレジにやって来た。


「お久しぶりです。」

「久しぶりだねノエル。外で暴徒が暴れてるってニュースで言ってたけど大丈夫だったかい。」

「ええ、大丈夫ですよ。警察が頑張って対応してくれているみたいですから。」


どうやらノエルたちの事は暴徒として発表され情報操作が行われているようだ。

しかし、これはノエルとロックにとっては想定の範囲内。

これは組織や国が国内でトラブルが起きた時によく使う手である。

そのため2人にとっては驚くべき事ではなかった。

アリスを除いては。


「えー、そうなんだ。おばちゃんも気を付けてね。ここのお店が襲われて何かあったらこの町にとって大きな損失だよ。」


そう言って本気で驚いているアリスにパン屋のおばちゃんは笑顔で返す。

まさか目の前に居る普通に見える家族がその暴徒だとは思っても居ないだろう。


「嬉しいこと言ってくれるね。これさっき焼けたばかりのパンだよオマケしておくから後でお上がり。」

「ありがとうおばちゃん。また来るね~。」


そしてアリスたちは店を出て買ったばかりのパンに口を付ける。

アリスはフレンチトースト。

ノエルはクロワッサン。

ロックはチョコクロワッサン。

ユノはハム・チーズサンドである。


それを食べ、久しぶりの味に全員の顔に笑顔がこぼれた。

しかし、その笑顔に向けて一台の大型トラックが猛スピードで接近してくる。

ノエルは即座に運転席を確認したがそこに人の姿も気配もない。

しかし、トラックはさらに加速してアリス達へと迫る。

どうやらどこからか遠隔操作されているようだ。


「あれは無人よ。派手にやっても死人が出ることは無いわ。」


ノエルはそう告げるが、ここで下手な対応をすれば後ろにあるパン屋が巻き込まれてしまう。

最悪おばちゃんが死んでしまうかもしれない。

しかもパンを美味しく焼くには釜の癖なども知らなければならなため店に被害が出てしまうとあの美味しいパンがしばらく食べられなくなる。

そう考えた時、一番最初に動いたのはやはり食いしん坊のユノであった。


「我に任せろ。あの様な鉄の箱など我にとってはどうと言う事もない。」


ユノは瞬時に巨大化すると前足を振るいトラックを容易く弾き飛ばしてしまう。

そして横転したトラックはその燃料タンクを破損して炎に包まれた。

するとアリスはトラックの周りにシールドを張るとその中を氷で満たして鎮火させる。

たとえ通常燃えやすいガソリンだろうと冷却し火種が無ければ燃える事はないのだ。

後は警察が勝手に処理してくれるだろう。


しかし、この時気付いている者はいなかったが組織は本格的にフェンリルの怒りをかった。

彼は喰う事に関しては大きな拘りがあり、今のパンを食べてその味を気に入ってしまったのだ。

そしてその怒りは誰に知られる事無く静かに大きくなっていく。

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