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125 愛の為に(颯) ①

こちらに帰って来て数日。

明美はある決意を固めた。

それは家の者に颯を紹介する事である。

それだけ聞けばとても良い事のように聞こえるが何故か家に向かうメンバーに蒼士たち3人も含まれていた。

そして、この5人の実力を知る者から見ればどこの国に喧嘩を売りに行くのだと勘ぐった事だろう。

すると不審に思った俺は横にいる颯に問いかけた。


「颯、これ。お前を紹介しに行くんだよな?」

「ああ、俺もそう聞いてる。」

「じゃあ、何で俺たちまで誘われてんだ。アイツの家ってどんなとこ?」

「実は俺も何も知らないんだ。待ち合わせはいつも外だし明美も家の事教えてくれないしさ。」


そして話をしていると明美が現れ移動を開始した。

移動は自家用車と言う事だが運転席にはどう見ても家族でない者が座っている。

しかも冒険者ギルドにいそうな程に視線も鋭く顔には傷もある。

だが、そんな事を気にするメンバーは誰も居らず明美は俺達に声を掛けて来た。


「ごめんなさい、急なお願いで。でも颯君だけじゃ少し心配で・・・。」


そう言って明美は視線を逸らして遠くを見つめる。

その仕草から何か理由がある事は確実であると俺たちは直感した。

しかし、ドラゴンよりも強い颯が心配ってどんな両親だよ。


「気にするな。揉め事なら多少は慣れてる。」

「そうだよ明美。別に戦いに行くわけじゃないんだし。」


すると冬花の言葉を聞いて明美はサッと視線を逸らした。

その仕草に冬花は焦り気味に明美へと問いかける。


「ちょ、明美。もしかして戦うの!?」


しかし、明美はすぐに満面の笑顔を浮かべて手を叩いた。


「大丈夫ですよ。3人は多分大丈夫だから。多分・・・きっと・・・。」


そう言って曖昧に答える明美の額から一筋の汗が流れるのを誰も見逃しはしなかった。

どうやら明美の家はそれなりに何かがあるようだ。

するとその思いを受け取ったようにカグツチは明美に励ましの言葉を贈る。


「そう落ち込むな明美。我らは常に戦場にあり。私達は常在戦場の心持でいるのだ。相手を殺さなければどうとでもなる。それにお前が気にしているのは相手の強さではなく怪我の問題なのではないか?」


すると明美はバツが悪そうに小さく頷いて答えた。


「私達は相手を癒すスキルが無いから。やり過ぎると治してあげられないでしょ。だから3人に来てもらったの。話さなくてごめんなさい。」


しかし、そんな明美に対し俺は何でもない様に軽く返した。

例え扱いが救急箱でもそれくらいはどおって事は無い。

それに明美には大きな借りがあったからな。


「だから気にするな。それに蓮華の時には世話になったからな。これ位は別に構わない。」


そう言って俺はいつも以上に笑顔を見せる。

そして明美はあの時の事について口を開こうとするが結局その事には触れず「ありがとう」とだけ答えた。


しかし、こうして普通に会話している4人の横で颯だけが緊張でガチガチになっていた。


「どうした颯、もしかして人間相手が怖いのか?」


颯が今まで相手にしてきたモノに人間は含まれていない。

見た目は似ていても人間ではないと言う意識は殺した時に受ける罪悪感を緩和させる。

しかし、今回は100パーセント天然仕立ての人間である。

その事が気になり俺は颯に問い掛けた。


「い、いや。そっちはどうでもいいんだ。」

(どうでもいいのか。それじゃあもしかして。)

「明美、俺はそっちの両親をどう呼べばいいんだ。お義父さんか?それとも名前で呼んだ方がいいのか?」


どうやら颯は戦う事よりも挨拶に関して悩んでいるようだ。

しかし、この点についてはアドバイスのしようがない。

俺は幼いころから冬花一筋。

その両親とも長い付き合いで将来は二人で結婚する事に了承まで出ていた。

そして今はカグツチやベルもいるが二人とも神なので両親と呼べる者は一応いない。

カグツチにはいない事も無いが、彼女の両親は神話通りならかなりドロドロしている。

どうしても会わないといけないならとにかく、わざわざ会いに行こうと思える神物ではない。


話はそれたが今は颯の問題だが悩んでいても車は進む。

そしてそれほど時間を掛ける事無く車は郊外にある大きな屋敷へと到着した。

そこには見事に西洋建築で3階建ての屋敷が立っており、山を囲むように鉄の柵が周囲に立ち並んでいる。

どうやらこの小さな山全てが敷地のようだ。

敷地内には道が走っており門を潜っても車はしばらく走り続けた。

それに敷地内の林は手入れが行き届いており木同士の間隔には余裕があり不要な雑草や若木などは見当たらない。

手入れだけでどれだけ金を掛けているかは分からないがかなりの大金持ちのようだ。

前々から何となく怪しくは思っていたが、どうやら予想は当たっていたようだな。


「明美はいつもここから学校に通っているの?」

「いいえ、今は利便性を考えて学校の近くに部屋を借りています。だから今はかなり自由が利くのですが父が進路に際して少し。母は味方なのですが。それで颯君の事を話すとそこでまた父がちょっと・・・。」


そして話を聞く限る母親よりも父親に問題があるようだ。

これは確実に何かある事は確かだろう。

家も蓮華に対しては両親二人がかなりアレだからな。


そして屋敷に到着すると明美に続く様に全員が降りて家へと入る。

すると俺たちはすぐに視線に気づき表情も視線も動かさずに気配を探る。


(1・2・3・4・5・6・7・8・・・・・。どんだけ人員裂いて見張らせてんだ。外にも見張りがいたぞ。しかも全員が微妙に殺気立ってるし。)


すると2階に続く階段から1組の男女が現れた。

その二人は美男美女と言っても過言ではない。

確かにこの二人から生まれた子供なら明美の様な美人が生まれても何らおかしくはない。


(しか~し、冬花とカグツチの方が美人だけどな。)


俺は表情を変える事もなく心の中で冬花とカグツチをそう評するが、何故か二人には心の声が筒抜けのようだ。

そのため2人は僅かに頬を赤く染め俺へと笑顔を送ってくる。


すると下りて来た二人は来客である俺たちに挨拶と自己紹介をしてくれる。


「私が明美の父で賢斗ケントです。」

「私が母の百花モモカよ。娘といつも仲良くしてくれてありがとね。」


そして百花は朗らかに笑い、賢斗は逆に目を細め俺と颯を見る。

それはまるで二人を見極め値踏みするようだ。


「それで颯と言うのはどちらかな。私の予想では君だと思うのだが。」


そう言って賢斗は見事に颯を言い当てる。

すると颯は一歩前に出ると自らも名乗りを上げた。


「仰る通り俺が加藤 颯です。明美さんと交際中で将来を誓い合った仲です。」


すると百花はニコニコしながら口元に手を当て「アラアラ、まあまあ」と笑う。

しかし、それを聞いた途端に賢斗の雰囲気が一気に変わった。

目には殺気が籠り体からは闘気が立ち上る。

どうやら一般人にしてはタダ者ではなさそうだ。

賢斗は視線を横に動かし合図を送る。

するとそちらから一本の刀が賢斗へと放られ、それを受け取ると躊躇すること無く鞘から抜き放つ。

そして独特の歩法で一気に間合いをつめると刀を上段から振り下ろした。

しかし、颯は慌てる事無く片腕を頭の上に掲げ刀の攻撃を受け止める。

すると賢斗は素早く後方に下がり笑顔で刀を鞘に戻した。


「驚いた。今の攻撃を難なく防ぐとはな。もしかして明美から聞いて腕に何かを仕込んでいるのかい?」


そう言って来る賢斗には隠しようのない動揺が見える。

実際、今の打ち込みは何かを軽く仕込んだ程度では防ぐ事は出来ないのは本人が一番よく分かっているだろう。

しかも今のは振り下ろした後から颯は防御に動いている。

それだけでも賢斗程の実力者ならその実力を理解できるはずだ。

しかし、賢斗はそれを認めたくないのかいまだに引き下がらない。


「まあいい。それでは客人たちには寛いでもらおう。部屋に飲み物とお菓子を用意してある。気楽に寛いでくれ。」


そして、二人に案内されて移動した先のサロンで俺たちは歓待を受けた・・・。

はずだったのだがここでも賢斗は悪だくみを企てた様だ。


俺たちが席に着くとメイドが色とりどりのケーキや焼き菓子をテーブルに並べる。

そして目の前には湯気を立てる熱いお茶が置かれた。


「先程は君たちには失礼をした。これはお詫びの印でもある。気にせず食べてもらいたい。」


しかし、俺、冬花、カグツチは目の前の物には一切手を付けず溜息を吐いて賢斗に顔を向けた。

そして目を鋭くすると賢斗に対し威圧を込めた声で話しかける。


「おい、冗談は颯だけにしろ。」

「な、何の事だ?ほらお茶も美味しいから飲みなさい。」


そう言って賢斗は目の前のお茶を飲み安全を主張する。

今配られているお茶は全て同じポットから注がれた物ではあるが俺には鑑定スキルがある。

彼らのカップには入っていない物が俺たち4人のお茶に含まれている事は簡単に判別がついた。

恐らく、カップにあらかじめ毒を塗っており、ポットには通常のお茶が入っていたのだろう。

ちなみに俺、冬花、カグツチには睡眠薬が。

颯の方には痺れ薬が入れられている。

俺は毒を盛られた対象が颯と自分だけなら何も言うつもりはなかった。

しかし、どうやら賢斗は俺の性格を知らなかった様だ。


俺は大事な者に危害を加える者を排除する事に一切の躊躇はない。

もし賢斗が明美の父親でなければ、このお茶が出された時点で腕の一本くらいは無くなっていただろう。


しかし、ここで賢斗は大きなミスを犯した。

この状況で嘘をついてしまった事だ。

俺は目の前に置かれたお茶を躊躇なく飲み干すと傍にあるフォークを手に取りスナップを聞かせて投げる。

するとフォークは賢斗の認識できる速度を遥かに超えた速度で進み、彼に当たらない軌道でテーブルへと衝突する。

しかし、それだけでは止まらず、テーブルを突き抜けるとそのまま床を破壊して止まった。

それを見て賢斗は驚愕して冷や汗を流し、百花は笑みを深める。

しかし、その目には先程とは違いこちらを観察する色が宿っていた。


「これが最後だ。ふざけるのは颯だけにしろ。」


すると賢斗はカクカクと頷くき俺たち3人のカップを交換した。

どうやら颯にだけはまだ試練が続くようだ。

しかし、これでは颯も明美も目の前の物に手を付けない可能性がある。

現に颯はカップを見つめ食べ物にも一切手を付けていない。


「颯、俺が言うのもなんだがそのカップには痺れ薬が入っている。」


すると颯は顔を上げこちらに視線を向けてくる。

しかし、次に俺の口から出た言葉は颯の予想とは違う物だった。


「お前も男ならそれ位問題ないだろ。気にせず飲み干せ。それと毒があるのは今はカップのお茶だけだ。他は問題ない。」


そこまで話した時、俺たちの前に新しいお茶が注がれ湯気を立てる。

そして自分の言葉を照明する様にケーキや焼き菓子を摘まんだ。

しかし、この3人にはもともと毒が効かない。

俺と冬花は既に毒無効のスキルを得ているし、神であるカグツチにはもともと普通の毒は効かない。

そして二人は失念しているようだがドラゴニュートとなった二人にはドラゴン並みの免疫力がある。

そのためこの程度の毒は無効と言っても過言ではない。


そして颯は俺の言葉を受けて頷くとカップのお茶を飲み干した。


「これでいいのか蒼士。」

「ああ、それと忘れてるみたいだがお前ら人間が死なない程度の毒って効くのか?」


そして俺の種明かしを聞いて颯も明美も「アッ」と声を漏らす。

どうやら本当に忘れていたようだ。

すると、その事に思い出した颯は勢いづいてお茶をお替りし、目の前のケーキを食べ始めた。

しかし、やはり颯に変化はなく毒は無効化されたようだ。

そしてそれ以降サロンにいる間は賢斗が危害を加えようとすることは無かった。


そして、時刻は昼を過ぎた頃、別室に移動した颯に賢斗から挑戦状が届いた。

しかも、わざわざ手紙にしているが、そこに書かれている文字にはとても汚く力強い。

まあ、早い話が怒りに任せた殴り書きである。


「んーと、30分後。今一度勝負されたし。次は互いに本気で戦うべく庭にて待つ。」


そして颯はそれを読み終わると溜息を吐いて肩を落とした。


「はー。大丈夫か俺。無事に明美の親父さん殺さずに終われるかな~。」


そして肩を落とす颯から手紙を受け取り俺はその内容を確認する。

すると手紙の角に何やらQRコードがあるのを発見した。

それは殴り書きされている字の傍にあるためにぱっと見では気付かない様に巧妙に隠されている。

それを携帯で読み取り確認するとある文字が表示された。

その文字とは『武器は自由。人数無制限。』

俺はそれを冬花、カグツチ、明美だけに見せ苦笑を浮かべる。

そして何も知らない颯を応援するために一緒に庭へと出た。

すると外には既に賢斗が颯を待ち構えており、その手にはさっき使用したのと同じ刀が握られている。

しかし、その姿は先ほどのスーツとは違い軍隊の様な服に着替えていた。

そして母親の百花は2階のテラスから下の様子を眺めて微笑を浮かべている。

俺たちはそれに気が付くと一階から軽く飛び上りテラスへと登る。

すると百花は一瞬驚いた様な顔になるがすぐに表情を戻して声を掛けて来た。


「あなた達は何者なの?その身体能力。普通じゃないわよね。」


そして百花は再びこちらを観察するような目になり扇子で口元を隠す。

そうやら明美の話では母親は味方であるという話だが本当に油断ならないのはこちらなのかもしれない。

そして少し悩んだがある程度の説明と質問をしておくことにした。


「そうだな、少しだけ話しておこうか。そうしないと今はまだ颯は受け入れてもらえないかもしれないからな。」


そして俺の言葉の中には隠れてはいるが人でない颯と明美の事が含まれている。

しかし、それを話すのは今からする会話の後でもいいだろう。


「話をする前に少し聞いておきたい事がある。あんたらはどんな事で金を稼いでいるんだ?」


すると百花は少し考えた後に大雑把に説明を始めた。


「幾つかの会社を経営してるわ。新素材や新薬の研究。最近では宇宙から持ち帰った鉱石なども調べてるわね。」


その答えに俺は頷くとポケットを経由して幾つかの物を取り出した。


「なあにそれ?綺麗な石ね。それに何かの鉱物と・・・。それは飲み薬かしら。」

「まあそれで正しいと言えば正しいな。これは魔石と言う物だ。そしてこれはミスリル。こっちはポーションだ。やるから調べてみるといい。面白い事がわかる。」


そう言ってその三つを百花に渡すと彼女はそれをメイドに最優先で調べる様に指示を出した。

どうやら予想通り彼女にはかなり柔軟な思考がありそうだ。

そうでないとこんな子供が出したものを簡単に信じたりはしないだろう。

研究機関で軽く調べても普通ならかなりのお金がかかるのだから。


「それであれとあなた達に何の関係があるの?」

「そうだな。簡単に言えば俺達5人は先日異世界から帰って来たばかりだ。あれ以外にも証拠は山ほどあるがあれだけでも調べれば信頼に足る材料になる。そして、これから変わっていく世界の中で明美と颯は絶対に確保しておきたい人材になるはずだ。夫婦で信じる気になったら颯と一緒に俺達をまた招待してくれ。その時はもう少し先まで話そう。」


そして俺はそこで話を終えテラスから下を見下ろした。

どうやら勝負が始まるようである。


(明美の親父さんが何処までやるのか楽しみだな。)


そして下では、男の意地を掛けた戦いが始まろうとしていた。

予定では明日が最終投稿となります。


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