12 昇格試験
次の日の朝。
俺と冬花は同じベットで目を覚ました。
その後は互いにしばらく見つめ合ってその存在を確認し、軽く目覚めのキスをしてベットから起き上がる。
そして一緒にシャワーを浴びると出発の準備を始めた。
「今日はギルドで昇格試験を受けようと思うが冬花もそれでいいか?」
「うん、いいよ。でも私はDランクだから一緒に試験受けられるかな?」
「まあ、その辺は行ってみてから聞いてみるしかないな。もしもの時は脅し・・・じゃなかった。交渉してみるしかないな。」
「もう、蒼君。あまりギルドマスターを虐めたら可哀そうだよ。あの人はジェシカの旦那さんなんだからね。」
冬花は苦笑とも微笑ともとれる表情を浮かべて窘めてくる。
しかし、今のところはあのギルマスに手加減をする気が全く起きないのも事実だ。
半分以上は八つ当たりだと分かってはいるがどうしても犯していたであろう罪を償わせたくなってしまう。
そして俺達は部屋を出るとギルドへと歩き出した。
しかし宿を出ると視線を感じたのでそちらの気配を探ってみる。
(この気配は昨日からいるな・・・。何の用かは分からないが俺達を付け回しているのは確かだ。今残ってる可能性は王家とあれか。いったいどっちの監視なのやら。)
俺は昨日同様に気付かないフリをしながら冬花と腕を組んで歩き出した。
そしてギルドに付くとさっそくジェシカに声をかける。
「おはよ、ジェシカ。」
冬花はいつもの笑顔で声をかけた。
「あ、おはよ。今日はどうしたの?」
そしてジェシカもいつもと変わらない挨拶を返す。
(良かった。いつもと一緒だ。)
ちなみに冬花はジェシカの対応が変わるのではないかと内心では心配で仕方なかったそうだ。
しかし、今も変わらない対応をしてくれた事で表情の硬さが無くなり自然な笑顔になっている。
俺もそんな二人を横で見ながら柔らかく微笑み冬花の頭に手を置いた。
「良かったな冬花。」
「うん。」
そして、不安が消えた所で今日ここに来た本題へと入る。
「それで昨日聞いた試験を受けたいんだが冬花とはランクが一つ違う。それでも一緒に行動しても大丈夫なのか?」
(まあ、ダメならあいつの部屋に殴り込みだな。)
俺は少し物騒な事を考えながらジェシカに聞いてみた。
するとその顔に不敵な笑みを浮かべたかと思うと、どこぞに居そうな悪役幹部の様に笑い始めた。
「ククク、そのような事はこのジェシカさんにはお見通しよ。アナタはギルドマスターの権限(職権乱用)によってⅮランクへ強制的に昇格となります。これで冬花と同じランクになるので問題なく一緒の試験を受けることが出来るわ。」
「これで一緒に試験受けられるね。」
「そうだな。でも何が有るか分からないから気を付けような。」
「うん。」
そして一緒に試験を受けられる事が確定すると冬花は嬉しそうに笑顔を振りまいた。
その輝く表情に周囲の男が視線を釘付けにされるが流石にそれだけで怒っていたらこの世界の男の大半を殺す事になってしまう
なので今のところは冬花に手を出さなければ奴らの命日は先延ばしにしておいてやる。
「助かったよ。ありがとうジェシカ。」
「気にしないで。この対応はギルド規約にも形としてはあるものだから特別な対応じゃないわ。それに使える人材はとことん使うのが冒険者ギルドだからね。」
そしてジェシカは俺達のお礼の言葉に笑顔でウインクを返して来た。
こうして見ると世話好きのオバサ・・・ゴホン。
お姉さんなんだからもう少し手加減すれば母性に魅かれてもと人気が出るだろうにな。
「それなら試験を受けたいが今からでも大丈夫か?」
「大丈夫よ。それにこちらで試験官を用意してるわ。その人と一緒にこの二つの討伐依頼を達成してほしいの。」
ジェシカは説明しながら二つの依頼用紙を取り出しカウンターの上に並べる。
そして視線を横の酒場に向け、それに気付いた1人の女性が立ち上がりこちらへと歩いてくる。
その人物は身長が150位と小さく、頭から緑のフート付きマントを着ているためどんな人物なのか把握しずらい。
そのため大きな特徴としては僅かに鮮やかな緑の前髪が見えて程度だ。
「初めまして。私はSランク冒険者のクレア。一応魔法使い?だから攻撃魔法は任せて。」
そしてクレアと名乗った恐らく少女?はコテンと首を傾げた。
どうやら人との会話はあまり得意では無いようだ。
常識が身に付いてない俺達とはある意味では少し似ているかもしれない。
「それで、なんで職業が疑問形なんだ?」
「職業が1つじゃないからよ。それなら僧侶にしとくわ。だから回復は任せて。」
その言葉に俺は色々な思いの籠った視線をジェシカへとむける。
すると彼女は『ゴホン』と咳ばらいをすると俺達に聞こえる程度の小さな声で補足を入れてくれた。
「一応言っておきますが、彼女はエルフで見た目通りの年齢ではありません。それと複合魔法をまだ使えないのでまだ賢者でもありません。」
俺と冬花は今の補足である程度の理解をすると頷きを返し、本題へと話を戻した。
先ほどは試験官であるクレアの登場で話しが逸れてしまったが、まだ依頼の内容を聞いていないからな。
「それでどんな依頼をこなせばいいんだ?」
「私もSランクになるたもの試験は初めてだから詳しく教えて欲しいな。」
そして俺達は3人でジェシカの前に並び依頼の紙を見る。
しかしクレアは少し身長が足らないようでその場で限界まで背伸びをして必死で覗き込んでいる。
するとジェシカは慣れた手つきでホームセンターなどで売られている様な木製の踏み台を足元から取り出しクレアに渡した。
「何時もすまない。エルフは成長が遅いからこういう時苦労する。」
クレアは受け取った踏み台を自分の足元に置くとその上に乗って依頼書を確認する。
そして全員でその内容を確認していくと討伐対象になっている魔物に俺は少し顔をしかめた。
一枚目の依頼内容はこうなっている。
Bランク討伐依頼
オーガの群れの殲滅
王都から半日ほど離れた森でオーガ10匹の群れを発見。
さらにオーガに怯えたフォレストウルフなどが森から出て来ているようだ。
早急な解決を求む。
もう一枚の紙にはこうある。
Aランク討伐、又は調査依頼
近くの山にドラゴンの姿を見たという情報が商人と冒険者から多数来ている。
現地に赴き調査を行うこと。
なお、討伐可能ならば討伐されたし。
調査だけでもその内容により報酬は支払われる。
そしてAランクの依頼を見てすぐに俺は目を細めてジェシカに睨む様な視線を送る。
流石にこの世界をあまり知らないであろう俺達にドラゴンの調査が来るとは予想していなかったからだ。
それにどう見ても冒険者としてランクも信頼も足りていないだろう。
そして、ここでの信頼と言うのは人間性ではなくその者が持つ実力を示している。
「おい、これは俺達が受けて大丈夫なのか?」
するとジェシカも分かっているのか『ビクッ』と体全体が跳ねたかと思えば素直に視線を逸らしてしまう。
「そうか。早速お話が必要みたいだな。」
「ちょ、ちょと待ちなさい!」
俺はそう言って清々しい好青年の笑顔を作るとジェシカの制止も聞かずに無断で奥へと歩き出した。
彼女はそれお止めようと更に手を伸ばすがそれよりも早く俺は動き出し既にその場からは遠くへと離れている。
そして数秒後にはギルマスの部屋の前に立ち穏やかな手付きで扉をノックする。
「ギルマス~、苦情を配達しに来ました~。」
しかしそこには何の反応も返って来ない。
だが俺はに中から感じる気配によりギルマスが居留守を使っているのに気付いていた。
そのため遠慮なく扉を開けて中へと入って行く。
『ガチャガチャ・・・バキ!』
何やら扉を開ける際に抵抗があった気もするが今の俺には些細な事だ。
そして、中に入ると予想通りギルマスは椅子に座ってこちらを見ている。
しかし、顔が明らかに青く、強がりであるのが見るだけでわかる。
しかもここには昨日と違い冬花とジェシカは居ないのでこの扉を閉めて溶接でもすれば完全な密室の完成だ。
ただ、そこまではせずに俺はここまで持って来た2つの依頼書をギルマスへと突き付ける。
「よう、昨日ぶり。この二つに関しての説明を聞きに来たぞ。」
俺の顔にはいまだに笑顔が浮かんでいるが雰囲気は鬼の様になっている。
漫画の様に擬音を付けるなら『ゴゴゴー!』か『メラメラー!』と言った所だろう。
その雰囲気にギルマスはなんとか絞り出すように短い返事を返して来る。
「そ、そうか。」
そして彼のその返事と共に唯一の逃走経路である扉は{ギギギ}と音を鳴らしながら閉まり、その直後には何重にも重ねられた結界が部屋を覆い尽くす。
その事に気付いてギルドマスターは諦め、深い溜息を吐き出すと理由を話し始めた。
「その依頼だがBランクはあくまでおまけだ。本命はAランクのドラゴンになる。そして君は強制依頼が彼女の死因になっていると言ったな。確証はないがもしかしたらその依頼を受ける者が現れず、ある時に緊急依頼へと変わってしまったのではないかと推測した。しかし今の君たちにはその依頼は回せないからこんな形になってしまった。偶然Sランクの者もいたので試験官として雇う事も出来た。これで納得してくれるか?」
そして、俺は説明を聞くと素直に頷き刺々しい気配を消し去って普通の笑顔に戻る。
そう言う事なら直接こうして言ってくれれば良いのに、隠れて奥さん任せにするから問題が起きるんだ。
今度時間がある時にでもコイツには報連相の何たるかをしっかりと叩き込んでやろう。
「わかった。それにおそらくだがドラゴン自体に問題はないからな。ただあんたの真意が聞きたかっただけだ。今後も何かあったらちゃんと言ってくれよ。」
「そうさせてもらうよ・・・。」
そして俺は結界を解くと他には何もせずに扉から出て行った。
その途端、後ろから大きな溜息と机に倒れこむような音が聞こえたが聞こえなかったことにして冬花たちのもとに戻る。
すると俺の姿を見てジェシカが真っ先に駆け寄って来た。
「ど、どうでしたか・・・その、お話は?」
何処となくジェシカの表情は引きつって見えるが俺は何食わぬ顔で結果だけを伝える。
「ああ、あれは俺の頼みを反映した結果だと分かったからこのまま受けさせてもらう。」
そして今度は冬花とクレアに確認を取るためにそちらへと向く。
冬花は大丈夫だろうけどクレアはこの依頼内容までは知らなかったようだ。
今から試験官を断ったとしても気にはしないので確認だけは取っておく。
それでもし依頼が受けられない様なら場所は分かっているので直接行って討伐すれば良いからな。
冒険者とは定期的に移動を繰り返す者も多いと聞いているので、偶然向かった先でドラゴンと遭遇して倒してしまっても問題ない。
そして、まずは不安の無い冬花から確認を取ってみる。
「それで、冬花は大丈夫か?実力に問題はないが急に難易度が上がると危険かもしれないぞ。」
しかし冬花は笑顔で首を左右に振った。
そこには一切の不安も恐怖も無く、まるでちょっと買い物に出かける奥様の様だ。
「大丈夫だよ。私はドラゴン退治が得意だから。ちょっと行って一緒に昇格しよ。」
その返事に当然の様に微笑で頷く。
そして真剣な顔になって次はクレアにも確認を取る。
「お前はどうする?一緒に来れば死ぬ可能性もある仕事だ。もし無理なら断ってもらって構わないぞ。」
「いや、私も問題ない。ドラゴンを倒せるくらいじゃないとSランクには上がれないからな。」
「そうか。俺達としても試験がすぐ受けられるから助かる。」
そして俺達は再びジェシカに向き直ると心ここに在らずと言った感じのジェシカへと依頼書を差し出した。
恐らくは旦那が心配なんだろうが先に仕事を終わらせてもらおう。
その後でなら昨日飲ませてくれたあのお茶を腹が裂けるまで飲ませてやれば良い。
「この試験を受けることにした。今分かってる情報を教えてくれ。」
するとジェシカはさっそく準備していた地図を広げると一点を指差した。
これはきっとこの世界の事を全く知らない俺への配慮だろう。
さしが旦那と違ってジェシカは分かっているな。
「オーガはこの門を出た先の森にいるわ。何処にいるかは分からないけど確実にこの王都へ接近しているみたいなの。今はもう半日分の距離も開いてないかもしれないわ。」
「そうか。場所が分かれば後は大丈夫だ。ドラゴンについては?」
するとジェシカの視線は地図から離れ外に視線が向けた。
そこには標高1000メートル程の山があり、ここからでも良く見える。
「あの山の麓で確認されてるわ。ただそれだけしか情報がないの。せいぜい色が分かれば危険度も分かるんだけど。」
「ん?ドラゴンは色で危険度が変わるのか?」
「ええ。一番危険なのはクロ。次は赤。その次が黄色。その次が茶色。その次が青。そして最後が白。」
そう言ってジェシカは分かりやすく紙に書いて説明をしてくれる。
「ドラゴンは知能が高くてとても誇り高いの。でも黒と赤と黄色はとても傲慢なドラゴンが多くて気晴らしに街を焼き払ったりするわ。それに比べて茶色と青と白はとても温厚で人とも共存している者もいる程よ。こちらのドラゴンなら見つけてもよほどの事が無い限り討伐の心配はないわ。」
「と、言う事は先の3種は戦闘になる可能性が高そうだな。」
俺は顎に手を当てながら予想を口にする。
そして、ジェシカもそれに頷くと真剣な顔で注意をしてくる。
「そうね。ただこれは調査でも依頼達成よ。無理をせず生きて帰る事が優先されるから危ないと思ったら即座に撤退するのよ。まだ新婚なんだから冬花を泣かしちゃだめよ。」
そう言えば1回目の時も危険な仕事をしている冬花に安全面での注意をしていたな。
確かにこれならベテランと呼べる冒険者からの人気が上がりそうだ。
冬花もあんな状態になっていても常に受付にはジェシカを選んでいたしな。
きっと冬花が今まで頑張れたのもコイツのおかげだろう。
そして、俺はジェシカに心の中でお礼を告げると大きく頷いて返した
「ああ、わかってる。油断はしないから安心してくれ。それじゃ早速行ってくるよ。」
そして俺達は背中を見せるとそのままギルドを出て行った。
だが、まずは食料を買うために市場に向かう。
正確な所在が不明なために魔物を見つけて依頼を達成するための日数が分からないからだ。
それにまだ昼にもなっていないため商品の多くは鮮度は良く、品数も揃っている。
俺は冬花にアドバイスを受けながらイノシシの肉を10キロと玉ねぎ・キャベツ・トマト・ナスのような野菜を何種類か買ってアイテムボックスに入れて行った。
「蒼君はアイテムボックスあるんだね。羨ましいよ。」
アイテムボックスに買った荷物を入れていると冬花が羨ましそうに俺の手元に視線を向けている。
「冬花はまだ持ってなかったのか?」
「うん・・・。」
すると冬花は残念そうに視線を落として俯いてしまった。
俺は苦笑を浮かべ冬花の頭を撫でながら慰めると同時に何となくだが冬花がアイテムボックスを持っていない事に納得と安堵を感じた。
きっと冬花はこの世界で本当に大事に思う物が何も無かったのだろう。
そのため今までアイテムボックスのスキルを覚えることが出来なかったのだ。
しかし、今は冬花にも大切な物が幾つかあるため覚える事は簡単だろう。
「それなら後でとっておきの方法を教えてやるからまずは買い物を済ませるぞ」
すると冬花は元気を取り戻し一緒に買い物を済ませると説明にあった門から王都を出て行った。
そして、外に出てすぐに提案を持ちかける
「ところでここからはどう進もうか?俺は走っていきたいんだが。」
すると突然の提案にクレアだけがその場で固まってしまう。
もしかしてたった半日程度の距離も走破できないのだろうか?
しかし、そんなクレアを置き去りにして冬花は普通に頷きを返して来る。
「そうだね。歩いて半日の距離だから急がなくても1時間くらいで着くかな。」
「そうだな。ちょとしたランニングだと思えば余裕だよな。」
しかし勝手に進む話し合いにクレアは付いて行けず、気付けば走る準備を始めている。
それに対して焦った表情を浮かべると半身を引いてストップをかけて来る
「ちょ、ちょっと待ってくれ。」
するとそれだけ言ってクレアは王都に向けて走り出した。
そしてしばらくすると何やらラプトルのような生き物に騎乗して俺達の前に戻って来る。
「ちょっとギルドで騎竜を借りてきた。こいつなら半日走っても大丈夫だ。それじゃあ二人のお手並みを拝見させてもらう。当然、途中で休憩してもらっても構わないからな。」
そう言った時のクレアの口元はとても得意げであった。
どうやらハッタリが含まれていると思っているようだ。
しかし見た目が子供のクレアにこういわれて俺は大人気もなくカチンと来てしまった。
ちなみに俺達全員が大の大人なのだが。
そして、俺の内心に気付いている冬花はヤレヤレと小さな溜息を吐いた後に苦笑を浮かべている。
しかし、挑戦されれば受けるのが男と言うものだ。
特に冬花の前では情けない姿は見せられん!
そして俺達は目的地に向かい「よ~いドン!」で走り出した。
但し騎竜が走れる限界ギリギリの速度を見極め常に前を走り、挑発する様に頻繁に視線を向けて鼻で笑う。
それを見てクレアよりも騎竜が奮起して俺の後を必死で追って来る。
そして目的地の近くに付いた時には騎竜は限界を超えた走行に目を回すと地面にバッタリと倒れてしまった。
その時の俺は鼻を高くして得意げに笑い、それを見た冬花は再びヤレヤレと苦笑する。
そして借り物の騎竜が倒れてしまったため、クレアは涙目で回復魔法をかけ始めた。
ちなみに、この時の俺には彼女が今回の試験官であるという事実が完全に抜け落ちていた。
そのためクレアの機嫌を取るため色々と苦労させられた。
特に冬花以外の女性に対してご機嫌取りをしたのは初めての体験だった。
この事を教訓として今後は控える事にする・・・かもしれないと心の底で思う。




