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117 戦士たちの戦い

城壁の上で魔法を放っている魔導士たちはある問題に直面していた。

彼らは人々から魔力を譲り受け魔物に対して途絶える事無く魔法を放ち続けている。

しかし、魔法を放つには魔力の制御やイメージが必要であり、今の様な巨大な魔力を安定して魔法に変換するには高い集中力と精神力が必要であった。

しかし、開戦から1時間もしない内に殆どの魔導士が疲労で限界に達し魔法が使えなくなる者が続出した。

これはたとえ神の加護があろうと人としての限界が存在する以上は当然の事である。

そのため攻撃の間隔が広がり、その隙を突いて次第に魔物たちが城壁へと迫り始めた。


それを見て城壁の上で指揮をしていた者は即座に伝令を走らせる。


「すぐに下に行ってこの事を知らせてくれ。このままでは城壁に敵が取り付いてしまう。」


すると伝令役の兵士は指揮官の言葉に顔色を悪くして階段を駆け下りて行った。

そして、それほど時間を置かずに城門の内側でラッパが鳴らされる。

これは打ち合わせで決められていた出撃の合図である。

これを聞いて下で待機していた冒険者や騎士たちが続々と門前に集合して行く。


そしてその先頭には国王から信頼の厚い騎士たちと、高ランク冒険者たちが並んでいた。

そんな中で一番先頭にいるアルベルトが全員の向き直り檄を飛ばす。


「皆よく集まってくれた。敵の数はいまだに膨大で全力で戦っても俺達に勝機はないかもしれない。しかし俺達の国を、大切な者を奪おうとする奴らを俺は許せん。奴らに俺達の強さを見せつけてやろうぜ。」


そしてアルベルトは腰の剣を抜いて空に向けて掲げた。

すると周りの戦士たちだけでなくそれを聞いた他の者達からも巨大な歓声が上がる。

アルベルトはそのまま背を向け門へと歩き始めた。

それに続く様に騎士や冒険者たちが続きその後ろからは巨大な歓声が背中を押し、戦士たちに勇気を与える。

そして門が開くとアルベルトは走り出し、最も近い魔物に向けて剣を振り下ろした。

すると後ろから続々と戦士たちが到着し同じように剣や槍で相手を切り捨てる。


「アルベルトさん置いて行かないでくださいよ。」


そう言って話しかけたのは新人時代から互いを知るシモンである。


「そうですよ。あんたに死なれたらリーリンさんに火炙りの刑にされちまう。」


そしてその横にいたアベルはリーリンの過激さを思い出して身震いを起こす。


「ははは、すまんなお前たち。だが出し惜しみせていては押し込まれる。二人とも本気を出すぞ。」

「「おう。」」


「「「体剛の腕輪起動」」」


そして3人は全力を出すために百合子に渡された腕輪の一つ。

体剛の腕輪を起動する。

これは百合子がソーマの加護を得る事で作り出す事に成功した彼女オリジナルのアイテムであった。

その効果は体の強度を高めると言うただそれだけの物である。

しかし、これにより次に使われる腕輪の副作用を改善する事に成功させたのだ。


「「「竜人の腕輪起動」」」


そして、3人は続いて竜人の腕輪を起動した。

腕輪は脈動する様に中央の宝石を光らせ彼らの能力を飛躍的に上昇させる。

そして、以前にあった人間としての肉体の強度不足を体剛の腕輪で補う事で副作用の消えた竜人の腕輪は100パーセントのポテンシャルを発揮し戦場を蹂躙して行く。


「オラオラオラオラーーー!」


気合の声と共に振るわれた剣は一振りで10を超える魔物を両断し、殴る、蹴る、当身のどれが当たってもその体を粉砕した。

そしてその殲滅速度は押し寄せる魔物の数を凌駕していく。

しかも相手の攻撃がほぼ無効であるため、彼らは魔物の中に踏み込み戦い始めた。

そうするとやはり洩れた敵は城壁へと向かい始める。

しかし、その前には強化の腕輪を身に着けた騎士と冒険者が待ち構えていた。


「獲物が来たぞ。あいつ等ばかりにいい格好をさせるなー。」


そしてアルベルト達の後方でも戦闘が開始された。

しかし、そちらの魔物の数は少なく魔物1に対して2人以上で戦う事が出来ている。

その為、今の所は有利な条件で戦闘を進める事が出来ていた。


そんな中、上空で飛び交っていたワイバーンに変化が現れた。

ワイバーンたちは編隊を組んだ様に並ぶと後方で戦う戦士たちに向け急降下を始める。

すると、それを見て取った指揮官は声を荒げ周りに指示を飛ばした。


「魔法の使える者で手の空いている者はワイバーンに対応せよ。弓隊奴らを近づけるなー。」


その指示を聞き魔法が使える者たちはワイバーンに魔法を放つ。

使う魔法は風の魔法で統一し、倒すのが目的ではなく相手を落とす、又は撃退する事を優先させた。

しかし、ワイバーンたちは引く事を知らない様に愚直なまでに真直ぐ戦士たちへと向かってきた。

その様子に戦士たちは対応を変更し盾を取り出して構える。

ここにいる戦士たちは体を強化している為ワイバーンの攻撃に耐える事が出来ると判断したようだ。

そしてワイバーンを一撃で仕留める自身のある者は盾ではなく剣を握り攻撃の構えを取る。

しかし、城壁から風を切る様な音が複数聞こえた時、事態は一変した。


「何だ、何が起きた。」


指揮官は向かって来るワイバーンが次々に頭に矢を受け落ちていく様を目撃した。

そして城壁に目を向けた指揮官が見たものは大きな弓を持った二人のエルフの姿であった。


「だ、誰だあの二人は・・・。」


すると横にいた冒険者が指揮官に彼らの事を教えてくれる。


「女性の方はジョセフ商会のララさんです。男性の方は最近この町に滞在しているミストさんですね。二人とも凄くお強いと言う噂でしたが本当だったようですね。」


そして指揮官が良く知っているなと思い冒険者に視線を向けるとその者もエルフであった。


「そうか情報感謝する。」


そして礼を言うと残り少なくなったワイバーンたちに一斉攻撃を支持した。


「撃てーーーー!一匹も生かして返すなーーー!」


そして向かってきたワイバーンを一掃すると再び地上の敵の殲滅に移行する。

その頃、城壁の上では。


「久しぶりに世界樹の弓を使う機会が来ましたが、やはりワイバーン程度なら問題なさそうですね。」


そう言ったララはいつもの無表情で城壁の下の戦場を見下ろした。

今はまだ苦戦らしい苦戦もなく優勢に戦いを進めている。


「これなら地上の援護は必要ないでしょう。問題はドラゴンが今後どの様に動くかですね。」

「そちらはお前の妹のクレア達が対応してくれる。パメラ様も魔法の訓練の成果が出せると喜んでいたぞ。」


そう言って苦笑を浮かべるミストだが、ララはあからさまに嫌そうな顔をした。


「御婆様がですか。やり過ぎなければいいのですが。あの人は魔法の事となると人が変わりますから。」


するとミストも頷いて「そ、そうだな」と答え戦場に視線を戻した。

見れば地上の者達は無事に残りのワイバーンを墜とし止めを刺している。

数は減らしたが的確な指示にワイバーンを仕留める事の出来る実力。

全員がかなりの手練れである事が伺える。


しかし、いまだに魔物は尽きる事無く辺りを埋め尽くしている。

そして戦争が進むにつれ雑魚であるゴブリンやウルフなどが減り、代わりにオークやオーガ等の強い魔物が姿を見せ始めた。

特にオーガはその巨体故にどうしても倒すまでの時間がかかる。

その為押し上げていた戦線は膠着し始めた。


「クソ、こいつらデカすぎる。」


そう言ったのは騎士の一人である。

彼はいつも使っている長剣を使いオーガと戦っているが剣の長さが足りず苦戦していた。

そして、周囲では騎士ゆえの武器の偏りが仇となり同じような光景が至る所で発生していた。

しかし、そんな戦場を走り回りオーガだけを的確に、素早く刈り取って行く二人組が現れる。


「アンタら何ちんたらやってんだい。オーガってのはこうやって狩るんだよ。」


そう言って1人の中年女性が素早くオーガの足を大剣で切り取りオーガを

地面へと倒す。

するとオーガが倒れる方向が分かっていたかのように1人の中年男性が走り寄り一撃で首を切断した。

その早さは声が聞こえて10秒にも満たない時間である。

他の者が数分かける魔物をまさに秒殺であった。


「アンタら武器はそれしかないのかい。デカい奴にはねえ、デカい武器を使うんだよ。すぐに後方に連絡して武器をそろえてもらいな。これからはこんな奴がウジャウジャ出て来るよ。せっかくアイテムで地力が上がってるんだ。臨機応変に対処おし。」


そう言って二人は次のオーガの元へと走り去って行った。

そして、騎士たちは今のアドバイスを生かし、後方へと連絡を送る。

すると冒険者ギルドが既に予想していたようで騎士たちに大剣が配られた。

ちなみに冒険者たちは既に手に持つ武器を大剣や大盾に持ち変えるなどして対応している。


そして、大剣に持ち替えた騎士たちの奮闘のおかげで再び戦線を押し返し始めた。

その後、戦士たちによる戦闘が開始されて2時間余り。

戦い続けていた者達に疲労の色が見え始めた。

それを見越していた指揮官は横の補佐官に合図を送らせた。


「ん、この音は・・・。撤退命令か。」


アルベルトは合図を聞き取り周りで戦う者達へと声を掛ける。


「お前ら撤退命令だ。殿を務めるぞ。」

「了解。あ~やっと休憩か。」

「ああ、どうやらやっと魔導士たちも魔法が使える状態に回復したみたいだな。」


そして後方の騎士や冒険者たちが撤退するの中、精鋭たちは殿を務めその背中を護った。

すると彼らの頭上を越えて再び魔法が放たれ始める。

それにより敵に切れ目が出来、その間にアルベルト達も無事に撤退して行った。

城壁を潜ると彼らは腕輪を停止させその場に倒れるように腰を下ろす。


「は~、この腕輪。使ってる時は気にならないのに停止させると一気に疲労が来るな。」

「ああ。でもこれのおかげで今のところは無傷でこうして生き残っている。あの子には感謝しないとな。」


すると隣にいたアルベルトが苦笑を浮かべ話に入って来る。


「お前らまだまだだな。」


そう言ったアルベルトは疲労はしているが他の者とは違い普通に立って会話している。

その様子にはまだ余裕が感じ取れ、ただの強がりでない事が伝わってくる。


「しかし、これからはもっと激しい戦闘になるだろうな。今後ドラゴンも混ざってくるとなると戦いは更に厳しくなる。ドラゴン相手では俺達も一撃とはいかないからな。」


そして彼らは急速に体力を回復させるためポーションを飲んで休憩を行う。

こちらも体の回復は出来ても精神の回復にはどうしても休憩が必要である。

可能ならば寝るのが一番だが、その時間は無いため、彼らには変わりに美味しい食事が提供された。


「うお、うめーーーー。何だよこれ。辛くて美味い。この世にこんなものがあったのか。」

「こっちは生地の上に赤いものと・・・、これはチーズか。これも最高だぜ。」

「おい、こっちは蒸したパンの中に具が入ってるぞ。何だよこれ。誰が作ったんだ。」


そう言って絶賛されているのはカレーにピザ、そして肉まんである。

作っているのはノエルに指導を受けた街の料理人たちであった。

彼らはノエルの指導のもと、多くの料理を習いこの日の為に準備していたのだ。

その効果は高く、戦闘のプロである彼らは五分目ほど腹に入れると次の休憩を楽しみにして去って行った。

これにより前衛で戦う戦士たちのモチベーションが上がり次の闘いでも高い戦果をあげる。


その様な事が何度か行われ城の外が魔物の死体で溢れかえる頃、城壁の上で全体を見ていた指揮官がある異常に気が付いた。


(全員のおかげでかなりの魔物を殺したはずだ。しかし、その割には死体の数が少ない気がする。)


そして、指揮官が戦場を注意深く見つめると魔物の一部が不審な行動をしている事に気付いた。


(・・・あれは。しまった!!!あいつ等仲間の死体を回収している。)


その事に気が付いた指揮官は対応を模索するために参謀本部へと伝令を走らせた。


「なに、魔物が死体の回収をしているだと。そうなると魔石を取り込んだ強力な魔物が出現する可能性があるのか。こうなれば可能な限り魔石を回収するしかない。ギルドマスター、すみませんがお願いできますか?」


すると参謀長を務める男は傍にいるギルドマスターへと声を掛けた。


「分かりました。この町には前線に出る事を許可できなかった冒険者たちがたくさん残っています。彼らに言って魔石の回収をさせましょう。戦闘は許可できませんが彼らも魔物の解体は得意ですからね。」


そしてギルマスは立ち上がるとそのまま冒険者ギルドの建物へと戻って行った。

すると冒険者ギルドから町全体に魔力の波動が照射される。

その途端目につく者たちの中で冒険者の格好をした者たちが懐からカードを取り出しそれを見始めた。

カードは赤色に点滅しておりそれを見た者達は大急ぎでギルドへと走り始める。

そしてギルドの中ではギルマスやスタッフが緊急呼び出しの説明を行っていた。


「わかった。魔石を集めればいいんだな。」

「はい。お願いします。しかし、絶対に戦闘には参加しないでください。今戦っている魔物はオーガ等の大型種がメインとなっております。若干ですがドラゴンもいるそうなので戦闘に巻き込まれると高い確率で死んでしまいます。」

「分かった。俺達もそんな無謀な事はしない。それに解体は得意分野だからなそれだけでも町の為になるなら頑張って来るさ。」


そう言って次々と説明を受けた者達が外へと駆け出して行った。

彼らは魔物から魔石を取り出したり、足元に転がる物を見つけては回収して行く。

そのおかげで敵に回収される魔石は大きく減少して行った。

しかし、どうやら魔石の回収は少し遅かったようだ。


それを知らせる様に最前線に暴走した魔物たちが出現し始めた。

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