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116 前哨戦

その日の朝、見張りの兵士は遠くの空に飛行するドラゴンの群れを発見した。


「き、来た。来たぞーーーー。」


そして叫び声を上げると同時に待機していた兵士が城と町中に馬を走らせた。

それにより静かな早朝は一気に活気づき、残っていた人々は統制の取れた動きを開始する。

だがこれは事前にルールが決められていたために可能な事であった。

国は区画や人数に応じた順番を決めており、兵士たちはそのルールに従い人を呼び集めたり誘導できるようになっている。

また、先に動き出した者の多くは冒険者や腕に覚えのある者達であった。

その中には蒼士とベルが買い物に行った野菜屋の夫婦も含まれている。

二人は頑丈そうな鎧に巨大な大剣を背負い力強い足取りで冒険者たちに続いて行く。

すると二人を知る者がいたようで中年冒険者が声を掛けた。


「久しぶりだな鬼殺しの。」

「ああ、久しぶりだねー。今日はベルファスト様の為に参加させてもらうよ。」

「ああ、それは助かる。聞いた話だとオーガもかなりいるらしいからな。オーガキラーと名高いあんたらが出てくれるなら心強い。」


そう言って互いに拳をぶつけ合い情報を共有しながら歩いて行った。

ちなみに野菜屋の二人の腕には二つの腕輪が光っているがその出番はもう少し先の話である。


そして城壁の上では知らせを受けたティファが待機していた。

しかしその顔は緊張の為かあまりいいとは言えない。

すると近くにいた宮廷魔導士である老人が声を掛けた。


「君がティファかい。そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。」


そう言った老人は緊張を感じさせない穏やかな笑顔を浮かべた。

それを見てティファの緊張が少し緩み僅かな笑顔を浮かべる。


「心配かけてごめんなさい。でもあんなに沢山の魔物を見るのは初めてで・・・。」


するとティファは城壁から見える景色に息を飲んだ。

そして老人もその光景を見て僅かに緊張が走る。

彼らの視線の先には肉眼で確認できる距離に魔物の群れが迫っている。

そして魔物たちは大地を蠢きながらこの首都に向かって確実に近づいて来ていた。

しかもその上空には多数のワイバーンやドラゴンが飛び交いここまで届くほどの咆哮を上げている。

恐らく統制が取れていないただの魔物の群れならば、既に散発的な攻撃が始まっていた事だろう。


「確かに通常ならあの群れを止める手段は無いじゃろう。しかし、今この町にはあれらを上回る戦力が集結しておる。心配はいらんよ。」


老人は優しいく笑いかけるとティファの頭を数回撫でた。


(ああ、儂の孫と同じくらいだと言うのに。老いたこの体でどこまで出来るか分らんがここは儂も命を賭ける時やもしれんな。)


そして老人はティファの隣の魔法陣に立つと表情を引き締め精神統一を始める。

すると少し遅れてリーリンが到着しティファは知り合いの顔を見て胸を撫で下ろした。

その後リーリンとしばらく話し緊張を和らげたティファは老人の横の魔法陣で同じように精神統一を始める。


そしてまた別の所では颯と明美が揃って待機中の冒険者と話をしていた。


「おう坊主に嬢ちゃん。危ない時はすぐに下がれよ。死んだら何にもならないからな。」


そう言って颯の肩を叩いているのは部位欠損から復活したシモンとアベルである。

彼らはあれからも冒険者を続けその実力を飛躍的に向上させている。

今やこの王都を代表する冒険者達であった。


「はい。こいつと結婚するまでは死ぬつもりはありません。」


そして戦い直前の高揚感がそうさせるのか颯は明美の肩に手を回して抱き寄せた。

すると明美は嬉しそうな笑顔を浮かべると颯の腰に回す。


「おう、見せつけてくれるね。しかし、俺達も守る者が出来ちまったからな。この戦いで死ねないのは一緒だ。互いにカバーしあって生き残るぞ。」


そう言ってシモンは先日結婚した妻の顔を思い浮かべる。

そして横のアベルも同じく妻の顔を思い浮かべ拳を握り締めた。

二人は体が回復してすぐに意中の相手へと告白しに走った。

そして、無事に付き合う事が出来、先日結婚したばかりなのだ。

その妻たちは今も町に残り家で夫の帰りを待ってくれている。

それだけでも二人は勇気と力が湧いてくるのを感じていた。

しかも、今回前線で戦う冒険者には兵士と同じく強化のアイテムが配られている。

しかも彼ら上級冒険者には百合子特性のアイテムが配られ、その出番を心待ちにしていた。


「それじゃあ、俺達は他の奴らとも話があるからな。」


そしてシモンとアベルは他の冒険者の元へと去って行った。


「あの人たちの腕輪見たか?」

「ええ、あれは先日、百合子さんが必死に量産していた竜人の腕輪でしたね。」

「それだけ今回の闘いは厳しいんだろうな。」

「はい。今回の事は神々が関わっているので私にも未来が特定できません。油断しない様にしましょう。」


そして、ある所では3人の勇者。

輝、翼、火鞠が寒気がするような笑みを浮かべながら鬼婆の様に砥石を手に剣を研いでいた。

その異様な様子に周りの者はドン引きして誰も声を掛ける事もなく、一定以上の空間が出来ている。

しかし、そんな所に1人の少女、アリシアが周りの制止も聞かず近づいて行った。


「3人とも何してるんですか。周りが引いてますよ。」


すると3人はアリシアに気付いて普通の表情に戻ると顔を上げた。


「いやな、決戦前の集中を。」

「あれ~、この冗句知らない。漫画とかだとよくあるんだけど。」

「・・・ごめんなさい。自分の世界に入ってたわ。」


そう言って3人は三者三様の言い訳を口にして同じように頭を掻いた。


(この3人時々凄く息が合ってるんですよね。しかも悪い方向で。)


そんな事を考えながらアリシアは心の中で頭を抱える。

言っては何だがこの3人は戦えば強いがそれ以外がとても残念な者達である。

戦闘に入ってしまえば心配ないがそれまでがとても不安であった。

そのため、アリシアはノエルから聞いた魔法の言葉を使う事にする。


「ノエルさんからの伝言です。この戦いを頑張ればそれぞれ好きな料理を作ってくれるそうです。しかもあちらの食材で。」


すると途端に3人の顔つきが変わりその瞳に炎が宿る。


「マジかそれ。冗談じゃないよな。」

「バーニング。燃えてきましたぜーーー。」

「しょ、しょうがないわね。あんた達が言ってた通り、周りの奴らは任せなさい。一人の犠牲も出さないわ。」


そう言って3人は熱くやる気を漲らせて立ち上がった。

その雄姿に何も知らなければ歓声の一つも上がるだろうが、周りの者は今のやり取りを全て目撃している。

その為周りからは呆れや苦笑が湧き起こるだけであった。


そして城にはオーディン、アテネ、天照、ハーデス他多くの神々が集まっていた。

これは聖王国のスパイがまだ町に残っていた場合、狙われる可能性があるため神々を集めた結果である。

その為城のパーティー会場や貴賓質を解放し彼らを歓待している。

しかし、オーディンたちあちらの神々は国王と共に城の周囲が見える最も高い塔に上ると、そこから町の状況を見守っていた。


「儂も同席してよろしかったのですか?」

「構わんよ。この戦いは儂らがここにいる事に意味がある。まあ、見ておれ。面白い物が見れるぞ。」


すると天照はオーディンの言葉に笑い軽く手を振って幾つもの映像を映し出した。

場所は城門にその周辺。

更に城壁の上や上空からの映像などである。


「しかし、カティスエナも愚かな事をしたものです。我らが見ていると言ったのにあの暴言。さらに神罰対象の国の人間たちを寄越すとは。我々が気付かないと思ったのでしょうか。」


するとその疑問に何か思い至ったのかハーデスが答えた。


「普通ならいちいち魂までは鑑定せんかなら。魔族以外はこの世界に普通に存在する魔物なので気付かれないと思ったのではないか。それに神である我らだから魂の鑑定も出来るが人には無理だからな。」


ハーデスの言葉に周りの者たちは「確かに」と納得をして頷いた。

そして映像では魔物たちがとうとう魔法の射程距離に入ろうとしている所であった。

その為、城壁の上で待機している魔導士たちは魔法の準備に入り、兵士たちは市民を魔法陣の所定の位置へと誘導して行く。

そして魔力を供給された魔導士たちは魔法の準備を始めた。


「そろそろ始まりそうね。私達もやってしまいましょうか。」

アテナの言葉にオーディンは頷きアテナに許可を出す。

するとアテナから黄金の波動が広がり、それは町全体へと広がって行った。

しかし、これと言った変化はなく波動を目の前で浴びた国王は首を傾げる。


「まあ、見ておれ。すぐに分かる。」


国王はオーディンに言われるがままに映像を覗き込んだ。


すると城壁の上でティファは魔法の準備をしている。

しかし、目の前に集まる魔物の群れを見て心を恐怖が支配し始めた。


(怖い怖い怖い。あんな数に勝てるはずない。)


そして恐怖は冷静な判断を鈍らせ魔法の制御を低下させる。

しかし恐怖を感じていた者はティファだけではなかった。

周りの多くの魔導士たちもその光景に心が折れようとしていたのだ。

そんな時、彼らは城を中心にして町中へと何かの波動が広がるのを感じた。

そしてその波動を浴びた途端、恐怖は薄らぎ正常な思考が戻り始める。

すると、先程までとは打って変り魔力の制御も容易くなり、視界が開けたよに周りが良く見える様になった。


「え、何これ。」


そして驚いていると横の老魔導士から声が掛かる。


「何処の神かは知らんが何らかの加護が儂ら全員に掛かった様じゃ。慌てず魔法の準備をしなさい。もうじき敵がこちらの射程に入る。」


ティファはその言葉に従い深呼吸をして魔法の準備を再会する。

そして敵が射程に入った瞬間、担当の者が発射の言葉を叫んだ。


「撃てーーー!」


すると、魔導士たちは計画通り、炎で統一された魔法を魔物に向けた打ち出した。

しかし、その威力は本人たちが思っていた威力を大きく上回り想定の数倍の魔物を薙ぎ払った。


「これは・・・。加護の力か。もしかすると今の加護には精神を安定させるだけでなく、攻撃力を上げる効果があったのかもしれん。」


そして、老魔導士は戦果に茫然としている兵士に大声で告げた。


「何をやっておる。次を準備するのだ。敵は待ってくれんぞ。」


すると兵士たちは老魔導士の声に反応し人々を誘導して行く。

しかし、今の魔法の威力を脅威に感じた地上のドラゴン達は魔導士を潰そうと数匹がブレスの態勢に入った。


「しまった。シールドを張るのだ。城壁が破られるぞ。」


だが今はまだ魔法陣に交代の人々は入ってはいなかった。

その為、自らの魔力だけでシールドを張る必要があったがそれでは今から来る攻撃に耐えられる可能性は0に近い。

その為老魔導士はティファに覆いかぶさり頭を低くさせるとシールドを張りながらその身を盾とした。


「お爺ちゃんやめて。」

「黙っておれ、今の儂にはこれ位しか出来んのだ。」


そして他の者たちも頭を低くした次の瞬間、ドラゴン達は城壁に向けてブレスを放った。

ドラゴンブレスの一斉射は一つも外れる事無くシールドを薄ガラスの様に砕き城壁へと命中する。

その激しい振動に全員が死を覚悟し目を強く瞑って涙を浮かべた。


しかし、ブレスが止み振動が治まっても死の気配を感じられない魔導士たちは目を開けて恐る恐る辺りを見回す。

するとそこには先ほどの波動と同じ色に輝く城壁が視界に飛び込んで来た。

そして、更に周りを見回せば誰も死者が出ていない事が確認できる。


老魔導士はティファに手を貸して立ち上がらせると瞬時に状況を理解した。


「全員意識をしっかり持て。これは神の奇跡だ。急いで大勢を立て直して攻撃を再開するのだ。」


そしてそれぞれ魔法陣に戻ると再び攻撃が再開された。

その様子を見ていた国王は驚愕しオーディンへと顔を向ける。

するとアテナは国王の驚いた顔を見てクスクスと笑い説明を始めた。


「私は町の守護神として防衛戦でこそ真の力を発揮することが出来るの。だからこうやって町全体に加護を与え精神を安定させたり戦力を増強したり、城壁を強化できるのよ。あの程度の攻撃、なんてことないわ。」


そして、国王が目を向けた映像の中で魔導士たちは必死に魔法を放ち敵を殲滅して行く。

しかし、魔物の波を殲滅できたのは極一部にすぎない。

戦いはこれからが本番であった。

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