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115 決戦前日

魔族が王都に到着する前日。

全ての者たちが一斉に動き始めた。

城ではこの度も宝物庫が開けられ、そこにある武器や防具が特定の人間に配られていく。

そして、各所では百合子が作成したポーションが配布、又は倉庫に入れられいつでも使える準備が行われた。

更に城壁の上では魔術師たちによる魔法陣のチェックと作動確認が入念に行われ戦いの準備が進められている。

街中には闇ギルドのメンバーが配置され不審な者達の排除も行われていた。

そして、王都の国民は志願者以外は全て退避させられている。

しかし、志願する者が後を絶たない為、殆どの者が残る結果となっていった。

そして彼らは再び魔力供給者として活躍する事になるがこの町はベルの加護が強く働く者で溢れ返っている。実力は別にしてもその魔力の総量は以前の時に比べ何十倍にも膨れ上がっていた。

しかし、ここでは前回と大きく違う事が存在する。

そこで魔法を放つ者の中にティファとリーリンが加わっているのだ。

特にティファは既に宮廷魔導士のお呼びがかかる程の才能を見せていた。

しかし、彼女は商人になると言う夢を叶えるためにその話を断っているのだ。

だが、今の様な時にその才能を使わない訳にはいかない。

そのためティファは異例の採用により明日ここで戦う事が決まっていた。

そこにはあの頃の様にウルフに追われて焦る姿はもうない。

彼女は母親であるミランダと共に行商に出かけ既に多くの戦闘経験を積んでいるのだ。


そして、今は蒼士の家には彼ら彼女らを招いて食事会が開かれていた。

そこにはアリシアと契約した勇者の3人も参加しておりそこに並ぶ料理を思う存分食べ続けていた。


「うっま。お前ら毎日こんな良い物食ってるのか。」

「俺がこっちに来た時はまだ煮込み料理なんて無かったぞ。」

「アンタら馬鹿なの。せっかく米とカレーがあるのよそんなの食ってる場合じゃないでしょ。」


「「何!!!」」


そして元勇者の3人は存分に料理を堪能していたのだった。


しかし、今ここで問題なのは裏ギルドの幹部や明日の戦いの主要戦力が集まっている事でも、お忍びで国王が参加している事でもない。

ここに多くの神々が参加している事であった。

彼らはベルや国王にお礼や挨拶をしに来ている事になっているが本当の目的は今日出されている料理である事は明らかであった。

どうやらこの町に滞在している神の多くは町の料理を食べて食事に目覚めてしまったようである。

聞けば天界ではお腹が空かないので食べる必要が無いとの事。

その為今までこちらに来る事のなかった多くの神が美味を追い求めてここに集まってしまったようだ。

彼らはこの世界に存在しない料理を味わい舌鼓を打ち帰って行く。

するとそれが噂となり次々に神が集まって来てしまったのだ。


そして今、厨房ではノエルだけではなく冬花やカグツチ、そしてそれを聞いて国王が連れて来た料理人でまるで戦場のようであった。


しかし、ここで新たに厄介な者達が蒼士の家へと訪れる。


「やあ蒼士。様子を見に来たよ。」


そう言って現れたのはアポなしでやって来た天照であった。

しかもその後ろにはオーディンとアテナまで立っている。

そして人で溢れかえる室内を見て天照は『パン』と手を叩いた。

すると部屋の空間が広がり体育館の様な広さへと変わる。


「ふう。これで少しは楽になるでしょう。」


しかし、部屋が広くなっても厨房の人員が増える訳でも料理を作る速度が上がる訳でもない。

彼方はこれから今まで以上の洗浄となるだろう。

手伝ってやりたいが俺が行くと料理が破裂する。

俺は厨房の皆に心の中でエールを送ると周囲を見回した。


すると天照は周りを見回し、数名の神を捕まえ勝手に奥へと消えていく。

その中にはベルや偶然来ていた豊穣の女神シャルキレムも含まれているようだ。

しかし、天照が一瞬見せた黒い笑みを俺は見逃す事は無かった。

恐らくまた、何か良からぬ事を思いついたのだろう。


そしてオーディンは神が集まる場所に行くとその場で酒を出して配り始めた。


「皆、酒は飲めるか?今日は飲みやすいのを持って来たのだが。」


すると興味を持った神たちがオーディンから酒を受け取り飲み始める。

そして、酒を口にした神神は驚愕の声と表情を浮かべた


「な、何だこれは。町で飲んだエールやワインとも違う。このスッキリした飲みごたえ。それに料理との相性も抜群だ。」


そして1人目の神が絶賛するとオーディンの元へは多くの神が殺到し始めた。

オーディンはその者達に分け隔てなく酒を配り親睦を深めていく。

しかし、オーディンが自主的に酒を配るのはある意味では異常としか言いようがない。

俺はその姿にある種の疑問を覚えるが今のところはそれ以外の動きが無いためそのまま放置とした。


そしてアテナは何故か国王の元に行って話しかけている。

俺はその内容を確認するために聞き耳を立てた。


「あなたがこの国の国王ね。私は勇者たちの世界の神なのだけど明日はこちらで戦いを見守りたいの。いいかしら?」


そう言ってニコリと笑いかけると国王は少し考えた末に首を縦に振った。

別にその美貌と笑顔に魅了された訳では無いと彼の為に断言しておこう。

あの王はそれぐらい堅実で誠実な男だからだ。


「それなら我が城においでください。城ならば高所から全体を見回す事も可能でしょう。それにあなたの様に美しい女神が見守っているとなれば士気も高まります。」

「あら、お上手ね。それなら明日はお城に行かせてもらうわ。」


どうやらアテナやオーディン達はこの戦いを特等席で観戦するようだ。

しかし、これは別に変と言う事は無い。

攻めてくるのは魔族や魔物だとしても、その殆どはバストル聖王国の人間であった者達。

すなわち天罰の対象である事実は変わらないのだ。

その戦いを観戦したいと言うのは不自然な事ではない。


(確かに自然な事なんだがどう見ても何か企んでるよな。あ~天照がいる時点で不安しか湧いてこない。)


そして、俺は頭に鈍痛を感じて軽く額を押さえる。

しかし、そんな中でハーデスとヘルディナの姿がない事に気付いた俺は更に周りを見回し二人を探す。

すると丁度アリスを見つけたのでハーデスについて聞いてみる事にした。


「アリス、ハーデスは来てないのか?」


するとアリスは少し不機嫌そうになりながらハーデスの居場所を教えてくれた。

しかし、そんなに気になるならもう少し優しく接してやれば良いのにな。

これが所謂ツンデレと言う奴だろうか。

まあ、ハーデスも似たような所があるみたいだから似た者同士なのかもしれないけどな。


「ハーデスならヘルと一緒に聖王国へ行ったわ。戦力を待機させてるんだって。今日は帰りが遅くなるそうよ。」


そう言って頬を膨らますアリスは記念日に仕事に出かけた夫を待つ妻のようだ。

それとも誕生日をすっぽかされた娘かもしれない。


その様子に俺は苦笑を浮かべると、とばっちりを避けるためにその場から撤退して行く。

これは思っていた以上にご機嫌斜めみたいだな。


その後、時間は過ぎていき昼から始めた食事会も日が沈む頃にはようやく終わりが見えて来た。

そして日が沈みきった頃になると神々もさすがに来なくなり、やっと落ち着いて食事が出来る様になる。


「冬花、カグツチお疲れ様。」


そう言ってキッチンから出て来た二人に労いの言葉をかける。

すると二人は笑顔を浮かべてこちらへとやって来た。


「こんなに人が来るなんて思わなかったよ。国王様が応援を連れて来てくれなかったらどうなってたか。」

「そうだな。それにしてもノエルは凄いな。あんな状況でも的確に指示を飛ばしてプロの料理人たちを仕切っていたぞ。」


するとキッチンから丁度話していたノエルが料理を持って現れる。

そしてテーブルの上を簡単に整理すると料理を置いて席に着いた。


「は~さすがにあの仕事量は想定外だったわ。あちらの世界なら確実に倒れてたわね。」


ノエルはそう言って持って来た料理を摘みながら溜息を吐いた。

たしかに来た人数もかなりいたが一人が食べる量が凄い。

元勇者の3人は食べ過ぎてお腹が漫画の狸みたいに膨らんでいたほどだ。

ちなみにその3人は部屋の隅で床に座り、満足そうに腹を摩っている。


そして、タイミングを見計らっていたかのように家の扉を開けハーデスが戻って来る。

するとその姿を見てアリスはすぐに駆け寄っって行った。


「早かったわね。上手くいったの?」

「ああ。以前アリシアの件で行っていたのが幸いした。明日の午前中には到着するだろう。そうすれば戦いもかなり楽になる。」


するとアリスは鼻息荒く腕を組みハーデスに胸を張った。


「大丈夫よ。相手は魔物と魔族でしょ。今の私達なら楽勝よ。」

「それでも油断はするなよ。俺はそうやって死んだ者達を数多く知っている。お前が死んだら悲しく思う者が最低3人はいる事を忘れるな。」


するとアリスは少し顔を赤くして「3人?」と問いかけた。


「お前の母が一人、お前の父が一人。」


そしてハーデスは最後に指を立ててユノを指差した。

するとアリスはハーデスに対してジト目を送りその顔を見上げた。


「冗談だ。お前とはこうやって話す事も多いからな。心配するのは当然だろ。」


するとアリスは途端に機嫌がよくなり笑顔で頷いた。


「意地悪しないで最初からそう言えばいいのに。それとヘルもご苦労様。明日はハーデスの事お願いね。」


「ええ、任せてください。私達の・・・間違えました。世界の未来の為に頑張ります。」


そしてヘルディナはいつも通りの欲望剥き出しの宣言をして拳を握り締めた。

まあ、微妙に天然が入っているが仕事は出来る女神である。

それに関して誰もヘルディナを疑うことは無い。

時々妄想が暴走する事を除いては。


そして、今度は奥の部屋から天照と共にベルとシャルキレムが現れた。

どうやら昼過ぎからずっと話し込んでいたようだ。

疲労の色は見えないがベルは少し嬉しそうに俺を見た後に顔を赤くしている。

その様子に疑問を感じたので何を話したのかをベルに問いかけた。


「相手が天照だから聞くのが怖いが奥で何話してたんだ?」


するとベルはクスリと笑うと口の前で人差し指を立てた。


「上手くいくか分からないので今は秘密です。でもその時が来たら真っ先に知らせますね。」


どうやら俺にすら秘密のようだ。

しかし、ベルの笑顔がとても輝いているので企みと言っても悪いも事では無いのだろう。

そしてこの日は食事を終えると俺は冬花とカグツチ、そしてベルと同じベットに入った。

すると隣にいる冬花が不安そうな声で声を掛けてくる。


「蒼君、とうとう明日だね。」

「そうだな。」


そう言って俺に体を寄せた冬花は分かる程に震えていた。

やはり生死が決まる明日の闘いはいまだに18歳の冬花にとってかなりの不安を与えているようだ。

俺はそんな冬花を強く抱きしめ落ち着くまで頭を撫でる。

するとその横にいたカグツチも冬花を挟むように抱きしめベルも後ろから俺達を抱きしめた。

すると冬花の震えは次第に収まり安らかな寝息を立て始める。

そしてその寝顔に明日の決戦に対する決意を固めた。


(待ってろよカティスエナ。今回地獄を見るのはお前だ!)


そして、3人は一塊になって穏やかに眠りに付くのだった。

ちなみに夜にいなかったオーディンとアテナだが、二人は酒を酌み交わして仲良くなったこの世界の神と朝まで飲み明かしていた。

そして、そこで聞いた神々の愚痴とこの世界の仕組みを二人は知ったが、それが役立つのはもう少し後の事である。

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