114 新たな王
ディエルは気が付くと城の庭にミネルバと共に立っていた。
そして自分の腕の中には気を失ったコレットを抱えており周りの突然の変化に目を見開く。
するとその様子を見てミネルバが声を掛けた。
「私も初めてでしたが神々が使う転移を彼は使えるそうです。それを使い砦に向かったのですよ。」
そして話しているといつもディエルを世話してくれているメイドの少女が駆け寄って来た。
「ディエル様、そのお怪我は!?」
そう言ってメイドは驚愕しポーションを取り出すとコレットを代わりに抱えながらディエルに渡した。
「ありがとうアメリア。」
するとアメリアは嬉しそうに笑顔を浮かべてミネルバへと顔を向ける。
「陛下が玉座の間で報告をお待ちです。ディエル様と共に来るようにとの事です。」
「分かったわ。すぐに向かいます。悪いけどコレットは自室で休ませてあげて。」
するとアメリアは一礼し近くにあるメイドの待機部屋で毛布を手に入れるとコレットに掛けて去って行った。
「行きましょう。」
そう言ってミランダはディエルを連れ、共に玉座の間に歩いて行く。
そして玉座の間に入るとそこには主だった重鎮と騎士たちが勢揃いしていた。
二人は国王の前に行くとその場に膝を付き頭を下げる。
「良く帰ったディエル。と言いたいが儂は怒っておる。その理由が分かるな!?」
「はい、陛下。どのような処分もお受けいたします。」
すると周りの者からどよめきが生まれる。
周りの誰もがディエルの横暴を目にして知っている者達だ。
そしてそのディエルがここまでまともな事を言うとは多くの者が予想していなかった。
「そうか。ならばまずは報告をせよ。」
「敵の数は想定通り10万を軽く超えていると思われます。構成されている魔物には人型が多く、周辺からも魔物を引き入れて増大しております。後方に魔族の集団も確認しました。その中央にはドラゴンの背に跨る魔王の様な存在も確認しております。更に多くの人型の魔物は衣服を着用し、同型の武器防具で武装しておりました。」
その報告に再び周りからどよめきが生まれる。
それを国王は手をかざして黙らせると溜息をついた。
「ディエルよ、良くその情報を持ち帰った。そして、良く生きて帰って来てくれた。」
そう言って国王は表情を崩し僅かに笑顔を見せる。
しかし、すぐに表情を引き締めて言葉を続けた。
「それではお前に今回の事での罰を告げる。」
そう言って国王はミネルバに確認の視線を向ける。
するとミネルバは軽く頷いて了承を示した。
「実はなディエル。儂は見ておったのだよ。お前の闘いを。ミネルバの娘と交わした約束をな。」
するとディエルは驚愕し目を見開いた。
「お前にはコレットとの結婚を命じる。それと同時にバストル聖王国の復興を命じる。」
すると流石にディエルも黙ってはいられない。
その場で立ち上がると声を上げた。
「待ってくれ、どうやってあの事を知ったのですか?それに見ていたと。」
すると国王は「ウム」と頷いてその答えを教えた。
「ある神が水鏡で見せてくれたのだ。言葉は読心術が使える者に読ませた。お前も結婚を約束するならもう少しまともなセリフを勉強せねばな。次も期待しておるぞ。」
そう言って国王は「ハッハッハッ」と天井を見上げて大きな笑い声をあげる。
すると告白の瞬間を全て見られた事を知ったディエルは顔を真っ赤に染めてミネルバへと視線を向ける。
するとミネルバは澄ました顔を母親の笑顔に変え首を縦に振った。
すなわちミネルバにも見られていたと言う事である。
ディエルとしては嘘でもここは首を横に振ってもらいたかったがその思いは彼女には伝わらなかった様だ。
「し、しかし、陛下。復興と言ってもあそこは今どうなっているのですか?もし魔物たちに蹂躙されたのでしたら私程度には復興は不可能です。」
すると国王は再び頷いて重鎮の一人に視線を向けた。
重鎮は一歩前に出るとバストル聖王国の町の様子を説明し始める。
「国の状態は問題ありません。破壊された家屋もなく使用可能です。町の住人に関しては全てが魔族、又は魔物に変異し誰も残っておりません。」
するとディエルは今日一番の衝撃を受けその場で棒立ちになる。
「ちょっと待て。変異とは何の事だ!?」
するとその答えには国王自らが説明を始めた。
「ここにおる者は皆知っておるがカティスエナがあの町の人間を全て変異させたそうだ。そしてその軍勢は今もこの町に向けて真直ぐに進軍している。お前が戦ったのはあの国の住人の成れの果てだ。それに今のところ救う手は見つかっていない。じゃからこの事でお前が気に病む必要はない。」
「分かりました。しかし国はどうするのですか?王がいなければ復興は不可能です。この国に取り込むのですか?」
すると国王はニヤリと笑いディエルを指さした。
「お前が王になるのだよ。その為の結婚でもあるのだ。」
しかしディエルは何を言っているのか理解が出来ず首を傾げた。
すると後ろにいたミネルバがディエルの為に説明を始める。
「あなたには言ってませんでしたが私はあの国の貴族の一人です。そして私の夫はあの国の王族の血を受け継ぐ者。すなわちコレットにはあの国の王族の血が流れています。そして、今あの国の王位継承権を持つ者は全滅しており、コレットと結婚すればあなたの息子があの国の王位を継げると言う事です。その間はあなたがあの国の王として国を動かす事になります。ちなみにエルフ、ドワーフ、獣人たちの賛同は既に得ております。後は周辺国ですがこれだけの種族の賛同と今回のこの国の功績を考えれば誰も文句は言わないでしょう。」
そしてディエルは何か言おうと口を動かすがこの決定を覆す言葉が浮かばず結局口を紡ぐ。
すると国王は周りを見回し反対意見が無いかを確認した。
ちなみに全ての根回しが完了しているので反対意見が出るはずはない。
そして国王は新たな王の誕生を祝福するために拍手を送った。
するとその音は次第に広がり部屋に集まる全員がディエルへと拍手を送る。
そして出来レースの様な謁見が終わりディエルはコレットの元へと向かった。
ディエルは部屋の前に立つと大きく深呼吸して扉をノックする。
すると中からアメリアが扉を開きディエルを部屋に招き入れた。
そして部屋にあるベットの上では既にコレットが目を覚まし元気な笑顔を浮かべていた。
「コレット、もう大丈夫なのか?」
「ええ、心配かけてごめんね。それと・・・守ってくれてありがとね。」
そう言って頬を染めるコレットを見てディエルも顔を赤くする。
するとアメリアは気を利かせて部屋を出て行った。
その様子に二人は苦笑を浮かべて肩の力を抜く。
「実は先ほど父上から言われたのだが俺達の事は全て見られていたらしい。」
するとコレットは最初は何の事だか分からなかったがディエルの反応から全てを察し、顔を真っ赤にしてベットに潜り込んだ。
「何で。どうやって。あああ~~~!!」
そして、ベットの中で暴れ回りしばらくするとピタリと止まった。
すると少しだけ布団を開き顔を出すと「もしかしてお母さんにも?」と問いかける。
その問いにディエルは渋面を作りながらもコクリと頷いて答える。
あえて言葉にしなかったことがディエルに出来る最大の優しさだろう。
すると先ほどを上回る叫びを上げてベットの上でゴロゴロと転がり始めた。
ディエルはその様子に苦笑を浮かべるがすぐに真面目な表情に戻りコレットに声お掛ける。
当然聞くのはコレットが貴族であるのかと言うことだ。
そしてバストル聖王国の復興に協力してくれるのかと言う事である。
「うん、実は私達はあの国の雰囲気が肌に合わなくて家族3人であの国を出たの。でもお父さんが病気で死んじゃって仕方なくあの国に帰る事にしたんだ。一応貴族だったからお城でメイドとして働けたけど、私にセクハラした兵士をお母さんがボコボコにしちゃって。」
すると、その時の事を思い出したのかコレットはクスリと笑う。
「でもそのおかげでここで働けたしあなたにも会えたわ。今は昔よりも幸せよ。」
そしてコレットは幸せそうに微笑むとディエルを見つめた。
しかし、この後その顔が大きく歪む事となる。
ディエルは先ほどの話を分かりやすくコレットに伝えたのだ。
自分達の結婚は既に決定事項でその後バストル聖王国の復興に行かなければならない事。
自分達の息子が新たな王になる事などを伝えた。
そうすればコレットは自動的にあの国の王妃である。
それは彼女の人生で貴族と言う勝ち組から始めて平民まで下り、そこから正式に王族へと仲間入りを果たす。
グラフにすれば天井を突き破る程の大出世だが本人はこんな性格である。
そんな事は望んでいないのはディエルには手に取るようにわかった。
そしてコレットは最後の抵抗とディエルへと声を掛ける。
「あの~それって」
「決定事項だ。」
「周りの国は?」
「了承済みらしい。」
「私の人生は?」
「俺と一緒だと不満か?」
そして全ての逃げ道を塞がれたコレットは毛布を肩にかけてトボトボと扉に向かい歩き出した。
ディエルはもしや逃げるつもりかと一瞬身構えたがコレットは扉を開けるとアメリアを部屋にいれる。
そして扉を閉めるとアメリアの手を取り再びベットに戻って二人で並んで座った。
「それじゃこの子もお妃様ね。」
すると急に言われたアメリアは慌てて顔を真っ赤に染める。
「ちょっと、コレット。何言ってるのよ。」
「え、あなたもディエルの事好きでしょ。私と一緒に茨の道を進みましょ。」
そしてコレットはアメリアの気持ちを暴露しアメリアを巻き込んだ。
しかし、ここで一番驚いたのはディエルであった。
彼はアメリアの気持ちにまったく気付いていなかったのだ。
しかし、知ってしまえばこれまでのアメリアの献身ぶりにも説明がつく。
そして、その陰に隠れた複数のアプローチが頭をよぎりディエルはアリシアを見つめた。
「あ、あの、その、ごめんなさい。あなたが好きです。」
そして沈んだ顔で謝罪と告白を同時にしたアメリアにディエルは優しく微笑んだ。
そしてコレットよりも一回り小さな少女の頭に手を置くとその髪を優しく撫でた。
「気付かなくてすまなかったな。お前の気持ちは嬉しく思う。なら、お前も俺に付いて来てくれるか?」
「・・・はい。喜んで!」
するとアメリアは顔を上げて目尻に涙を浮かべながら笑顔で頷いた。
しかし、この時アメリアは詳しく説明を受けなかった事を未来で大きく後悔する事となる。
彼女の中では3人仲良く一軒の家に住み、子供に囲まれた幸せな生活を描いていたのだ。
しかし、その未来が叶うのはずっと先である。
彼女は今から王族としての教育をミランダから受けながら生活をしていく。
しかし、恋する乙女の強かさが発揮され聖都入りする頃には立派な王族としてのマナーを手にする事が出来ていた。
元々貴族の子女としてそれなりの教育がされていた事が大きかったが本人の努力が一番大きかっただろう。
そして、数日後。
この王都を魔物の波と魔族たちが周辺を埋め尽くす様に現れた。




