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112 神々の家出

時間は遡りここは天界にあるカティスエナの執務室。

彼女は今、ここ最近起きている異常に頭を悩ませていた。


「は~、信仰の減少が止まらない。特にアルタでの減少が著しいわ。」


そしてこの時、彼女はいつもの手を使う事を決断した。


「しょうがないわね。そろそろまた魔王に登場してもらいましょう。さて、今回は誰がいいかしら。」


そして彼女は自分で密かに作っている魔王候補リストを取り出しパラパラとめくった。


「ああーーー。シャルキレムの奴は今回こそ魔王にしてやろうと思ってたのにまた息を吹き返してるのよね。まあ、豊穣の女神だから私に頼らないなら彼女を頼るのが一番だから仕方ないか。まあ、そこはさすが前主神ってところね。誰も覚えてないでしょうけど。」


そして再び何枚かページをめくり1人の女神の所で目を止める。

その女神は資料によれば信仰を失くしもうじき消える運命にある者だった。

その理由としてバストル聖王国の布教により元々あった教会が潰され、そこにカティスエナの教会が建てられた事が記されている。


「ああ、思い出したわ。これを知った時、私大笑いしながら書いたから字が曲がっちゃったのよね。懐かしいわ~。」


そして彼女はその女神の名前の欄に視線を落とした。


「ヘルディナか。よしこの子にしましょう。この子なら消えても魔王になっても怪しまれないし言い訳もしやすいわ。」


そう思いカティスエナはヘルディナを執務室へと呼び付ける。


実の所、今はこんな彼女だが主神となってから最初は真面目に働いていた。

しかし、ある出来事を切っ掛けに彼女は変わり始める。


それはある日の事。

前主神であるシャルキレムがカティスエナの元に怒鳴りこんで来た。


「ちょっとアンタ。何考えてるのよ。ウチの子を勝手に使うのはやめてくれない。」


それは本当に些細な理由。

シャルキレムは豊穣の女神として何人もの補佐を抱えている。

実はヘルディナもその一人で補佐として一つの村を任されていた。

そんな補佐の一人に命じてその地方の領主に伝言を頼んだのだ。

しかし、その領主の町にはその者の教会は無くしばらく村から離れる事となってしまった。

その結果だけを見れば問題はないのだがシャルキレムとしては自分の補佐を勝手に使われ、無責任な行動を取らされた事が腹に据えかねたのだろう。


その時カティスエナは小言を言うシャルキレムが疎ましく、人間の様に意識誘導が出来れば楽なのにと考え冗談のつもりでそれを使ってみた。

すると時間はかかったがシャルキレムは次第に考えを変えていき、最後は笑顔で帰って行った。

そしてこの瞬間、カティスエナは意識誘導の効果対象がこの世界に生きる全ての者に有効である事に気付く。

それから彼女は少しずつ神も人間も操作して不動の地位を手に入れた。

今では神が一人消えたとしても彼女が少し言えば全員が納得する様になっている。

しかし、それも力のある神には効果が薄い事が判明した。

そのため他の神の信仰を削ぐことにも彼女は力を注いだ。

その結果生まれたのがバストル聖王国である。


そして、扉がノックされ、1人の女神が執務室へと入って来た。


「お呼びと聞き参りました。私の様な者にどのような用件でしょうか。」


そう言ってヘルディナは入室後に頭を下げる。

しかしその表情は良いとはとても言えず明らかに元気がない。

そして、その内心ではカティスエナに対する恐怖と嫌悪感で身の竦む思いであった。

ヘルディナは今の自分の境遇が誰の責任であるかをしっかりと理解している。

そのため目の前の主神がこれ以上自分に何をするつもりなのか気が気ではなかった。

しかし、カティスエナから出た言葉は想像からはかけ離れた物だった。


「よく来たわね。実はあなたに新たな地域を任せようと思うの。これであなたが自然消滅する心配はなくなるわよ。」


そしてカティスエナは優しい笑顔を浮かべヘルディナの肩に手を乗せる。

しかし、この時には既にヘルディナに対して意識誘導を行っていたため彼女は疑う事もなくカティスエナの言葉に大喜びをした。


「ほ、ホントですか。ありがとうございます。私頑張ります。」


そして二人はそのまま転移で地上へと降りて行った。

そこには既にカティスエナが使う神像が設置されており彼女はそれを使って地上に顕現する。

そしてヘルディナの依り代はカティスエナ自身の手により作り出された神像である。

ヘルディナは感謝と共にその依り代を使い地上に顕現する事が出来た。

しかし、その体は神が使うにはとても弱く、町に住む一般人と同じスペックしかない物であった。

しかし、意識誘導されている彼女はそれに気付く事もなく、カティスエナの後ろを付いて行く。

そして周りを見回しながら気になる事を問いかけた。


「なんだかすごい所ですね。ここは何処かのお城ですか?」

「ええそうよ。今日からここの主はあなたになるから大事に使ってね。」


そして廊下を進んでいると通路のあちらこちらに大きな傷が目についた。

しかし、カティスエナは内心では不安になりながらもその理由までにはたどり着けない。

そのため何故か胸がざわつき不快感に顔を歪ませる。


そしてとうとう彼女たちは玉座の間に辿り着いた。

そして扉を開けるとそこには禍々しい気配を放つ魔王の玉座がその存在を主張していた。


ヘルディナはそれが視界に入った途端に体中から冷や汗が噴き出し、本能が全力で逃げろと警鐘を鳴らしはじめる。

しかしその時には体の自由がきかず、一歩も動く事が出来なかった。


(何あれ・・・!?こ、声が!)


すると焦りに表情が強張っているヘルディナとは対照的にカティスエナは笑顔で振り向き、横によけて玉座までの道を開く。


「それじゃあそこに座りなさい。」


そしてヘルディナへと命令すると彼女の体は意思に関係なく一歩を踏み出した。


(い、嫌。行きたくない!誰か・・・誰か助けて!)


しかしその叫びは最後まで喉を振るわせることは無くヘルディナは魔王の玉座に腰を下ろし意識を失った。


「フフフ・・・。ハーハハハハハ。後は勇者を召喚するだけね。そうすれば世界の危機を利用してまた信仰が戻って来るわ。」


そしてしばらく大笑いをしたカティスエナは来た時とは違い一人で天界へと戻って行った。

その後ヘルディナは何度か意識を取り戻すが体の自由が利かないため逃げる事も出来ず、ハーデスに解放されるまで彼女は絶望と恐怖を味わった。

そんな中でハーデスとの出会いは彼女の神生の中で最大の出来事となる。

まさにピンチを救いに来てくれた王子様。(一応は冥界の王ではあるが。)


そのため、ヘルディナは一発でハーデスに恋をしてしまい今に至る。


しかしそんな時、天界では大きな事件が起きていた。

それはカティスエナの力が本人が思っていたよりも減衰していた事から始まる。

そのため、異常に気付く神々が続出し始めていた。

そして異常に気付いた神々は最初は数日ごとに地上に降り、生活基盤が出来るとそのまま帰って来ない者が続出した。

しかし、それ自体は別に禁止されている訳ではないためカティスエナも強くは言えない。

逆に人々は今までよりもさらに強い信仰が芽生え、地上に降りた神々は更に力が増していくと言うある意味では好循環な事態が発生していた。

しかし、それはカティスエナにとっては悪循環である。

これにより彼女が長年かけて削ぎ落してきた自分以外の神々が完全に息を吹き返す結果をもたらした。

そして、アリス達が黒の龍王を倒し、アルタ王国の首都に帰ると町の至る所に建てられた教会には多くの神が一斉に顕現し、一種のお祭りの様な状態に変わっていた。


「何これ!今日ってお祭りだっけ?」


そう言ってアリスは周りを見回し町の変化に驚きの顔を向ける。

すると門の近くに待機していた闇ギルドの者がノエルへと近寄り状況を説明した。


「そう言う事ね。これは少し予想外だったけど分かったわ。あなた達は念のために各神々の警備に付きなさい。」


そして指示を出したノエルは今得た情報を皆で共有し全員で急いで家へと向かう。

そして家に着くと他のメンバーも集めて今後の事について話し合いが行われた。


「運のいい事にお肉だけはいっぱいあるから食料には困らないのよね。」


そう言ってノエルはミストに顔を向ける。


「そうですね。ドラゴンの肉は栄養満点でそれだけで他の食べ物は食べなくても問題ないくらいですから。まあ、そのおかげで聖王国との間にある村人の非難が効率的に出来るのですが。」


そう言ってミストは苦笑を浮かべる。

ちなみに彼らの元へは聖王国が戦争の準備をしている事が知らされている。

そして、その間にある国内の村や町から人の非難が順調に行われもうじき終了するとの事であった。

その避難民の食料を支えているのが先日から大量に手に入れた竜肉である。

しかし、これについては若干の問題があり、食べ続けている事で村人が必要以上に元気になってしまった事だ。

恐らく今の騒ぎの要因の一つはその竜肉で健康になった人々が騒いでいるのだろう。

この世界で竜肉は薬としても出回る超高級食材である。

しかも普通は大金を出しても食べられないそれを無料で配給しているのだから食べない者は誰もいない。

そして、それにより損害を被った商店にはドラゴン素材で出た利益を当てて補填している。

しかも聖王国が攻めて来ると言う話が町中に広がり今はドラゴン素材が飛ぶように売れている。

だが、これに関しては命の掛かる事なので闇ギルドは薄利多売で行っているが入手にお金を掛けていないので利益は膨大だ。

そして、町の治安を安定させるため強力な強化のアイテムを国に提供し、一般での販売は能力を押さえて作られた物のみを販売していた。

これにより町の経済は活性化し、治安も守られている。


「それで、聖王国が攻めてくるのはいつになりそうなんだ?」


そう言って俺はミストへと問いかける。

しかしミストは腕を組んで唸り始めた。


「実は数日前に町に異変が起きていると報告があり、危険なので闇ギルドのメンバーを避難させたのです。」

「異変?何が起きたんだ?」

「街中に複数の魔族が現れたそうです。しかも魔族たちは町の中を普通に闊歩し、周りの者も特に気にする事無く生活していると。おそらくカティスエナが何かを仕掛けたのでしょうが危険なため撤収を命じ今は国境の砦に待機させています。」


すると全員が頭を抱えて悩み始めるといまだに滞在していたハーデスが声を上げた。


「ならば私が少し見て来よう。この世界で魔族と言われる存在を一目見ておこうと思っていたのだ。」


するとハーデスは立ち上がり聖王国へと飛んで行った。

しかし、そんなに時間が経過していないのにハーデスは家に戻ってくる。

なので見に行くという割には消えたのはほんの数分。

それで大丈夫なのかと皆が不審な顔をハーデスへと向ける。

しかし、そこにある表情は先ほどと違い苦虫を噛み潰したように歪んでいた。


「何かあったのか?」

「ああ、町の上空に転移して様子を見たのだが聖都は魔族で溢れていた。しかも魂を見たので分かったがあれは元々普通の人間だ。それをカティスエナの加護が魔族に変えていっている。しかもかなりのモンスターも混じっていた。モンスターは魔族になった者達の命令に忠実に従っていたので混乱はないが、あれが攻めて来るなら相手は10万は越えるだろうな。」


ハーデスの話を聞いて全員の心にカティスエナへの怒りが燃え上がる。

そしてこの時、ノエルは国境の砦からの撤退も決意した。

砦と言っても1万も入らない小さな砦である。

10万を超える敵が進軍してきた場合そこは確実に地獄と貸すだろう。

残った兵士は死を覚悟し、死んだ者は魔物の餌になる。

その結果死体も遺留品も残る物は何も無い。

ノエルはその事を手紙に記すと外に待機している闇ギルドの伝令に持たせて城へと走らせた。

そしてその数日後、砦から兵士たちは全員撤退して行き人の気配は完全に消え去った。

すると、さらに数日後。

砦は魔物の群れと魔族によって完全に包囲された。

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