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111 黒の龍王

黒の龍王は戦闘の開始を告げると大きく羽ばたき距離を取るとブレスではなく炎の魔法で弾幕を張った。

しかしその巨体と膨大な魔力から放たれる魔法は凄まじく、その威力は込められた魔力から考えて小型のドラゴンが放つブレス位の威力はありそうである。

それでもブレスと比べれば速度は遅くスレイプニールの機動力なら躱すのは容易い。

そしてアリス達は魔法を交わしながら空を走り、龍王への接近を試みた。


しかしここである事実にノエルが気付き僅かに顔を顰める。


(困ったわね。この子達は確かに速いけど速度は絶対的にあちらの方が上みたい。それにこの弾幕じゃあ真直ぐ走らせる事も出来ないわ。これままじゃあ、あちらの魔力切れを待つしか・・・。)


すると龍王はノエルの考えを否定するように魔法を放ちながら魔石を取り出し、それを口に放り込んだ。

そして次に血の滴る様な新鮮なドラゴンを取り出すとそれに牙を立て食べ始める。

すると龍王の魔力が回復していき、どうやら魔力切れを待つのは不可能そうであった。

実際、龍王のアイテムボックスがどの程度の物かは分からないが生きている年月や、先ほどの取り出したドラゴンの状態からすれば時間停止機能は確実に持ち合わせていそうだ。

さらに、その容量が蒼士と同じく無限ならばその中にどれだけの物が入っている事か。


しかし、ノエルは龍王を観察し気にらる事が思い浮かんだ。


(それにしてもさっきから大量に魔石を食べてるけど暴走の兆しすらないわね。どういう事かしら?)


そう思っていると龍王はつまらなそうな顔で口を開く。


「どうした避けるだけでは俺は倒せんぞ。それとも魔力切れや魔石の大量摂取による暴走で俺の理性が飛ぶのを待っているのか?それなら諦めた方がいい。俺には既に感情が希薄と言っただろう。これらの魔石に宿る程度の残留思念など俺にとっては何の痛痒も感じん。」


そしてこの時点でノエルが考えていた作戦は通用しない事が確定した。

しかし、戦闘に際して最も問題があるとすれば龍王にスピードで劣っている事だろう。

接近さえできればノエルたちにも十分な勝機がある。

ちなみに魔法に関してだが既にアリスが使い命中させてはいた。

しかし、あの巨体に有効なダメージにはならず、魔石と肉の摂取により瞬く間に傷も回復してしまう。

普通に考えれば八方塞の状態であった。

しかし、ノエルはここで奥の手を使う事を決めアリスとロックに合図を送る。


「え、ママ。ここで使うの?」

「そうよ、今の状況を打開するにはこれしかないわ。」

「確かに、蒼士には通用しなかったが龍王には通用する可能性は十分ある。」


そして3人は龍王にいったん背を向けると地上へと下りて行った。

しかし、龍王は3人の会話を聞いて何かをするつもりだろうと知るとそのままその場で滞空し様子を見始める。

龍王の目的は戦う事ではなく暇を潰す事であるからだ。

そのため何かを見せてくれると言うならばそれを邪魔する事は考えられなかった。

たとえそれが自分の命を脅かすであろう必殺の一撃だったとしても。


そしてアリス達は蒼士たちが寛いでいる所まで戻りスレイプニールから降りる。

しかし、他の者が必死に戦っている最中に気楽に椅子に座り、お茶とお菓子を楽しんでいるのを見ればアリスでなくとも言いたい事の一つや二つは出て来るだろう。


「ちょっとアンタ達。人が頑張ってる最中に良い御身分ね。」


そう言って蒼士たちを睨みつけているアリスだがテーブルの上に乗っているポットを掴むと男らしく一気に飲み始めた。

しかし、さすがに口を付けるのは恥ずかしかったのか口を上にして注ぐ様な格好で流し込んでいる。

その様子にノエルとロックはアリスの後ろで微妙な表情を浮かべている。


そしてポットのお茶を飲み干すとアリスは口元を拭いポットをテーブルに戻した。


「もう、寛ぐ位なら少しは手伝ってよね。アイツ速くて大変なんだから。」


すると蒼士は苦笑を浮かべると溜息を吐いた。

そこには何もしてないはずなのに何故か疲れているような表情が浮かんでいる。


「手伝ってやってもいいが俺か冬花が参加するとその時点で戦いが終わってしまうぞ。こんな感じにな。」


そう言って蒼士は指を立ててそこから魔法を放った。

しかし、その魔法の光は一つではなく数十の赤い線となり龍王の周りを通過する。

それを見て龍王は珍しく目を見開き、魔法を放った蒼士を見つめた。

しかし、蒼士に戦う意思がないのを感じ取ると興味を失くしたように視線をアリス達へと戻した。


「な、俺の魔法は早いからな。」

「ちょっと、蒼士。アンタの魔法反則でしょ。て、そう言えばパメラさんやクレアも使ってたわね。」


しかし、アリスの言葉に蒼士の表情は曇り、苦笑を浮かべる。


「それでも魔王には勝てなかったけどな。まあ、今回は前回とは俺自身も。そして冬花もかなり状況が違うからな。今度こそ皆で生き残って帰るさ。」


そして、地雷を踏んだアリスも蒼士の言葉に苦笑を浮かべる。

すると後ろで見ていたノエルがアリスを連れて離れて行った。


「アリスちゃん、もう少し緊張感を持たないと危ないわよ。あの二人はああやって寛いでるように見えるけどこの辺一帯に神経を張り巡らせて常に様子を探ってるの。」

「え、そうなの。てっきりお茶を飲んでるだけかと思ってた。」


そう言ってアリスはチラリと蒼士と冬花に視線を向ける。

しかし、何処から見てもただ寛いでいるようにしか見えない。

すると蒼士はお茶を飲みながら突然アリス達も包むほどの大きなドーム状のシールドを張った。

その直後、上空からそのシールドの範囲を上回る程のブレスが降り注ぎ周辺を焼き尽くした。

どうやら龍王はそろそろ待つのに飽きて来たらしい。


「流石にそろそろ痺れを切らして来たみたいね。準備を急ぎましょう。」


そう言って3人は小さな小枝を取り出した。

そして、それに魔力を注ぐと小枝は螺旋状に成長し一本の槍へと姿を変える。

それはオーディンからの加護により手に入れたスキルの一つ。

その名も必中の槍『グングニル』。

しかし、この能力は当初、使用不可能かと思われていた。

この技を使うためには世界樹ユグドラシルが必要だったのだ。

これは、オーディンが住む天界では入手は容易いが人であるアリス達には入手が出来ない。

しかし、そう思っているとこの世界には地上に同じ名前の木があると言う事をパメラから教えられた。

どうやらエルフの国にあるあの巨大な木が、その世界樹ユグドラシルだったようだ。

アリス達はパメラからその枝を分けてもらいそれを材料に槍を作るとスキルの発動に成功した。


その最初のターゲットに何と蒼士がかって出てくれたと言う訳である。

そして、アリスが槍を蒼士へと放つと槍は確かに命中はした。

しかし、蒼士は槍の先端が体に触れた瞬間に槍を掴んで止め、当たり判定はあったがノーダメージでグングニルを回避して見せた。

ちなみにその時の槍は途轍もない速度で確実に音速は超えていただろう。

蒼士も槍を止めた瞬間に周囲へと強力な衝撃波を生み出してしまい周りの木をなぎ倒していた。

そしてこの槍はただの必中ではなく相手の急所に向かって飛ぶようでアリスは蒼士の肩に向けて投げたにも関わらず勝手に修正されて心臓へと飛んで行ってしまった。


そして今、その必中の槍を構えた3人は龍王を見つめ投擲の態勢に入る。

すると、それに対して龍王も再びブレスの態勢に入った。

どうやらアリス達の攻撃に合わせてブレスを放つ様だ。


そして互いに準備が整うとアリス達は槍を、龍王はブレスを互いに向けて放つ。


「「「グングニル!」」」

「ガーーーー!」


そして互いが衝突した瞬間、槍はブレスを貫きながらその先端を摩耗させていく。

しかし、込められた魔力を消費し再び元の大きさに再生すると速度を落とすことなく突き進んだ。

そしてブレスは槍に衝突すると同時に四方へと拡散し余波だけで大地を大きくえぐり取った。

そして一つの槍はブレスに呑まれ消滅して行くが残り2本はブレスに耐えきり、さらに加速しながら龍王の急所である心臓と魔石へと真直ぐに飛んで行く。

その光景に龍王は逃げる素振りは一切見せる事無くグングニルをその身で受け止める。

すると龍王の体を槍は貫通し心臓と魔石を同時に刺し貫いた。

その結果龍王は血反吐を吐き出すと力を失ったように地面へとその巨体を落下させる。

そして、アリス達が龍王のもとに向かうと、とても満足した笑みを浮かべて命の火を消していた。

そんな龍王に敵ではあったが3人は黙祷を捧げ迷わず輪廻の流れに乗れることを祈った。

しかし次の瞬間、それを妨げる者が現れる。


「あんたはまだ使い道があるのよ。勝手に死なれると私が困るでしょ。」


その声はアリス達は初めて聞いたが蒼士と冬花にとっては忘れたくても忘れられない物であった。

その者の名はカティスエナ。

どうやら龍王の魂が輪廻の流れに呑まれる前に回収するつもりのようだ。

そして、空から一条の光が龍王を包むとその巨体に相応しい巨大な魂が浮き上がる。

その魂をカティスエナのものと思われる巨大な腕が空から伸びて来てその手に掴みとった。

しかし、そのような蛮行を蒼士が見過ごすはずはない。


「おいおい、せっかく楽になれたんだ。お前の都合でそれを妨げてやるなよ。」


そして蒼士は即座に剣を抜いて神殺しと覚醒を発動。

その手を何の躊躇もなく切り取った。


「ギャアアアーーー。私の腕がーーー。」


その叫びと共に腕は消え、龍王の魂は無事に大地へと消えていった。

すると光の柱の先にカティスエナの憎悪に歪む顔が浮かび蒼士を睨みつける。


「アンタ、神である私によくもやってくれたわね。」


そう言って切断された腕を押さえ呪詛の籠った言葉を蒼士へと浴びせる。

しかし、神殺しのスキルを使う蒼士に効果は無く、その口元を歪めて不敵に笑った。


「どうしたんだカティスエナ。そんなに怖い顔をして。それじゃお前が魔王みたいだぞ。まあ、気付いてると思うが今回の魔王は・・・いや違うな。魔王候補は俺達が回収したぞ。」


するとカティスエナは腕を生やしながら歯を食いしばるがすぐに邪悪な笑みを浮かべた。


「そう。それなら今回の勇者はもう要らないわね。」


カティスエナそう言って冬花に視線を移す。


「それにあんたの仲間たちもね。」


そして次にアリス達に視線を移す。


「まあ、もともと生かして返す気は無かったんだけどね。」


そしてカティスエナはとうとう本性を現し、狂気に満ちた顔で笑い声をあげた。


「それじゃ、私は天界からあんた達の悪足掻きを楽しく見させてもらうわ。死んだらまた会いましょ。その時あなた達は私の新しい玩具にしてあげる。」


カティスエナは言いたいだけ言うと蒼士たちの前から消えていった。

しかし、彼女が消えた直後、蒼士、冬花、アリスは声を出して笑い始める。


「まさかここまで予想通りに動いてくれるとわな。」

「そうだね。ここまでこっちで作ったシナリオ通りだとなんだか喜劇みたい。」

「あ~でもあんなのに私達振り回されてたんだよね。なんだか逆にショック受けそう。」


そして、ヘルディナを救うことが出来たというイレギュラーを除いて概ねこちらの想定通りに事を勧めた蒼士たちはドラゴン達を回収して家へと帰って行く。

そして、アルタ王国に帰った蒼士たちはすぐに町の異常に気付く事になるのだった。

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