110 颯と明美 竜人になる②
颯は現在、竜やドラゴンが走って来る進路上で剣を手にして待ち構えていた。
敵の数は数百は居り、走る事で舞い上がる土煙はさながら砂嵐のようだ。
そして、先頭を走っているのはトリケラトプスの様な二本足で走る竜たち。
その後方にはティラノサウルスの様なドラゴンが咆哮を上げながら走っている。
また、それ以外にも太い四足で力強く大地を蹴り上げるトリケラトプスやイグアナの様な姿も混ざっている。
どうやら空を飛ぶドラゴンに比べると地上のものは進化の過程で多彩な枝分かれをしている様だ。
そして、津波のように押し寄せて来る敵を前に颯は重い溜息を吐いた。
「は~~~、明美。俺達生きて帰れるかな?」
すると明美はクスリと笑い颯を包み込むように抱きしめながら答える。
「大丈夫だよ。私が守るから。でも、次は颯君が私を護ってね。」
そう言って明美は地面に下りると目を閉じた。
すると明美の頭に未来の事が幾つも浮かんでは消えていく。
そしてこの度、彼女はこの世界で職業とスキルを手に入れていた。
その職業は『月読の眷属』、スキルに『未来視』が発現している。
それにより、今までコントロールが出来なかった能力が明確な形を持ち今の明美にも制御できるようになっている。
明美は未来視のスキルを使い、早送りのように未来の映像を確認する。
そして、確認が終わると颯に向いて笑顔を浮かべた。
「うん、大丈夫。颯君は竜人になれるし私達はちゃんと生き残れる。だからがんばろ。」
「ああ、明美を信じるぜ。こんなのお前との夜に比べればどうってことねえ。」
すると明美は颯の言葉に顔を真っ赤にして加減を忘れて背中に張り手をお見舞いした。
「もう颯君は~。そんな事今言う事じゃないよ~。」
そして、体の性能が前日よりも跳ね上がっていたため、明美の張り手により颯はドラゴンの群れへと一直線に飛んで行った。
「あ~け~み~~~。これ大丈夫だよな~~~。」
そして颯は哀れな叫び声を引いてドラゴン達の群れの中へと消えていく。
それを見た明美はいきなり未来視と違う事が起きて額から一筋の汗が流れ落ちる。
そして急いで背中の翼を羽ばたかせると颯の元へと飛んで行った。
しかし颯は飛ばされながら剣を構え、勢いのままに全力で振り切った。
その一撃で目の前で口を開け、牙を向けていたドラゴンの顎から上を切り飛ばす事に成功する。
しかし、そのドラゴンは颯の見立てでは7メートル級。
地上側でもまだ中堅クラスのドラゴンである。
だがその一撃を振り切った颯の手は痺れ、ドラゴンという種族の強大さを直に噛み締めていた。
「くっそー、なんて硬さなんだ。でもまずは一匹。それに牛鬼と違って邪気の浸食は殆どない。これならいくらでも行けそうだぜ。」
そして颯は振れば当たるを幸いに次々と竜たちの首から飛ばして行く。
それに颯は群れの中心付近に落ちてしまったが、ドラゴン達も急に飛んで来た颯に対応できずに二の足を踏んでいる。
そのため小回りの利く二足歩行の竜たちが主体となって襲い掛かっていた。
しかし、ドラゴンを一撃で仕留める事の出来る颯にとって、進化していない竜たちなど物の数ではない。
「オラーーー。どんどん来いやーーー!」
そして次々に倒していく颯の体に変化が現れ始めた。
その身を包む鱗や鬼のように伸びた角が次第にドラゴンのように変わり、先程まで斬るだけで痺れていた手が痺れなくなる。
しかし、一番の変化は彼に宿る魔力が急激に上昇を始め身体能力も強化され始めた事だろう。
そのため、最初は苦労して倒していたドラゴンも今では危なげなく倒す事が出来るようになっていた。
だが、変化しているのは颯だけでは無い。
鬼切丸もドラゴンの血肉から力を吸い取り、ハッキリとした脈動を颯へと伝えていた。
「鬼切丸。お前との付き合いも長いがお前も成長するのか。」
そう呟いて鬼切丸を振るい続ける颯はとうとう10メートル級のドラゴンの前に立った。
ドラゴンは仲間が殺された事に怒りを感じているのか鼻息は荒く目は血のように真っ赤に変色している。
そして颯に向けて威圧を込めた咆哮をぶつけた。
「ああーーーうるせえ!お前もすぐに俺達の糧にしてやっよ。」
颯は五月蠅そうに顔を顰めながら剣を構えドラゴンへと切り掛かった。
しかし、さすがは10メートル級はハッタリではない。
その爪は大きく太いため鬼切丸をもってしても切り飛ばす事は出来なかった。
しかも逆にドラゴンの攻撃を受けた颯は後ろに弾かれ体制を崩してしまう。
するとその隙を突く様に周りから小柄なドラゴン達が牙と爪を向けて襲い掛かった。
「しまった!」
そして颯は急いで体制を整え剣を構える。
しかし、足を止めてしまった颯には四方から同時にドラゴンの攻撃が迫っていた。
それを見て颯を弾いたドラゴンは口元に笑みを浮かべ、愚かな人間の最後を眺める。
しかし牙が届く瞬間、颯は何の前触れもなく空へと急上昇した。
そのためドラゴンたちの攻撃は空を切り、互いの攻撃で傷つけ合い悲鳴を上げる。
そして、それを眺めていたドラゴンたちは驚愕し、颯を追って視線を上に向けた。
だが、これに驚いたのは颯も同じである。
そのため彼は目を見開き、自分を引き寄せた方向へと顔を向ける。
「明美、助かった。」
「気にしないで、今回は私があなたを守るんだから。」
そう言って二人は戦場とは思えない明るい笑顔を交わし合う。
しかし次の瞬間、明美の雰囲気が変わり突然手に持つ糸。
すなわち颯に繋がっている糸をハンマー投げのようにして回し始めた。
「あ、明美。もしかして・・・。」
「ええ。きっと颯君の思ってる通りよ。このままあなたをあの10メートル級にぶつけるわ。喋ってると舌を噛むわよ。」
そして回転と遠心力が最高になった時、明美は糸を切って颯を放り投げた。
するとその勢いは途轍もない速さとなりが狙い通りのコースでドラゴンの横をギリギリを通り過ぎる事に成功する。
そして颯は数十メートルの距離を他のドラゴンたちを巻き込みながら停止し、そのついでに多くの竜の首を切り落とした。
すると颯が停止すると同時に先ほどのドラゴンが怒りの咆哮を上げた。
「ギャーーーー」(人間如きが俺に血を流させやがってーーー。)
ちなみに颯は竜とすれ違う瞬間、手に持つ鬼切丸でドラゴンに切り掛かった。
しかし、今の颯には強靭な鱗を切り裂く事には成功したがその下の肉に関しては僅かに切り裂く事しか出来なかった。
ドラゴンの生命力ならばすぐに傷は塞がり痕すらも消えてしまうだろう。
しかし、今回はどうやらそれで十分だったようだ。
颯の持つ鬼切丸は今吸った血と魔力が引き金となり進化を開始したからだ。
まず、鬼切丸はその刀身の幅が10センチ程まで広がり刀身も2メートルまで伸びる。
そして柄は太さはそのままに60センチ程まで伸びると、颯はその感触を確認するように襲い掛かって来た5メートルクラスのドラゴンを切り裂いた。
すると、その手応えはまるでケーキを切ったように軽く、まるで牛鬼を切った時の感触に似ている。
もしここで鬼切丸を鑑定すれば、鬼切丸の鬼特攻の能力の横に竜・龍特攻という新たな能力に気付く事が出来ただろう。
そして、試し切りを終えた颯は早速10メートル級へと構え突撃して行く。
すると、先ほどの切れ味を目にしたドラゴンは無意識に一歩、後ろへと下がった。
しかし、それは人間を見下す黒のドラゴンには許容できることではない。
そのため、このドラゴンはそれを与えた颯に怒りを爆発させ感情のままに牙を剥いて襲い掛かった。
しかし、それは先程までなら問題なかったが進化した鬼切丸の前では愚策でしかない。
このドラゴンは颯と衝突した瞬間、振り下ろしで下顎を切り落とされ、返す刀で首を切断された。
そして、鬼切丸はさらに血と魔力を吸収し強化される。
しかし、ここでやっと颯にも大きな変化が現れた。
その姿は鬼でも人でもなく、まさに竜人へと一気に変化を遂げる。
すると先程から少しずつ高まっていた魔力は爆発的に増加し、肉体も同じように強化された。
そして、その姿は今も上空から颯を見守るように飛んでいる明美によく似た物であった。
すると颯は自分の体の底から湧き上がる力を感じ明美に大はしゃぎで手を振った。
「やったぞ明美。これで俺達は同族だーーー。」
その言葉から分かるようにどうやら二人は種族が違う事を気にしていたようだ。
天照から鬼と鬼蜘蛛でも子供は作れるとは聞いている。
しかしその場合。人の姿で生まれるかまでは保証は出来ないと言われていた。
しかも生まれた子供の姿が完全に蜘蛛の姿かもしれない。
そうなればいくら我が子だとしても鬼蜘蛛に全ての人生を狂わされた者達にとって精神的なショックは想像を絶する事だろう。
しかし、ここで竜人ならどうだろう。
後でカルラに確認する必要はあるだろうが、もしかしたら人の姿で生まれてくるかもしれない。
最悪、竜の姿で生まれようともそれなら我が子としての愛情を注ぐことは今の二人なら可能であった。
それらの感情が爆発し颯はそのままの勢いで周りの生き残っているドラゴン達を殲滅して行く。
その顔には笑みが絶えることは無く目的も果たされたため明美も本格的に戦闘へ参加した。
その殲滅速度は何倍にも跳ね上がり瞬く間に地上の制圧は終わらせる。
そして、上空の敵も最後の龍王が残るのみとなっていた。
時間は少し戻り、アリス達はスレイプニールに跨り、上空のドラゴン達へと攻撃を仕掛けていた。
今のアリスのメインウエポンはカグツチから譲り受けた薙刀の様な槍である。
アリスはそれを自在に扱い、ドラゴン達の首や翼を切り取り地上へと落としていった。
その戦う姿はまさに鬼神の様であり、人を劣等種と見下すドラゴン達にも次第に恐怖する者たちが現れた。
そうやって場の空気を支配したアリスの影で、ノエルとロックは隠密スキルを使い外からドラゴンの群れを始末して行く。
その姿はアリスの様な派手さは無いが確実に敵の数を減らしていった。
しかし、ノエルたちの行動も敵の半数が落ちた頃には周囲のドラゴンに気付かれてしまっう。
すると二人は隠密行動を止め正面からの戦いへと変更する。
「流石にあれだけやると気付かれるわね。」
「そうだな。でも半数に減るまで気付かないとはな。少し人間を舐めすぎじゃないか。」
そして彼らも本格的な戦闘に加わりドラゴンを次々に落としていく。
ちなみにこの二人が後ろからこそこそとドラゴンを始末していたのは戦闘能力が低いからでは当然ない。
彼らは自らのスキルを理解したうえで、最もリスクが低く確実な手段を取っていただけに過ぎない。
当然、その中にはアリスの実力も含まれている。
そして殲滅は順調に進むが最後はやはり群れの中でも15メートルを超える巨体を持つドラゴン達が残った。
それらはアリス達の闘いを離れた場所から観察し、他のドラゴン達が殲滅されると動き始める。
そしてアリスの前まで近寄るとその口を開き人間の言葉で話しかけた。
「劣等種にしては驚異的な強さだ。雑魚では相手にならん訳だ。」
そう言ってそのドラゴンはアリスを睨みつけた。
すると、離れた所で戦っていたノエルとロックも目に付くドラゴンを落とし終わった為その横に並びドラゴンとの会話に加わる。
「あなた達は人間を劣等種と言うのね。その割には下に沢山落ちてるけど。」
そう言ってノエルは下を覗き込むように見ながらクスクスと笑う。
しかし、このドラゴンは他とは違うのかそんなあからさまな挑発を気にする事無く話を続けた。
「フン、奴らは所詮小物。我らの様な真のドラゴンではない。一緒にされるのは迷惑だ。しかし、我らカティスエナ様より加護をいただいた真のドラゴンの糧にはなる。奴らの全てはお前たちを始末した後にでもゆっくり頂くとしよう。」
そして言葉をきると同時にドラゴンは素早く羽ばたきその場から離脱した。
するとその後ろに控えていたドラゴン達が一斉に口を開けアリス達へとブレスを放つ。
どうやら会話の目的はブレスの準備と自らの巨体でそれを隠す事だったようだ。
しかし、そんな事は既にノエルとロックにはお見通しである。
彼らは最初から魔力の高まりを感じ取り、それをアリスにも知らせていた。
そしてアリス達、と言うよりもスレイプニール達も既に準備は万端である。
彼らはブレスが命中する寸前に転移により遥か上空へと退避した。
そして、そこから下を見ればドラゴン達がブレスを吐き終わり跡形もなくアリス達が消えているのを見て汚い声でギャーギャー鳴いている。
その様子からどうやらブレスに耐えられず消滅したと勘違いしているようだ。
しかし、この好機を逃して馬鹿正直に声を掛ける程、3人は相手を過小評価してはいない。
そのためアリスは槍を、ノエルとロックは剣を構えると、魔力を使わず重力に任せて自由落下を始めた。
これならば今の浮ついたドラゴン達に気付かれる事無く接近できる。
そして猛烈な勢いで接近したアリス達は狙いを外す事なく3体のドラゴンの首を切り落とす事に成功した。
そしてスレイプニールは再び空気を蹴りつけ落下の速度を殺すと再び空へと上がって行く。
しかしドラゴン達はその突然の事態に混乱しはじめ、完全に統制を失ったようだ。
特に先ほど落とした3体のドラゴンが残っていた敵の中で最も大きな3体だったからかもしれない
不意をつける時には最大の戦果を狙う。
戦いを有利に運ぶためには重要な事である。
だが、今回はそれが予想以上に効果的だったようだ。
残りは数匹だがアリス達に背中を向け山脈の方に逃げ始めている。
しかし、それらに対し山脈から巨大なブレスが放たれた。
そして逃げていたドラゴン達を飲み込むと跡形もなく消滅させて消えていく。
すると山脈の頂上から巨大な影が飛び立ち途轍もない速度でアリス達へと向かって行った。
その姿はまさに闇そのもの。
一点の例外もなく真っ黒なその体はカルラの言っていた30メートルを大きく凌駕し50メートルはありそうだ。
そして、なぜかその口は既に血にまみれブレスを打った後だというのに魔力に満ち溢れていた。
するとアリス達の前まで来た黒の龍王は低く重たい声で話しかける。
「フーーー。お前たちがカティスエナの言っていた人間たちか。面倒だが貴様らが来た場合。確実に殺せと言われている。」
そう言って黒の龍王は面倒臭そうな目をアリス達3人に向ける。
そのやる気のない龍王の予想外の姿に、アリスは驚いて肩の力を抜いた。
しかし、横にいるノエルとロックは逆に鋭い視線を龍王へと向け警戒を強める。
そしてノエルは確認するように龍王へと話しかけた。
「あなたは長い間生きてるようだけど、何故カティスエナの指示に従っているの?」
すると龍王は少し悩んだ末に答えを返した。
「暇だからだ。もう何千年生きたか忘れたが今ではこんな事でもない限り暇で敵わん。喜怒哀楽も薄れ、ただ生きるのみだ。だがこの身はカティスエナの加護によりなかなか死が訪れん。それまでの間、奴に付き合いこうして遊んでいるのだ。」
するとノエルとロックは顔を顰め、最悪の思考の持ち主である事を感じ取る。
彼らは国の指令を受けて人を殺す事があるがこのケースは人物像に当てはめれば最悪である。
ある者は自分の信念に基づいて行きつく所まで行った者。
又は人の意思に賛同し道を誤った者。
しかし、それらの中で最も最悪なケース。
この龍王のように享楽を求め、しかし、感情が希薄。
それ故にブレーキもなく何処までも走り何でもする。
しかし、満足することは無く死ぬまで、または殺されるまで止まらない。
そんな存在がこの世界で神を除き最上位に君臨している。
その馬鹿げた現実にノエルとロックはここで確実にこの龍王を始末する事を決めた。
「なら悪いけどあなたにはここで確実に死んでもらうわ。」
その言葉にノエルを含む3人は戦闘態勢をとり武器を構える。
すると龍王は軽く鼻で笑うと言葉を返した。
「そうか。我は挑戦者を歓迎する。見事我を打倒し、安らかな死を与えてみせろ。」
そして敵の龍王との最後の戦いが始まった。




