11 ジョセフとの再会
『ドタドタドタドタ!』
店の奥から走ってくるような足音が聞こえ、その音に意識を向けていると突然ジョセフが飛び出してきた。
そして、ニカリと笑うと走って乱れた服を整えこちらへと歩み寄ってくる。
「待っていたぞ蒼士。ところでその子がお前の言っていた女性か?」
しかし、昨日会った時に比べると妙にテンションが高いようだ。
「ああ、実は今日教会で誓いを宣言したところだ。」
「そうか、それは良かったな!これでお前も晴れて既婚者ということか。」
そう言って俺の肩に手を乗せ自然な笑みを浮かべる。
そして、エルフ店員へと視線を向けると互いに頷き合い、店の奥へと向きを変えた。
「まあ、ここで話のもなんだから奥へ行こう。あの事の報告もあるしな。」
「分かった。聞かせてもらおう。」
俺は軽く頷いて返すと冬花に手を差し「行こう」と声を掛ける。
すると冬花は少し遠慮がちに手を握ると笑顔を取り戻して一緒にジョセフの後に付いて行く。
更にその後ろを先ほどのエルフ店員が付いて来る形となり4人で奥へと向かって行った。
そしてしばらく通路を歩くと目の前が開けて中庭のような所に出る。
そこは少し日本庭園に似ていて木が植えられ、中央には池がある。
そしてその中央には一軒の小さな家が建っており橋を渡って行けるようになっていた。
俺達はその家に入るとジョセフに促されて備え付けのソファーに腰を下ろす。
エルフ店員は入ってすぐに備え付けのティーセットを温めお茶の準備をしているようだ。
そして3人分のお茶の準備が終えるとソファーには座らず、そのままジョセフの後ろに立って待機している。
まるで店員と言うよりも執事かメイド長のようだ。
そして、落ち着いた所でジョセフは先程から浮かべている笑みを深めてこちらを見て来た。
「まずは結婚おめでとう。まさか再会して1日で結婚するとは思わなかったぞ。」
「いや、結婚の約束はかなり前からしていたんだ。だから俺たちにとっては待ちに待った結婚なんだよ。」
そして俺は説明しながら冬花に視線を向けた。
それだけで冬花は俺の思いを読み取って立ち上がると一礼して自己紹介を始めた。
「蒼君の妻になりました冬花です。よろしくお願いします。」
冬花は軽い自己紹介をすると綺麗にお辞儀をして再びソファーに座り直す。
するとジョセフも立ち上がり、改まって自己紹介を始めた。
流石は商会長と言うべきか立ち姿からして凛々しくとても良い印象を与えている。
服も髪もしっかりセットされており今は王都一の商会長だと言われても納得できる。
最初に会った時には御忍びだったのか、あまり綺麗な服を着ていなかったのが今回起きた誤解の始まりでもある。
しかし、今みたいな立派な服装で行商人みたいな事をしていれば確実に襲われているだろう。
そう考えればもしもに備えて護衛くらいは付けておくべきだな。
「私はここの商会長を務めているジョセフだ。こいつは俺の次に古株のララ。信頼できる人物だから今日の話に参加させるがいいか?」
「ジョセフが信頼する相手なら俺も信頼しよう。」
ジョセフは俺が頷くのを見るとホッとした顔でソファーに座り話を始めた。
どうやらララと言うエルフの女性は立ったまま話を聞くようだ。
それともかなり実力がありそうなので護衛も兼ねているのかもしれない。
「まずスキルの話からだな。結論から言えば娘は問題なくスキルを手に入れたよ。あんなに苦労しても無理だったのに拍子抜けするくらいあっさり取得できたものだから逆に少し機嫌が悪くなってしまった。」
ジョセフはその時の事を思い出したのか苦笑を浮かべている。
きっとティファも商会長の娘として今まで色々と努力をしていたのだろう。
でもその努力もこれから先の人生できっと役立つはずだ。
俺も諦めずに頑張ったのでこうして冬花と再会できたしな。
「今後は他の者にも試していこうと思うのだが、もしかすると国に報告しなければいけない案件になるかもしれない。その場合いはどうする?」
「それに関してなんだが、俺達は訳あって今は表舞台に立ちたくない。立場が弱いのもあるが今は幾つもの問題を抱えているんだ。だから手柄が発生してもそちらの総取りで良い。ただ、もし良ければ防具で手ごろな物を譲って欲しいと思っている。ギルドマスターの話だと近々Sランクの昇格試験を受けなければならないらしいんだ。」
するとSランクと聞いてララは一瞬だけピクリと目元を動かした。
ハッキリ言って普通に見ていたのでは気付けない程に僅かな動きで、それ以外では店で会ってから表情が動いたのを見た事が無い。
しかし、そんな彼女が反応する昇格試験なら気を引き締める必要が有りそうだな。
「そうか、君の強さをこの目で見た者としては納得だな。それで今のランクはいくつなんだ。」
「恥ずかしながら俺は加入したてのEランクだ。」
その途端にやっとララの表情がまともに動き驚いているのが見て取れる。
しかし、その目はすぐに半眼になるとこちらを見定めるものへと変わる。
「そうか、Sランクには少し驚いたが今まで加入していなかった強者がランクを合わせるために特例として試験を受けるのは稀にある事だ。大丈夫だろうが死なない様に頑張ってくれ。」
どうやら、ララと違いジョセフは俺の事を信頼してくれているようで俺がSランクに昇格出来ないとは思っていないようだ。。
彼には一度ではあるが戦う所を見せているし、これだけ大きな商会なら他のSランク冒険者とも繋がりがあるのだろう。
ララはどちらかと言えば実力者として俺達を見定めようとしている感じだ。
「それで、防具なんだがどれくらいの物を融通してくれる。」
そして本題に入るとジョセフは沈黙して考え込んだ。
きっとこれからの事を色々と天秤にかけ、商人としての経験からこの店にある商品をリストアップしているのだろう。
そして、ジョセフは後ろに居るララに視線を向けると最初の指示を出した。
「ララ、そちらの冬花さんは任せたよ。」
「畏まりました。」
するとララは恭しく一礼すると冬花へ許へと移動して行く。
そしてその前に無表情で立つとまるでスキャンでもしている様に上から下へと視線を移動させた。
そのララの姿に冬花は怯えながら俺の手を取ろうとがそれは一歩遅かった様だ。
「え、私は付き添いで来たのでそこまでしてもらわなくても・・・。」
「それでは参りましょう。」
そして冬花は辞退しようとしているがララはその手を素早く取るとグイグイと引いて店舗の方へと歩き始める。
どうやら大人しい見た目は外見だけで中身はかなり押せ押せのようだ。
するとジョセフはそんなララに駆け寄ると小さな声で耳打ちをして追加の指示を出した。
その瞬間に2人は悪い笑みを浮かべ互いに頷き合うとそれぞれの仕事へと移って行く
「それでは蒼士も行こう。ところでどんな防具にしたい?」
俺は先程の2人に若干の不安を感じるが、今は防具に集中するために意識をジョセフに向ける。
しかし、俺には何の知識も無いので漠然としたイメージで希望を答える。
「そうだな出来れば軽装タイプにしてくれ。着慣れていないから動きが阻害されない物がいいな。それに多分どんな鎧も邪魔な所があれば壊れる気がする。」
俺は自己分析の結果も踏まえて真剣に伝えてみる。
しかしさすがにその思いまでは伝わらなかったようでジョセフは声に出して笑い始めた。
「ははは。まさかそこまではないだろう。ただ念の為に板金用の板を使ってその力の程を確認させてくれ。」
そして俺達も移動を始め防具が置いてある3階へと向かって行く。
するとジョセフはそこのスタッフに指示を出して金属の板を準備させた。
きっとこれがさっき話していた板金用の板でこれを使って俺の力を計ろうと言うのだろう。
そうなると正確な計測をしてもらうために本気を出さないといけないな。
そしてジョセフは店員の持つ4種類の板についての説明を始めた。
「これは右から鉄、鋼、ミスリル、オリハルコンだ。流石にミスリルまでは無理だと思うが一応試してみてくれるか。」
「ああ分かった。まずは鉄からだな。」
そうは言ってもジョセフは先程から笑いを堪える様な仕草を度々見せているので俺の力を高くは評価していないようだ。
なので俺は2ミリは厚みがある鉄の鉄板を受け取るとまるで一枚のコピー用紙を破り捨てる様に呆気なく引き千切った。
「な!?」
(あれ・・・でも鉄ってこんなに柔らかかったか?もしかしてこれはドッキリか?・・・それなら次は2枚一度でも行けるな。)
そして今度は鋼とミスリルと二枚重ねて同じ様に呆気なく引き千切る。
その光景に他の店員は唖然とし、ジョセフは空いた口が塞がらなくなっている。
「!!」
(少し抵抗があったがまだ余裕だな。・・・そうかやっぱりこれはテレビでよく見るドッキリって奴か。ジョセフの顔が少し青いが迫真の演技って奴だな。そして残っているのはこの1枚だけか。)
そして最後のオリハルコンの板を破こうとするが今回は破れずに変形するだけだ。
ドッキリと言っても最後はちゃんと難関を用意しているとは良い演出だ。
さすが商会長なだけはあり、エンターテインメントってやつを良く理解している。
しかしこんな事をされると逆に燃えて来るのでここはちょっと本気を出す事にする。
(魔纏いで魔力を刃の形状にして身体強化を発動してっと。)
そして俺は大きく腕を振り上げると魔力の刃をオリハルコンの板へと振り下ろした。
すると、魔力の刃が当たると同時に『キン』という甲高い音がその場に響き渡る。
その直後に俺の手に持つ板は綺麗に真っ二つになり手を添えていない片方が床へと落ちて硬質な音を立てる。
「!!!」
しかしそれと同時に何故かジョセフは床に手をついき四つん這いになって項垂れてしまう。
もしかして最後の板に関してだけは予想外だったのかもしれない。
「蒼士すまない。・・・お前を疑った俺が悪かった。言っていた通りホント凄かったんだな。」
ジョセフは力なく地面に膝をついたまま顔も上げずに詫びを入れて来る。
しかし、いったい何をそんなに落ち込んでいるんだ。
周りを見てもみんな驚いているしドッキリは大成功だろう。
「何言ってるんだ。これはドッキリだろ。本当の板を出してくれよ。」
俺はいまだにドッキリだと思い込みジョセフに次の板を要求する。
だが周りのスタッフの顔を見てだんだん自分が間違えている事に気付いた。
そう言えばドッキリって周りでは無くて当人を驚かせるものじゃ無かったか。
それに気付いた俺は遠慮がちにジョセフへと問いかける。
「まさか・・・これは本物なのか?」
すると俺の予想が当たっていた様でジョセフは力なく頷いた。
途端に俺達の間に吹く筈のない風が吹いたような気分になり言葉が出て来なくなる。
「ああ。その通りだ。それに、そのミスリルとオリハルコンの板は凄く高いんだよ。これはショックが大きすぎる。」
それを聞いた俺は手に持つ板と足元の板を見て少し考え込む。
特に金を持っていない今の状態では弁償する事も出来そうにない。
なんたって大商会の会長でも高いと断言し、ここまで落ち込んでいる代物だ。
今の俺に払えるはずがない。
しかしその時、俺の中にあるアイデアが舞い降りた。
(もしかしてスキルを使えば修復できるんじゃないか?この際だから少し試してみるか・・・。)
そう考えた俺は修復のスキルをミスリルとオリハルコンに使用する。
すると二つは次第に元の形へと戻り始め、最初に見た様な1枚の板へと戻った。
それを手に取り俺は今も項垂れているジョセフの前に持って行く。
「ジョセフ直しておいたから元気出せ。」
すると彼はバッと顔を上げ驚愕に目を見開き板を手に取った
その驚き様は、オリハルコンの板を切り裂いた時を遥かに凌駕している。
「どうやったんだこれは!もしかして修復のスキルか!?」
ジョセフは即座に飛び起きると俺の両肩を掴んで顔を寄せて来る。
しかも我を忘れた様に目を血走らせ息が掛かる程に迫って来るので俺は観念して真実を伝えた。
「あ、ああ、その通りだ。何かマズかったか?」
いつもながら事の重大性に俺は気付かず、ジョセフの態度に若干引いてしまう。
すると俺にも分かるように例えを入れながら丁寧に説明を始めた。
「ハッキリ言ってこれはマズイ。普通の魔導士レベルならこのオリハルコンの板を修復するには1日1ミリが限界なんだ。なのにお前は300ミリはある板を修復してもまだ余裕がある。」
その説明に俺はまたやってしまったと苦笑いを浮かべた。
すなわち俺は一人で魔術師300人以上の魔力を保有している事になる。
それにベルと修行をした時にも、最初にかなり鍛えられていると言われた。
神のレベルでかなりと言われた時点でそれは既に人外の領域であったと言う事だ。
そこから更に修行をしたため俺の魔力量は思っているよりも斜め上の状態になっていたと言う事だろう。
出来れば修行の最後にでもちゃんと言ってもらいたかった。
「ともかく、この事は他には言わない方がいい。それと早くSランクになれ。そうすればある程度は大丈夫・・・のはずだ。」
「筈なのかよ!」
最後がそれだと説得力に欠けるが最低ランクよりは確かにマシだろう。
そして俺の装備は最終的に軽装の皮鎧となり服をオリハルコン繊維で統一することになった。
見た目はただの服だがほとんどの剣撃を防いでくれる優れ物だ。
皮鎧も貴重なドラゴンの皮を使用しているので見た目以上に丈夫らしい。
しかし、俺の場合は本当に胸しか守っていないのでオマケ程度であるのは間違いない。
だが、これならSランクでも十分耐えられるだろうとジョセフは太鼓判を押した。
そしてそれから10分ほどで冬花も服を着替えて俺達の前に現れた。
冬花が身に付けている装備は下がシンプルな黒のパンツタイプで靴がドラゴンの皮のブーツ。
脛はミスリル脚甲を付けており、ヒップラインから下に続くラインが美しい。
上は俺と同じく白のシャツだが手にはオリハルコンの手甲を付け、胸もオリハルコンのブレストプレートで覆っている。
あれなら邪な視線からも冬花を護ってくれるだろう。
そしてが着ている服もオリハルコン繊維で編まれたものでパンツとシャツの強度も保証されている。
すると冬花は俺の視線に気付くと顔を赤くして俯いてしまう。
しかしそんな事を気にせずに傍まで行くと輝く装備に包まれた冬花を抱きしめた。
「似合ってるよ冬花。これで俺も少しは安心できる。」
そして冬花も甘えるように蒼士の胸へと顔を埋めハッキリとした返事を返して来る。。
「ええ、これから何が有っても二人で頑張りましょうね。」
「そうだな。」
そして互いに視線を交わして見つめ合い、その周りだけ木漏れ日の中に居る様な幻想空間を作り出す。
しかし今はここで二人の世界に水を差す者が現れた。
「お~い。そろそろいいかな~?」
するとその声に気付いた二人は咄嗟に離れ、恥ずかしそうにジョセフへと視線を向ける。
そして、その横には変わらず無表情のララが控えているが、その瞳の温度はさっきよりも低く感じる。
「ゴホン。その装備ならしばらくは大丈夫だろう。壊れても修理は蒼士が出来るから大事に使ってくれ。それと、それはサービスでくれてやりたいがさすがに高すぎるから何か売る物はないか?武器、防具、素材、情報。何でもいいぞ。」
そして俺と冬花は二人で視線を交わすと頷き合った。
しかし、俺達が持っている情報は危険な物が多く、他人に聞かれ訳にはいかない。
そのため、ここでは話す事が出来ないのでまずは移動する事にした。
「すまないが先ほどの離れに戻ろう。重大な話がある。」
そして離れに戻ると俺は池の水で水結界を張って周囲と隔離し、更に風の結界を重ねがけして対策を強化する。
ここまでして安心できたのでまずは最初に魔王が生まれた事を伝える。
すると二人の警戒感が一気に膨れ上がったのを感じたのでやはりこの情報は知らなかったみたいだ。
「ギルマスも同じ反応だったが魔王ってそんなに凄いのか?」
俺の世界には魔王は居らず、架空の物語に登場する存在だ。
それも最後にはちゃんと倒されてしまうので危険性がイマイチ理解できない。
「ああ。魔王は世界を滅ぼすと言われ、その度に勇者が現れ倒していると伝承にある。周期的にそろそろだと一部の者が噂しているが今回はまだ勇者の噂を聞かないからまだ表れていないのだろう。早く見つかってほしいがこればかりはしょうがないだろうな。しかし、その話は本当なのか?俺は色々な所に情報源があるが初耳だぞ。」
そう言ってジョセフはため息を付くと疑わしそうな視線を向けて来る。
それを見て俺と冬花は互いに苦笑いを浮かべて笑い話しを続ける。
「まだ情報が欲しいか?」
「そうだな。魔王ほど重大な情報はそうないだろうからあといくつか頼む。」
だが魔王発生という重大情報に気を取られてジョセフは俺達が表情を変えた事に気付かなかった。
恐らくは今の情報も彼の持つ情報源とやらを活用して裏を取るのだろう。
流石に俺達の付き合いは昨日から始まったばかりなのでこの手の信用はその程度だ。
なので、その情報に信憑性を持たせる為に新たな情報を与えてやる。
「そうか。それなら冬花がその勇者だと言ったらどうする?」
「「・・・え?」」
俺の言葉に二人の動きが止まり、たっぷりと時間を使って疑問の声を上げる。
そして、そんな2人に対して今度は明確な言葉と証拠を突き付け疑問と疑いの道を閉ざす。
「だからこいつが勇者なんだ。ちなみに俺は賢者の職業を持っている。」
「・・・マジで?」
「ああ。これはギルドマスターが神からの神託で保証してくれる。疑うなら確認してみるといい。」
するとジョセフはその大きすぎる新情報に頭を悩ませ再び溜息をついて考え込む。
(ヤバイ。これらの情報は大きすぎるぞ。しかし、折角手に入れた情報だからそれを活用しないのは商売人としてどうなんだ。それなら武器を大量に仕入れて回復アイテムの独占をすればここでさらに大きな躍進を・・・。)
するとジョセフの顔に影が差し始め表情が消え始める。
そして考えに耽っていると向かいから体の芯に響く様な鋭い声が襲い掛かって来た。
「おい、ジョセフ!」
「な、なんだ?」
その声にジョセフは現実に引き戻され視線を前に向ける。
それを俺は正面から受け止めるとこれまでの人生で唯一得る事の出来た教訓を伝える。
「大事な物を見誤るなよ。失くしてからじゃ遅いからな。」
すると俺の見た目からは思いもよらない重たい言葉だったのだろう。
そして目に宿る力を感じ取ったジョセフは瞬時に我に戻ると大きく頷きを返した。
(そうだ、何を考えているんだ。今から起こる危機的状況をいち早く知ることが出来たんだ。商売も大事だが俺には守る者が居るじゃないか。まず優先するべき事は家族を大事にする事だろ。)
そして次に顔を上げたジョセフは憑き物が落ちたような晴れやかな顔になっていた。
どうやら何を最優先にするべきかを思い出したようだ。
「蒼士、感謝するぞ。俺には守るべき家族や従業員がいる。それなのに危うく判断を誤る所だった。それと情報はもう十分だ。サービスで1階の日用品で必要な物があったら言ってくれ。今日は無料で提供しよう。」
「こちらこそ感謝する。それと、もし王家がちょっかい出して来たらすぐに俺に連絡しろ。力になる。」
そう言って俺は冬花と共に立ち上がりジョセフと握手を交わす。
だがジョセフは最後に俺が何故そんな事を言ったのか分からなかった様で疑問を浮かべている。
国王とも面識があるジョセフにとって今のこの国で王族と敵対する未来が見えなかったからだろう。
しかしジョセフは蒼士程の男が言う事ならと心の片隅に留めておくことにした。
そして俺たちは1階で下着や石鹸などを手にすると宿へと帰っていった。




