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108 天照 颯と明美を連れて来る

次の日の朝。

カグツチは天照の呼び出しを受けてあちらへと帰って行った。

しかし、1時間もせずに戻って来たカグツチは俺に要件を伝えに来る。


「天照様がこちらに一度顔を出しておきたいらしい。それと依り代は既に自分たちで準備してあると言っていた。それと颯と明美をこちらにしばらく住まわせてみたいそうだ。」

「俺達の家はどうなるんだ?」

「私達の家はあちらで手配した者に管理させると言っていたな。」


その話を聞き少し考えた後に頷きを返した。

家の事は心配だがあれは元々あちらが準備した物件だ。

秘密を知らない者には任せられないが、天照が手配するなら大丈夫だろう。


「分かった。それなら問題ないな。それで、何時頃来るんだ?」

「こちらの準備を整えたら私が呼びに行く事になっている。それと雷神が百合子と会いたがっているらしいんだが。」

「分かった俺が呼んで来るからカグツチは準備を頼む。」


そう言って俺は百合子を呼びに出かけカグツチは冬花と一緒に受け入れの準備を始めた。

準備と言ってもオーディンが来た時の様な大掛かりな事は必要ない。

大きなテーブルを置いたりお茶やお菓子の準備をしてパメラたちにこれから天照たちが来る事を伝えるだけである。

そして、百合子が到着するとすぐにカグツチは天照の元へと向かって行った。


そして、少しすると部屋の天井から光が降り注ぎそこから天照や雷神が現れる。


「やあ蒼士。元気なようだね。」


そう言った天照はいつも通りの笑みを浮かべながら声を掛ける。

やっぱり世界が変わってもこの胡散臭い笑顔の印象は変わらないな。

それに俺達はこの神が必ずしも善神でない事を知っているため油断する事無く挨拶を返した。


「ああ、なんとかやってるよ。百合子たちが頑張ってくれてたみたいだからな。驚くほど呆気なく話が進んでいる。それで、颯と明美はどうしたんだ?」


すると俺の態度に苦笑を浮かべ天照は力を使いゲートを開く。

そしてその中からはさっき問いかけた颯と明美が現れこちらへと軽く声を掛けてくる。


「よう蒼士。久しぶりだな。また厄介になるぞ。」

「少しの間よろしくお願いします。」


そう言って2人は俺たちへと頭を下げる。

それを聞いて俺は苦笑を浮かべて「気にするな」と返した。


「俺達もどうせしばらくしたらあちらに帰るんだ。それにこの家は俺達も借りてる様なものだ。気兼ねなく使ってくれ。それで修業は進んでるか?」


するとなぜか二人の目から光が消え遠くを見つめる。

そして、それだけで二人がどんな思いをしたのかが自分の事のように脳裏を過った。


「あ、ああスサノオ様の特訓はバッチリだ。何回も死にかけたけどな。」

「私も能力はかなり馴染みましたがスサノオ様の特訓には毎回死にかけてます。」


すると俺と冬花も自分の時の事を思い出し苦笑を浮かべる。

その過酷な訓練は今でも昨日の事のように思い出すことが出来た。

あの神はとにかく手加減が下手なのだ。

特に邪神を倒した辺りから訓練は俺でも地獄と言っていい程辛いものだった。

それは油断をすれば腕が飛び、気が付けば瀕死の状態で倒れている。

スキルに超速再生が無ければ俺と冬花は揃って仲良く死んでいただろう


しかし、それを頑張って血肉に変えたからこそ今の自分たちがある。

そのため俺達が二人に言えることは何も無い。

明美は事故だが颯は自分からその道を選んだのだから。


「まあ、その辺は同じだろうな。でも俺達はそれを1年以上生き延びたんだからお前らも頑張れ。それでこっちに来て何をする予定なんだ?」


そして二人の苦悩をサラリと流して本題へと入った。

こうして天照が連れて来たと言う事は確実に何かあるんだろう。

コイツの行動は2手3手以上は先を見越して動いてるからな。


「そうだな、まずは魔石を見てみようと思う。俺達は人間じゃないからそちらから何か得られるかもしれない。」


それを聞き俺は納得すると、すぐに魔石を取り出し颯に放り投げた。


「これの事か?」

「おっと、準備がいいな。・・・赤くて綺麗な石だな。なんだか旨そうだ。」


そう言って颯はいきなり魔石を口に放り込み、飴のように口の中で転がすとペッと手に吐き出した。

すると赤かった魔石は魔力を失いただの石の様な物に変化している。

そのかわり颯の体には先ほどよりも強い力が迸っており、こちらの魔物同様、魔石から力を吸収する事が出来るようだ。


「おお、凄いな。こんな簡単な事で強くなれるのか。」


そう言って颯は明美に視線を向ける。

そして明美は頷きを返して俺へと視線を向けた。


「それじゃ明美もこれ行っとくか。」


そう言って俺は明美に魔石を放り投げた。

そのサイズは先ほどよりも大きく、口には入らない。

しかし、明美はそれを糸で繭のように包むとそこに繋がる糸から魔力を吸い上げ始めた。

こちらの方は印象としてかなり上品な九州方法だな。


「は~、たしかにこれは楽ですね。ところでこれは何の魔石ですか?」


明美は恍惚とした表情を浮かべ何の気なし問いかけてきた。

それに対して俺は自然体で答えを返す。


「ん、ああ。最近ドラゴンの魔石が大量に手に入ったんだ。それに肉も美味いから後で食ってみてくれ。」


すると二人は突然、サササと部屋の隅に移動して互いの体を確認し始める。

そして深い溜息を吐くと重たい足取りで戻って来た。

しかし、その行き先は俺の前ではなく何故かカグツチの前である。

そして神妙な顔でカグツチへと、前にしてもらったように鑑定をお願いした。


「それは良いがどうしたのだ急に?」


すると二人は互いに視線を交わすと溜息をついた。


「あの、どうやら魔石の魔力が強すぎたのか体に鱗が出せるようになりまして。」

「私も。前は形態を変化させると虫の様な外骨格だったのに鱗になりました。」


そう言って二人は腕を出して部分変化させるとそこには鱗が浮き上がり見た目も大きく変化している。

それに指は5本あるが何処となくドラゴンの鱗のようにも見え爪も伸びてとても鋭そうだ。

颯は鱗以外はそれ程変わらないけど白崎の方は大きな変化だろう

そして俺と冬花はその変化を見て前との違いを口にする。


「確かに、かなり変わったな。颯は前まで色が赤くなって爪が鋭くなる程度だったよな。明美の方は虫みたいだったか。」

「そうだね。でも明美は良かったんじゃないそっちの方がいい感じだよ。」


そう言って変化の結果に俺と冬花は揃って笑顔を向ける。

それに俺達から見てこれくらいの変化は大した事はない。

スライムに成ったり触手が生えた訳じゃないからな。


「二人とも気楽に言ってくれるな~。」


そう言って颯は肩を落としてカグツチへと向き直る。

するとカグツチも苦笑を浮かべて二人の鑑定を始めた。


「う~む。どうやら二人の種族が変わったようだな。颯は鬼人が竜鬼になっているな。明美は鬼蜘蛛が竜蜘蛛に変化している。」


それを聞いて俺は笑顔で颯の肩に手を置き親指を立てた。


「やったな。進化おめでとう。魔石は大量にあるから存分にやってくれ。」

「頼むからスライムとかローパーとか変な魔物の魔石は混ぜるなよ。」

「大丈夫だ。そいつ等とはまだ遭遇して無いからな。」


そして、俺達が話していると家の奥から一人の女性がもの凄い勢いで飛び出して来た。

その顔は驚きに染まり辺りを見回している。


「なに、今の気配はドラゴンみたいだったけど異質な気配を感じたわよ。」


そう言って飛び出して来たのは白の龍王ことカルラである。

しかし、それを見て俺はニヤリと笑いスススと天照へと小声で耳打ちをした。


「実はあいつ白の龍王とか言ってかなり偉い奴なんだがドラゴンを進化させたり育てるのが上手いんだ。」


すると俺からホットな情報を聞いた天照も同じ様にニヤリと笑う。

どうやら、俺の言った事の意味をしっかりと理解したようだ。


「それは良い事を聞きました。それなら彼らが何処まで行けるか、彼女に任せて育ててもらいましょうか。」

「ああ、それがいいだろうな。どっちみちこれで帰ってもスサノオのいい玩具にされるだけだろ。少しこちらで様子を見る事にするさ。」


そして本人たちの意思を完全に無視した話し合いが終わると天照はカルラへと顔を向けた。


「こんにちは。蒼士から聞いたのですがあなたはドラゴンを育てるのがお上手なそうで。出来ればこの二人の面倒を少しの間お願い出来ませんか?」


するとカルラは天照の笑顔に危険な物を感じて視線を俺へと向ける。

さすが知性は有れど元々は野生のドラゴンだな。

一目で天照の危険性に気付くとは危機感知能力がかなり高いみたいだ。

しかし、俺も天照の様な笑顔を浮かべて首を縦に振るだけなのでそんな目で見られても何も得られないぞ。

そのうえ他の者は苦笑やため息ばかりで誰も助けてくれそうにないのは明白だ。

しかも、目の前の神は隠す気が無いのか穏やかではあるが巨大な神気を放ちカルラを威圧している。

こうなれば彼女の取れる行動は一つしかなかった。


「そ、それは構わんが・・・。どうなっても知らんぞ。」


すると天照は神気を押さえながら笑顔のまま頷いた。

それによってカルラはホッと肩の力を抜き安心した表情を浮かべる


「構いませんよ。あなたを信じてお任せします。それに何処まで行くのかが見たいので丁度いいですよ。もしもの時はこちらで対処するので気にせず鍛えてあげてください。」


そして突然だが颯と明美はカルラに預けられる事に決まった。。

しかし、カルラも俺と同じ家に住んでいるので大きく状況が変わるわけではない。

ただ、スサノオのスパルタからカルラのスパルタに変わるだけの話である。


「分かった。ならば遠慮せずに鍛えてやる事にしよう。」

「それではお任せしますね。それと、お礼と言っては何ですがこれをあなたに差し上げましょう。」


そう言って天照は一つの桃を取り出した。

しかし、それはただの桃ではない。

太陽を司るとされる天照の神気を含んだ桃であるようだ。

そして、同じような属性を持つカルラからすればこれ以上ないと言えるような極上の報酬である。


「こ、これを本当にくれるのか?」


そう言って手を伸ばして桃を受け取るが、少し離れている俺から見ても確実に震えているのがわかる。

しかし、それとは逆にカルラの顔は珍しく愉悦に歪み口からは今にも涎が垂れそうになっている。

コイツが食べ物にここまで反応するのは見た事が無いので余程の物なんだろう。


「ええ、もし欲しければ後日にでもまたお渡ししましょう。」


するとカルラは先程まで桃に釘付けだった視線を勢いよく天照に向ける。

そして、先程までのイヤイヤな表情が消え去り、やる気と情熱が顔に浮かぶ。


「本当か。これほどの報酬をくれるなら喜んであの二人を鍛えよう。まあ、あの様子なら2日もすれば結果が出るだろう。」


そう言ってカルラは桃を大事に抱えると裏口から外に出て行った。

そしてドラゴンの姿に戻ると手にした桃を口に放り込み翼を広げた。


その途端、カルラは口を上に向け、


「う~ま~い~ぞ~~~~。」


と何処かの王様の様な事を叫びながら本物のブレスを吐き出した。

そのブレスはまさに雲まで届き上空の雲を周囲に拡散させる。

しかし、カルラの体はその後、急激に成長し15メートル程だった体が20メートル程と急成長をとげた。

しかし、その瞳には理性の色が宿り魔石の過剰摂取の様な暴走の兆しはない。

そして、成長が止まると人の姿に戻り部屋へと戻って来た。


「見苦しい所を見せたな。まさかあのように貴重な物を貰えるとは思っていなかったのだ。しかし、こんなに気が充実したのは初めてだ。感謝する。」

「いえいえ、構いませんよ。また持ってくるので彼らの事をお願いします。」


そう言って二人は笑顔で握手を交わした。

すると、その光景を見て颯と明美は密かに冷や汗を流している。

どうやらこの後に何が起きるのかが何処となく想像できているようだ。


「それでは有意義な時間でした。私はそろそろ帰らせてもらいます。」


そして天照はあっさりと帰って行き残された二人は今地面に膝と手をついて項垂れている。

その姿に若干の憐みは感じるが特に命が掛かっている訳ではないのでカルラに全てを任せて放置する事にした。


そして、そんな状況でもマイペースに過ごしている者が二人いる。


「お爺ちゃん。これ私が初めて作ったお酒。良かったら飲んで。」


そう言って笑顔でお酒を注いでいるのは先日ソーマから加護を貰ったばかりの百合子である。


「おお。すまないな百合子。まさかこんなに早くお前が作った酒が飲めるとは思わんかった。」


そして雷神は嬉しそうに酒に口を付け百合子の頭を優しく撫でた。


「うむ、飲みやすくて真直ぐな味だ。ソーマの酒とはまた違った味わいがしてこれもなかなか良い物だな。ソーマのは穀物から作った物だがこれは果物から作ったのか?」


ちなみにソーマの酒は透明な物や軽く黄色く色付いている物が殆どであった。

しかし百合子の酒は果実酒のようにフルーツジュースのような見た目である。

そして、アルコールも控えめでどちらかと言えば初心者が飲む様な味わいであった。


「うん、これならカグツチ様も飲めると思う。でも初めてのお酒はお爺ちゃんに飲んで欲しかったから。」


そう言って百合子は笑顔を作る。

すると雷神は感極まったように目元に涙を浮かべ百合子を抱き寄せた。


「ありがとう百合子!お前のその気持ちだけで儂は満足じゃ~。」


そう言って百合子を抱きしめて踊り出しそうな雷神だが、急に動きを止めてその顔をじっと見つめた。

そして、嬉しそうに頷くと地面に降ろしてその頭に手を置き神気を送り込み始める。


「それはそうと少し見ないうちにまた器が大きくなったようじゃな。それにソーマは上手くあの駄神の加護だけを抜いてくれたようじゃ。また少し加護を追加しておくからの。これで儂からお前にやれる加護は最後じゃがもう少しじゃから頑張るんじゃぞ。」


そして雷神は百合子の加護を強めて完全なモノにする。

それにより技の威力が跳ね上がり、雷耐性も無効へと進化する。

そのため今まで技を使うたびに感じていた痛みも消え去り、雷神と同じ状態となった。


「ありがとうお爺ちゃん。私頑張るから伊織の事をお願いね。」

「ああ分かっておる。例え邪神が相手だとしても護りきって見せるわい。安心して勤めを果たして来るのじゃ。」

「うん!」


そして二人は最後に強く抱きしめ合うと雷神もあちらへと帰って行った。

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