107 元勇者達との再会
3人はレットアイの死体を回収するとアリシアの元へと戻った。
するとそこでは既にミストが目を覚ましており微妙な表情を浮かべて3人を見つめている。
そして、3人がミストの前に降り立つとそのまま深々と頭を下げた。
「ありがとう。君たちがいなければ私達は確実に死んでいた。もし、生き残ったとしても碌な事にはならなかっただろう。」
すると輝がニカリと笑い胸を張った。
「気にするな。俺達にも目的があるし、そちらからも貰う物は貰っている。」
するとミストは苦虫を噛み潰したように顔を歪めた。
結果として助かったがそれで費やされる代償が娘の寿命だからだ。
「娘から話は聞いた。あなた達3人と契約している間は寿命を消費すると。」
「ああ、これは契約上しょうがないんだがな。だが、俺達もずっとこのままじゃない。目的さえ達成できればあるべきところに帰るつもりだ。」
そしてミストは首を傾げてアリシアへと顔を向ける。
するとアリシアは首を横に振りまだ聞いていない事を伝えた。
「君たち程の者が求めるモノは何だ?」
「私達の目的はバストル聖王国と主神カティスエナに復讐する事よ。先日ハーデスという神が私達の前に現れて言ったわ。もうじき奴らとの全面戦争があるって。それに参加したければそこのアリシアを守り抜けと。」
するとミストは大まかではあるが事の全容を理解した。
彼らが言う事は既に知っているが、ハーデスとも面識があるからだ。
そして自分達がその神のおかげで今も生きている事を知った。
(どうやらハーデス様は何らかの力でこの事を察知したのだろな。それで出発間際にあの様な妙な行動を取ったのかもしれない。詳しい事は直接聞くしかないか。)
そしてミストは納得した風に3人へと頷きを返した。
「大まかには理解した。後はこの状態を作り出したハーデス様に直接聞く事にする。それでだ。これからの事を決めないといけない。我々が乗っていた飛竜はアルタ王国に助けを呼びに向かった。数日後には救援の者が現れると思うが今は移動手段がない。」
すると火鞠は周りを見回し提案を口にする。
この周辺は焼け野原で見通しは良いが先程のドラゴンたちによって破壊されたためその魔力が周囲へと漂っている。
「ならしばらくここで野営するのが一番安全ね。この一帯はドラゴン達の魔力が満ちていて魔物は近寄って来ないわ。それとドラゴン達の死体は全て回収する必要があるわね。寄って来た魔物に食われると確実に2次災害を招くわ。」
そして、ミストとアリシアを残して3人はドラゴン達の回収へと向かって行った。
「アリシア、私達は野営の準備をしよう。」
「はい。」
そして、分担としては自然な流れでこの二人が野営の準備を始める。
開けたところに魔法で土を盛り上げ竈を作り、道具を取り出して湯を沸かしたりテントや寝床の準備を行う。
そんな中、ミストは周りの気配を探りながら時にアリシアへと視線を向けていた。
(髪の色が変わった事をアリシアは気付いてないのか?)
ミストの視線の先には既にその髪を漆黒に染めた娘の姿があった。
そして、この世界には生まれつき黒髪を持つ者は存在しないとされている。
居るとすれば神の加護により髪が黒く染まった者か、異世界からやって来た勇者や召喚者だけである。
(恐らくあの神が娘に何らかの加護を与えたのだろうな。しかし、身体に影響が出る程の加護とは。アリシアは大丈夫なのか。)
そうして悩んでいると先ほどドラゴンの回収に向かった3人が帰って来る。
その顔には疲れが無く、彼らの実力のほどを感じさせる。
そして、そこに広がる野営地を見て輝は明るく声を上げた。
「今戻ったぞー。お、野営の準備は万端だな。」
そう言いながら輝は周りを見回した。
そこは倒れた大木が丁度よく三方向を囲み、野営をするにも適した地形になっている。
そして奥にはテントが3つ並び全員が雨風を防ぐ事が出来るように準備がされていた。
「これなら数日は大丈夫ね。それと~・・・。ここにしましょう。」
火鞠は周りを見回して少し悩んだ末に野営地から少し離れた所へ魔法で穴の堀り、その上に小さな個室を置いた。。
「よし、これでトイレもオッケーね。」
そして野営地が完成し、見張りはこの3人が行う事に決まった。
それにどうやら彼らは人間でない為それほど睡眠を必要としないらしい。
今後はどうなるか分からないが死んだあとは眠った事が無いらしく、その影響で今の所は疲労や眠気は感じていないと言っていた。
そして、その日はドラゴンのスープと焼き肉で英気を養いミストとアリシアは別々のテントへと入って行った。
すると、少しして火鞠は立ち上がりアリシアのテントへと向かう。
そして小声で声を掛けてまだ起きているかを確認した。
「アリシア起きてる。」
「はい、まだ起きてます。」
そう言って返事を返したアリシアはテントから小さな顔を覗かせる。
これが普通のキャンプ場なら可愛らしく微笑ましい光景だろう。
「どうかしましたか?」
「少し話があるの。いいかしら?」
するとアリシアは悩む事無く「どうぞ」と火鞠をテントの中へと招き入れる。
小さなテントではあるが二人が入るには困らないくらいだろう。
特にアリシアが小さいので窮屈感はない。
「それでお話とは?」
「ええ、あなたも気付いてると思うけどその髪と記憶の事よ。」
するとアリシアは「髪?」と首を傾げる。
どうやらアリシアはまだ気が付いていなかった様で火鞠は苦笑を浮かべる。
しかし、それも仕方ないかもしれない。
ドラゴン、しかも龍王に襲われ死にかけた上に大怪もしていたのだ。
そこからの緊張で自分の状況に気を配る余裕もなかったのだろう。
「あなたの髪の色が黒くなってる事よ。ほら、見て。」
そう言って火鞠は小さな明かりを作りアリシアの長い髪を手に取って見せる。
「あ、ほんとですね。これはおじ様と同じ色。それでは私に力をくれたのはおじ様ですか?」
「そうね。ある意味では正しいわ。あなたに直接加護を与えたのはヘルディナという神だけど、彼女もハーデスから力を分けてもらったらしいの。その力を割いてあなたに加護を与えたらしいから。」
するとアリシアは首を傾げ「どうしてそんな手間な事を」と声を漏らす。
「それはハーデスがこの世界の神でないかららしいわ。そのため直接には手が出せなかったのよ。きっと、今はあなたのステータスにも変化が出てると思うから後で確認してちょうだい。」
その言葉にアリシアは素直に頷きを返す。
「分かりました。それと私は何故記憶が封印されていたのですか?」
「そうね。それはあなたにこの事を伝えた時、生きる事を諦めたでしょ。だから記憶を封印したと聞いたわ。ハーデス曰く「生き足掻かない者を助ける趣味は無い。」らしいわよ。だからこの結果はあなたが生きたいと願った結果ね。」
するとアリシアは突然目に涙を浮かべた。
どうやら我慢していた感情が爆発したようだ。
火鞠はそんなアリシアを胸に抱き寄せて眠るまでずっと抱きしめ続けた。
そしてアリシアが寝息を立て始めると彼女を横に寝かせ、火鞠はテントから出て中央の焚火へと向かう。
するとそこには輝と翼の他にミストの姿があった。
ミストは火鞠に顔を向けると軽く頭を下げる。
「アリシアの事は感謝する。聞く気は無かったがエルフは耳がいいので聞こえていた。私も理由が知れて安心しているがアリシアには苦労を掛けたな。」
すると周りの3人は苦笑を浮かべて顔を見合わせる。
「実はあの話は良い所取りなの。彼は私達へとああいったけどそれは建前よ。」
そう言って火鞠はクスクスと笑う。
そして、ミストは彼らの態度に首を傾げて問いかけた。
「どういう事なのだ。まさかハーデス様がアリシアの為だけにこのような事を行ったとでも?」
「まさにその通りよ。彼は突然私達の前に現れて周囲に途轍もない神気を放ち私達を屈服させたわ。そしてアリシアが使役しても問題なさそうな者を見繕ったのよ。」
「ああ、あの神自身は怖かったが今思い出せば大ウケだぜ。なにせ俺達の様な自我を残している者を数十人集めての面接だったからな。」
「そうだな、子供が好きかどうかから始まって生前の職業や家庭環境。しかも嘘をついたら厳しいお仕置の後に失格だからな。」
「まあ、最後は私達が元勇者であるのが決め手だったわ。他にも何人か候補がいたけど戦闘面で不安があったからね。」
するとミストは元勇者と聞いて目を見開いた。
そして顔から影が消え確信と喜びに満ちた顔を3人へと向ける
「や、やはりあなた達は・・・。」
「ああ、そうだ。俺が前にエルフの国に行った時。美味い飯屋を聞いただろミスト坊。」
「俺はお前と共に戦ったよなミスト。あの時お前は、俺の後ろで隊の指揮を執っていたな。」
「私は悲しいわよ。あなたの結婚式に参列してあげたでしょ。しかもあなたブーケが私の所に来た時。さり気なく魔法で軌道を変えたわよね。ちゃんと覚えているんだから帰ったら覚悟しておきなさいよ。」
そして3人が見つめる先でミストは感動に目から涙を浮かべている。
彼らは魔王との戦いの直後、生存の確認は取れているのに居場所が分からず、捜索されていた者達だった。
しかし、エルフ達はバストル聖王国の中枢に侵入する事が出来ず、結果行方不明のまま処理をされた。
その時のミストは限りなくバストル聖王国が怪しいと睨んでいた。
しかし、魔王を倒した後の処理。
即ち、魔族の残党や散った魔物の討伐などで動きが取れず、政情も不安定だったため捜索の許可が下りなかった。
実は聖王国はこれが分かっていて魔王を倒した直後の勇者を回収している。
そして一目散に国へと連れ帰り実験動物のように扱っていたのだが魔王を倒しても混乱の只中にある者たちには気付く事が出来なかったようだ。
予想は出来ても確証がない。
それに、この1000年の間、聖王国の軍事力は他の国を引き離していた。
それは召喚者の存在が大きいのだが、エルフの国もおいそれと戦争を仕掛ける事は出来なかったのだ。
「改めて久しぶりだなミスト。俺達の事をちゃんと覚えていてくれるのはおそらくエルフであるお前たちだけだろう。だから、今度は世界の為なんてデカい目的じゃなく俺たち自身の為。そして、お前らの為に戦ってやるよ。一緒にあのふざけた奴らをぶっ飛ばそうぜ。」
そう言って3人は拳を集めて突き出しミストに真直ぐな視線を向ける。
するとミストも目に涙を浮かべながら力強く拳を打ち付けた。
「ええ、今度こそ皆を奴らの好きにはさせませんよ。今はあの時とは状況が違いますからね。」
そして、ミストは今の状況の説明を3人へと行った。
その内容は3人を驚愕させたが話が進むにつれて彼らの顔に冷たい笑みが浮かぶ。
「と言う事はだ。奴らは今、全軍でアルタ王国への進軍準備をしてるって事か?」
「ええ、それに彼らはあなた達の前に現れたハーデス様の神罰対象です。近日中には全滅するでしょうね。あの方の力はあなた達の方が知ってるでしょうが。」
すると3人は数日前の事を思い出して遠い目をしながら頷いた。
そして、説明を終えたミストは立ち上がると「そろそろ寝ます」と言ってテントへと歩き出した。
そして次の日、朝に目を覚ますと外から声が聞こえた。
(どうしたんだ。やけに騒がしいな。)
そう思いテントから出るとそこには当然のように座りお茶を飲むハーデスやノエルたちの姿があった。
そしてミストに気が付くとノエルは笑顔で手を振り朝の挨拶をする。
「おはよミスト。予定通りに助けに来たわよ。」
(なんだ?今聞き流せない言葉が聞こえた気がするぞ。予定通り?)
「さすが裏ギルドを束ねてるだけあって気付いたみたいね。実はあなた達が狙われているのは予想がついてたの。まあ、気付いたのはハーデス様から相談を受けてからだけどね。それで囮になってもらったのよ。まあ、アリシアには少し大変だったけどおかげで龍王の一角を落とすことが出来たわ。」
するとミストは怒っていいのか呆れていいのかが分からず、顔を百面相のように変化させる。
「えーと。単純に言うと。あんたたちはこの事を知ってたのか?」
「まあ、龍王が来るとまでは思ってなかったけどね。まさかハーデス様の過保護がこんな形で役に立つなんて思わなかったわ。まあ、今のあんたを始末しようと思ったらドラゴン位は要るって事ね。良かったじゃない。あんたはそれ位にはカティスエナから評価されてるみたいよ。」
「いや、それ全然嬉しくないんですけど。それならせめて娘だけでも残す様に言ってくださいよ!」
するとノエルは呆れた顔をして「何馬鹿言ってんの。」と答えた。
「アリシアがいたからあんた生き残ったのよ。そうじゃなかったらせっかく見つけた貴重な人材が失われるでしょ。それにそれじゃアリシアが泣いちゃうじゃない。もっと考えなさいよ。」
(それならもっとあんたも考えろよ!)
そしてミストは結局諦めてこの話に触れるのを止めた。
そして、先ほどから声を上げて賑やかにしている方向へと視線を向ける。
するとそこではアリス達がドラゴン肉で焼き肉をしており、元勇者の3人と激しい奪い合いをしていた。
「アンタ達も中々やるわね。」
「当たり前だ。俺は美味い飯には目が無いんだ。」
「俺も忘れてもらっちゃ困るな。」
「女にもね。引けない戦いがあるのよ。」
しかし、そう言って火花を散らす4人の間を蒼士と冬花は華麗に箸を繰り出し肉を奪って行く。
「あ、蒼士またあんた。」
「おい、こいつは何だ。俺には手が消えたようにしか見えなかったぞ。」
「おい見ろ。いつの間にか次の肉も置かれてるぞ。」
「何なのよアンタたち。今代の奴らはみんな化け物ぞろいなの!?」
そして賑やかな焼き肉はしばらく続き全員が腹を満たした所で転移によってアルタ王国へと帰って行く。
そして町に到着すると丁度ミストの飛竜が町の上空に現れそのまま回収してその日はノエルたちの家に泊る事となった。
ちなみに元勇者たちは再び十字架に戻りアリシアの胸元にぶら下がっている。
しかし、彼らは既に体を手に入れているためにいつでも人の姿で戦うことが出来る。
そして、十字架は貰った時の白い色ではなくアリシアの血を吸って深紅に染まっていた。
すると次の日、蒼士の家に新たな来客が訪れる事となる。




