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104 加護 と お酒

オーディンから加護を受ける事となったアリス達3人は共に並んでその時を待ち構えていた。


「それでは加護を与える。死なぬように注意しろ。」


そう言ってオーディンは3人にゆっくりを神気を流し加護を与えて行く。

するとその濃密な神気に3人は顔をしかめ、体中を体内から何かが駆けまわるのを感じた。

しかし、オーディンはスサノオと違い今までに多くの者達に加護を授けて来た経験がある。

そのためスサノオの様に強引な事はせず、それぞれの状態を見極めながら加護を授けて行った。


「なんだか、体から脱力と高揚を同時に感じてるみたい。」


そう言ったのは3人の中で最もカティスエナから多くの加護を受けているアリスである。


「それは儂の神気があの女の加護を押し出しているのだ。今のお前たちの器ならあの女の加護が抜けきるまで儂の加護を与えても十分余裕がありそうだ。」


そう言ってハッハッハと笑うオーディンだが次の瞬間、ロックの腕の血管が破裂して出血を始めた。


「おっと、すまんすまん。力をいれすぎてしまったようだ。」


そして再びハッハッハっと笑う。

しかし、その姿に3人は危機感を感じ身構える。

あの笑いは今までの物と違い何となくだが嫌な予感を3人へと与えた。

すると予想していた通り、今度はノエルの額が裂けて流血する。

その瞬間ノエルは治癒の腕輪の力を使って回復するが今度は腕が裂け血を流した。


「ハーデス様?もしかしてこれが普通なのですか?」


そして、流石のノエルも額に汗を浮かべハーデスへと声を掛ける。

今の状態はどう考えても普通ではないからだ。

すると、今までの状況を見ていた冬花と百合子が3人へと声を掛けた。


「私の時は腕が飛んだり足が飛んだりしたよ。」

「そうですね。私は飛ぶことは無かったですが体中の血管が裂けて血ダルマになりました。」


そして、アリス達はオーディンが加護を与える直前に言った「死なぬように」と言う言葉の意味を真に理解した。

どうやら、今の状況は周りの雰囲気とは別に命の掛かった行いのようだ。

実際、今周りにいるのは神か規格外の者達がばかりである。

そのため蒼士達はアリス達が加護を受けている間、一切の緊張を感じさせない仕草でお茶を楽しんでいた。


「まあ、神が絡めばこんなもんだ。油断してれば死ぬが逆に油断しなければ死ぬことは無い。頑張って耐えてくれ。」


そして、蒼士からは軽い言葉と応援が送られアリス達は意識を切り替え本気で挑み始めた。

すると次第に体の脱力が消えていき力が漲るのを感じた。


「なんだか気怠いのが消えたわね。もしかしてカティスエナの加護が消えたのかしら。」


しかし、そう言ったノエルのいたる所には血が噴き出した跡があり服を赤く染めていた。

するとオーディンは3人を見つめて大きく頷きを返す。


「そのようだな。さて、ここからが本番だ。」


するとオーディンは更に加護を強めるために神気を送り続ける。

それを見てアリスは焦ったようにオーディンへと声を飛ばす。


「ちょ、もしかしてまだ終わりじゃないの?」

「当然だ。お前たちの器にはまだ余裕がある。ギリギリまで加護を与えなければ勿体なかろう。ここでやめては儂があの女と同格に思われてしまうではないか。それは儂のプライドが許さん。」


そして、アリス達はオーディンのプライドから、死ぬ一歩手前まで加護を与えられた。

そのため、今は床に血溜まりを作りその中で仰向けに倒れて意識を失っている。

先程も言ったがオーディンは今までに多くの者に加護を与え力加減を熟知していた。

そのため、加護を水に例えるなら、アリス達の器には表面張力でなんとか器から加護が零れない寸前まで詰め込まれた状態になっている。

ある意味では暴走寸前ではあるがこの3人なら再び器を大きくして受け入れる事が出来るであろう。


そして、アリス達の命に危険がない事を確認すると今度はソーマが話し始めた。


「まあ、私の加護の与え方はあの様な事は無いので安心してほしい。しかし、君にはある意味では大変かもしれないね。」


そう言ってソーマは一つの瓶を取り出した。


「これには私の神気が込められた酒が入っている。これを飲みきれば完了だ。酒は百薬の長とも言う。君の体に宿る不純なあの女神の神気だけを追い出し私の加護が代わりに根付くようにしてある。」


そう言われ百合子は瓶の蓋を開けると匂いを嗅いだ。

すると即座に「臭」と瓶を遠ざけ顔をしかめる。


「ソーマ様。このお酒はかなりきつそうですね。」

「そうかな?私の作る酒の中ではかなり優しめの物を用意したんだが。そう言えばカグツチにも前に言われた事がある気がするな。彼女にも初心者向きに今位のお酒を渡していたのだが。」


ちなみに、百合子の手にある酒はアルコール度数で言えば30パーセント。

カグツチに渡しているのは40パーセント程である。

これは酒を飲める者や好きな物ならともかく、初心者に呑ませる物ではない。

ソーマの感覚はその辺りが崩壊しているようだ。

その証拠に百合子やカグツチだけでなくオーディンやアテナまでもがソーマへと呆れた視線を向けている。

どうやらカグツチが蔵の酒に一切手を付けず、今まで酒を飲まなかったのにはここにも原因があったのかもしれない。


そんな事にも気付かず、ソーマは「何がいけないのだ」と頭を抱えている。

するとここで百合子はアイテムボックスから一つの腕輪を取り出した。


「まあ、こんな事もあろうかとこの腕輪を作っておいて正解でした。」


百合子は腕輪を腕に嵌めると500ミリリットルはある酒をラッパ飲みで一気に飲み干す。

そして、その顔色はまるで水を一気飲みしたかのように変化なくケロッとした顔で瓶を机に置いた。


「ゲップ・・・。あ、失礼しました。」


そして、口元を拭う百合子の体から何かが煙の様に漂い出ると空気中に消えていき彼女からカティスエナの加護が消えて新たにソーマの加護が付いた。


その様子にカグツチは心配し百合子へと声を掛ける。


「百合子、平気なのか?無理はしなくてもいいぞ。」


そして、カグツチは異空間から取り出したバケツを差し出して見せる。

どうやら気分が悪くなったらいつでも使ってくれとの無言の優しさのようだ。


「いえ、大丈夫です。この腕輪は酒豪の腕輪と言って、これを付けておくとアルコールが体内に入った瞬時に分解してくれますから。これは昔、ドワーフと話し合いをする時によく使われていたそうです。彼らは度数の強いお酒を好んで飲むため彼らに付き合っていると会議が出来ないそうですから。」


すると、腕輪の話をしている所でソーマとオーディンの耳がピクリと動いた。


「ほほう。そのような酒がこの世界にはあるのか。」

「これは少し調査が必要かもしれませんね。」


そう言って怪しい笑顔を浮かべてオーディンとソーマは頷きあう。

その横で蒼士は純粋な疑問を感じて百合子に問いかけた。


「百合子はこの事を予測してたのか?」

「いえ、私が出雲の社に行った時。凄い酒気が充満していて気分が悪くなったのでこちらに来て直ぐに対策として作っておいたのです。お爺ちゃんもお酒が好きなのでよくお酒の匂いをさせてますし。」


そう言って懐かしむような目をして腕輪を撫でた。

そして、百合子は加護の調子を確認するために幾つかの事を行った。


「まずは魔石の合成ですね。」


そう言って百合子は山の様に魔石を取り出して合成を始めた。


「ん~。前と少し感覚が違いますが問題なさそうです。」


そう言った百合子の前には30センチを超える魔石がいくつも並んでいた。

それらは元は親指程のサイズしかなかった魔石を百合子が合成で作り出したものだ。

それ一つで家が建つほどの価値があるが百合子は興味なさげにアイテムボックスに仕舞うと今度は大きな魔石と麻袋を取り出した。

ちなみに百合子のアイテムボックスは容量に制限はあるが時間は停止する仕様にまで変化している。

しかし、容量もかなり大きいようで、今までいっぱいになったことは無い。


そして、百合子が取り出したのはドラゴンの魔石と心臓。

それを使い彼女は前回同様に竜人の腕輪を量産した。


その作業は前回同様。

いや、それ以上の早さで作成され机の上には複数の腕輪が並んだ。

しかもどれもアリスが持つ腕輪以上の力を放っている。

ただ使った材料も前回を大きく凌ぐ物ばかりだったのもあるが、どうやらソーマの加護は物作りに特化したモノのようだ。

そして、その様子を見ていたソーマは満足そうに笑顔で頷いている。


そうしているとようやくアリス達が目を覚まし、まさに血みどろの姿で起き上がった。


「は~酷い目に会ったわ。こうして考えると私と別れてる短い間にどうして百合子があんなに強くなってたのかが理解できたわ。」


そう言ってアリスはこの世界に再び召喚された日の事を思い出す。

あの時の百合子は容赦のない攻撃で兵士を黒焦げにしていたがそれ以上に戦闘能力が異常ともいえる程の成長を遂げていた。

そして、アリスには今の自分の味わった苦しみから百合子の苦労を初めて理解する。


「百合子も苦労したのね。」


そして、百合子に優し気な目を向けたアリスはテーブルの上ある腕輪を見て驚きに目を見開いた。


「百合子、何してるの?」

「ああ、アリスさん。目が覚めたんですね。いえ、少し加護の調子を見ようかと思いまして。ちょっと試しに作ってみたんです。こちらの腕輪の方が強力なので後で交換しますね。」


そう言う百合子はいつも通りで何も変わった所は無い。

しかし、作っている物が物だけにアリスは呆れた目を百合子へと向ける。


「まあ、この腕輪を使いこなせるのは今は私達メンバーだけですよ。おそらく他の人だと使いこなす前に体が耐えられなくてバラバラになると思います。」


するとアリスは「そうなんだー」と遠い目をした。

こうやって言われて気付くが、数年前までは普通の女の子であった自分も成長?したものである。

おそらく、いまなら飛行機で墜落事故にあっても生き残れそうだ。


そして、アリス達が無事に目を覚ましたのを見てオーディンたちも立ち上がった。

ちなみに、その手にはこの家から無断で拝借したこの世界の酒が握られている。


「それではそろそろ我らも帰るとしよう。あまり長居すると他の神々から羨ましがられてしまうからな。」


そう言ってオーディン達はユノの開いた門を潜って消えていった。

しかし、そこには何故かいまだに居座っている二人の神がいた。


「ハーデス。あんたは帰らないの?」


そこにはハーデスとそれにつき従うようにヘルディナが椅子に座りお茶を飲んでいた。

その様子は優雅ではあるが一向に立ち上がる気配がない。


「お前たちも加護を得たばかりだからな。少し、こちらに残って様子を見る事にしたのだ。我らは食事の必要は無いからすまないが部屋だけ用意してくれると助かる。」


するとアリスは判断を仰ぐためにノエルへと視線を向ける。

この家のルールは基本ノエルが決めているためだ。

ノエルは少し考えた末に「分かりました。」と答えて了承した。


「そのかわりご飯が不要なだけで食べられるならご飯は毎日食べてもらいます。それとヘルディナ様には変わりの服を用意します。その恰好は流石に目立ちますから。」


そしてハーデスとヘルディナの滞在が決まり今日は解散となった。

しかし、このハーデスの気まぐれが一人の少女を救う切っ掛けになるとは彼らはまだ知らない。

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