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103/148

103 オーディン達がやって来た。

その日、アリスが眠気眼で一階に下りるとそこでハーデスが当然の様にお茶を飲んでいた。


「ちょ、なんであんたがここにいるのよ。」


そして、眠気の吹き飛んだアリスから開口一番の突っ込みを受けたハーデスは「フッ」と笑って優雅にカップを傾ける。

それはまるで紳士の様に優雅で隙が無く、窓から差し込む光さえもその姿を引き立てていた。

そして、カップを音をさせずに置いたハーデスはその視線をアリスへと向ける。


「実はオーディンに急かされて少し早く来てしまったのだ。すると外で偶然ノエルと会ってな。ここで茶をご馳走になっている。」


アリスはその時、ハーデスが町を歩いている所を想像した。

そこでは何処を歩いていたかは知らないが、この神が普通に歩いているだけで町は阿鼻叫喚の大騒ぎになっている。

道を歩けば死体が転がり、空は曇天に包まれる。

そして、それらを貪る悪鬼羅刹が鮮明にイメージできた。

これはあくまで想像で、そんな事は一切起きていないのだが、アリスのハーデスに対するイメージ故とも言える。


すると丁度その時、朝食を抱えたノエルが顔を出した。

その表情はとても明るくいつも通りで、食卓に死を司る神が座っているとは全く感じさせない。


「さっき庭で水を撒いていると何やら怪しい人が歩いていてね。通報されそうだったから家にご招待したの。言っちゃなんだけどハーデス様って上から下まであれだから気配を押さえてると危険人物にしか見えないのよね。」


するとノエルの言葉にアリスの勝手な想像は完全に吹き飛び「ぶふぅーー」と乙女がしてはいけない感じに噴き出して大笑いした。


「そ、そうよね。確かにその格好だとそうなっちゃうわね。」


そしてノエルはもう一人の神物に視線を移して溜息をこぼした。


「それに、横の彼女が特に目を引いちゃってね。」


そして、ハーデスに目が行っていたアリスはその横で大人しく座っている黒髪に黒いドレスの女神、ヘルディナに気が付いて納得した。

彼女はハーデスに神気を注がれてからその姿が一変している。

髪や服装は黒く染まり大人の女性に成長した体はその美しい顔立ちと相まって、男の視線を集めるのには十分である。

しかも、その胸は巨乳と言っても差し支えなく、その谷間を見せつける様に前の開いたドレスを着ている。

これでは視線を集めない方が不可能であった。


「それにしても、ヘルディナをその姿にしたのはハーデスだったのね。ところで、彼女のその姿はあんたの趣味なの?」


その問いかけをする時、アリスは若干顔を赤らめながら視線を逸らす。

すると横にいたヘルディナは顔を赤らめながらも期待した目をハーデスへと向けた。


「い、いや。それは知らん。ヘルもそんな目で私を見るな。それに、それは前も答えただろう。」


するとハーデスの言葉にアリスの耳がピクリと動く。


「へえ~、ハーデス様はその子の事をヘルって言うんだ。凄く仲良くなったのね。」


アリスは椅子に座りながら拗ねたように頬を膨らませ、棘のある言い方で言葉を投げつけた。

しかし、ここでノエルが割って入り無理やり話を終われせる。


「アリスちゃん。そんなこと言ってないで食器を並べて。今日も色々とあって大変なのよ。」

「は~い。」


するとアリスは渋々と食器を取りに向かいハーデスは助かったと胸を撫で下ろした。

彼は友と呼べる者が少なく、自然と話し相手も少ない。

そのためこのような時、どうすればいいのかが分からず、今も人知れず困っていたのだ。

そんな中、今のノエルの助けはまさに天から降り注ぐ一筋の光。

ハーデスは無言でノエルへと黙礼すると彼女はウインクで返した。

どうやら今の場面は確実にノエルに救われたようである。


その後、彼らは無事に食事を終え少しすると蒼士たちがやって来た。

しかし、今日来たのは蒼士以外には冬花、カグツチ、ベルの3人で他の者の姿は見えない。


「待たせたか?」


そう言って入って来た俺たちにハーデスは首を横に振った。


「いや、オーディンが急かしたため我らが早く来ただけだ。それでは早速呼ぶとするか。しかし、その前に・・・。」


そう言ってハーデスはノエルの家に手を加え空間を広げ結界を張った。


「普通に呼んではこの町が大混乱になるからな。これならそう簡単には外に気配も洩れんだろう。」


そう言ってハーデスは10メートルほどの部屋を30メートルほどに広げた。

しかし、これは今から取り出す龍王のサイズを考えれば当然の事でだ。

そしてハーデスは部屋に龍王の死体を出すとケルベロスに命じて天界に繋がるゲートを作らせた。

すると、ゲートが出現し開き始めた直後、扉はあちら側から勢いよく開け放たれ、その向こうから嵐の様な激しい風が巻き起こる。


「遅いぞハーデス!お前がもたもたしているから要らぬ者達まで来てしまった。」


そう言って現れたオーディンはまず自分の依り代を作るために龍王の体へと手を伸ばした。

すると龍王の肉体から心臓だけが抜け出し、それ以外の部分は圧縮されたように小さくなる。

そして俺たちが見た事のある姿へと変わるとオーディンは依り代に宿り体の調子を確認する様に手足を動かした。


「うむ、良い依り代だ。これを手に入れられた事だけでここに来たかいがある。」


すると再び門から新たな神が現れ、残った心臓を使い依り代を作り始めた。

だが心臓と言っても龍王の心臓は2メートル近くある。

それを使い体を作るとその姿は俺と冬花の知る者へとかわっていった。

そして依り代に入ると真っ先に冬花へと声を掛ける。


「円卓以来だな冬花。どうやら私の加護は体に馴染んでいるようで安心した。それと最近ハーデスがこちらで何かしてるのを見てな。気になって来てみたのだ。」


そう言って現れたのは冬花に加護を与えたアテナである。

どうやら彼女は冬花の事を気にして見守ってくれていたようだ。


「はい。加護も馴染んでいるのでとても助かっています。特に戦闘面では以前よりも調子がいいぐらいです。」


そして冬花はアテナの問いに答え笑顔を浮かべる。

しかし、冬花にとって最も嬉しいのはあの女神の神気が体から抜けた事かもしれない。

色々な意味であの神の加護が体に宿っているのは今後の事を考えれば落ち着けるものではない。

だが、それは今なおカティスエナの加護を強く宿すアリス達4人にも言える事である。


しかし、ここ俺はフと疑問を感じ扉に視線を向ける。

先程オーディンは要らぬ者達と言っていた。

ならば最低でも、もう一人は居ないとおかしい。

しかし今はもう扉は閉まり、その存在は消え始めている。

そのため仕方なく二人の神へと問いかける事にした。


「来たのは二人だけか?」


するとオーディンは異空間から一つの樽を取り出した。

ニオイからして中身は酒だろうが見た目からしてかなり古そうだ。


「少し待て。もう一人はこの中におるのだ。」


そして、オーディンが樽を床に置くと、蓋が内側から弾け飛び、見覚えのない神が一人現れた。

するとその神は周りを見回しカグツチを見つけると樽から飛び出し駆け寄って行く。

そして、その姿に見覚えがあるのか、カグツチは驚きの声を上げた


「ソーマ!なんでお前がここにいるのだ?」


どうやら彼がカグツチに毎年酒を渡している神ソーマのようだ。

今までに何度か聞いた事がある名前だが会うのは初めてになる。

男の様だが体は細長く身形をあまり気にしないんか服と髪はあまり手入れされていない。

しかし、神と言う事でその肌は綺麗なもので白く一片の染みも見当たらない。


「久しぶりだな。私の酒が役にたったようで何よりだ。今日はちょっと大事な用事があってあちらのオーディン様に同行して来たのだ。しかし、お前はいまだに酒が飲めんようだな。少しは飲めるようになれ。そうすればもっと美味い酒を回してやるぞ。」


するとソーマの話を聞いていたオーディンは激しく反応し彼の肩に手を置いた。

さすが酒スキーだな。

酒と言うワードを聞き逃さないようだ。


「確認だが、カグツチの蔵にある酒よりも美味い酒があるのか?」

「当然です。あれは試作品であるので完成品も存在します。確か一つ持ってきてましたね。これが今回のお礼と言う事でいいですか?」


そしてソーマは懐をあさるような仕草で異空間から瓶を取り出しオーディンへと差し出す。

するとオーディンは喜色満面に表情を崩し、その酒を受け取り頷いた。


「ああ構わん。それでは早速いただこうか。」


そして瓶の蓋を開けようと手を伸ばした時、ソーマは急いでその手を止めた。

その顔には焦りが見え、まるで毒物か劇物でも扱っているようだ。


「ちょっと待ってください。こんな人の多い所で開けないでください。」


すると言っている意味が分からない様でオーディンは首を傾げ一旦蓋から手を放した。

それを見てソーマはホッと胸を撫で下ろすとオーディンから離れる。


「どうしたと言うのだ。もしは恥ずかしいとは言わんだろうな。」

「当然です。酒は飲まれてこそ意味があります。しかし、その完成品は只人が嗅げば正気を保てる保証はありません。それは帰られてからお飲みください。」


そしてオーディンは初めてソーマの酒を飲んだ時の事を思い出す。

その時の感動と衝動は今でも忘れる事無く覚えてるからだ。


「確かに、今から大事な話をするのにこれは危険だな。帰って厳重に扉を閉めていただくとしよう。」


そう言って何気に独り占めする事を宣言して酒を異空間に仕舞った。

しかし、それを見ていたアテナは後で連合を組んで飲みに行こうと心に誓う。

そしてその連合の中には当然、トールやスサノオなども含まれている。

彼らは円卓会議以降も時々打ち合わせと称して酒盛りを行い親睦を深めていた。

そして、カグツチから蔵のカギを受け取った後、カグツチがこちらへと来てからはスサノオが真剣?に蔵の番をしている為あそこは宴会場と化している。


そして彼らの話がまとまるとソーマは再びカグツチに近寄り話しかけた。


「それでこの世界へ来るための方法を探してお前の社に行くとな。スサノオという神とそこのアテナという神に出会ったのだ。彼らはそこでどうやら酒盛りをしているようだったのだが理由を話すと喜んでここに連れて来てくれたというわけだ。ちなみに私の依り代は自分の酒だ。私にはこれが一番しっくりくるのでな。」


するとカグツチは顔に手を当てて上を向いた。


「アイツは何をやっているんだ。まあ、散らかさなければいいだろう。」


するとソーマの後ろでは秘密をばらされたアテナが凛々しくも顔を赤らめ視線を逸らしていた。

この様子なら恐らく社の主であるカグツチにバレなければいいとスサノオ辺りに言われていたのだろう。

そう考えるとアテナの見た目は片付けとは縁の無さそうな顔に見えてくる。

そしてカグツチは苦笑を浮かべてアテナへと声を掛けるとあからさまにその肩がビクリと跳ねて視線が泳ぐ。

これは後ろめたい事がある者の顔だな。


「アテナ様。」

「は、はひ!」

「私が帰った時に散らかっていなければ構いませんよ。スサノオには私から言っておきますので蔵の酒は好きに飲んでください。」


するとアテナも苦笑を返し「助かる」と答えた。

しかし、この答えでカグツチは自分の社が散らかっている事を確信し胸の中だけで溜息を吐く。


(これは帰ったら掃除が大変かもしれないな。)


そして、話が変な方向に進んでいたのでオーディンは本題に入るために咳払いを一度して話を始めた。


「それでだ。今回来たのはお前たちについてだ。」


そう言ってオーディンはアリス達へと視線を向ける。


「お前たちの中にはいまだにあのクソ女神の加護がある。しかも見た所アリスにはあの女神の強い加護が宿っているようだ。このままでは何をされるか分からん。そのためお前たちにはその加護を捨ててもらう。」


すると、そこで一番驚いたのはアリスだ。

彼女はこの後に訪れる両親の死と言う運命と戦わなければならない。

しかし、それは全て今の力があってこそ可能なのだ。

ただの少女に死の運命を捻じ曲げる力などあるはずもない。

そして、今の自分と同じく力を手に入れた両親なら十分にそれが可能だと考えていた。

しかし、オーディンの話はそこで終わりではなかった。


「捨てた後、お前たちにはまだ戦いが待っているであろう。こちらでもあちらでもな。」


その言葉に俯いてしまっていたアリスは顔を上げオーディンへと目を向けた。

するとオーディンは力強くアリスに頷きノエルとロックへと視線を移す。


「お前たち二人はアリスが何故この時代に帰って来たか知っておるか?」


すると二人は首を横に振り知らない事を伝える。

やはり、両親に向かってもう少ししたら死ぬかもしれないとは簡単には反せなかった様だ。


「私達はアリスちゃんから神に言われてこの世界に来ている事しか聞いてないわ。もしかしてそれ以外にも何か目的があるの?」


するとオーディンは頷きその理由をアリスに変わって話し始めた。


「ハッキリ言おう。お前たちにはもうじき死の運命が訪れる。アリスはそれを回避するためにこの世界に来たのだ。お前たちを救うためにな。」


そして初めて聞いた真実にノエルとロックは驚愕し顔をアリスへと向ける。

するとアリスは辛そうな顔で俯けて視線を逸らし、自分の服を握り締めた。


「それでアリスちゃんは彼方にいた間はずっと張り詰めていたのね。」

「まさか、俺達の事でも悩んでるとは思わなかった。」


そう言って二人は苦笑を浮かべアリスを見つめる。

するとアリスは叱られた子供の様に涙を浮かべて言葉を漏らした。


「パパ、ママ。ごめんなさい。でもなかなか言い出せなくて・・・。」


そして、アリスはなぜ二人が死んでしまったのかを話した。

2人はそれを静かに聞き、終わると同時に納得して頷きを返す。

しかし、その顔には暗い影はなく、何処か誇らしそうだ。


「そうなのね。確かにアリスちゃんが行方不明になったら全てを投げ捨てて探すわね。」

「しかし、突発事故とはなこちらに来る前の俺達でもさすがに無理そうだ。」

「そうね。今なら対向車ごと切り裂けるけどね。」

「そうだな躱すのも訳ないな。」


そして二人は結論を出して互いに笑い合うとオーディンへと向き直った。


「それで、先ほどの言葉から力を失って終わりではないようですが?」

「アリスが泣かなくてもいい方法があるのですか?」

「それは簡単だ。お前たちに儂の加護を代わりに与える。その代わり女神の加護を追い出す程の加護だ。体に負担がかかる事は覚悟してもらいたい。それとアリスは、他にも加護を受けていたな。それが残るかどうかは運しだいだ。まあ、轟運と言う加護だからな。心配せんでも残るだろう。逆にそれがあるからこそ、この様な無理が出来るのだがな。」


そして、オーディンの話が終わると今度はソーマが百合子に向かって声を掛けた。

彼方は真剣な話だがこちらはなんだか雰囲気が違う。

言うなれば趣味の合う相手に何かを進める時の様なワクワク感が伝わってくる。。


「実は少し前に君を見てピンと来たんだ。よければ私の加護を受けてみてはどうかな。君と私の加護はとても相性がいいと思うんだ。加護は戦闘向きではないが酒はもちろん、薬から錬金術まではカバーできる。後は才能次第だけど君にはそれがあると思うんだ。」


すると百合子は少し考えた後に首を横に振った。


「私は物を作るのあんまり好きじゃないのでそんな加護貰っても困ります。それならまだそちらのハーデス様やアテナ様からの加護のほうが有用です。」


そう言って断った百合子の顔は少し悲しそうだ。

やはり彼女の心には一回目の苦しみ抜いた生活の記憶がこびり付いているのだろう。


するとソーマは肩を落とし、残念そうにボソリと声を漏らした。


「それはきっと雷神が落ち込むだろうな。君が作る酒を楽しみにしてたのに。」


すると百合子の耳がピクリと動き意識がソーマへと向く。

表情こそ変わっていないが先程と違い目が輝いている様に見える。


「それに、日本中の神が君の酒を待っていると言うのに。私一人では全ては賄えないからどうすれば。」


そう言って頭を抱えるソーマの声に百合子は更に反応する。

その姿は傍から見れば酷い三文芝居であるが百合子には聞き逃せないワードが盛りだくさんである。

その結果百合子は視線を彷徨わせた結果ソーマに向いて頷きを返した。


「仕方ないからそれでいい。お爺ちゃんにはお世話になってるから何か作ってあげたい。」


すると、それをシメシメと言う思いで聞いたソーマは小躍りする様にその場で飛び跳ねて喜びを表現する。

まあ、彼の本心はカグツチが共に高め合う相手を見つけたと聞いて自分にも欲しくなっただけである。

そして、それに白羽の矢が立ったのが百合子であり、今のところ地球上では彼女以上の適任者はいないからだ。


そして、加護を受ける話が終わりとうとう加護を与える時が来た。

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