101 竜狩り②
しかし、いくら頑張ってもクレアには複合魔法が使える気配が無い。
そのためクレアは自信を無くしてしまい、そのまま俯いてしまった。
しかもすぐ横ではパメラが魔法を自在に組み換えドラゴンを狩り続けている。
その姿を見れば自称若くて大人なお姉さんのクレアでも子供の様に落ち込んでもしょうがないかもしれない。
「そう言えば、クレアはベルに祈った事あるのか?」
するとクレアは「あ・・・ははは。」と何かを誤魔化す様に舌を出して見事なテヘペロを向けてくる。
勇者の伝えた仕草なのは分かるがそれは自白しているのと同じだぞ。
「そう言えば祈った事なかったわ。今までは簡単に使えたから。」
どうやらパメラの言うようにクレアは確かに天才だったようだ。
これまで自分の力だけで魔法を鍛え、ここまで強くなったのだから。
しかし、いくら才能があっても複合魔法は難易度が跳ね上がるのかもしれない。
俺も自身の持つスキル天才でここまで強くなったのでつい失念していた。
しかし、そこはさすがの言うと無駄に落ち込みそうなので伏せておき、再びクレアの襟を掴んでを抱えると満面の笑みを浮かべた。
「ちょっと、何するのよ蒼士。その顔怖いわよ。て、ま、ちょ、きゃあーー!」
そして有無を言わさぬ手際で俺はクレアをベルのいる場所へと放り投げた。
「とっとと加護を貰ってこい!」
そして悲鳴と共に遠ざかるクレアを見てセラフィムは体を捻ると全速で追い掛けた。
しかし、心配はいらない。
クレアには魔法があり飛ぶことも出来る事を俺は知っている。
そして予想通りクレアは魔法を使い落下速度を次第に減少させていく。
「あ・・・。少し強く投げすぎたか?このままだと減速が間に合いそうにないな。」
するとクレアもそれに気付いたのか、次第にパニックを起こしたように様々な魔法を使い始めた。
するとその結果、闇魔法で重力を操り、土魔法で板を作って面積を大きくし、そこに風を当てると言う荒業を披露した。
その結果クレアは地面に激突する直前に浮き上がる事に成功すると凄い顔で俺を睨み付けて来る。
「あ・・あ・あ、アンタ何してくれるのもう少しで死ぬ所だったじゃない!」
そう言ったクレアの顔は涙と鼻水にまみれている。
そして俺の予想では濡れているのは顔だけではないだろう。
現に遠くから見ても分かる程、履いているズボンの色が変わっている。
するとクレアは怒りに任せ俺に魔法を放ってきた。
しかし、俺はその魔法を見て一瞬焦り、射線から体を逸らす。
すると予想した射線を赤く高温の光が通り過ぎ後ろから追って来ていたドラゴンの頭に上手く命中して絶命させた。
それを見たクレアは「は?」と間の抜けた表情になると落ちて行くドラゴンと自分の手を交互に見て首を捻る。
そしてクレアの前に到着した俺はすぐにスキルを確認する様に言った。
「分かったわからちょっと待って。でも、今の事は後で覚えときなさい」
するとそこには先ほどまで無かった複合魔法のスキルがありクレアはとうとう自力で職業賢者を手に入れた。
「蒼士、なんだか凄く嬉しいはずなんだけど全然嬉しくないのはなんでかな?」
そう言ってクレアはジト目を向けるが俺は何も無かったように笑顔を浮かべてクレアの肩に手を置いた。
もちろんこれはクレアなら出来ると思っての俺の親心だ。
やはりかわいい子には旅をさせろと言うようんに、可愛い子は放り投げろと昔から言うじゃないか。
「おめでとうクレア。お前ならできると信じていた。」
そう言って誤魔化す様にクレアを祝福するが俺の笑顔はそこまでだった。
「それとな・・・、すぐに冬花の所に言って来た方がいいぞ。」
そして笑いを堪える様な仕草でクレアの下の方を見る。
それに釣られてクレアも視線を下げると自分の惨状に気が付いた。
「・・・。」
そして、そのにある簡易世界地図を確認し、クレアは無言でセラフィムへと視線を向ける。
するとセラフィムは顔を背け二歩程クレアから遠ざかった。
そしてクレアは俺に視線を向けると顔を真っ赤にして足に蹴りを入れると「馬鹿ー!」と叫びながら冬花の元へと走って行った。
その姿を見ていた冬花やカグツチは苦笑を浮かべ、ベルは優しくクレアの頭を撫でながらさりげなく加護を与えている。
まあ、今となっては大きな恩恵は無いかもしれないが、魔法が使いやすくなったりなどの補正が掛かると信じて俺も優しい目を向けておく。
するとクレアは綺麗になった外見でこちらに飛んでくると俺に再び一撃入れセラフィムに跨った。
どうやら綺麗になれば素直にクレアを乗せた様だ。
そして俺もクレアの後に続き背に乗ると、再び空へと飛びあがった。
しかし、空にいた大量のドラゴンはパメラに撃ち落とされ後数匹と言う所まで減っている。
するとクレアを見たパメラは攻撃を止めこちらへと近づいて来た。
「そろそろ私も疲れたからねえ。魔力も限界に近いから休ませてもらうよ。」
そう言って残りの獲物をクレアへと譲っているが嘘が下手だな。
なにせパメラにまだ余裕がある事が感じられ魔力も半分以上が残っている。
それも急激に回復している事から俺と同じ様に超速魔力回復のスキルを持っているのだろう。
もはやパメラをエルフ最強と言っても問題はないだろう。
さすがは5000歳と言うべきか途轍もない魔力量である。
しかし、その魔法の運用には蒼士を超える物が見て取れた。
なので恐らくは孫であり苦労の結果に複合魔法を覚えたクレアへ花を持たせたのだろう。
しかし、俺も大概だがパメラもかなりの鬼のようだ。
今残っているドラゴンは皆10メートルを超えているようで飛んでいたドラゴンの中でも大物の部類に入る。
そして、仲間を殺されたため怒りの視線をこちらへと向けているようだ。
「それじゃ、クレア。ちゃっちゃと行って倒して終わりにするか。下の回収もしないといけないからな。」
そう言って俺が肩を叩くとクレアは派手に体を跳ねさせて勢いよく顔を向けてきた。
そこにあるクレアの顔色はとても悪く、一目でビビっているのが分かる。
「あ、あのね蒼士。私が倒した事のある大きさは5メートルなの。だからあんなに大きいのはちょっと無理な気がするんだけど・・・。」
そう言って弱音を吐くクレアに俺は笑って答えた。
もしかしてさっきドサクサで撃ち落とした奴を見てなかったのか?
「何言ってるんだクレア。さっき俺に打ち込んだ魔法なら余裕だ。それに気付いてないからそんな事言うんだろうが、あの時に倒したドラゴンはあれとそれほど変わらない大きさだったぞ。」
するとクレアは先ほど偶然撃ち落としたドラゴンを思い出したようで口をあんぐりと開けている。
(あのドラゴンは大きかった気がする。あの時は命が助かった直後で興奮していたから正確なサイズは覚えていないけど8メートルはあるセラフィムが小さく見えるくらいには大きかったわ。)
「・・・分かった。やってみるわ。」
そして不確かな記憶に背中を押され、クレアはドラゴンと戦う事を決めた。
(おお、言ってみるもんだな。あの時のドラゴンは今から相手にする個体よりは小さかったんだがな。)
そんな事を考えながらも、もし無理そうなら自分が始末すれば問題ないと判断し、俺は軽い気持ちでクレアに残りの始末を任せる。
しかし思っていた通り、それは杞憂に終わった。
クレアは複合魔法を使いこなし、攻撃は見事ドラゴンの頭部に命中。
そしてレーザーの熱は頭蓋を貫通し脳を焼いてあっさりとドラゴンは落ちて行った
だが、その事を一番驚いているのは当のクレア本人である。
なぜなら彼女は言っていた様につい先ほどまで5メートル級のドラゴンしか倒した事を自覚していなかった。
そのため倒した10メートル級が落ちて行くのを見て目を丸くしている。
ちなみにドラゴンは大きさが倍になれば強さも倍なんて単純な生物ではない。
1メートル違うだけで爪も牙も通用せず、ブレスさえ威力が段違いだ。
それが倍になるとその強さは数倍から十数倍まで跳ね上がる。
きっと職業に咥えてスキルにベルの加護も加わって一気に強化されたのが原因だろう。
そうでなければ最低限、途中で魔力が枯渇していたかもしれない。
しかし、そんな事は顔には出さずいつもの軽い感じに言ってやる。
「な、簡単だろ。」
「え、ええ。そうね。この調子で残りも落としてやるわ。」
そしてクレアは勢い付いて何度か魔法を連射する。
だが残りの2匹はさすがここまで生き残っていただけありクレアの魔法を躱して行く。
すると、パメラ程魔力量に余裕のないクレアは次第に焦り始めた。
「あ、当たらない。アイツらこっちの魔法発動のタイミングを感じ取って躱してるんだわ。」
そして、クレアは今使っている魔法の最大の欠点に気付き助けを求める様な顔をと向けてくる。
俺はクレアにこの魔法の応用を教えるためにバイクの二人乗りの様な格好でクレアの後ろに腰を下ろした。
「ちょ、蒼士近い!何勝手に私の後ろに座ってんのよ。こら、腰に手を回すなー!」
そしてクレアはすぐに文句を言うがその顔は何処となく嬉しそうで、もしパメラが傍で見ていれば「ツンデレ」と言う言葉をこぼしそうだ。
しかし、クレアの声を完全に無視して片手を突き出すと説明を始めた。
「クレア、この魔法の攻撃は直線的なのが弱点なんだ。だからただ打つだけじゃ躱されやすいんだ。」
そう言って俺はドラゴンを狙い魔法を打ち出す。
するとドラゴンはクレアの時ど同様に急旋回して攻撃を躱そうとした。
「ぎゃーーー!?」
しかし、俺とクレアでは魔力を操作し、魔法として打ち出す速度があまりにも違いすぎた。
そのためドラゴンは交わしきれず翼を大きく切り裂かれる事になる。
それを見て言葉と結果にいきなり違いが出たためクレアは呆れた顔を向けて来た。
「ゴホン。まあ、こういう事もある。それで、この通りいくら攻撃速度が速くても躱すタイミングを悟られたら致命傷にはならない。」
『ジト~~~。』
クレアはさっき投げた時の仕返しなのかなかなかジト目を止めてくれない。
俺は仕方なく「ゴホン!ゴホン!」と何度も咳ばらいをして何とか空気を入れ替えた。
「それでだ。魔法はイメージだ。だからこういう使い方も出来る。」
そう言って今度はワザと攻撃速度をクレアに合わて魔法を放つ。
するとドラゴンは今度は余裕をもって魔法を躱すとこちらを笑う様に泣いてくる。
しかし、笑うにはまだ早く、俺は魔法にイメージを反映させる。
「ちょっと、完全に躱されてるわよ。」
「大丈夫だ。」
しかし、クレアがそう叫んだ直後、魔法は向きを変えるとドラゴンへと迫りその足を切り落とした。
「ギャウアアーーー!」
すると、ドラゴンは怒りに満ちた目を俺へと向け大きく口を開いた。
そして口の中に魔力を貯めると特大のブレスを放って来た。
この様子では持てる魔力の殆どをこの攻撃に費やしているだろう。
「おっと、さすがに遊びすぎたか。このブレスは俺が防ぐからクレアは魔法の用意をしてくれ。セラフィムはそのまま動くなよ。」
そう言って蒼士は神聖魔法のシールドを前面に張りブレスを受け止めた。
それを見てクレアは驚愕し目の前のシールドを見つめる。
通常ドラゴンのブレスはあまりにも強力なため複数人で協力し何重にも重ねたシールドで防ぐ。
しかし、俺はそれを一人で、しかもたった1枚のシールドだけで受け止めていた。
その非常識ぶりにクレアも顔が引きつりその光景を見つめる。
そのため、クレアは魔法の準備をしろと言う指示を忘れてしまい、背後からおしかりを受ける事となった。
「こらクレア。魔法に見とれてないで早く準備をしろ。」
そう言って蒼士はクレアの頬を掴みグリグリとこね回した。
「痛い痛い、乙女の柔肌になんてことしてくれるの!それに見とれてたんじゃなく防ぎきれるのか心配だっただけよ!」
そしてクレアは俺の手を跳ね除けると赤くなった頬を摩りながら魔法の準備を行いブレスが途切れた瞬間を狙って魔法を打ち出した。
すると、向こうもそれを読んでいたのか、もう一匹のドラゴンが守る様に前に現れ、何重ものシールドを張る。
しかし、クレアの魔法がシールドに当たった瞬間。
カラスを断続的に割る様な音が響き、全てのシールドを貫いてその体に傷を負わせた。
「馬鹿め、この魔法を甘く見るなよ。これは性質上ブレスに近いんだよ。しかもお前らのブレスと違って点に威力を集中させてるんだ。あんな収束させてないシールドを何枚重ねても紙切れ同然だ。」
そう言って愉快に勝ち誇ったように笑うと俺は次のレクチャーへと入った。
それにどうやらクレアに教えている間に少し説明口調になっているようだ。
独り言が多くなりそうなのでなるべく自重しておこう。
「それじゃ、次な。さっきのは余裕がある時に練習しとけよ。」
「え、まだあるの?」
「当たり前だ。これ位出来ないとこの後の戦いで死ぬぞ。」
蒼士は厳しい口調でクレアに事実を伝えると彼女は肩を落として俯いた。
しかし、すぐに俺はその頭を乱暴に撫でると笑顔を向ける。
「それに、もしクレアが死んだらお前のお茶も飲めなくなるだろ。だから今の内に強くなってくれよ。」
するとクレアは視線だけを上げて上目遣いで見つめてくると不安そうに問いかけてくる。
「蒼士は私が死んだら悲しい?」
「当然だろ。この世界の人間なら、100万の人間とお前とで比べたなら迷いなくお前を取るぞ。だからそんな事考える暇があったら今日の事をバネにして強くなれよ。」
するとクレアは元気を取り戻し力強く頷いた。
「分かったわ。今はダメでもいつかあなたより強くなってやるんだから。その時は私があんたを護ってあげるわ。お姉さんとしてね!」
そしてクレアは前を向き、俺の魔法を目に焼き付けるためにドラゴンを睨みつけた。
「それじゃ、ついでに一つおまけの魔法も教えてやる。」
そう言って俺は小さな赤い炎を作り出した。
「何それ?そんな普通の魔法じゃアイツらの鱗1枚燃やせないわよ。」
「まあ待て。ここからが肝心なんだ。」
そして、俺は更に魔力を注ぎ炎を大きくしていく。
その大きさは5メートルを超えるが、拳を握ると炎は小さくなり親指の先ほどまで圧縮された。
すると、その炎は圧縮の過程で赤から次第に青くなり、更に白へと近づいて行った。
「これが俺が出せる炎属性の最強魔法。魔法を極限まで圧縮すると威力が跳ね上がる。でもこれは絶対に至近距離で使うなよ。巻き添えを喰らったら自分も死ぬからな。」
そこまで説明して魔法をドラゴンへと投げつける様に放つ。
すると炎は真直ぐにドラゴンに飛んで行くがその速度はレーザー程早くない為簡単に躱されてしまった。
しかし、俺が手を動かすと炎は向きを変え、油断しているドラゴンへと命中する。
その瞬間、ドラゴンを何重にも真空の壁とシールドで包み込んだ。
そして着弾したドラゴンを中心に目が眩むほどの光を放ち、光が消えた後には残る物は何も無かった。
その威力にクレアは目を見開き驚愕の表情を浮かべる。
「な、何。嘘でしょ。単一属性でもこんなに威力が出るの?」
「ああ、魔法制御と同時に自分を護るシールドが必要だけどな。お前ならいつかできるようになる。それとさっき見せた魔法の遠隔操作。これもしっかり覚えといてくれよ。じゃないと高威力の魔法も避けられたら終わりだからな。」
そして俺たちは空の闘いを終えて地上へと降りて行った。
するとそこでは辺りに散乱した竜とドラゴンの死体の片付けが行われている。
ちなみに冬花が倒した物は後の事を考慮されており首を切られただけの綺麗な死体が特徴である。
しかし、パメラが落としたドラゴンは彼女がテンション高めに無双したためバラバラかズタボロであった。
まあ、そこに文句を言うのなら俺が倒した最後の2匹はとても貴重な10メートル級のドラゴンであったが何も残さず燃え尽きているけどな。
そのため倒し方なら俺のが一番酷いと言えるだろう。
そしてその他の者は俺たちが空にいる間地上にいた翼の無い竜やドラゴンを相手にしていたが、特別苦戦する事無く戦いを終えている。
やはり、空を飛ぶと言うアドバンテージは何処の世界でも大きいようだ。
「蒼君お帰り。クレアもご苦労様。悪いけど片付け手伝ってくれる。どこかの誰かさんがバラバラに撒き散らしちゃったから集めるのが大変なんだ。」
そう言って冬花はパメラへと視線を向ける。
するとパメラは叱られた子供の様に頬を膨らませてソッポを向いてしまった。
その姿はどう見ても大人の対応ではない為、俺は苦笑を浮かべ、クレアは身内の恥ずかしい姿に手で目元を覆っている。
そして、片付けをしていると、ユノが走って行った方向から巨大な気が立ち上り太陽に陰りが見え始めた。