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10 二人の真実

俺達はギルドマスターから昇格の話を聞いて警戒も露わに首を傾げて見せる。


「そんなに簡単にランクを飛び級させていいのか?」


俺のその質問にギルドマスターは再び溜息を吐いた。


「そんな事というが王家からの打診はこの国内において最上級命令だから聞かない訳にはいかないんだ。それに君たちの様に実力がある者が低ランクにいると昨日のような犠牲者が増えるばかりだよ。もし君たちがSランクであれば昨日の死者は防げた可能性が高いんだ。」


だがここで俺は雰囲気を変え先程までとは別人のようになて反論をする。

今までは周りに溶け込み影響を与えない様に抑えていたが、俺にたって譲れないものがあるからだ。

その大半は冬花に関する事だが、今回の様に他の女性とも友好的な関係を気付き、互いに笑い合える友となっているならそいつ等の事もその一部と考えるのが妥当だ。


「それであいつらは冬花を諦める代わりに他の女性冒険者を襲うってことか?」


すると俺の豹変にギルドマスターは唾を飲み込み、額から冷や汗を流し始めた。

そして、ここからは子供と大人の会話ではなく、大人同士の会話に移らせてもらう。

それにギルドには今後の事も考え、少しだけ情報の擦り合わせと開示しておこう。

いざと言う時に動けずに役に立たないと困るからな。


「あんたらは俺達の秘密に触れたからいくつか重要な情報を教えておく。ギルドは魔王が現れた事は知っているのか?」


するとギルドマスターは驚愕の表情を浮かべてソファーから立ち上がった。

どうやらあの女神は未だにその事実を伏せているようだ。

それとも女神は伝えているが国の方でそれを止めているのか。

ただ、何度も同じ時間を繰り返しているので今回は伝え忘れている可能性もあるな。


そしてギルマスは目の前に勇者が現れた事を考慮して今の言葉が真実である事を確信したようだ。

そして先程までとは打って変わり今度はギルドマスターが慌て始める。

しかし、この話には続きがあった。

恐らくギルマスはこの後の話を聞かなければ良かったと後悔する事だろう。


「俺たちはこの世界の主神に頼まれて魔王を討伐する事になっている。そして冬花が死ねば最初からやり直さなくてはならない。そして、冬花を何度も死に追いやり続けたのがあいつ等だ。」


すると横で聞いていた冬花が俺に勢い良く顔を向けた。

それに奴らを殺す前に俺が聞いた事を思い出したのだろう。


「蒼君はどうしてそんなこと知ってるの。私も知らないのに。」


ちなみに冬花は蒼士なら何を知られても構わないと思っている。

しかし純粋に疑問を感じたためその質問をするに至った。

なので冬花からは一切の怒りや不安の気配は感じず蒼士も落ち着いて説明を続けた。


「すまない冬花。悪いと思ったが俺はお前をもう死なせたくない。だからお前が死んだ原因を知るためにお前の17年の記録を全て確認させてもらったんだ。だから俺の頭にはお前が死ぬ原因となった奴等の全てのデータが入っている。」


すると冬花は笑顔で首を横に振ると俺の手に自分の手を重ねて握り締めて来る。

そこに拒絶が無い事を知り、心の中では安堵に溜息を零す。


「いいの。蒼君になら知られても嫌じゃないから。でも私の記憶に何で残ってないの?」


そして蒼士は彼のみが知る真実を冬花へと伝える。

彼女にとっては途中から勝手に与えられた記憶継承のスキルなのでそれ以前の事は何も覚えていない。

きっとそこに関しては不安を感じているだろう。


「それはあの女神が途中からスキルを勝手に付けたからなんだ。それ以前の記憶は時間が戻るとともに失われ、その間にお前には沢山の嫌な事があった。でもこれからは俺がお前を絶対死なせないし、守って見せるから安心してくれ。」

「ありがとう、蒼君。信じてるね。」


そう言って俺達は互い抱きしめ合い冬花は嬉しそうな顔で目に涙を浮かべる。

その向かい側ではギルマスが聞き捨てならない事が多くあり過ぎて頭を抱えてしまっている。

そして我慢が出来なくなったのか確認を取るために俺との話を再開した。


「すまない、答えられる範囲でいいから俺の質問に答えてほしい。」

「いいぞ、今話した範囲なら何でも聞いてくれ。」

「彼らは君たちに比べれば弱いはずだ。なぜ彼らのせいで冬花さんが死ぬんだ?」

「今でこそそうだが冬花が初めてここに来た当時はこんなに強くなかった。強さで見れば新人女性冒険者並みでそれを襲ったのがあいつらだ。そして、それが原因で冬花は何度も自殺している」


蒼士の回答を聞いてギルマスとジェシカは驚きに固まってしまう。

そして冬花は不安そうな表情を浮かべ俺の顔を見上げてきた。

それは、自分の知らない記憶で自分が汚された場面があったのではと恐怖を感じたためだろう。

俺はそれに気づいて笑顔で冬花の頭を撫でながら補足を口にする。


「大丈夫だ。お前は自分の力で全ての事件を回避している。お前の初めては永遠に俺だけだから安心しろ。」


するとその答えに満足したのか冬花はぴったりと俺に寄り添って体を預けてくる。

そこからは優しい体温と俺の好きな冬花の匂いが伝わり、心を満たして落ち着きを与えてくれる。

それに冬花もその体温を感じていたい衝動にかられ少しでも体を引っ付けようと距離を詰めてくる。

ここに他の者が居れば雰囲気に呑まれて砂糖でも吐き出しそうな光景だ。

しかし、ギルマスはそれを完全にスルーして話を進める精神力を兼ね備えていた。


「それでは次だが17年と言っていたね。それに時間が巻き戻ると。これはどういう事だい?」

「これは重要な事だが魔王を倒せる者はこの世界で冬花だけだ。俺がどんなに強くなっても他にどんな強い存在がいても不可能だと主神から聞いた。だから冬花が死ぬと今から1か月前の日に強制的に戻される。お前達に自覚はないだろうが、この世界はそうやって先に進めない袋小路の状態を長い時間ずっと彷徨っているんだ。それを解消するために俺も主神に呼ばれて他の世界からこの世界へとやってきた。」


するとあまりの新事実に彼らは既に限界を迎えようとしているのか苦しそうな表情を浮かべる。

しかしこのチャンスを逃す訳にはいかないと判断し次の質問を続ける。


「それでは君たちは神の勅命を受けていると言う事かい?」

「そう言う事だ。それに俺達は魔王を倒してこの世界で幸せに暮らしたいだけだ。だがハッキリ言ってそれを邪魔しようとする奴があまりにも多すぎる。俺は冬花を護るためになそいつらも敵として排除するつもりだ。。」


そこまで話すと俺は冬花の腕をそっと解いて立ち上がりギルマスの傍に移動する。

すると一瞬の警戒を見せるが俺に敵意がない事を感じると自分も同じように立ち上がった。


「冬花、ジェシカ。ここで少し待っていてくれ。ギルドマスターに個人的な話がある。」


そして部屋の隅へと移動すると背中を見せて距離を詰める。

更に魔力を使い、先程ギルマスが使った魔法を真似て風の結界を張る。


「これで外に声が洩れる事は無いだろう。」

「そこまで警戒するとは余程の内容が聞けそうですね。」


その通りだが、これからの話は良好な関係を築いているあの2人には聞かせない方がいいと言う俺なりの配慮だ。

そして二人に背中を向けたまま顔を隠すと昨日4人を殺した時のように表情のない顔をギルマスに向ける。

それはすなわちギルマスもあの4人と同罪であると言う事を示している。

それに気付いたギルマスは再び冷や汗を額に浮かべて緊張したように唾を飲み込んだ。


「今のあんたに言ってもしょうがないが、あいつを自殺に追い込んだ原因の一つはお前にもある。」


すると俺の急な言葉にギルマスの肩が跳ねるのが見える。

それに明らかに顔から血の気も引き、貧血でも起こしたように青くなっていく。


「そ、それは、どういう意味なのだろうか。」

「おそらくは近日中に緊急依頼があるはずだ。それで俺が始末した奴らと冬花は一人で組まされ始めて人を殺す事になる。それが冬花に精神的な苦痛を与え何度も自殺に追い込む事になる。あんたはジェシカの旦那で悪い奴でないのは知ってる。ただ理解しておいてほしいが俺は冬花の味方であってお前たちの味方ではない。裏切ったら次に時間が巻き戻った時、国ごと亡ぼすから覚悟しておけ。」


俺は同一人物とは思えないほどの冷たい瞳と声で忠告を行う。

それにこの国で冬花を死に追いやった奴等はもっと沢山いるのだ。

俺達はそんな奴らを助けるために命を懸けて戦う訳ではない。

危険の目が何処に有るか分からないなら根こそぎ滅ぼすのが手っ取り早いだろう。

しかし、ギルマスもここは引く訳にはいかないようで青い顔のまま食い下がって来た。。


「まてジェシカも国は関係ないだろ!」

「何言ってる。お前が俺たちを裏切る時は世界も神も裏切る時だ。それとお前にだけ言っておくがこの国の王子が冬花を狙っている。今回は俺が彼女と結婚したからどう出るか分らんが下手をしたら国とも戦争だ。もしそうなった時にお前が身の潔白を証明したいのならその戦いに参加せずとっとと逃げろ。それにあの主神は頭は足りないが力は本物だ。全てを見ているから気を付けろよ。」


そして話を終えて表情を戻した俺は風の結界を解除して冬花の待つソファーへと戻って行った。

するとギルマスは短時間で酷く憔悴した表情を浮かべると俺の向かいに力なく腰を下ろした。


「それで、話は戻るが調査はどうなったんだ。」


俺はすでに元に戻りいつも通りに話しかけ状況を確認する

そしてギルマスはその様子に安堵の息を吐き出すとお茶を一口で飲み干し先程の続きを話し始めた。


「あそこの教会は神が降臨されたとして国の管理となった。まあ、管理していた者がいないので丁度いいだろうな。君が新築の様にしてくれたからしばらくは手間もかからないしね。そして私からの話はこんな所だ。そちらからは何かあるかね?」


どうやら色々あって早く話を終わらせたくなった様だ。

その見た目は何時間も会議をした後のようで最後の方はかなりの投げ遣り気味になっている

そして俺達は互いに視線を交わしてから首を横に振って返事を返した。


「分かった。今日は帰ってくれても構わないよ。近日中に二人にいくつか依頼をこなしてもらうからその時はよろしく頼む。」


そう言ってギルマスは俺にだけ視線を向けてきたので、これは先程の話を考慮しての事だろう。

もしここで判断を間違えればそう遠くない未来に命を失う事になる。

たとえ逃げたとしても絶対に見つけ出して報いを受けさせるつもりだ。


「ああ、俺たちは二人で行動するからそのつもりで頼む。」

「分かった。」


俺は最後に釘を刺し、ギルマスも判断に間違えが無かったことを心の中で安堵する。


その後、蒼士と冬花が部屋を出て行くとギルマスはジェシカに先程の事を相談した。

この話は一人で抱えるには大きすぎ、他に洩らすには危険すぎたからだ。

それに下手に伝えれば自分たちまでも第三者に消されかねない。


「そう・・・彼はそんな事を言ったので。でも良かったわ。」


こんな危険な話をしているのにジェシカは笑顔を向け明るい声で答える。

しかし、旦那は何が良かったのかがまったく分からず疑問が膨らむばかりだ。

そんな自分の旦那に自慢するようにジェシカは答えを教えてくれる。


「だって私と冬花が友達になったから彼は最低限の譲歩を示してくれたのよ。もしこうなってなければあなたは問答無用で抹殺対象にされていたわ。」


するとそこで初めて自分の命が首の皮一枚で繋がっていた事に気付き冷や汗を浮かべる。

しかし、蒼士が言っていた問題はまだこれからでまったく終わっていないと言える。

ギルマスは最悪の状況も考え、蒼士に言われたように最愛の妻を護るために逃げると言う選択肢も考慮する。

しかし、今はその時ではないと判断し、ジェシカの手を握るとなんとか笑顔を作り出した。


「そうだね。君にはいつも助けられるよ。」

「ふふ、そうね。でもね、もし彼らが戦争する事になったらおそらく彼らが勝つ気がするの。私達は被害を最小限に抑える努力をギリギリまでしてその後逃げましょ。彼が冬花の命を最優先にしているように私はあなたが一番大事よ。それにもし何かあって時間が戻っても私はまた冬花と友達になりたいわ。」

「わかったよ。国への報告は最低限に抑えておこう。今はどちらも下手に刺激しない方がよさそうだ。」


そして二人は今後の命に係わる家族会議を終えて部屋を出て行った。


ギルドを出た後、俺たちは買い物に向かっている最中だ。

その理由は簡単で武器は最上級の物を装備しているが防具が心もとない。

そのため冬花はともかく俺の防具だけでも入手しようと店を周っていた。


「う~ん。どれもイマイチだよねえ。困ったな~・・・お金はあるのに物がないなんて。こうなっちゃうとお手上げだよ。」

冬花は久しぶりのデートに最初はとてもテンションが高かった。

しかし欲しい物が見つからず今では俯いて落ち込んでしまっている。


(懐かしいな。冬花は昔からこういう事は凝り性で、いつも何店も梯子して選んでいた。そのくせ自分のは簡単な物で終わらせるんだよな。まあ、こいつは元がいいから飾らなくても十分なんだけど俺からも何かプレゼントを考えないといけないな。)


そして、俺はフと昨日の商人の事を思い出した。

そう言えば困った事があれば相談に乗るって言ってたな

俺はジョセフから受け取った商紋の描かれた布を取り出すとそれを冬花へと見せた。


「冬花はこの商紋に心当たりはあるか?」

「見せて見せて。・・・こ、これどうしたの!?」


すると見た途端に冬花は大声を上げた驚きの顔を向けて来る。

その途端に冬花の声に驚いて周りの人たちの視線がこちらに集中してくる。

しかし、大した事じゃなさそうだと分かると視線を外して歩き始める。


「これがどうかしたか?昨日助けた親子から貰ったんだけど。」


俺は何故、冬花が驚いているのか分からず首を傾げる。

すると冬花は苦笑を浮かべると楽しそうにその理由を教えてくれた。


「蒼君ってホント運がいいんだよね。普通じゃあり得ない事を普通に引き当てるんだから。」

「それなら俺の最大の幸運は冬花に会えたことだな。」


俺は揶揄い1割、本気が9割と言った割合で冬花に告げる。

すると冬花は顔を真っ赤にして俯いてしまったい「わ、私もだよ。」と返して来る。

俺はその返事に自分まで顔が赤くなってしまうのを感じだ。

一度は失ってしまったから分かるがこういった何気ない互いの反応こそが幸せを実感させてくれる。

俺は二度と今のこの時間を失わない為に心の中で決意を固め直す。

そして俺達は互いに顔を赤くしながらも腕を組んだまま道を進んで行った。


だが結局は店の事は知っていても場所は知らなかったため、近くの大きめな店で聞いてみる事になった。

すると場所は俺達が泊っているのと同じ地区でもう少し中央寄りにある事が分かった。

その後も目的の場所を何度か聞きながらなんとか目的の店へと辿り着き、その大きさに建物を見上げる。


そしてそこは本当に大きな店で、1階は雑貨や冒険に必要なアイテムを置いている。

2階は武器関係を置いてあり、3階に防具関係が置いてあるようだ。


(ちょっと聞いてたのと違うぞ?これのどこが微力なんだ?何処からどう見ても大商会じゃないか!?)


「冬花。さっき商紋を見て叫んでたけどここはどれ程度の規模の店なんだ?」

「この町だと1番だと思うよ。国でも3本の指に入るらしい大商会だね。可愛い小物とかも置いてあって女の子にも人気があるって聞いた事があるかな。それよりも入ってみようよ。実は前から入ってみたかったんだ。」


そう言われて俺は冬花に手を引かれて店へと入って行った。


「店内も広くて綺麗だね。今まで回ってたお店が小っちゃく感じるよ。」


確かにその通りだな。

この店は1階だけで今まで回っていた店が10店舗は入る。

それに今までの店は小さい建物に所狭しと物が置かれ、何かを探すにしても凄く大変だった。

まるで昔の小さな文房具店か駄菓子屋と言った感じだ。


それに比べるとこちらは大きな店内を利用し通路も広く雰囲気も落ち着いている。

商品も分かり易い様に整理されていて大型デパートを連想させる。


「それじゃ店員さんに聞いてみようよ。蒼君が助けた人がここの人で合ってるかの確認もしないといけないしね。」

「ああ、そうだな。」


俺たちは店に入った時に傍まで来ていた店員の女性に聞くことにした。

彼女は青い髪に凛々しい金色の瞳の美人さんだ。

身長が170センチくらいあるスレンダー体型で、特徴的な尖った耳を持っている。

どうやら彼女はエルフの様で初めて見る種族だ。


「すみません。」

「いらっしゃいませ。当店で何をお探しですか?1階は見ての通り色々な物が置いていますので言っていただければお出ししますが。」


すると彼女からは素晴らしい対応が返って来た。

俺がバイトしていた所はこんなに親切な対応はしてなかったからだ。

きっと血の滲む様な厳しい訓練を受けているに違いないので、ここは俺も丁寧に対応する事にした。


「ありがとうございます。それならこの店にジョセフさんは居られますか?少し相談したい事があって来たのですが?」


しかし俺がジョセフの名前を出すと先ほどまでの笑顔が消え、店員は目を細めてこちらを値踏みするような視線に代わる。


「申し訳ありませんが何か紹介状をお持ちですか?」

「紹介状ですか。俺は昨日知り合ったばかりなのですが彼はいったいどのような人物ですか?」


するとその店員は初めて大きく表情を崩す。


「ジョセフ様はここの商会長となります。国王様とも面識があり、通常では一般の方はお会いする事は出来ません。紹介状が無ければお帰りください。」

「紹介状は在りませんがこちらの商紋が書いてある布を本人から貰いました。俺にはよくわかりませんが、これが紹介状の代わりになりませんか?」


そう言ってジョセフから貰った布を彼女へと渡した。

彼女はそれを丁寧に受け取ると、慎重な手付きで開いて確認を始める。

そして突然目を見開いたかと思うと足早に受付へと向かって言った。


そしてそこの引き出しからルーペのような物を取り出して細部まで確認しているようだ。


俺達はその後を追いかけ、その近くで結果が出るのを待つ。

その間にソワソワしてしまうのは単純に緊張しているからだろう。

このように物の真贋を鑑定してもらうのは何処の世界でも落ち着かないのは共通のようだ。

そして、しばらくすると店員は他の者を奥へ向かわせこちらへと向き直った。


「失礼しました。こちらは本物であることが確認出来たので主を呼びに行かせたてあります。少しのあいだ、店内でお待ちください。」


そう言って先程の態度とは打って変わり再び丁寧な対応に戻る。

きっとこれだけ大きな商会の会長なら真っ当でない理由で面会を求める者も多いのだろう。

俺もこの商紋の描かれた布が無ければ顔見知りと言うだけでは会う事はもちろん来た事さえ知らされなかったかもしれない。


「そう言えば何か調べていたみたいだけど、その布は何か特別な物なのか?」

「布ではなくこのインクが特別なのです。このインクはこの魔道具で覗くと虹色に光って見える様に細工がしてあります。更に一部の者のみが分かる暗号がありましてそこにこの布を渡したものの名前が書いてあるのです。これは紛れもなく我らが主の名前が書かれた本物。先程の無礼をお許しください。」


俺の問いかけに彼女は布を丁寧に折り畳み思っていたよりも詳しく説明してくれた。

そして説明を聞いた今ならこれが貴重な物であるのが理解できる。

それに彼女は詳しく説明する事でこの布の重要性を俺たちに自覚させることも狙っていたのだろう。

すなわち、絶対に無くしたり人に譲ったりするなと暗に告げているのだ。

俺はこの店員の優秀さに内心で称賛を送り受け取った布をアイテムボックスに収納しておく。

すると奥から激しい足音が聞こえ見覚えのある人物が姿を現した。

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