1章 逃げ水と君の夏 6
不定期更新、申し訳ないです。
「で、何があったわけよ?」
スポーツ飲料を飲んだ後、口を拭った聡が唐突に声をかけてきた。
夏休み数日目、フットサル部の練習に参加している。
雨の日でも練習ができるよう、テントのようになっているテニス部のコート、その横の一角にフットサルのコートがある。
日差しは遮られているが、蒸すような熱気でより暑く感じる。
「なんだよ藪から棒に、意味がわからんわ」
「いや、樹がなんだかんだ言っても部活にくるのはいつもの事じゃん?」
「なんだそれ、喧嘩売ってんのか?」
「まぁまぁ。でもさ、プレーが昔みたいだったからさ、あんなに熱くなるの久しぶりじゃん。だから、何かあったんだろうなーって思っただけよ」
「……何か、ね。確かにあったな」
あの日見た光景が頭から離れない。
一生懸命で、輝いていて、
俺と同じ年で、同じ学校に通っているのに、
なんでこうも違うんだ?
イライラする。
「また考え事か? プレーで発散するのはいいけどよ、お前があんなに動くと周りも合わせるのに大変なのよ? みんなまだヒーヒー言ってんじゃん」
「なぁ、聡、ボランティア部ってどんな感じ?」
「お前は本当に人の話を聞かねぇな……、ってボラ部? どうした突然」
聡は虚をつかれた様な表情をして聞き返してきた。
「いや、この前パークで献血の呼びかけをうちの学校のやつがやってたからさ、そんな活動もしてるんだなって気になってさ」
答え返しても聡は「うーん……」と考えた挙句。
「知らねぇな、そんな事やってるのは。夏休みも登校日以外活動無いはずだけどな。個人でやってるんじゃねぇの、そいつ」
と結論付けた。
「そっか……」
気になる。
だが本人に直接聞くほどなのかというと、それも少し違う気がする。
そもそも女子と話をする事なんて、例外を除けばほとんど無いしな。
「しっかし、本当に久しぶりだな。樹が何かに興味を持つの」
ニヤニヤしながら聡が続けて言う。
「その献血のやつってのは女なのか? 気をつけろよー、お前は走り出すと止まれねぇんだからな何事も、あのときもー
「聡、休憩が長すぎだな、もう1セット行くぞ」
話を遮る。
コイツのニヤケ顔でイライラは二次関数の様に上昇する。
「おい待てよ! 俺達は大丈夫でも他のメンバーはまだ瀕死だせ?」
「じゃあ俺とお前だけでやるぞ」
聡は苦虫を潰した様な顔をして、
「俺も第一線からは退いた身なんだがなぁ…… まあ、やるかぁー」
お互い立ってストレッチをする。
四方から聞こえる蝉の鳴き声が、この夏はまだまだ暑くなるのだと叫んでいる気がした。
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