1章 逃げ水と君の夏 5
「献血にご協力お願いしまーす!」
「B型とAB型の血液不足が深刻です!ご協力願いまーす!」
切羽詰ったような女性の声が噴水のある広間に響く。
その声に聞き覚えのあるような気がして、ふと目線を移した。
すこし高めの身長に、肩まで届く長さの黒髪をまとめたポニーテール、
献血のキャラクターがプリントされたポロシャツを着て、下はジーンズ、首には地元サッカークラブのロゴが入ったタオル、そのタオルで色白の肌ににじむ汗をたびたび拭いている、
片手にはポケットティッシュ、もう片方の腕にはティッシュが入っているであろう紙袋、
真剣すぎる声と切れ長の瞳、
「小日向......咲」
知っている名前が口からこぼれる。
同じ学校、同じ学年で隣のクラス、
大人しそうで、少しかたそうな女子。
「ありがとうございます!」
ティッシュを受け取ってくれた男性に向けて、満面の笑みを浮かべるこいつは誰だ。
鞄を床に置き、両目をこすっても見えている映像が変わることはなく、目の前の光景が現実なのだと再認識した。
彼女の周りだけ空気が緊張を含んでいるような、そんな真剣さを感じる。
学校での姿とは全く異なっていて、忙しなく動いている様子を、ただ眺めることしかできなかった。
「咲ちゃん、おつかれ。休憩の時間だよ」
彼女のとなりに20代後半と見受けられる男性が駆け寄ってきて、
親しげに声をかけていた。
いくつか会話を交わしたあと、彼女は男性に向け一礼しどこかへ消えていった。
もやもやするような、熱を帯びたような感覚を覚える。
気味が悪いものを見たような、求めていたものを見つけたような・・・・・・
ずっと同じところに立ち続けていたせいか、周りから怪訝そうな視線を向けられた。
あまり動く気にはなれないが、今日はこのまま帰ろう。
そう決めて鞄を持ち上げる。
勉強道具が一式詰まった鞄は、朝よりも重く感じられた。
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