1章 逃げ水と君の夏 1
ジリジリと焼け付くように降り注ぐ陽射しの下、
学校へと続く坂道をひたすら登る。
いくら家から学校が近くとも、この坂を毎日登るのは骨が折れる。
それがこうも暑い日だとなおさらだ。
憂鬱な気分を抱えながら周りを見渡すと、いつもと違い楽しげに坂を登る生徒が多いように感じる。
まだ始業のチャイムまで1時間ちょっとあるから、普段であれば人気も少ないはずなのにな。
みんな暑すぎて壊れたのか? と1人考えていると背中に衝撃が走った。
「よっ、樹、おはよーさん」
いきなりなんだと思い振り向くと、そこには右手を挙げて清々しい笑顔をした顔見知りがいた。
「聡か……、おはよう」
普段は始業時間ギリギリにならないと教室に現れない大鶴 聡がこんな時間に登校とは、
こいつも壊れたのか、可哀想に。
背中を叩いたのは見逃してやろう。
「おいおい、なんだよその憐れむような目は、テンション低いぞ」
「おまえが高すぎるんだ、どうしたんだよこんな早くに」
「いや、明日から夏休みだろ? 休み前にボランティア部で校内の清掃活動があるんだわ、それに参加するわけ」
「……夏休み? ボランティア部? 」
あー、夏休みか、それでみんな楽しそうなんだな。
昨日のホームルームで言ってたな、確か。
てかボランティア部にも入ってたのかこいつ。
「その反応を見るに、今日が終業式って忘れてたな? どんだけ興味が無いんだよ」
「まぁ、やる事はあんまり変わらないからな」
高校2年の夏、夏期講習にも行かなきゃいけないしな。
「変わんねぇなぁ、高校に入ってからの樹は」
「……まぁな」
「じゃあ清掃活動始まっちまうから俺は行くわ、また教室でなー」
「りょーかい、ファイト」
聡は坂道を駆けていく。
と、思ったら急に振り向き叫んできた。
「そういえば部活は今日の放課後もやるからな〜、時間があれば顔出せよ〜」
俺は手を挙げてその呼びかけに応える。
聡は頷くと学校に向けて再度駆け出した。
坂の先を進む背中を見送ったあと、視線を上げて空を見る。
雲一つない青空は今の俺には眩しすぎる気がした。
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