1章 逃げ水と君の夏 15
反応が良い相手への布教活動がこれほどまでに充実感を与えてくれるとは思ってもみなかった。
小日向は、毎回真剣に曲を聴き、サビの盛り上がりの部分ではキラキラした目をこちらに向け感動を伝えてきて、曲が終わると動画を最初から再生しながら楽し気に感想を語ってくれた。
こっちもオタク特有の早口を発揮しつつ説明などをしていたら、関連動画を見つくしてしまった。
お互い満足感を強く含んだ一息をつき、俺はすっかり冷めたコーヒーを飲み干す。
ふと机の上を見ると、先程まで何曲もの音楽動画を再生していた小日向のスマホが震えていることに気づいた。
「ほんとに凄いねこのバンド、なんで今まで知らなかったんだろう。さっきの曲も――」
「小日向、小日向、スマホ鳴ってる」
小日向は興奮さめやらぬ様子で喋り続けていたため、机をトントンと指で叩きながら話を遮る。
自身のスマホに目を移した小日向は、驚いた様子でスマホを掴み立ち上がる。
「高橋さんからだ! ちょっと電話に出てくるね」
言うが早いか、小日向は店の外に小走りでかけていく。
手持無沙汰になり、自分のスマホを見る。
15:30を示す時計。
……すごい時間たってるな、ファミレスに入ってからおよそ2時間経過。マジか。
休憩の指示をしていた高橋さんという赤十字の人からの連絡という事は、呼び出しか何かだろう。
小日向が時間を守れなかったのであれば、原因を作った身として、申し訳ない気持ちになる。
*********
少しの時間待っていると、小日向が帰ってきた。
先ほどまでと違い、顔は赤くなっており、しきりに手で顔を扇いでいる。
「あ~も~、ほんとこういう時の高橋さんって苦手」
いきなり愚痴りながら着席する小日向。こいつも愚痴とか言えるんだな。
「悪いな、こんなに時間たってたんだな。 俺のせいで怒られたんならごめん」
頭を下げる。
小日向はぽかんとしたような表情をしたが、すぐに破顔した。
「ううん、怒られてはいないよ。 いつも声掛けとか一番長い時間やってるから、珍しいってからかわれただけ。今日は目標者数に到達したからおしまいだって」
バツが悪そうに小日向は笑う。
そして、何かを思い出したかのようにまた顔を赤くし、しどろもどろにつづけた。
「あ~、っと、藤沢君。え~と、ね。…… いきなりだけど、明後日、明々後日って暇だったりする?」
いきなりなんだ? という疑問が顔に出たのか、小日向がわたわたと手を動かしながら、言い訳のように付け加えてくる。
「学推協の集まりがあってね、いろんな人が集まって泊りがけで勉強会をするの。勉強会といっても、夜はBBQとかして、楽しく交流しながら献血のことも知ってもらおうっていうスタンスの集まりで、学推協メンバーの知り合いとか、新しい学校の人とかにも声をかけてるみたいなの」
小日向は口早につづける。
「高橋さんが言うには、まだ想定人数に達していないんだって。このままだとお肉が余っちゃうかもって言ってて…… あ、参加費は無料で開催場所は、昔学校だったところを使った宿泊施設です。保護者としては赤十字の職員の方がいますし、私のお姉ちゃんも一緒にくるので、保護者の方の同意があれば、大丈夫です」
なぜ途中から敬語に?
提示された情報を咀嚼するのに時間がかかる。
フリーズしていると小日向がぶつぶつとつぶやく声がかすかに聞こえる。
「いきなりこんな誘いなんて変な奴だって、高橋さんもお姉ちゃんも調子に乗って~」
さっき電話した時に誘う様に言われたんだろうな。
そして、時間に遅れた経験がすくないから強く言い返せず、誘うほかなくなった、と。
なるほど、なるほど。
小日向は恥ずかしさを隠そうともせず、ぷるぷると震えていたが、
大きく息をつくと、冗談のつもりか、笑いながら聞いてきた。
「藤沢君も行く?」
ご指摘、感想お待ちしております。




