1章 逃げ水と君の夏 12
意外にも、先に昼食を食べ終えたのは小日向の方だった。
まぁ、ハンバーグランチよりドリアのほうが容量は少ないので、順当な結果ではあるのだが。
食べ終えた時、小日向は満足そうな顔をした後、俺より先に食事を終えたことに気づいて顔を赤くしていた。
その赤い顔を自分の手でパタパタと仰ぎ、「飲み物取りに行ってくる」と逃げるようにドリンクバーに小走りで駆けていった。
その表情や仕草、色白な肌が赤くなる様子、駆けるリズムに合わせて揺れるポニーテールが、学校で見る小日向の印象とかけ離れており、非常に違和感がある。
小日向とは1年生の時に同じクラスだった。中学校は違うので、初めて会ったのは入学式の日だ。
2年生になってクラスが分かれたが、1年間同じ教室で授業を受けていた。
俺から見た小日向は、大人しく真面目といった印象で、あまり話したことが無いので、性格までは知らない。
女子にしては高めの伸長と、整った外見により、目立たないわけではないのだが、切れ長の瞳と無口な態度から冷たい印象を受けるからなのか、男子はもとより、仲が良いのであろう一部の女子以外とは雑談すらしている姿を見たことが無い気がする。
まぁ、俺も学校では基本一部の男子としか喋って無いので似たようなものだが。
女子と話すことなんてそれこそ稀だ。日直などでの事務的なやり取りや、特別なイベントがあるときしか会話はない。あとあれだ、閉鎖空間で2人だけになった時とかはなんとなく世間話をすることとかもあるな。
……意外と高校生ってこんな人間が多いのかもな。
青春真っ只中な存在である高校生。しかし、本当に絵に書いた様な青春を送るのはひと握りの人間で、大多数は埋没した日々を送っているのだろう。
それこそ、十人十色な青春時代を過ごすのに、世の中にあふれている青春というもののイメージがキラキラしている気がするのはなぜなのだろうか。
てか、入学してから何にもしていない気がするのに、もう高校生活も折り返し地点が近づいている。
時の流れってほんと残酷、笑えてくるな。
最後のハンバーグのかけらを咀嚼しながら脈絡もない思考に耽っていると、小日向がオレンジジュースを片手に携えながら戻ってきた。
小日向はまだ少し顔を赤くしながらも、少しはにかんで席に座る。
座る際に左手で持っていたコップを机の上に置きつつ、右手で耳のあたりの髪をかき上げる。その仕草、奥に見える切れ長の瞳と白いうなじに俺はドキリとした。
俺の向ける視線に気づいたのか、小日向はこちらを見て小首をかしげる。
慌てて視線を逸らす。
「俺もコーヒーとってくるわ」
そっぽを向きつつ告げると、「うん、行ってらっしゃい」と送り出された。
なぜだかこそばゆい気分になったので、俺は小走りでドリンクバーに向かった。




