1章 逃げ水と君の夏 11
話が一段落し、小日向は長く息を吐く。
二人の間に沈黙が訪れた。
心が落ち着かない。
なんだか思いがけない方向に話が転がったので、一度整理しよう。
俺はイライラしていた。何故か。
キラキラしている小日向が、チャラチャラした大学生に誘われて、ついていきそうだったのが、癪だったからだ。
これは俺のわがままだ。他人に勝手な思いを抱いて、イメージと違ったら拗ねる。気持ちが悪い行為だ。
小日向はコロコロと表情を変えていた。何故か。
慣れないナンパに対応したら、同級生がしゃしゃり出て、流れで食事に誘って、自分のボランティア活動の話しをしていたら、同級生が急にキレて、献血の現状について熱く語ったからだ。……なんだこれ、マジで災難だな。
小日向はキラキラして見えたのは、何故か。
それは……
感じていたイライラは今はなく、ただ気まずさを感じていた。
注文した品を店員が持ってきた。そういえばここファミレスだったな。
結構な時間話し込んでいたが、店内が混んでいるからか準備に時間がかかったようだ。
しかし、両者ともに料理に手は付けない。
食事するテンションじゃないというのが本音だ。
だが、料理が冷めるのは許せない。食事は数少ない趣味だ。
自分を詭弁で納得させて、小日向を見る。小日向は軽くうつむいていて、目は合わなかった。
意を決して口を開く。
「すごいな」
「……え?」
小日向は素っ頓狂な声とともに顔を上げてこちらを見る。目があう。瞳は潤んで揺れている。
「そんなに真剣に取組めるものを見つけて、努力していてすごいと思う。さっきの質問は撤回する、悪かった。」
言い終わった後に、しっかりと頭を下げる。
すると、あわあわしたような声が耳に届いた。
「頭を上げて! ナンパについて行こうとしたのは私がおかしいし、藤沢くんには助けてもらって感謝してるの!」
顔を上げると、小日向は両手を自分の顔の前でぶんぶんさせていた。
また表情が変わっており、頬を紅潮させながら、照れや焦りの感情を隠しもしないその姿は、はっきり言って可愛く見える。
俺は脱力するように笑う。
「いや、俺のケジメみたいなものだから。」
ごめん、と再度謝る俺に、小日向は恐縮したようにしていたが、何度もやり取りするのは不毛だと感じたのか、小さくなってうなずいた。どうやら許してくれたようだ。
「ありがとう。じゃあ、冷めないうちに食べようぜ。」
気まずい空気は完全になくなったわけではないが、こっちが食べないと小日向は食べ始めない気がしたので、率先してハンバーグに手をつける。
最近話題の有名YouTuberとコラボしているハンバーグもメニューにあったが、俺はもっぱらペッパーハンバーグ派だ。
小日向はチキンドリア。安くてうまいよね。ドリアといえば、某ファミレスのミラノ風ドリアが有名だが、我々としては、わが県の誇りであるこのファミレスのチキンドリアが正義だ。
もくもくと食事が進む。
今の沈黙はそんなに嫌いではなかった。




