表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/16

1章 逃げ水と君の夏 10

「藤沢くんは献血ってしたことある?」


真剣な顔をした小日向から質問が返ってきた。


「ない」


質問に質問で返すなよ、と思わなくは無いが、まじめな質問のようなのでちゃんと答える。


「うん、そうだよね。ほとんどの高校生がそうだと思うよ。じゃあ、なんで献血しないの?」


なんで、と言われると困るな。

「考えたことがないっていうのが本音。献血についてよく知らないからっていうのが一番の理由かな」


そう答えると、小日向は少し驚いたような顔をしたが、すぐにもとの真剣な表情をして続けた。


「うん、私も献血者数が足りないのは、知られてないからっていうのが一番大きな理由だと思う」


でもね、と小日向は続ける。

「献血の重要性を知っていても、いろいろな理由で献血ができない人もいるの」


悲しそうな顔をする小日向、ころころ変わる表情から目が離せない。


「一番わかりやすい例として、輸血を受けたことがある人は、二度と献血ができないの。献血によって助かった人が、その後献血ができないのって、命の恩人にお礼ができないみたいで悲しいことだっていう人もいるの。それにね、献血の重要性を知る機会って本当に少ないの」


息をつく暇もないように、小日向は言葉を紡ぐ。熱を帯びて、怒ったような顔になっている。


「最近は、『ハタチの献血』とか『Love in Action』なんかでメディアに取り上げられることがあったり、アニメとかとのコラボで話題になったりすることも増えたけど、献血の知名度は低いままだと思うの。そう、献血っていうワードは知っているけど、実態を知っている人が少ないと思う。」


よくわからない単語が会話に混ざってきたが、小日向の勢いはとどまることを知らない。


「藤沢くんは献血についてどんなイメージを持っている?どんな人が献血してると思う?」


矢継ぎ早にまくしたてる小日向の質問は熱を帯びている。

俺は思いついた言葉をそのまま伝える。


「ぶっとい針を刺して、血を抜かれるイメージ。ものすごく痛そう。やってる人は、ボランティア精神にあふれた人か、血を抜かれるのが嫌じゃない人なんじゃない?」


俺の回答に、小日向は再度ビックリしたような顔をした。そして、今までの勢いを忘れたかのように破顔して言った。


「すごいね、藤沢くん、『わからない』って言わないんだね……うん、私もそう思うし、現状はそんな感じ。」


なぜか褒められた。というか、俺の質問に対する回答はどうなったんだよ。

訝しげに視線を向けると、小日向はまた真剣な顔になり、口を開いた。紡ぐ言葉は今日一番の衝撃を俺に与えた


「献血とか輸血って臓器移植だと思うの。他人の細胞を自分の身体に入れて、生命活動を維持することなの。」


想像もしていなかった言葉が耳に届き、俺は面食らう。

臓器移植って、医療ドラマとかである心臓移植とか、ダークな漫画の『腎臓売ってこい』みたいなやつだよな。

……イメージが結びつかない。


「血液を構成するヘモグロビンとか血小板ってね、作るのにある程度時間がかかるの。だから、一定の期間を空けないと同じ人は献血できないのね。一般的な献血の場合は、この期間って男性で3ヶ月、女性で4ヶ月なの。なのにね、血液の有効期限はね、赤血球が28日間、血小板は4日間とかなの。」


大変な話だよね、と小日向は小声でつぶやき、続ける。


「藤沢くんが言った通り、献血って痛いの。血を抜くことによって気分が悪くなったり、倒れたりする人もいる。それなのに、メリットがほとんどないの。利益が出るようにしちゃうと血を売る人が出てきちゃったりするかもだし、臓器移植に近い行為だから高いモラルが必要なの。」


話す内容が献血の厳しい状況のことであるからか、どんどんと声が小さくなっていく小日向。

小さく震える声に反比例して、そこに乗っている感情はすさまじく、歯がゆさを耐えているような声色だった。

目頭にはうすく涙が浮かんでいる。小日向が続ける言葉はほとんど独り言のようだ。


「輸血用の血液が足りなくて苦しんでいる人がいるの。その人たちを楽にするためには、献血者の分母が増えて、コンスタントに必要量の献血が実施される必要があるの。でも、その体制は現状整っていない。なぜなら、献血はリスクを伴うし、超えなきゃいけないハードルが多いから。それにね、少子高齢化によって、これからは血液を使う人が増えて、提供する人が減っていくの。」


一度大きく深呼吸し、小日向がこちらを見た。


「だから……だからね、若年層の献血者数を増やす必要があるの。献血の重要性と現状を広く広めた上でね。私たち学推協はそのために活動しているの。」


強い意志が込められている瞳、少し不安を帯びて揺れているが、その瞳に射抜かれて、俺の呼吸が浅くなる。


一転、小日向は自信を無くしたようにうつむき、やっと俺の質問への返答を口にした。


「あの男の人が言っていた『献血にメリットがない』っていうのは、今までの話の通り正解に近いの。でも、私が1日付き合うだけで献血をしてくれるなら……それで献血のことを考えてくれるなら、それは現状解決への一歩だと思ったの。それにね、学推協にもノリが軽い人が所属してるんだけど、その人たちが本気になって問題に取り組んでるとね、周りの人を巻き込んで話が進むの。あの人もそうなるかもって思ったから、誘いを受けたの」


重く、長い話の末たどりつた答えは、予想よりも真剣で、考えもしないような内容だった。





2023年3月から赤血球の保存期間は21→28日に改訂されたようです。本文も修正しました。

感想にて教えていただき大変感謝です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ