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1章 逃げ水と君の夏 9

自分のテリトリーの話題だからか小日向の口は軽い。

学推協とは、大学、短大、専門学校等の学生で構成される献血を推進するボランティア団体であり、正式名称を学生献血推進協議会というらしい。

各都道府県の日本赤十字社に属し、ボランティアで献血の呼びかけやイベントの補助を実施したり、献血を若年層に広める為の活動をしているらしい。さすがに交通費などは赤十字から支給される模様。

小日向が言うには高校生で所属している人間はかなり少ないとのこと。まぁ、ボランティア部なんて存在する学校の方が珍しいんだし、当然だと思う。


「今日もね、献血の推進で呼びかけとティッシュ配りをしてたの。学推協からの参加者は私を含めて6人かな」


小日向は、話していたら緊張が解けたのか、最初のビクビクした態度はなりを潜め、どもることも無く笑顔で話している。


その笑顔は、夏休みの初めに見たキラキラしたもので、学校で見かける大人しそうな印象とはかけ離れたものだ。


小日向が笑顔になるにつれ、何故だかわからないが俺の中でイライラとモヤモヤが募っていく。


休日にボランティア活動をするなんて凄いことだと思う。

だって、自分の時間を他人のために使ってるってことだろ? 自分が何をしたいのかもわからないのに、他人の事なんて俺は考えられない。


でも、小日向はすごく楽しそうに話をしている。

そのキラキラした笑顔が、俺を責めているように感じる。

『なんで何もしてないの?』と。


被害妄想であることはわかっているが、イライラが募っていることは事実だ。

もしかすると、本気になって取り組むことがあることに嫉妬しているからなのかもしれない。


「それでね、私たちが呼びかけできない日は、大体シルバーの人がパートタイムでティッシュを配ったりしてるの。いい人ばっかりでねー

「さっきなんで大学生の誘いに乗ろうとしてたの? 献血の呼びかけってそこまでしなきゃダメなの?」


思っていたことが口から出ていた。今はこんなにキラキラしているのに、さっきナンパされていた時の態度はなんだったんだ。


小日向の笑顔が凍り付き、一転して曇る。


「ボランティアって凄いことだと思うけど、普通に考えて、男と遊ぶ代わりに献血してもらうっておかしくない? 学校での小日向はまじめな感じだし、あの大学生と遊びたいわけじゃないんだと思ったんだけど、違った?」


イライラからか、早口になっているのが自分でもわかる。でも、止められない。


「なんでさっきみたいなことになっていたのか気になる。 教えてほしい」


自分の口から発せられた言葉で初めて気づいた。

そうか、俺は気になっているんだ。


夏休み初日に小日向を見た瞬間から、こいつのことが。

こいつのキラキラした何かが、どんなことを考えているのかが、俺は気になっている。


小日向は曇った表情でうつむいていたが、一度うなずくと、まじめな顔をこちらに向け、口を開いた。

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